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ACE阻害薬/ARB

1:レニン・アンジオテンシン・アルドステロンシステムに関して

Renin-Angiotensin-Aldosterone-System(RAAS:以下簡略のためにRAASと表現します)に関してまず解説します。そもそもRAASはなぜ人間に備わっているのでしょうか?

ここでまず人間の進化の過程を考えてみます。我々の祖先はもともと魚の仲間で海の中にいました。海水の中にいるので、基本水不足や塩分不足になることはありません。その後、魚は陸に上がって進化を遂げてきました。陸に上がると海とは違い簡単に水や塩分へアクセスすることが出来ません。

このように陸上では常に水不足・塩分不足にさらされるので、体に水・塩分を保持するメカニズムを発達させる必要がでてきました。この必要性に応じて水・塩分を保持するための機序としてRAASが発達してきました。このように水・塩分不足に悩まされていた人類にとって塩分・水を体に保持するためのメカニズムなのです。

これは主に腎臓でのNa再吸収という形で目的を果たします。輸入細動脈で血圧の低下を感知すると、傍糸球体からレニンが産生され、これがアンジオテンシン1になりACE(angiotensin converting enzyme:アンジオテンシン変換酵素)によりアンジオテンシン2となります。これが副腎に働くことで、アルドステロンが産生され、アルドステロンは集合管のアルドステロン受容体に作用し、尿細管腔側のNaチャネルを発現することでNa再吸収を促進するという流れです(下図参照N Engl J Med 2004;351:585より引用)。

しかし、このRAASが頑張り過ぎてしまう(非生理的に活性化する)と今後は高血圧、体液貯留過剰などの困った問題が生じてきます。このRAASを抑制する代表的な薬剤が、ACE阻害薬、ARB、アルドステロン受容体拮抗薬になります(作用起点は上図をご参照ください)。

ではなぜ心不全患者でACE阻害薬, ARBを使用すると予後が改善するのでしょうか?

心不全では心拍出量が減少しているため、代償機構として神経は交感神経を活性化させることで心収縮力を増加し、ホルモンはRAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)により体液を貯留させることで心拍出量を増大させようとします。

このシステムは短期的には心臓に頑張ってもらうために有用かもしれませんが、裏を返すと心臓への負担(前負荷)が増加するため長期的には心臓がへばってしまう欠点があります。ACE阻害薬はこのRAASを抑えることで、心臓に負担がかかりすぎなくする働きがあります。つまり、しっかり心臓を休ませることで長期予後を良くする作用があります。「まあまあそんなに頑張り過ぎないで気長にやっていきましょうよ」というイメージです。

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2:分類

ACE阻害薬もARBも非常に多くの種類があり、製薬会社が色々な違いを述べていますが、臨床的にそこまでこだわって使い分けるメリットはあまりないのではないかと個人的には思います。あまりに種類が多いので、全てを取り上げることが出来ず申し訳ないのですが一部をまとめて掲載します。

ACE阻害薬もARBも降圧作用をもたらすのはカルシウム受容体拮抗薬と比べて時間がかかります(週単位)。このため高血圧緊急症で血圧をすぐに下げたい場合などには即効性の高いカルシウム受容体拮抗薬を使用するべきです(カルシウム受容体拮抗薬に関してはこちらをご参照ください)。

■ACE阻害薬

微妙な違いがありつかいわけていらっしゃる先生も多いと思いますが、私は普段エナラプリル(レニベース®)を2.5mg 1T1xから開始しています。

■ARB

これも沢山種類がありめまいがしてしまいそうですが、私は普段ACE阻害薬から初めて咳嗽などの副作用がつらい場合はARBに切り替えています。

3:副作用

■K血症

アルドステロン作用を阻害することでK再吸収が阻害され、高K血症に至ります。高K血症はACE阻害薬/ARBを処方する際に特に注意しないといけない点です。ACE阻害薬、ARBによる高K血症に関してはこちらのreviewを参照しました(N Engl J Med 2004;351:585-92)。

リスク因子

腎機能障害(eGFR<30ml/minになるとよりリスクが上昇する・腎機能だけで薬剤を中止する必要はない)
糖尿病(eGFRが保たれていても低レニン低アルドステロン血症を伴う場合があり、高K血症に注意)
薬剤相互作用NSAIDs(特に注意)、β-blocker、カルシニューリン阻害薬(高K血症の頻度多い)、ヘパリン、スピロノラクトン、ST合剤、ペンタミジン
心不全 ・脱水 ・高齢

注意点

NSAIDsなどの併用薬を出来るだけ避ける(特に高齢者でのACE阻害薬/ARBとNSAIDs併用では高K血症リスクが高いため注意が必要です)
・まずは少量のACE阻害薬/ARBから開始する
・ACE阻害薬/ARB開始後、もしくは増量後の1週間以内にK値を確認する
・K>5.5 mEq/Lでは減量する(色々対応してもK>5.5 mEq/Lの場合は使用を断念)
・アルドステロン受容体阻害薬とACE阻害薬/ARBを併用する場合はスピロノラクトン25mgまでにする(eGFR<30ml/minではACE阻害薬/ARBとスピロノラクトンの併用禁忌となる)

心不全患者では低K血症も高K血症も問題となり管理に難渋することがありますが、上記の原則を学んで対応します。

■咳嗽(ACE阻害薬のみ)

機序ですがACEはブラジキニンを分解する働きがありますが、ACE阻害薬によりブラジキニンが分解されないことで咳嗽が起こるとされています。ARBはブラジキニンの代謝と関係ないため咳嗽は起こりません。

頻度は5~20%程度、女性の方が頻度が多いとされています。時期としては治療開始1~2週以内に発生し、中止してから4~7日以内に改善し可逆性です(Ann Intern Med. 1992 Aug 1;117(3):234-42)。この副作用を逆手に利用して誤嚥性肺炎予防に効果があるのではという研究もあります。

■血管浮腫

0.1~0.2%に起こるとされ、薬剤開始数時間~1週間程度で発症することが多いとされています(Ann Intern Med. 1992 Aug 1;117(3):234-42)。

4:ACE阻害薬 VS ARB

では結局ACE阻害薬とARBのどちらを使用するべきなのか?ですが、ARBの方が何か臨床的なアウトカムをACE阻害薬と比較してより改善したというエビデンスには乏しい現状です。ACE阻害薬は安価で、咳嗽は可逆的であることを総合すると、現時点ではあえてARBを第1選択にする根拠には乏しいと思います。

ここは考えもいろいろあるかもしれませんので、ご意見ありましたら教えていただけますと幸いです。