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脳波の基本 EEG: Electroencephalogram

脳波は私の苦手な分野です(いつか得意と自信を持っていえる日は来るのだろうか・・・)。ここ最近は出来るだけ積極的に脳波を読んで訓練を積む努力をしていますが、まだまだ自信がありません。前にホームページのアンケートをさせていただいた際に「脳波」の希望が非常に多かったため、まずは基本的な内容から少しずつ記載していきます。いかんせん量が膨大なので少しずつupdateしていければと思います(まだまだ言葉ばかりで具体的な波形を示せておらずわかりにくくてすみません)。

解剖と電極の対応関係:10-20法

・鼻根部と後頭結節の中点、また左右耳介前点の中点をCz(vertex)と設定する(zはzeroを意味している)。
・鼻根部と後頭結節の間、また左右耳介前点の間を10%-20%-20%-20%-20%-10%で分割して電極を配置する方法(10%と20%なので10-20法と表現)。
・鼻根部から10%後ろがFpz, そこから20%ずつ後ろがFz, Cz, Pz, Ozとなる(Fpz, Ozは電極つけない)。
・FpzからOzにかけてT3を通る側頭部をまた 10%-20%-20%-20%-20%-10% と分割してFp1,2, F7,8, T3,4, T5,6 , O1,2と電極を配置する。
奇数が左、偶数が右を表している。下図がその配置(頭側から見た状態)。Fz, Cz, Pzは頭蓋頂部(ずがいちょうぶ)を意味する。
・前側頭部(anterior-temporal)は側頭部(T)だが、電極はFである点がまぎらわしく注意。同部位は側頭葉内側の活動を特に反映するとされており重要。

導出方法・モンタージュ

1:単極誘導法:MP (monopolar) *基準電極導出法
・耳朶を基準電極(左A1、右A2)にしてそれぞれの電極との電位差を測定する方法。
・利点:情報量が多く、全般性の活動のスクリーニングに優れる。
・欠点:耳朶の活性化の判断が難しい

2:双極誘導法:BP(bipolar)
・2点間の電位差を測定する方法。縦つなぎと横つなぎの方法があります。
「縦つなぎ」(通称:「ダブルバナナ」)の場合:Fp1-F3-C3-P3-O1は”parasagittal chain”、Fp1-F7-T3-T5-O1は”temporal chain”と表現します。
・利点:位相逆転(phase reversal)による焦点の同定が可能。
*施設によってルーチンの表示をMPにする施設、BPにする施設どちらもあると思います。私はスクリーニングをMPで、局在を確認する場合などにBPで確認という方法をとっています。

3:平均基準誘導法:AV(average referential montage)
・全電極の平均値を引いた値が表示される方法。
・利点:局所性の把握
・欠点:全般性の活動はマスクされてしまう(このためスクリーニングには不向き)

■設定(特にデジタル脳波計での)

感度:縦1マスの電位で通常は10μV/mmに設定
HF(high cut filter):高周波数フィルターの役割 *私は普段60Hzに設定する場合が多いです(これ未満にはしないようにと教わりました)
TC(time constant:時定数):低周波フィルターの役割 通常:0.3秒TCを下げると遅い徐波が不明瞭になっていきます。*基線がゆれて見づらい場合は0.1秒へ変更します(私はTCは基本的にいじらないように教育を受けてきましたが)
REF:基準電極の選び方(上記の単極誘導や双極誘導など)

■基本的な周波数

δ(デルタ)波:0.5~4Hz未満 徐波(slow wave)
θ(シータ)波:4~8Hz未満 徐波(slow wave)
α(アルファ)波:8~13Hz未満
β(ベータ)波:13Hz以上  速波(fast wave)

*参考:私の脳波つまずきポイント
私が脳波を初めて勉強したときによく理解できなかったのが「どれを1つの波と取ればよいのか?」という点でした。アトラスに掲載されている脳波はきれいな脳波で確かに周波数に迷うことはないですが、実際の脳波は抵抗や筋電図混入などが完全にゼロにはならないためやや「きたない」脳波になります。このため「どれが有意な波で、どこで周波数を取ればよいのか?」がわからなかったことが最初の問題点だったと思います。ただこれは何度も脳波をながめながら大まかな波の形をつかむ訓練を積むしかないと思います。

