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未破裂脳動脈瘤とrt-PA

今回は論文を1つ取り上げます。Neurologyから”Risk of Aneurysm Rupture After Thrombolysis in Patients With Acute Ischemic Stroke and Unruptured Intracranial Aneurysms” Neurology ® 2021;97:e1790-e1798.より引用

背景・目的

・未破裂脳動脈瘤を有する患者に対するrt-PA投与に関しての既報はcohort sizeが8~42と小規模な物が中心で(本論文のTable 1にまとめられています)、既報ではrt-PAにより脳動脈瘤破裂をきたしたする報告はないですが、特に10mm以上の大きさの脳動脈瘤に関しては情報が不十分です。


・これらの結果を踏まえてAHA/ASAの2019年ガイドラインでは以下の様に記載されています(以下はStroke. 2019;50(12):e344-e418.より引用)。

“For patients presenting with AIS who are known to harbor a small or moderate-sized (<10 mm) unruptured and unsecured intracranial aneurysm, administration of IV alteplase is reasonable and probably recommended.† (COR IIa; LOE C-LD)§”
→10mm未満の脳動脈瘤に関してはrt-PA投与は妥当という判断になっています。

“Usefulness and risk of IV alteplase in patients with AIS who harbor a giant unruptured and unsecured intracranial aneurysm are not well established.† (COR IIb; LOE C-LD)§”
→一方で巨大な未破裂脳動脈瘤に関してのrt-PA投与の有用性・リスクに関しては確立していないと記載があります。この点に関して今回の研究が情報を提供してくれることに期待です。

・参考までに日本の「静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版」では脳動脈瘤の存在は「慎重投与項目」に記載がありますが、具体的な脳動脈瘤のサイズなどに関しての言及はありません。

・こうした背景を踏まえてrt-PA投与により未破裂脳動脈瘤: Unruptured intracranial aneurysms (UIAs)の破裂リスクはどうなるのか?を検討した大規模な前向きコホート研究です。

方法・結果

・前向きに15年間3953人のrt-PA投与を行った急性期脳梗塞患者さんのうち132例の急性期脳梗塞データを解析(血栓回収療法併用は14例で全体の10.6%)
・rt-PA投与例全体の3.3%(132例)に動脈瘤を認め、動脈瘤は155個(嚢状 saccular: 141個、紡錘状 fusiform: 14個)認めた。
・動脈瘤の特徴:大きさの平均は4.7±3.8 mm、≧7mm(18.7%: 29例)、≧10mm(9.7%: 15例)、前方循環系 88.8%、後方循環系 11.6%であり、嚢状動脈瘤141個は1つも破裂をしなかった。≧10mmの大きさの嚢状動脈瘤(6例)も1例も破裂を認めていません(ここが既報では十分に情報がなった点なので本研究のポイントですね!)。
破裂した3例(2.3%)はいずれも後方循環の紡錘状の大きな(14-20mm)動脈瘤であり、rt-PA投与後27時間後、43時間後、19日後にそれぞれ破裂を認めた。rt-PAの半減期からはrt-PAが直接破裂の原因となった可能性は低いと考えられ、3例ともrt-PA後に抗凝固療法を行っておりそちらの関与があるかもしれない。

実臨床でどうするか?

現状注意するべきは「後方循環系の紡錘状の大きな動脈瘤」ということになると思います。それ以外の状況ではrt-PA投与による利益が見込まれる場合は未破裂脳動脈瘤だけを理由に投与を控えることにはならないかと思います。

未破裂脳動脈瘤があると「何となくrt-PA投与が怖い・・・」という気持ちはよくわかりますが、やはりこうしたデータに基づいた議論を展開していくことが重要だなと改めて思います。