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ChiariⅠ型奇形

先日ChiariⅠ型奇形と脊髄空洞症を合併している症例を経験しました。実は私はほぼ経験がなく、勉強した内容をまとめていきたいと思います。

病態

ChiariⅠ型奇形は小脳扁桃が脊柱管内へ病歴に下垂している状態です。Chiari奇形には複数のパターンがありますが、このChiariⅠ型が最も一般的なものです。病因は正確には分かっていないですが、発生の過程で後頭蓋窩が相対的に小さいため、小脳扁桃が後頭蓋窩に収まりきらず脊柱管内に入りこんでしまうことが考えられています。

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重要な点としては低髄液圧症候群を見逃さないことが挙げられます。低髄液圧症候群は2次的に小脳扁桃の下垂を認めるため、小脳扁桃下垂を認めた場合は、その他の頭部MRI所見と総合して「低髄液圧症候群の可能性はないか?」を必ず考慮します。

ChiariⅠ型奇形はこれ単独でも重要ですが、脊髄空洞症(Syringomyelia)を約50%と高率に合併することが重要です。小脳扁桃が下垂し、狭い脊柱管内で圧迫することで中心管からの脊髄排出が阻害されて貯留することが機序として考えられます(脊髄空洞症の原因としてもChiariⅠ型奇形が最多です 以下に脊髄空洞症の原因を掲載します)。

疫学としては臨床的には0.24-3.6%、MRIを診断の基準とすると0.56-0.77%とされていますが、ChiariⅠ型奇形の診断基準がまちまちなため報告により頻度が異なります。臨床的に問題となる年齢は2峰性で小児期、成人期が多いとされています。

症状

後頭部痛・後頸部痛があり、いきんだ時、咳込んだ時に増悪する傾向があります。神経症状としては脳幹圧迫による脳神経麻痺(特に下位脳神経症状)、延髄圧迫による中枢性無呼吸、小脳失調などが症状として挙げられます。その他脊髄空洞症を合併している場合はそれによる上肢のしびれ、宙づり型感覚障害などを認める場合もあります。多くの場合神経症状は緩徐進行性ですが、急性発症で悪化するケースもあることが指摘されています(3/116例 2.6%の症例:J Neurosurg Pediatrics 8:438–442, 2011)。

画像

一般的には大後頭孔から5mm以上下垂している状態を表します。具体的には以下の大後頭孔の”opisthion-basion line” (McRae line)から何mm下垂しているか?により判定します。しかし、実際にはこの基準だけで判断するべきではないという意見もあります。

下図は左図(術前のChiariⅠ型奇形+脊髄空洞症)、右図(術後:大後頭孔拡大、脊髄空洞症改善)。

治療

無症候性では治療適応になりませんが、症候性の場合は手術適応になります。具体的なアプローチは以下の通りです。

参考文献
・J Neurosurg Spine 31:619–628, 2019 ChiariⅠ型奇形と脊髄空洞症のまとめのreviewです。
・BMJ 2019;365:l1159 綺麗な図でまとめられています。