■脳波の限界

・頭蓋骨は電位を大きく減衰させる(1/7~1/10程度)
・頭蓋骨はhigh-cut filterの役割を担う(15Hz程度)
6cm2以上の脳表が同時に発火しなければてんかん性放電は頭皮上で記録できない

背景活動/後頭部優位律動 PDR: posterior dominant rhythm

・周波数:α帯域、周波数の変動が1Hz以内
・振幅
・連続性:持続性がありwaxing and waningを認める
・分布:後頭葉に限局している
・反応性:開眼によるα-attenuation
・左右差:周波数と振幅で左右差がない

いずれかが障害される場合は組織化(organization)が不良と表現する

若年性後頭部徐波(PSWY: posterior slow waves of youth):正常亜型 α律動とともに2.5-4Hzの高振幅徐波が重なることがあり(単発や散発が多い) 11~19歳(遅くとも25歳まで) *PDRとともに必ず出現・消失する

賦活脳波

1:光刺激 PS: photic stimulation
・正常反応:光駆動(反応) photic driving (response) 部位:後頭部
・突発活動(photo-paroxysmal response: PPR):特発性全般てんかんで誘発されることがある
*PMR(photomyogenic response:光筋原性反応):筋電図(前頭筋や眼輪筋)のアーチファクトが光刺激に同期して出現し臨床的意義に乏しい

2:過呼吸 HV:hyperventilation
・方法:1分間に20-30回の速さで、3-4分間連続して過呼吸を行わせる方法
・”build up”:徐波出現、振幅増大(10才以下では正常、年齢挙がると異常に近づく)
1分以上経過してもbuild upが持続している場合は異常と判断

睡眠脳波

・睡眠Stage1-4に分類する。
・通常の脳波検査で睡眠Stage3まで深くなることはない。

Stage-N1

α 50%未満

Small sharp spikes(SSS) 別名:BETS(benign epileptiform transients of sleep)
・波形の特徴:point 50 and 50 低振幅(50μV以下)・持続時間短い(50ms以下)・陰性単相 or 陰・陽二相性*徐波成分を伴わない・常同的・非周期性に出現 両側性片側性いずれもあり
*低振幅にもかかわらず広く分布する
・出現時期:入眠~軽睡眠時
・年齢:成人 20%

POSTS: Positive occipital sharp transient of sleep 睡眠後頭部一過性陽性鋭波
・睡眠Stage~1 *覚醒度が低下したタイミングで出現
・波形:陽性鋭波、burst状に出現する場合もある
・分布:両側後頭部に限局する

VST: vertex sharp transients 頭蓋頂鋭一過性波
・睡眠Stage1(-2) *humpと呼ばれていたもの
・波形:高振幅鋭波(周波数:3-10Hz、振幅:100-300μV)<0.5sec
*背景活動と識別可能、左右対称性の鋭波で後続徐波は伴わない、左右差があってもVSTの可能性がある
*てんかん性放電と誤診されやすい点に注意→parasagittalの鋭波は睡眠時は常にVSTの可能性を考慮(①覚醒時に出現している場合、②睡眠時に徐波を伴い出現する典型的なspike/sharp and waveの場合はてんかん性放電を考慮する)
・常同性:個人内で波形が変動する・刻々と変わっていくことが多い
・最大点:C3,4中心部 Cz *特に若年者で明瞭

Roving eye movement:F7,F8に認める

*参考:14&6 Hz positive spikes
・正常者の20-60% 主に若年者12-20歳 傾眠期 後部の側頭部・両側性で独立して出現
・波形の特徴:下に尖っている(櫛型)  *時々afterslowがある
*14Hzがspindleの様な紡錘状ではない

