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double seronegative MG

抗AChR抗体、抗MuSK抗体いずれも陰性の重症筋無力症がdouble seronegative MG(dSNMG)です。MG全体の約10%を占めます。大規模な前向き研究はなく、治療戦略も基本は抗体陽性のMGと同じです。特徴などを調べてまとめます。

診断・誤診について

“Double seronegative myasthenia gravis and mimics: a retrospective cross‐sectional study by two tertiary centers in the Southern Italy” Journal of Neurology (2025) 272:433

double seronegative MGと初期診断された80例の後ろ向き検討(最低6か月はフォローして最終的な診断と検討)
・MG確定診断:64%
・誤診(MGではない):36% 内訳:機能性神経障害 45%(全例で眼症状の眼瞼下垂や複視を呈していた), OPMD 10%, 眼瞼痙攣 7%, 屈折異常 7%, LEMS 3%
⇒特に眼の症状のみの場合は誤診リスクがある
・両者を鑑別する特徴:①RNSTはmimicsでは異常例なし⇒電気生理検査が重要、②診断までの期間がmimicsは有意に長い、③胸腺腫合併

項目double seronegative MG群(n=51)誤診群(n=29)P値
性別 (女性 %)36 (71.5%)24 (83%)0.23
発症年齢 (中央値)50歳 (20–80)49歳 (27–80)0.57
診断までの遅れ (月)23 ± 6765 ± 770.0001*
MGFA分類 (初診時)
 I (眼筋型)17 (33%)14 (48%)0.19
 IIA (軽度全身型・四肢優先)16 (32%)4 (14%)0.08
 IIB (軽度全身型・球麻痺優先)6 (12%)10 (34%)0.015*
 IIIA (中等度全身型・四肢優先)7 (13%)0 (0%)0.037*
神経生理学的検査異常
 RNS (反復神経刺激) 異常25 (49%)0 (0%)0.0006*
 SFEMG (単一筋線維電位図) 異常26 (51%)3 (10%)0.04*
治療・処置
 ピリドスチグミン用量 (mg)170 ± 9384 ± 1030.001*
 プレドニゾン (ステロイド) 用量15 ± 1412 ± 160.19
 胸腺摘出術の実施 (%)12 (23%)0 (0%)0.012*
主な併存疾患
 精神疾患 (%)9 (17%)11 (38%)0.04*
 高血圧 (%)24 (47%)10 (34%)0.27
 自己免疫疾患 (%)11 (21%)9 (31%)0.35

Seronegative MGのsystematic review

“Clinical Characteristics and Treatment Management of Seronegative Myasthenia Gravis: A Systematic Review of the Literature” Muscle & Nerve, 2026; 0:1–8

本研究は、2001年から2024年8月までに発表された**31の研究(計712例のSNMG患者)**をPRISMAガイドラインに従って解析した、包括的なシステマティックレビューである。


患者背景および人口統計学的特徴

  • 性別・発症年齢: 女性が67%(473/712例)と優位であり、平均発症年齢は42歳(範囲 2–83歳)である。
  • 初発症状(眼筋型): 初診時に眼症状のみ(純粋眼筋型)を呈した割合は56%(281/500例)と過半数を占める。
  • 全身型への進行: 初発時に眼筋型であった患者のうち、43%(113/262例)が発症後2年以内に全身型(gMG)へ進行した。
  • 球症状: 疾患経過中に41%(231/569例)の患者で球症状(嚥下・構音障害など)が報告された。
  • 病勢・重症度: 発症時の重症度は軽症(MGFA Class I〜II)が大半であるが、経過中に18%〜30%以上の患者が中等度〜重度(MGFA Class III以上)に達した。
  • 胸腺病理: 胸腺摘出術を受けた102例(全体の24%)のうち、胸腺腫(Thymoma)の合併はわずか2%(8/425例)にとどまった。

診断基準と検査手法の標準化における課題

論文内では、研究ごとの**診断基準の著しい非均一性(バラつき)**が強調されている。

  • 診断基準の採用パターン:
    • 標準的(52%): Core criteria(臨床症状+AChR/MuSK抗体陰性)に「電気生理学的異常(RNSまたはSFEMG)」を要求する。
    • 厳格(16%): Core criteriaに加え、「電気生理学的異常」と「薬理学的テスト陽性」の両方を要求する。
    • 寛容(32%): Core criteriaに加え、電気生理学的異常・薬理テスト・ピリドスチグミン反応・免疫療法への臨床反応のいずれか1つで診断とする。
  • 抗体測定アッセイの限界:
    • RIA法(従来法)で陰性とされた後のLive CBA(細胞ベースアッセイ)による確認検査が実施されていたのは48%(213/448例)にとどまり、測定感度不足による誤分類(偽性のセロネガティブ)のリスクが指摘されている。
    • 抗LRP4抗体の測定が行われていた割合も47%(288/612例)にとどまった。
  • 電気生理学的検査(EDX)の感度:
    • 反復刺激試験(RNS)の陽性率は全体で58%(143/248例)であったが、全身型に限ると80%(73/91例)に上昇した。
    • 単一筋繊維電図(SFEMG)の陽性率は95%(137/144例)と極めて高い感度を示した。

