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ショック “Shock”

1:病態生理

ショック”Shock”とはただ単に血圧が低いという状態ではなく、「循環障害により、組織の酸素需要と酸素供給のバランスが崩れている状態」を表します。つまり、「ショック」は血圧が〇〇mmHg以下ならショックと診断する訳ではなく、組織還流不全を呈する症候群であって、あくまでも臨床的に診断します”Shock is a clinical syndrome”。

組織への酸素供給は「Hb(ヘモグロビン濃度)」「SaO2(酸素飽和度)」「CO(心拍出量)」の3点で規定され、以下の式で表現されます。

これは荷物(=酸素)船(=ヘモグロビン)にのせて、水流(=心拍出量)によって向こう岸(=組織)へ届けるのに例えることが出来ます。これに関してはくわしくこちらで解説していますのでご参照ください。

そして、具体的に組織還流不全の徴候をとらえることが出来る臓器は3つあり、「中枢神経(意識変容・意識障害)」、「腎臓(尿量減少)」、「皮膚(冷感・網状皮斑)」が挙げられます(これは現場でいつも使えるようにぱっと答えられることが重要です)。検査では血液ガスの乳酸(Lactate)が指標となります。おそらく普段血圧低値の患者がショックとして介入が必要かどうか判断に迷うことがよくあると思いますが、バイタルサインに加え身体所見3点+血液ガス乳酸値をすぐに確認し組織還流不全の徴候があるかどうかを確認することが重要です。

2:分類

ショックの分類は4つで、「閉塞性(Obstructive)」・「心原性(Cardiogenic)」・「分布異常性(Distributive)」・「循環血症量減少性(Hypovolemic)」が挙げられます。以下にそれぞれの代表的な鑑別疾患を挙げます。

1:閉塞性

■心タンポナーデ
■肺塞栓症
■緊張性気胸

2:心原性

■虚血・心不全・不整脈

3:分布異常

■敗血症
■TSS(Toxic shock syndrome)
■アナフィラキシー
■神経原性ショック(neurogenic shock) *”spinal shock”は障害された脊髄髄節以下の脊髄反射機能が消失する現象をさします。言葉の違いに注意です。
■副腎不全

4:循環血症量減少

■外傷:骨折(骨盤・大腿骨)・血腫
■消化管:上下部出血・大動脈十二指腸婁
■大血管:AAA・大動脈解離
■婦人科:子宮外妊娠
■その他:熱傷・膵炎・腸閉塞・HCC破裂

覚え方として以下の語呂合わせ“SHOC(K)”を当サイトをご覧になっていただいた先生から教えていただきました。最初のSがwarm shock(分布異常性)、その他のH,O,Cがcold shockに対応しておりすごく覚えやすいです!
Septic, Spinal, anaphylaxiS, TSS →warm shock
・Hypovolemic, Obstructive, Cardiogenic → cold shock

このうち敗血症性ショックが最も多く62%、次に循環血症量減少性16%、心原性16%、敗血症性ショック以外の分布異常性が4%、閉塞性2%となっています。

このショックの原因鑑別で有用な身体所見が先ほどの「内頸静脈」です。血圧低値にも関わらず内頸静脈が臥位で怒張している場合は、閉塞性ショックもしくは心原性ショックの可能性を考慮しますし、虚脱している場合は循環血症量減少性ショック、分布異常性ショックを考慮します。

ショックの原因鑑別で最も有用な検査エコー検査で、ショックの際に行うエコー検査は”RUSH exam”と名前が付いています。エコーで気胸、心タンポナーデ、右室負荷を伴う肺塞栓症もある程度診断出来ますし、IVC虚脱などがあれば循環血症量減少性もしくは分布異常性の診断もつき、大動脈を中心とした血管の評価も可能です。

血液培養検査もショック患者において極めて重要ですが、血液培養を取らずに造影CT検査にいってしまっている場面をときどき目撃します(皆さんは普段血液培養を後回しにしていないですよね?)。先ほど示した通りショックの原因1位はだんとつで敗血症性ショックなので、エコー検査などと同時へ移行で血液培養を行います。

心電図検査もエコー検査と合わせて心原性の精査に必須の検査です。

3:ショックへの初期アプローチ

ではショックの患者さんに具体的にどのようにアプローチをしていくかを解説します。先に流れのフローチャートを提示し、以下で具体的に解説します。

まず人を集めて(最も重要)、ABC確認、モニター装着、酸素投与準備、ルート確保(20G以上の太さで2本が望ましい)、血液ガス検査を確認します。同時に身体所見で組織還流不全の徴候(意識、尿量減少、皮膚所見)、血液ガス検査乳酸値を確認します。

ショックが疑わしい場合は、内頸静脈、エコー検査からショックの原因が「閉塞性」or「心原性」or「循環血症量減少性・分布異常性」のどれに該当するか判断します。

「閉塞性」の場合は緊張性気胸の場合は緊急脱気が必要ですし、心タンポナーデの場合も心嚢穿刺が必要となります。肺塞栓症の場合もmassive PEの場合はrt-PA治療の適応になる場合もあるため循環器科の先生と相談します。このように「閉塞性」はかなり特殊かつ緊急な対応が必要になるため、まずはじめに内頸静脈所見、エコー検査から鑑別する必要があります。ショックの鑑別を色々すすべて、後から「えーっとやっぱり閉塞性かな?」となることは避けたいです!

「心原性」の場合は、心電図、エコーの検査結果と合わせて虚血が疑われる場合はカテーテル治療、徐脈の場合は原因の治療はもちろんですがペーシングなども検討します。

上記のいずれでもなく「循環血症量減少性・分布異常性」が疑われる場合は、細胞外液全開投与を開始しながら原因精査を行います。「循環血症量減少性」と「分布異常性」では治療と原因検索を同時にすすめていくことが求められます。具体的には血液培養採取、心電図、胸部レントゲン(骨折部位があれば骨盤レントゲンなども検討)などを確認します。

「分布異常性」の敗血症が疑われる場合は培養採取の上すみやかに抗菌薬投与をします。その他の原因は頻度は多くないですがアナフィラキシーは疑わないと診断できずアドレナリン筋注が必要、また副腎不全ではステロイド投与が必要と他疾患とは違う治療内容になるため注意が必要です(逆に改善しないショックでこれらを疑う方法もあります)。

「循環血症量減少性」の場合は「どこから血が漏れているか?」を探しながら同時に輸血の準備をすすめます。出血の原因は大きく4つ「外傷(骨折・血腫)」・「消化管」・「大血管(AAA・大動脈解離)」「婦人科(子宮外妊娠)」に分類されます。

これらは輸血だけでなく、通常外科手術やIVRなどの止血措置が必要になることが多いです。

先ほどのショックのアプローチに対応する治療を組み込むと下図の様になります。

ショック”Shock”への対応は救命領域の基本ですが、正直私は初期研修中にマスターしきれませんでした。原因がはっきりしていないショックなのに、エコーに夢中になって血液培養を遅らせてしまったり、後からPEと分かったりとなかなか未熟でした。今回の内容が少しでも参考になりましたら幸いです。