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PICA単独解離 isolated PICA dissection

椎骨動脈解離は有名ですが、実はPICA(後下小脳動脈:posterior inferior cerebellar artery)に単独で解離を認める場合もあります。私はPICA単独解離を1例経験があり、勉強した内容をここでまとめさせていただきます。PICA領域の梗塞で、etiologyが分からずリスク因子に乏しい場合はPICA単独解離も考慮するべきと思います。

PICA単独解離の臨床上の特徴

PICA領域の脳梗塞でPICA単独解離が原因となるのは全体の6%(10/167例)で認めたと報告されています。この報告では、PICA単独解離、椎骨動脈解離、その他の原因ごとでの違いをまとめています(下図参照 Cerebrovasc Dis 2015;40:215–221より引用)。

またPICA単独解離28例をまとめたものでは以下の特徴が指摘されています。

・特徴:若年頭痛発症86%(13/21人)・血管リスクに乏しい
・部位:proximal 92%(24/26例),・左PICA:72%(18/25人)

別のPICA単独解離7例のまとめでは以下の特徴が指摘されています(Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases 2014;23: 1865)。

全例後頭部痛での発症→神経症状出現の経過であった。
・誘因となりうる頸部回旋、外傷などはいずれの症例でも認めなかった

自験例は50歳台の男性が1週間前に突然の後頚部痛を自覚され、その1週間後に突然めまい、構音障害をきたしたという症例でした。

臨床的な特徴としては比較的若年、頭痛から発症してその後に神経症状が出現し、リスク因子を認めない場合が多い点などがおおまかな特徴として挙げられるかもしれません。

PICA単独解離をどのように診断するか?

椎骨動脈解離では”Pearl and string” signや、MRIではT1WIで血腫を示唆する高信号域を指摘することが診断に重要です。しかし、PICAは血管径が細く、また蛇行しているためMRAやBPASでは描出が難しく、また通常のT1WIでも血腫の検出が難しいことが指摘されています。そこで3D-BBI(VISTAなどMRIの機種により名前が異なる)を利用することで、微小な血腫を高信号として指摘することでPICA単独解離を診断することが出来るとしています(BMC Neurology  2016;16:121 自験例もこの方法で診断しました)。もちろん血管造影検査が大切ですが、このように非侵襲的な方法でも診断に迫ることが可能です。また先ほども述べましたが、PICAの近位部が障害されることが多いことも特徴の一つです。

下図はIntern Med 56: 2959-2960, 2017より引用。

個人的には椎骨動脈解離を後頚部痛先行の病歴でPICA梗塞を認め椎骨動脈解離を疑わない場合、PICA解離を疑うようにしています(その他etiologyが不明の場合も疑っています)。PICA単独解離は通常のMRI撮影だけでは診断できず、血管造影検査にすすむか、非侵襲的にはMRIでVISTAなどのT1撮影をする必要があるため、積極的にPICA単独解離を疑いに行く姿勢が求められます。まれではありますが、重要ですのでまとめさせていただきました。