治療管理および臨床転帰(アウトカム)

  • 免疫療法の実施率: 81%(271/333例)の患者が免疫療法を受けていた。
    • 治療内容の内訳: ステロイド+非ステロイド性免疫抑制薬(NSIST)の併用が64%(173/271例)、ステロイド単独が26%、NSIST単独が10%であった。
    • 使用薬剤: NSISTではアザチオプリン(27%)やミコフェノール酸モフェチル(12%)が多く、生物学的製剤ではリツキシマブ(12%)やエフガルティギモド(8%)が使用されていた。
  • 治療到達率の低さ:
    • 治療によりMinimal Manifestations(MM:最小症状状態)またはそれ以上に到達(良好な転帰)できたのは39%(153/394例)にとどまった。
    • 「改善(Improved)以上」は63%であったが、**35%は「不変または悪化」**であり、1%がMGに関連して死亡した。これは抗体陽性例(寛解・良好率約70%)と比較して明確に低い到達率である。

難治性(Refractory)SNMGの解析

  • 難治性の割合: 評価可能であった患者の24%(52/220例)が難治性MGの基準を満たした。これは抗体陽性例(10%〜15%)よりも高い比率である。
  • 難治性の予測因子: 解析の結果、球症状の存在が難治性と有意に関連しており($p = 0.005$)、初発時の眼症状は難治性と負の関連(保護的要因)を示した。
  • 生物学的製剤等の治療効果: ステロイドおよびNSISTに抵抗性の難治例に対し、リツキシマブ(39%)、エフガルティギモド(36%)、カルシニューリン阻害薬(23%)などの二次/三次治療が行われ、27%が良好な転帰(MM以上)を達成し、64%で一定の改善が認められた。

著者による考察と提言

  • 誤診断・過剰治療のリスク: 電気生理学的検査を行わずに「免疫療法への反応」のみで判定すること(プラセボ効果が30–40%に達し得るため)の危険性が警告されている。また、ギラン・バレー症候群、ALS、炎症性ミオパチーなど脱神経・再支配を伴う疾患でもSFEMG異常や一過性の薬効反応を示し得るため、針筋電図や神経伝導検査による慎重な除外が必要である。
  • 遺伝性疾患(GMS)のスクリーニング: 先天性筋無力症候群(GMS)などの遺伝性疾患はSNMGと臨床像が酷似しており、SNMGと臨床診断された患者の最大14%にGMS関連の病因遺伝子変異が存在すると報告されている。特に若年発症や難治例では遺伝子パネル検査(NGS等)の実施が推奨される。
  • 国際ガイドラインによる標準化: 275th ENMC国際ワークショップ等の提言に基づき、**「電気生理学的証明」「Live CBA等による高感度抗体検索」「遺伝子検査等による他疾患排除」**を必須とした標準的診断アルゴリズムの導入が強く求められている。

抗体陽性例とseronegative MGの違い

“Clinical characteristics and treatment outcomes in patients with double-seronegative myasthenia gravis” Eur J Neurol. 2024;31:e16022.

・抗AChR抗体陽性MG(n=73)とdSNMG(n=80)の違い検討
・男女比 1:1.8、発症年齢50歳以降
・臨床像:dSNMG患者は、初診時に眼筋型(MGFAクラスI)を呈する割合が有意に高く(dSNMG 46.3% vs AChR陽性 19.1%)、最終評価時でも約23%が眼筋症状のみ
・重症度:抗体陽性例と有意差なし
・胸腺腫合併:dSNMG 2.5% vs AChR 27% 有意に低い

