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せん妄 delirium

1:病態

・せん妄は意識障害の分類ではここでは「一過性」の「覚醒障害」もしくは「認知障害」に該当する(Fig1)。覚醒障害が主体になる場合も、認知障害が主体となる場合もどちらもある。覚醒障害は軽度の覚醒障害を反映した注意障害(何かに集中し続けることが困難)や睡眠覚醒障害を呈する場合が多い。認知障害では見当識障害(特に時間→場所→人の順で障害される)を呈することが多く、また論理的な思考能力も障害されやすい。

症状が一過的で変動するという点を病歴上でとらえられ、かつ「覚醒障害」もしくは「認知障害」を伴う場合は診断になり、具体的にはCAM(confusion assessment method)が有用(Fig2)。

・不穏とせん妄は同義ではない点に注意。せん妄は意識障害の鑑別に分類される。
入院患者(特に高齢者)の「なんとなく様子がおかしい」は「せん妄」と片付けられてしまう事が多いが、よく診察すると「失語」であったり、「失行」であったり特定の高次脳機能障害のことがある(この場合は脳血管障害やてんかん発作の可能性が上がる)。このため看護師さんから「せん妄です」、「不穏です」と報告を受けても、きちんと自分で診察をしてある「高次脳機能が選択的に障害されているせいで「一見せん妄」に見えてしまっているだけではないか?」という可能性を探るべきである。「失語」のせいで上手く伝えられず興奮して暴れてしまっている場合もあるためきちんと診察をすることが重要。
・興奮、幻覚などを中心とした「過活動性せん妄」と、無気力、傾眠傾向などを中心とした「低活動性せん妄」に分けられ、特に後者は日常臨床で意識していないと見逃しやすい。
「不眠」の原因が「せん妄」の場合がある。ただの不眠と判断してベンゾジアゼピン系薬剤が投与されてしまうと「せん妄」はより悪化するため注意。
・てんかん発作、特にNCSE(non-convulsive seizure epilepticus:非けいれん性てんかん重積)との鑑別は難しい場合も多く、悩む場合は脳波検査を行い鑑別するべき。

2:原因

「せん妄」はあくまで病態を表した言葉であって、診断名ではない点に注意が必要である。「けいれん」にはその原因があるように、「せん妄」も必ず原因がある

・「せん妄」の最も多い原因は高齢者や認知症患者さんが入院することでおこる環境変化である。この場合もただ「せん妄」とアセスメントするのではなく、「環境変化が原因のせん妄」と毎回丁寧にアセスメントするべきである。特に入院後時間が経過してから新規にせん妄が出現した場合は二次的な原因を同定する必要がある。全身検索の中で特に注意するべき原因を下記に列挙する。

疼痛、便秘
低酸素:入院中は特に肺塞栓症が注意
電解質異常:特に医原性の低Na血症や担癌患者の高Ca血症に注意
感染症:その他のバイタルサインと総合して判断する。
低血糖:必ず除外するべき
離脱:アルコール離脱やベンゾジアゼピン離脱など
薬剤:抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系など
急性心筋梗塞:入院中に急性心筋梗塞を発症し、その最初の兆候がせん妄である場合が高齢者ではある。せん妄で心電図をとるのが内科医の能力を反映している

3:対応

・2次的な全身疾患が原因の場合はそこへアプローチする。
・せん妄の誘因となる薬剤(代表的なもの:抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系・オピオイド)の変更を検討する。
・基本はまず非薬物療法から介入する(以下参照)。

・不必要なデバイス(末梢静脈点滴・尿道カテーテル)、モニターなどを除外できないかを毎日回診で検討する。
・本人の眼鏡、補聴器、義歯を使用する
・生活指導
・カレンダーや時計を設置する、その日の検査予定などを紙に書き渡しておく
・日中は日の光を浴びるようにし、昼夜のリズム付けを行う。
・家族に面会へ来てもらう。

せん妄の誘因となる薬剤に関して”drug-induced delirium”