Stage-N2

Spindle 紡錘波
・睡眠Stage2
・波形:周波数14Hz・>0.5sec
・分布:全般性、左右対称
・最大点:中心部、頭頂部

K complex
・波形:持続時間>0.5sec *VTsと比較すると長い・大きい
・分布:前頭部が最大振幅

Stage-N3

前頭部に大きいθ波 75μV以上(peak to peak)前頭部で記録の20%以上を占める

*参考:Stage N1, N2でてんかん性放電は検出しやすい *逆にREMでは少ない

正常亜型

6Hz spike and wave 別名:phantom spike and wave
・波形の特徴 *一見spike and waveに見えるが、通常のspike and waveは6Hzよりもっと遅い周波数になることが多い  持続は1秒未満
spikeの振幅が徐波と比べて目立たないためphantomという表現が使われます
・FOLD: Female, Occipital, Low, Drowsy(女性・後頭部・低振幅・入眠期):病的意義なし
・WHAM: Waking, High, Anterior, Male(覚醒時・高振幅・前頭部・男性)→発作と関連あり
年齢:若年成人

Wicket spike
・疫学:30歳以上 中高年(中年以降で出てくるnormal variantは少ないが重要なnormal variant)
・波形の特徴:baselineの活動が乱されない・リズムかわらず出現 after-slowを伴わない
*ランダムに出現する(左右同期することはない)

μ律動
・波形の特徴:中心部に規則正しく10Hz前後・波形の形がμの字に似ている・後頭部優位律動と関係なく出現・開眼で抑制されない・手の運動で抑制(一次運動野の神経細胞がアイドリングしている)

速波の解釈

・生理的なβ波:20Hz前後・”waxing and waning”を認める
・突発活動としてのβ波(PF:paroxysmal fast, rapid rhythm):after slowを伴う
・筋電図:後述参照

発作間欠期のてんかん性波形に関して

0:生理

脳波=大脳皮質の錐体細胞群でのEPSP(シナプス総電位)の総和
てんかんの病態:間欠期のてんかん性放電の機序
・錐体細胞の突発性脱分極変位(PDS=paroxysmal depolarization shifts=巨大EPSP)=興奮 脳波のspikeに該当
・抑制 脳波のafter slowに該当

1:形態的な特徴
・周囲の背景活動から周波数や振幅が逸脱している
・典型的なspikeは後続徐波(Slow after-wave)を伴う
・波形は左右非対称(立ち上がりが急峻で、下りがなだらかになる場合が多い)
*まとめたものが下図になります。

*これらを満たさない場合は典型的な”spike”とはならず、正常亜型の鋭一過性波(sharp transients: STs)と表現することもあります(STsをてんかん性放電とは呼ばない!)。この場合は臨床と合わせての解釈になります。

2:分布について

ある焦点があり、そこから周囲の電極へ波及していく(振幅は焦点から距離が離れるにつれて緩やかに減衰する)のがてんかん性の活動です(下図左)。アーチファクトの場合はこのような電気活動の中心と周囲への波及というパターンをとりません(下図右)。これを理解するためには脳波の電極がそれぞれどの解剖部位と対応しているのかの理解が必要です。

3:波形の分類

極波(spike): <70msec *多極波(polyspike)
鋭波(sharp wave): 70-200msec *spikeとsharp waveに病的意義の差はないとされている
極徐波複合(Spike and wave complex: SWC)

*参考:spikeのイメージ
・多くの初学者は「spike」=「発作」と勘違いしてしまっていますが(昔の私もそう思っていました)、実際にはspikeが単独である場合は「発作間欠期の脳波」を意味しています。
・これは教科書の例えでは、spikeは火の粉で全体が燃え上がっている訳ではなく(間欠期)、それが燃え広がると発作波になると記載があり分かりやすいです。
・私はspikeは心電図でのPVC(心室性期外収縮)の様なイメージを持っています。つまり、PVCそれだけが単独でポツポツとでていても致死的な心室性不整脈ではないけれど(=間欠期)、PVCがなんらかのきっかけで続いてしまうと心室頻拍や心室細動などの致死的な心室性不整脈になってしまう(=発作)ということです。

4:解釈

・てんかん性放電はてんかん診断の特異性が高い
・1回の脳波検査でてんかん性放電検出の感度は12-50%程度、繰り返すことで感度は上がる
・小児・早期発症・睡眠中や断眠状態などでてんかん性放電を検出しやすくなる
・てんかん性放電の頻度と臨床的なてんかん発作の頻度は必ずしも相関しない(例外 generalized 3Hz spike and wave complex)
・てんかん発作直後にてんかん性放電は増加する(出来れば発作直後に脳波検査をしたい)