項目dSNMG群 (n=80)AChR陽性MG群 (n=73)p値
発症年齢(歳)57.5 ± 15.5 (中央値 57.5)60 ± 14.8 (中央値 63)0.31
女性52 (65%)37 (50.7%)0.051
胸腺腫の既往2 (2.5%)20 (27%)0.001
RNS(反復神経刺激試験)陽性18 (22.5%)30 (41%)0.015
全身型MGのみにおけるRNS陽性12 / 44 (27.3%)24 / 58 (41.4%)0.15
SFEMG(単一筋線維筋電図)陽性80 (100%)70 (95.9%)0.11
MGFA分類 I(眼筋型)37 (46.3%)14 (19.1%)0.001
MGFA分類 II(軽度全身型)30 (37.5%)51 (69.9%)0.001
MGFA分類 III(中等度全身型)13 (16.3%)8 (11%)0.35
【治療内容】
プレドニゾン + 非ステロイド性免疫抑制薬35 (43.7%)29 (39.7%)0.63
プレドニゾンのみ16 (20%)20 (27.4%)0.34
メスチノン(ピリドスチグミン)のみ12 (15%)13 (17.8%)0.67
非ステロイド性免疫抑制薬のみ11 (13.8%)9 (12.3%)0.81
治療なし6 (7.5%)2 (2.7%)0.28
IVIG(免疫グロブリン)療法8 (10%)13 (17.8%)0.24

重症度・治療反応性 両群とも改善・AChR抗体陽性群の方がMGⅡ、MGFAは有意に改善

評価項目dSNMGAChR陽性MGp値
追跡期間 (月)42.8 ± 23.4 (8–90)36.2 ± 21.2 (7–89)0.08
診断時のMGIIスコア21.3 ± 13.3 (4–60)21.2 ± 14.4 (0–75)0.94
最終評価時のMGIIスコア13.6 ± 14.8 (0–61)7.5 ± 9.2 (0–41)0.003
MGIIレスポンダー (6点以上の改善)47 (59.8%)54 (74%)0.06
診断時のSSQ (0-100%)65.6 ± 21.8 (25–100)61.9 ± 23.3 (10–100)0.46
最終評価時のSSQ (0-100%)74.3 ± 21.7 (10–100)78.4 ± 21.2 (3–100)0.25
最終評価時のPASS「はい」 (満足)52 (68.4%)56 (76.7%)0.15
【MGFAステータスの変化】
改善41 (51.3%)57 (78.1%)0.001*
不変24 (30%)10 (13.7%)
悪化13 (16.5%)5 (6.8%)
増悪 (Exacerbated)2 (2.5%)1 (1.4%)

“Prevalence and characteristics of patients with seronegative myasthenia gravis” Journal of Neurology (2026) 273:308

・MG350例の後ろ向きコホート研究 SNMG 4.3%(診断基準上薬剤反応性あり+電気生理での証明が必要)
・抗体陽性例は抗AChR抗体 95.7%, MuSK 1.8% *抗AChR抗体はRIA法で測定されている
・抗体陰性と陽性例で全ての項目で有意差なし

  • 発症年齢: SNMG群 48 ± 17歳 vs SPMG群 52 ± 21歳(p = 0.40)。
  • 女性の割合: SNMG群 53%(8/15例) vs SPMG群 53%(179/335例)(p = 1.00)。
  • 純粋眼筋型(oMG)の割合: SNMG群 20%(3/15例) vs SPMG群 16%(52/335例)(p = 0.71)。
  • 胸腺異常: SNMG群では7%(1例、胸腺肥大のみ・胸腺腫0例)に対し、SPMG群では27%(胸腺腫42例、胸腺肥大41例)でした(p = 0.53)。
  • 自己免疫性併存疾患の割合: SNMG群 7%(1例) vs SPMG群 27%(89例)(p = 0.13)

結論

  1. 共通の病態生理: 人口統計学、症状、診断経過、治療反応性のすべてにおいて両群に差がないことから、SNMGと抗体陽性MGは共通の病態生理メカニズムを共有している可能性が高いと結論付けられています。
  2. 治療戦略: 抗体陰性であっても、基本的には抗体陽性例と同様の治療アプローチを適用すべきです。
  3. 検査技術の進歩: クラスタリングAChRを用いたCell-Based Assay(CBA)などの高感度アッセイの普及により、微量あるいは低親和性抗体が検出できるようになり、真のSNMGの比率は従来よりも低下していると考えられます

そもそもの抗アセチルコリン受容体抗体の測定方法に関して

真のSeronegativeではなく抗体の測定方法の問題で偽陰性になっている可能性がある

・従来の測定方法:RIA法(日本の外注検査もRIA法である)
・最も精度が高い方法:Live CBA法 生細胞を用いたCell-Based Assay(Live CBA)は、高密度かつ自然な立体構造で抗原(rapsyn共発現によるクラスタリングAChRやMuSK)を提示できるため、低親和性抗体も捉えられる高感度な手法

“Comparison of Fixed and Live Cell-Based Assay for the Detection of AChR and MuSK Antibodies in Myasthenia Gravis” Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2023;10:e200038.
・292検体(MG192例 内訳:RIA-dSN 86例、RIA-AChR抗体陽性 66例、RIA-MuSK抗体陽性 40例、コントロール100例)の検討
・double seronegative MG(従来のRIA法)においてLive CBA法で18.6%で抗体陽性を確認
・メッセージ:RIA法で陰性の場合はLive CBA法を確認すべき

“Accuracy of Antibody Testing in Myasthenia Gravis The ADAM Study” Neurology® 2026;107:e218301.