・病態:ACh(アセチルコリン)、ドーパミン、ヒスタミン、GABAなどの神経伝達物質に作用し、神経伝達物質のバランスが崩れることが問題→特にコリンは重要であり、抗コリン薬という名前でなくともコリンに作用する薬剤は多く存在する
・高齢者の入院(せん妄ある患者の入院)では必ず薬剤を全て確認(OTCも含めて)・直近の用量変更や腎機能の変化を確認する
・polypharmacy自体もリスクとなるため介入するべきである
抗コリン薬はなるべく使用避けるべき、ベンゾジアゼピン系はいきなり中止すると離脱しうるため漸減や他剤への変更を検討
抗コリン作用のある薬剤の変更に関して:抗うつ薬特にTCA(SSRI問題ないため変更検討)・抗ヒスタミン薬第1世代(第2世代へ変更を検討)・H2RA(PPIへ変更を検討)

■原因薬剤一覧 3大原因:ベンゾジアゼピン系・抗コリン薬・オピオイド
・心血管系:ジソピラミド(抗不整脈薬の中で最も抗コリン作用が強い)・ジゴキシン・一部の古い降圧薬(レセルピン・クロニジン)・プロプラノロール(?反論もあり)
・呼吸器関連:テオフィリン・ステロイド
・中枢神経:ベンゾジアゼピン系・抗コリン薬・ドパミン作動薬(パーキンソン病治療薬)・リチウム・TCA・抗てんかん薬(プリミドン・フェノバルビタール)
*SSRIは問題ないことが指摘されている
・麻酔関連:ケタミン・吸入麻酔薬
・その他:オピオイド・NSAIDs(?)・H1RA(特に第1世代)・H2RA(日本ではファモチジンが有名であるが、全ての薬剤で報告あり)*第1世代の抗ヒスタミン薬は市販薬(OTC)にも含まれている場合があるため注意が必要である
・離脱:アルコール

参考文献:Postgrad Med J 2004;80:388–393. Drug Safety 1999 Aug; 21 (2): 101-122

*参考:覚醒と睡眠に関与する神経伝達物質一覧

4:薬剤

患者さんや医療者に危険がある状況で非薬物療法のみの対応では不十分な場合に限り薬剤での介入を検討する。
・定型もしくは非定型抗精神病薬から使用を検討。また漢方薬の抑肝散を使用する方法もある。
*抗精神病薬は眠剤ではなく、患者さんが寝るまで使うと過量投与になってしまうため注意が必要。あくまでも注意障害や妄想、幻覚などの精神症状を軽減する目的で使用する。
・糖尿病の既往がなければクエチアピン(商品名:セロクエル®)は作用時間が短く、錐体外路副作用も少なく、比較的きれが良い薬剤になるので良い。高齢者ではまず12.5mg/日の少量から開始した方が安全である。
・糖尿病の既往がある場合はリスペリドンを検討する。リスペリドンも高齢医者では0.5mg/日から開始した方が安全である。リスペリドンは活性代謝物が靭帯者であり、腎機能低下時には効果が遷延してしまう点に注意が必要。
・どうしても点滴で投与しなければならない場合はハロペリドール(商品名:セレネース®)しか抗精神病薬では存在しないが副作用が多いため注意。
・抗精神病薬のところでも解説するが(こちらを参照)、QT延長に伴う不整脈のリスクがあるため背景の心疾患や不整脈(投与前に入院時の心電図を必ず確認)、その他QT延長を助長する電解質異常(低K血症、低Mg血症)や薬剤(マクロライド系抗菌薬など)がないか注意する(QT延長に関してはこちらをご参照ください)。特にパーキンソン病が既往にある場合抗精神病薬は基本使用できないため(錐体外路副作用が最も少ないクエチアピンのみ使用可能)注意が必要である。

(処方例)
クエチアピン(セロクエル®)25mg 0.5錠 頓用
リスペリドン0.25mg 頓用
ハロペリドール 0.5A(=2.5mg) +生理食塩水100ml 1時間かけて投与