注目キーワード

IVIg: 経静脈的免疫グロブリン療法

自己免疫疾患で使用する機会があるIVIg(intravenous immunoglobulin):経静脈的免疫グロブリン療法に関してまとめます。

機序・投与方法

■作用機序:免疫グロブリン製剤は献血された血漿からIgGを中心に精製された製剤です。結論から申し上げますと作用機序は分かるようでよくわかりません(研修医の先生から「なんで免疫グロブリン療法で効くんですか?」とよく質問を受けますがうまく答えられずにおります)。Fc受容体を介した機序、補体を介した免疫抑制、炎症性サイトカイン抑制、IgG異化亢進などが想定されています。ステロイド治療、血漿交換療法との位置関係はイメージすると下図の様になります。

■製剤と保険適応:以下特に神経筋疾患で使用する場合・どの製剤がより優れるというものはありません(保険適応と院内在庫を確認して使用します)

*この他視神経炎、EGPAの神経障害でも保険適応があります。
*中枢神経疾患では自己免疫性脳炎で1st lineになりますが、保険適応はありません。

■投与量:治療としては0.4g/kg 5日間投与が標準的な投与量

■投与速度:副作用の多くが投与速度が速いことがリスクとなるため、できるだけ緩徐に点滴するのが望ましいです
1:初期投与 最初1時間は0.01mL/kg/minで投与とされています(製剤事の微妙な違いはありますが)。
(計算 5%製剤の場合)0.01mL/kg/min = 0.6mL/kg/hr = 30mg/kg/hr = 0.03g/kg/hr
→体重60kgの場合:1.8g/hr
*(簡単な方法)上記検査は結構煩雑なので「2.5g製剤を2時間かけて投与」とすれば1.25g/hrとなりほとんどの体重で安全な投与速度となるので最初のだけこのようにかなりゆっくり投与するのもありかと思います。

2:それ以降の投与 速度を上げて0.06mL/kg/minを超えないと記載されています。
(計算 5%製剤の場合)先ほどと同様に行うと 0.06mL/kg/min = 0.18g/kg/hr
→体重60kgの場合:10.8g/hrを超えない
*(簡単な方法)私はかなりゆっくりですが「5g製剤を1時間かけて投与」としています。そうするとかなり安全な投与速度になります。

副作用・合併症

アナフィラキシー:投与直後に最も必要な副作用です。
*先天性IgA欠損症:患者の持つ抗IgA抗体がIVIg中に含まれるIgAと反応してアナフィラキシーを起こす可能性があり注意が必要です。
無菌性髄膜炎:薬剤性の無菌性髄膜炎の代表的な原因です。頭痛、倦怠感、発熱を呈しよく遭遇します。診断のために腰椎穿刺を行う必要はなく、出現した場合も通常はアセトアミノフェンによる対症療法で軽快し、治療を中断する必要はありません。 *無菌性髄膜炎に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
皮疹:汗疱は手掌に掻痒感を伴い出現しますが、レスタミン軟膏などの対症療法で問題ないです。
肝逸脱酵素上昇:投与数日後から出現する場合があります。
血球減少:こちらは読者のM先生に教えていただきました。コメント欄もご参照ください。
急性腎障害
血栓塞栓症(深部静脈血栓症、脳梗塞、心筋梗塞など):最も注意が必要な合併症です(粘度上昇などによる)。現状は抗凝固療法を予防的に行うべきかどうかに関して結論は出ていません。

血栓塞栓症に関する文献

特に注意が必要な副作用・合併症が血栓塞栓症です。現状はIVIg投与時に予防的な補液や抗凝固療法を行うべきか?行わないべきか?に関して結論は出ていませんが、過去に行われた後ろ向き検討のデータを紹介します。

■免疫性末梢神経障害患者へのIVIg投与と血栓塞栓症の後ろ向き検討 J Neurol Sci. 2011 Sep 15;308(1-2):124-7.

・62人(GBS21例、CIDP34例、MMN7例)のIVIg投与のあった24か月期間の後ろ向き解析。
・IVIg投与14日以内に5例(MI3例、ACS1例、PE1例:全例基礎疾患はCIDP)の血栓塞栓症合併症を認めた。
・リスク因子:今までIVIg投与歴の無い患者、35g/日以上、不動、冠動脈疾患の既往、血栓症リスク因子4つ以上(9つのうち)

■IVIgと血栓塞栓症 Neurology ® 2020;94:e635-e638

・30か月の期間、112人の自己免疫性末梢神経障害患者(CIDP61例、MMN41例、その他)でIVIg投与された症例を検討。
・12例の血栓塞栓症(MI 6例、2例脳卒中など)を認めた。
・投与量などのIVIg投与に関する直接的なリスク因子は指摘できませんでした(その他血栓症のリスク因子は関係あり)。

実臨床では特に血栓塞栓症の予防を行うべきか?行わないべきか?が気になる点ですがこの疑問に答えてくれる臨床研究はまだ存在しません。私は直接他院で定期的にIVIg治療を受けていらっしゃった患者さんがmassive PEでショックになってしまった症例を知っており(自分が直接診療した訳ではないのですが)、それ以来かなり怖いなと思いながら診療しています。今後良い指針が出てくれることに期待です。