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下垂足 foot drop

病態

・足関節背屈の筋力が低下してその名の通り足が垂れてしまう病態を一般に下垂足と表現します。
・足関節背屈を担う最大の筋は前脛骨筋(TA: tibialis anterior)で、神経根:L5、末梢神経:深腓骨神経(deep peroneal nerve)が対応しています。
足関節底屈(下腿三頭筋)の筋力低下を認める場合はよりdiffuseな障害の可能性があり、運動ニューロン疾患や複数の神経根や馬尾症候群などの原因を考慮する必要があります。この点に関しては今回は含めず、純粋な足関節背屈の筋力低下症例に関して考えます。

■鑑別

1:筋肉:compartment syndromeなど
2:末梢神経:腓骨神経麻痺
3:神経根:L5神経根症
4:中枢神経:円錐上部症候群、脊髄症、大脳(parasagittal tumorなど)
*円錐上部症候群に関してはこちらに詳しいまとめがありますのでご参照ください。

L5神経根症と総腓骨神経麻痺の鑑別

・下垂足(foot frop)の代表的な鑑別はL5神経根症総腓骨神経麻痺になります。
・両者は支配する筋肉、感覚障害の範囲もかなりオーバーラップがあり鑑別が通常の診察のみでは難しい場合が多々あります(もちろん神経根症ではSLRなどの神経根痛の誘発、総腓骨神経麻痺は圧迫が多いので同部位でのtinel徴候などを確認します)。
・感覚障害からの鑑別点は、L5の感覚障害は足底の内側前半部にも達しますが、総腓骨神経障害では足背にとどまる点は感覚障害からの鑑別点になります。以下に神経根ごとの運動、感覚、腱反射と足背の末梢神経の支配領域をまとめます。


・このため鑑別に有用なポイントを3点(「底屈位での内反」・「中殿筋」・”medial hamstrings reflex”)以下で解説します。

■後脛骨筋の筋力

後脛骨筋(tibialis posterior 神経根:L5、末梢神経支配:脛骨神経 tibial nerve)は足関節が底屈位での内反(inversion)を担っています。MMTを調べる際には必ず足関節を底屈位にした状態で内反させます(きちんと底屈位を維持しないと後脛骨筋の筋力を調べられない点に注意)。このため足関節が底屈位での内反が障害されている場合はL5障害を疑い、逆に内反が保たれている場合は総腓骨神経麻痺を疑います。
<まとめ>
・内反保たれている:総腓骨神経障害
・内反障害されている:L5神経根症

■中臀筋の筋力

中殿筋(神経根:L5、末梢神経支配:上臀神経)の筋力が保たれているか?も指標となります。中臀筋は股関節を外転させる作用があり、「側臥位」で下肢を外転させてMMTをとります(下図参照)。または「仰臥位」で膝関節伸展位の状態で両足を開いてもらい調べる方法もある(園生先生の教科書に記載されているのはこちらの方法)。
*ただL5障害による下垂足例でも中臀筋の筋力低下をきたすのは約半数とされており、中臀筋の筋力が正常範囲内であったとしてもL5障害は否定できません。

■”medial hamstrings reflex”(内側ハムストリングス反射)

・L4は膝蓋腱反射、S1はアキレス腱反射がそれぞれ対応するとされていますが、L5は教科書的には対応する腱反射がないとされています。しかし、”medial hamstrings reflex”(対応する日本語がわからず、そのまま「内側ハムストリングス反射」とこの記事では記載します)がL5の反射として有用であるという報告があり、まだまだmajorではないですが利用されています。これは総腓骨神経麻痺では保たれるためL5神経根症との鑑別に有用です
<まとめ>
・”medial hamstrings reflex”反射が保たれている:総腓骨神経麻痺
・反射が障害されている:L5神経根症

・方法は腹臥位の状態で、内側ハムストリングス(半腱様筋、半膜様筋)の腱を膝窩のすぐ上部分でたたくことで同筋が収縮することを確認します(参考文献:Pract Neurol 2020;20:472–473.)。