「◯◯さん、何か他に気になることはありますか?」

私は外来や往診の最後に可能な限り「〇〇さん、何か他に気になることはありますか?」と患者さんに聞くことを日常臨床の目標にしています。この言葉は私が初期研修医のときや後期研修1-2年目の時はほとんど使うことが出来ず、最近ようやく少し使えるようになってきた言葉です。何気ない一言かもしれませんが、この言葉をすっと言うことは予想外に難しいです。

専門外のことを聞かれた場合に答えられない自分が恥ずかしい

パーキンソン病の患者さんが神経内科の定期外来にきた状況を想定します。一通り診察が終わり医者が「〇〇さん、何か他に気になることはありますか?」と患者さんに尋ねます。患者さんが「実は最近胸に赤いぼつぼつが出来ていて心配なんです」という返答をした場合、みなさんはどう思いますでしょうか?「自分の専門ではないし、どうすればよいか分からないからここで聞かないで欲しいな・・・」と思う方も多いと思います。

私の場合は患者さんに自分の知らないことを聞かれた場合に上手く答えられない自分が恥ずかしいため、「自分が答えられない質問は患者さんにしないで欲しい」という思いが無意識にありました。すると「答えられない質問が来たら困る」ので「そもそもできるだけ質問しないでほしい」という思いが無意識に芽生え、なかなか回診や外来でこの「何か他に気になることはありますか?」という言葉を聞くことが出来ませんでした。

“Generalist”とは?

しかし、この「関係ない質問はしないで欲しい」という無意識な医者側の態度は患者さんに予想外に伝わってしまっています。すると患者さんは「この先生は自分の専門の病気のことしか診てくれないんだな・・・」という印象を持ってしまいます。

昨今SpecialistとGeneralistの議論がよくされますが、これは別に標榜している科が総合診療科か?専門科か?という形式的な問題ではなく、「患者さんが自分の体調に関する不安を気兼ねなく医者に伝えることができる場を医者が提供できるか?」という点が最も重要だと個人的には日々の臨床で感じています。「ここは神経内科だからそんな皮膚のこと聞かないでよ」という態度や、「膝が痛いことは今関係ないから聞かないでよ」という医療者側の態度が少しでもあると、患者さんは自由に自分の体調に関する臓器横断的な質問ができなくなってしまいます。

例え医療者がgeneralな医学知識を身に付けていなかったとしても、「上手く答えられないかもしれないけれど、僕の専門以外のことでも何でも聞いてね」という雰囲気を患者さんに提供できればその医者は”Generalist”と称して良いのではないかと個人的には思います。このような質問しやすい場・雰囲気を提供できる医者であれば、標榜科関係なく(例え消化器外科でも循環器内科でも)、また知識量と関係なく”Generalist”だと思います。

言い換えるとGeneralistはいかに「全ての領域の知識を知っているか?」より「いかに自分の無知に対して自覚的であって、患者さんの専門外の質問に対しても耳を傾けることができるか?」という資質が問われているように日々感じます。

自分の言葉に自覚的になる事は難しい

そもそもこの言葉に私が注目するようになったのきっかけは卒後5年目のことです。救急外来でふらふらしていたところ、救急外来の看護師さんが「先生は”何か他に気になることありますか?”って患者さんに聞いていて優しいですね!」と声をかけてくれました。正直その言葉をかけた記憶はその時なかったのですが、指摘を頂き嬉しくも自分の言葉への無自覚さに驚いた記憶があります。それ以来私はこの言葉に気にかけるようになりました。そして自分がこの言葉を上手くいえない状況があることに気が付きました。

振り返ってみると私は初期~後期研修医のときには全然この言葉を使うことができておらず、それは自分自身の無駄なプライド(質問されたことに答えられない自分が恥ずかしい)や余裕のなさ(人格的にも知識的にも)に原因があったと思います。自分の無知が患者さんに知られるのが恥ずかしい、怖い、この質問をしたら時間がなくなってしまうかもしれない・・・という思いから無意識に避けていた様に思います。

その後私は後期研修で1年間総合内科を研修して、そこで得た知識や経験から「少しなら患者さんの専門外の疑問にも答えられるかな?」という小さな自信を武器に、それ以降ときどき「〇〇さん、何か他に気になることはありますか?」と聞けるようになりました(でも残念ながら決して無駄なプライドは消えておらず、余裕のなさも相変わらずです・・・)。

このようにたまたま救急外来でふと看護師さんが教えてくれた一言が自分にとっては非常に大きなインパクトを残しました。そして、この言葉をできるだけ患者さんにかけることが私の日常臨床の1つ目標になっています。

今回はかなり私的な徒然な内容で恐縮です。是非みなさまが普段日常臨床で気にかけていらっしゃる言葉をコメントで教えてくださりますと幸いです。記事をお読み頂きありがとうございました。

“「◯◯さん、何か他に気になることはありますか?」” への6件の返信

  1. 私も回診や外来診察で時間のある時は「最後に何か気になることはありますか」「聞き忘れたことはないですか」と聞くようにしています(外来が本当に混雑している時はあえてこの質問をしなくなってしまう時はありますが…)。患者さんが診察室から去ろうとする時こそ大事な情報がポロっと聞き出せることが多いように思います、「ドアノブ現象」と言われていますよね。患者さんが思い出したように最後に話した言葉をきっかけに診断に結びつくことはどの先生も良く経験していることかと思います。私も患者の立場として病院に良く通っていたので分かるのですが、忙しそうにしている先生には気を遣って余計なことは話せませんでした。「◯◯さん、何か他に気になることはありますか?」と言われると、忙しいのに自分のために時間を少しでも割いてくれるんだ、少し話しをしてみようかなと気持ちがオープンになれるような気がします。先生の言葉は医者と患者のラポール形成に非常に重要な言葉かと思いました。話しは変わりますが、私の好きな言葉に「誰しもが名医になることはできないが、良医になることはできる」があります。くじけそうになった時はこの言葉を思い出します。患者さんにとっての良医となれることを目指してこれからも診療をしていきたいです。まとまらない文章となってしまい恐縮です、駄文失礼しました。

    1. 記事をお読みいただき、またコメントいただき大変有り難うございます!
      「誰しもが名医になることはできないが、良医になることはできる」前を向くことができる素晴らしい言葉ですね!
      先生の日常臨床で普段感じていらっしゃる感覚をご共有いただけて大変ありがたいです。また同じ様な考えを共有できてとても嬉しいです。

  2. 素晴らしい言語化だなと思って拝読しました。
    私は1市中病院でのGeneralistですが、ぜひ、先生のブログをツイッターなどで紹介させてください!

    1. 記事をお読みいただき、また励みになるコメントをいただき大変有り難うございます!
      少しでもGeneralistでありたいと日々もがきながら臨床をしております。
      是非紹介してくださるととても嬉しいです!大変ありがとうございます!

      1. この記事を読んでより先生みたいな医師になりたいと思うようになりました。

        今後私も使おうと思います!

        1. ご連絡いただき、また励みになるコメントを頂き大変有り難うございます。
          まだまだ私自身は臨床医として未熟者なので、大変恐縮です。
          今後もまた是非記事をお読みになっていただけますと幸いです。ありがとうございました!

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