. 抗AChR抗体検査における感度・特異度・偽陽性率の比較

検査手法全体感度 (95% CI)特異度 (95% CI)非MG患者における偽陽性率
Live CBA (L-CBA)71.7% (63.8–78.7)97.7% (94.2–99.3)2.3% (4/175例)
Fixed CBA (F-CBA)69.0% (61.0–76.3)97.6% (94.1–99.3)2.3% (4/175例)
間接ELISA (iELISA)63.8% (55.6–71.4)69.1% (61.7–75.9)30.9% (54/175例)

2. 病型別(全身型 vs 眼筋型)感度の比較

検査手法全身型MG 感度眼筋型MG感度
Live CBA (L-CBA)80.9% (70.9–88.7)60.3% (47.7–72.0)
Fixed CBA (F-CBA)80.9% (70.9–88.7)54.4% (41.9–66.5)
間接ELISA (iELISA)78.6% (68.3–86.9)45.6% (33.4–58.1)

RIA法の偽陽性に関して

“Risk of False Acetylcholine Receptor Autoantibody Positivity by Radioimmunoprecipitation Assay in Clinical Practice” Neurology® 2025;104:e213498.

・陽性定義抗体価≧0.5nmol/L
・抗AChR抗体の検査を受けた連続4795例→陽性362例
・偽陽性 13.8%(n=50)、特異度98.9%, 陽性的中率 86.2%
*偽陽性内訳:眼科疾患(8例)、リウマチ性疾患(7例)、偽性眼瞼下垂(5例)、ミオパチー(4例)、機能性神経障害(3例)、脳神経麻痺(2例)、パーキンソニズム(2例)、脱髄疾患(2例)、頭痛(2例)、その他(18例)
・偽陽性 vs 真のMGの比較検討 偽陽性では①年齢が低い(38 vs 65), ②女性が多い(74% vs 49.8%), ③抗体価が低値 (0.7nmol/L vs 6.0 nmol/L)
・抗体価カットオフ値変更≧1.0 nmol/L 全体の87.6%(317/362例)が正しく分類され、特異度は 99.8%、PPVは 96.6%(95% CI 94.0–98.3)に大幅上昇
→低抗体価の解釈は注意が必要

・経時的変化と再検査(CBA法)
・連続血清検査: 経過中に再測定を行った偽陽性例(11例)では、55%(6例)がその後の検査で血清陰性化しました(MG群での陰性化率は8%)。
・CBA法による確認: 偽陽性例7例をCBA法で再検査したところ、6例が陰性と判定され、残る1例は胎児型AChR(fetal AChR)アイソフォームに対する選択的陽性(最終診断:脳アストロシトーム)

なぜ偽陽性が生じるのか?

  1. 細胞内エピトープの検出: RIPA法では可溶化された受容体を用いるため、生理的には細胞表面に露出しない受容体内部(細胞内)のエピトープに結合する臨床的意義の低い抗体も検出してしまう可能性があります。一方、生細胞表面抗原を用いるCBA法ではこれらが陰性化します。
  2. エピトープ・スプレッディングや一律の抗体産生: 他の筋疾患・神経疾患(ミオパチーやミトコンドリア病等)や胸腺腫瘍に伴う二次的な抗体産生、あるいは臨床症状を伴わない軽微・一過性の抗体上昇が含まれていると考えられます。

原理と性能の比較まとめ

評価項目RIA法(RIPA法)間接ELISA法CBA法(Live / Fixed)
抗原の提示形態可溶化(抽出遊離)タンパク質1more_horizプレート底面への直接吸着(変性しやすい)細胞表面膜上の天然立体構造・高密度集合(クラスタリング)
標識・検出放射性同位元素 酵素(ペルオキシダーゼ等)による吸光度測定8蛍光標識抗体による顕微鏡観察(またはFACS)
低親和性抗体の検出力乏しい(セロネガティブの原因)乏しい極めて高い(Live > Fixed)
特異度・偽陽性リスク高特異度(約98.9%)だが低抗体価で偽陽性あり特異度が低い(約69.1%)/ 偽陽性が多発(約30.9%)極めて高い特異度(97.7%〜100%)
主な用途・位置づけ従来の標準法(放射線管理が必要)簡易なスクリーニング(単独確定は注意が必要)現代のゴールドスタンダード(参照基準)