耳朶の活性化

MPで「陽性波(下向きの波形)を広い範囲に認めた場合」は耳朶の活性化を疑います。つまり、MPは耳朶を基準電極にしていますが(A1,A2)これらに陰性波を認めると引き算で下向きの波形を認めます。この場合は「BPで位相逆転を確認」「AVで最大点を確認」で確認します。

アーチファクト

脳波はアーチファクトとの戦いです。前述の通りある焦点があり、そこから周囲の電極へ波及していく(振幅は焦点から距離が離れるにつれて緩やかに減衰する)のがてんかん性の活動らしさを示唆します。つまりアーチファクトでは周囲への波及がない場合、減衰が著しく場合などが挙げられます。以下に「脳波判読オープンキャンパス」で記載のあったアーチファクトのまとめを掲載させていただきます。

分類1:生体(患者)由来アーチファクト

筋電図

・周波数はspikeよりも高周波で、立ち上がりが垂直のことが多い)
・電極と筋肉の対応関係:Fp1,2(前頭筋)、F7,8(外直筋 “lateral rectus spike”)、T3,4,A1,2(側頭筋)、O1,2(後頭筋)
・筋電図と判断するポイント
ポイント1:立ち上がりが急峻すぎる(40-60Hzくらいのことが多い)
ポイント2:基線の変化を伴っている
ポイント3:他の部位へ波及していない
ポイント4:Czには及ばない
ポイント5:個々の波で周波数・振幅がばらばら
*高周波フィルターをかけるとspikeに形態が似る点に注意

心電図

(これは心電図も一緒に記録しているので分かりやすい):モンタージュを”Aav”にすると消すことができ有用です

角膜電位

・角膜は陽性に荷電しており、閉眼のBell現象により眼球が上転するためFp1,2で限局する陽性波/下向きのアーチファクトを認める *非常に多い)

舌運動電位(glosso-kinetic potential)

・全領域で出現・すべての誘導で均一な振幅(脳波は「全般性」でも最強点がいずれかには存在する)
・背景活動から逸脱している

脈波

・側頭動脈などで心電図の波形と周期が一致するかにより鑑別する

その他

・発汗など

分類2:生体外由来アーチファクト

電極の設置不良(浮いている)

・ポイント:MPで単1つの電極に限局する=BPでその電極のみ明確な位相逆転があり周囲へ波及しない
・波形パターン1:立ち上がりが垂直(キャリブレーションと同じような波形)”electrical pop” *垂直に最大点に達して、徐々に基線にもどる、、背景活動を阻害しない
・波形パターン2:基線がうねうねと波打つようになる(徐波と勘違い)

耳朶電極の設置不良

・片側半球全体に認める→縦のBPで消失することで確認

HUM

周波数:50 or 60Hz ほぼ一定の振幅、単一の電極に限局、電極の設置不良部位に出現する場合が多い
*明らか人工的なので分かりやすいと思います

その他の機械(点滴や人工呼吸器)

今後も少しずつ勉強した内容をまとめていきたいと思います。

代謝性脳症の脳波

1)背景に徐波活動
2)三相波(triphasic wave: TW)
・ negative/positive/negative 1つ目(negative)が小さい、2つ目(positive)がゆっくり深く落ちていく
・AP delay:後ろの方がonsetが遅い・前頭部優位である
・変動する(ページごとに波形が微妙に異なる)
*triphasic wave≠肝性脳症
3)周波数のvariationが豊富である

GPDs (generalized periodic discharges)

病態:大脳皮質と深部灰白質がともに障害されることで生じる
・間隔が2秒より短い(数が多い):classic CJD (CJD variantでは通常認めない)
・間隔が2秒より長い(数が少ない):SSPE
*その他の原因:リチウム中毒・無酸素脳症(最も日常臨床でよく遭遇する)

参考文献
・「脳波判読オープンキャンパス」誰でも学べる7STEP 著:音成秀一郎先生、池田昭夫先生 ついに生まれた脳波初心者のための名著といえる教科書です。もっと早くこの本に出会っていたかった。