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MTX-LPD: methotrexate-associated lymphoproliferative disorder メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患

病態と病理

MTX(メトトレキサート)投与中の患者に発生する「リンパ球が過剰に増生した状態」MTX-LPD: methotrexate-associated lymphoproliferative disorder(メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患)と称し、1991年Ellmanが報告したことに端を発しました(J Rheumatol 1991;18:1741)。ほとんどが関節リウマチ患者での報告ですが、その他の疾患でMTXを用いている場合にも報告されています。MTX一般に関してはこちらをご参照ください。
・「WHO分類(第4版:2008年)」では「免疫不全関連リンパ増殖性疾患(immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders)」の中でも、原発性免疫疾患に関連した LPD,HIV(human immunodeficiency virus)感染に関連したリンパ腫,移植後 LPD を除いた「そのほかの医原性免疫不全症関連 LPD”other iatrogenic immunodeficiency-associated LPD”」に分類されています(Other iatrogenic immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders. In: WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Swerdlow SH, Campo E, Harris NL, Jaffe ES, Pileri SA, Eds. IARC Press, Lyon, France, 2008: 350-351.)。
リンパ節性またリンパ節外性(40-50%)に腫瘤を形成して、節外性では消化管、皮膚、肺、軟部組織、鼻咽腔、肝臓、脾臓、腎臓、甲状腺などほぼ全ての臓器で認める場合があります(中枢神経に発生するものを後でまとめます)。悪性リンパ腫から良性の反応性過形成も幅広く含まれます。このためMTX長期投与中にリンパ節腫大、腫瘤形成を認めた場合にMTX-LPDを疑います。
・組織としてはDLBCLが最も多く、古典的Hodglinリンパ腫が多い様です。
・病理組織だけでMTX-LPDと診断することは出来ず、臨床的にMTXを使用していることと合わせて診断する必要があります。
EBER(Epstein-Barr virus-encoded small RNA)が見られることが30-50%程度あり、EBVの関与も推察されています。

治療

・MTX-LPDの特徴はMTXの投与中止のみで約半数程度で病変が自然退縮する場合があるという点です(EBER陽性例の方が自然寛解しやすいとされています)。病変の退縮は2周間程度で認めるとされており、薬剤中止による経過観察をし、改善を認めない場合は化学療法の導入を検討します。

中枢神経のMTX-LPD

リンパ節外性のMTX-LPDとして中枢神経でのMTX-LPDは非常にまれで、症例報告が複数あるのみです。ここでまとめさせていただきます。

症例報告とliterature review NMC Case Report Journal 2020; 7: 121–127

・68歳女性、関節リウマチでMTX8mg/週を10年以上内服している患者が2日の経過の運動性失語と右片麻痺を呈して受診。検査結果はsIL2Rが542 U/mLと軽度上昇、EBVは既感染パターン、頭部MRI検査は多発する腫瘤病変を認め、不均一な造影増強効果をGd造影で認め、腫瘤周囲にFLAIRで浮腫を認めた。全身CT検査ではリンパ節腫脹や腫瘍を示唆する所見は認めなかった。MTXを中止したが症状が悪化し、脳生検を実施。免疫組織ではCD20陽性、EBER陽性でDLBCLの診断。

・literature reviewでは本症例を含めて10例の中枢神経のMTX-LPDをまとめています(下図)。原疾患は全例関節リウマチで、LPDの部位は大脳8/10(7/8は多発病変、1/8は単発病変)、延髄1/10、硬膜1/10(無症候性)と報告されています。発症年齢50-78歳、女性9例、男性1例、MTX投与量は8mg/週(6-16mg/週)、MTX治療期間は4年(1年から10年以上)。病理はDLBCL4/10、polymorphic/lymphoplasmacytic lymphoproliferative disorder (P/L LPD; 1/10), peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified (PTCL-NOS; 1/10), Hodgkin’s lymphoma–like lymphoproliferative disorder (HL LPD; 1/10),non-classifiable patterns (3/10)。EBER+7/10、MTX中止によりLPDが減退したものは8/9に認めました。

■多発大脳病変の症例報告 臨床神経2018;58:485-491

・52歳女性、主訴左上肢筋力低下、関節リウマチ2012年診断時よりMTX8mg/週(総投与量2048mg)、エタネルセプト25mg/2週投与歴あり。左上肢筋力低下が徐々に出現し、頭部MRI検査で右大脳半球に多発するT2WI高信号病変を認め、神経内科紹介受診。髄液細胞数6/μL、細胞診classⅡ、造影CT検査でリンパ節腫大、腫瘤性病変なし。FDG-PETで大脳に集積あり、悪性リンパ腫の可能性より脳生検実施。免疫組織ではCD20, 79a,bcl-2, MUM-1が陽性、CD3,CD5,CD10は陰性、DLBCLの診断。EBER-ISHは陰性。骨髄生検ではDLBCLの浸潤は認めず、正形成。MTX中止のみで改善せず、化学療法導入も、その後改善せず他界。

■硬膜病変を呈した症例報告 Intern Med 55: 1661-1665, 2016

・50歳女性、関節リウマチで3年間MTX8mg/週とエタネルセプト、またアダリムマブで治療中。1ヶ月微熱が持続し、その後光熱を呈し、右大腿に有痛性の紅斑が出現し、MTXは中止し、LVFX開始。神経学的所見はなし。EBVは期間船パターン、全身CT検査は問題なし。皮膚生検部位はCD20,CD79α, CD5, Ki-67陽性、EBERは陰性。FDG/PETでは縦隔と硬膜に集積亢進あり。髄液は問題なく、MRIでは硬膜肥厚と造影増強効果あり。IVLBCLの診断で、MTX中止で徐々に解熱したが、R-CHOP導入。