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急性間欠性ポルフィリン症 AIP: acute intermittent porphyria

人生で一度は診断をしたいなと思っていますが残念ながら私はいまだ診断できたことがない疾患です。この疾患の臨床像を初めて知ったのはドラマDr.House(シーズン1:第22話)で間欠的な腹痛、末梢神経障害、人格変化があり最初全く病気が想起できませんでしたが、答えはまさかの急性間欠性ポルフィリン症で非常に印象に残りました。腹痛で消化器内科の先生が診察する可能性や、末梢神経障害で私のような神経内科医が診察する可能性もある疾患ですが稀な疾患であり、NEJMのポルフィリン症review最初の文章は”Who remembers porphyria?(誰がポルフィリン症のことなんか覚えている?)”という衝撃的な1文から始まることがいかに稀な疾患であるかということを物語っています( N Engl J Med 2017;377:862-72. )。私自身もしばらく本疾患のことを忘れていたのですが、先日NEJMのclinical problem solvingを解いていたら(N Engl J Med 2021;385:549-54.)、久しぶりに本疾患に出会い改めて勉強したため内容をまとめます。

病態

ポルフィリン症ヘム代謝にかかわる酵素のいずれかの活性低下により、ポルフィリア体もしくはその前駆体が蓄積することにより発症することがポルフィリン症一般の病態です。前駆体は尿中や胆汁中に排泄されるためそれを検出することで診断します。臨床的には大きく急性ポルフィリン症(神経内蔵症状が主体)と皮膚ポルフィリン症(光線過敏症が主体)に分類されます。以下では最も臨床上鑑別が難しい前者の特に急性間欠性ポルフィリン症に関しての中心に記載します。

・急性間欠性ポルフィリン症(AIP: acute intermittent porphyria)
原因遺伝子:PBGD(porphobilinogen deaminase)欠損
遺伝形式:常染色体優性遺伝(家族歴ははっきりとしない場合が多い)
疫学:女性の方が多い(遺伝は男女で均等におこるが)、通常出産可能年齢、全人種で起こりうる 北ヨーロッパで多い、年齢は成人発症が基本18-45才前後 *下図はLancet 2010; 375: 924–37より引用。

臨床像

■腹部症状:85-95%
・病態:腸管神経叢の障害
・初期症状かつ最も頻度として多い:腹痛、嘔吐、腸閉塞、便秘(急性腹症と間違われることが多い)
→画像検査で検出できない間欠的な腹痛として重要
*ちなみにDr.Houseの症例では原因不明の間欠的な腹痛と人格変化をきたし、腹部CT検査は正常、試験開腹まで実施しますが原因が特定されず難渋する経過でした・・・。

■精神症状/人格変化:anxiety/agitation/insomnia/hallucinations/seizures

■末梢神経障害
・四肢の疼痛を伴う場合が多い
・自律神経障害 頻脈:80%程度で最も自律神経障害としては多い症状 高血圧、発汗、落ち着かない

■中枢神経障害:痙攣、視床下部:SIADH *ちなみにNEJMのclinical-problem solvingでは腹痛発作時にSIADHによる低Na血症を呈していました。

*皮膚症状はAIPでは通常認めない

診断で考慮するべきpoint
・間欠的な腹痛+性格変化/精神症状+末梢神経障害などから疑う
・誘因を認めることが多い
・原因不明の腹痛、精神症状、神経症状で鑑別に挙げる
・痙攣、腹痛、低Na血症の若年女性からも疑う
・家族歴がないからといって否定することは全くできない
*一つ一つの症状自体は非特異的であるが、それらの組み合わせと誘因から疑うのが現実的か?

増悪因子/誘因

■生活習慣:飲酒、喫煙
■薬剤:バルビツール酸、抗てんかん薬(カルバマゼピン・フェニトイン・バルプロ酸・クロナゼパム)、麻酔薬、リファンピシン、スピロノラクトン、サルファ系抗菌薬、経口避妊薬、エストロゲン製剤
■食事:カロリー摂取不足 *ちなみにNEJMの症例ではケトジェニックダイエットが発作の誘因となっていました。
■精神的ストレス

検査

■尿検査:最重要(発作時の尿検査と遮光がポイント) *蓄尿ではなく部分尿でもCreと一緒に測定すればよいとされています。
尿中PBG(ポルフォビリノーゲン):正常値(0-2mg/gcre) 発作時:部分尿20-200mg/gcre,蓄尿20-200mg/day
尿中ALA(δアミノレブリン酸):正常値平均の10倍以上 0.7-2.5mg/gcre
*AIPでは尿の色は正常の場合がある(ΔALA,PBGは無色であるため)(*室温で光にあてると徐々に褐色になる:下図参照)

■採血検査
・AST/ALT軽度上昇common(Bilは上昇しないことが多い)
・血球の変化は認めないことが多い
・低Na血症(25-60%):SIADHの結果として認める場合がある
*血中のALA/PBGはごく軽度の上昇のことが多く鑑別に有用でない場合が多い(上記の通り尿中を評価する)
・PBGD活性低下:間欠期でも90%程度に認める

治療

1:誘発因子の除去
2:ブドウ糖投与
・300-500g/day投与することでALAS-1 down-regulationが起こり症状が緩和される
3:ヘム投与 ヘミン(hemin) 商品名:ノーモサング(Normosang) 製剤:250mg/10mL(血液製剤)
投与量:1日1回 3mg/kg 4日間点滴投与(1日最大投与量:250mg/日まで)
・ヘム投与によりnegative feedbackによりδALA, PBG産生を抑制し治療効果を発揮する。
・アナフィラキシーの副作用に注意が必要。

*Givosiran(siRNA)に関して近年第三相臨床試験が実施された。

今回は自験例がないため、ご経験のある先生いらっしゃいましたら是非コメントいただけますとありがたいです。

参考文献
・N Engl J Med 2021;385:549-54. AIPのclinical problem-solving・臨床像が非常につかみやすいです
・N Engl J Med 2017;377:862-72. ポルフィリン症全般に関するreview