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眼窩先端症候群・海綿静脈洞症候群

1:解剖と分類

眼窩先端部・海綿状脈洞部は解剖が非常にややこしい領域ですが、多発脳神経麻痺の際に必ず考慮しないといけない分野なのでここで改めてまとめます。

頭蓋内の神経が眼窩内へ脱出するためには「視神経管」、「上眼窩裂」、「下眼窩裂」の3つの出口があります。この出口をどのように障害するかによって症候群の名前が変わります(下眼窩裂の障害はまれなのでここでは紹介しません)。

上眼窩裂症候群、眼窩先端症候群、海面静脈洞症候群は解剖学的に近接しており、また原因疾患も共通しているため同じ疾患範疇(Orbital apex disorders)として捉えるべきとされています。例えば上眼窩裂は海綿状脈洞と連続しているため、はじめ海綿状脈洞症候群を呈していても病変が前方に進展すれば上眼窩裂症候群を合併するようになります。なので、ここでも別々に扱うのではなくまとめて紹介します。

各症候群と障害される脳神経の対応関係をまとめると下図の通りになります。

■上眼窩裂症候群 superior orbital fissure syndrome(SOFS)

上眼窩裂は蝶形骨により構成されており、後方は海綿状脈洞と連続していることが特徴(「海綿静脈洞」と「眼窩」の交通路)です。下記の眼窩先端症候群や海綿状脈洞症候群へ病変の伸展により合併しうります。

■眼窩先端症候群 orbital apex syndrome(OAS)

上眼窩裂症候群に「視神経管障害」が加わったものです。

■海綿状脈洞症候群 carnernous sinus syndrome(CSS)

上記2つとやや違う特徴的な点があるため挙げます。
・上記2つと違う点はⅤ2障害交感神経障害(内頚動脈周囲の交感神経・Horner症候群を呈する)がある点です。
・Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、は海綿状脈洞の硬膜内に位置しているのに対して、Ⅵ(外転神経)のみ静脈洞内に位置するため障害を受けやすいです。私も最初Ⅵ障害のみから発症したCCF症例の経験があります(のちにⅢ、Ⅴ、交感神経などの障害が出てきました)。
・海綿状脈洞は左右で交通しているため(intercarvernous sinuses)、片側からはじまり両側性になる場合があります。

臨床で重要なのは「いつこれらの症候群を疑うのか?」ですが、多発脳神経麻痺の場合にかならずどれかの症候群に合致することはないかを検討します。これは多発脳神経麻痺全般に言えることですが、最初から全部の脳神経麻痺がそろうことはまれで、最初は1つの脳神経麻痺だけにみえる場合があります。

このため脳神経麻痺では所見が変化してこないか?新しい脳神経麻痺が合併してこないか?をフォロー・確認することが極めて重要です。最初は外転神経麻痺だけしかないから、外転神経単独麻痺と決めつけてしまうのは危険です(実は他の脳神経麻痺を合併しているのを見逃している or 後から他の脳神経麻痺を合併してくる)。

2:原因

上記上眼窩裂症候群、眼窩裂症候群、海綿状脈洞症候群の原因として下記が挙げられます。

3:画像

眼窩先端部の画像は本当に難しいです。以下にCT画像のaxial, coronal像を載せます。”Optic strut”という構造は私もはじめて勉強しましたが、視神経管と上眼窩裂を隔てる骨構造のことを指しています。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-295.png

重要な疾患の特徴をまとめます。

■眼窩先端アスペルギルス症

眼窩先端部を障害する真菌感染症として最も重要なのが眼窩先端アスペルギルス症です。リスクとして高齢者、糖尿病、ステロイド使用歴などがあります。

視神経T2WI:低信号(アスペルギルス成長に鉄が必要)、DWI:高信号、神経周囲に造影効果もある

下図では右の海綿状脈洞症候群を呈したアスペルギルス症。右内頚動脈のflow voidが消失している。

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Object name is 10.1177_1971400917740361-fig13.jpg

特に腫瘍ごとの特徴をまとめます。

頭頸部癌(特に扁平上皮癌)の神経周囲浸潤

・T1WI:拡張・腫大した神経(通過部での)、周囲筋肉の高信号(脱神経による筋肉の脂肪置換)
・T2WI:メッケル腔CSFのT2WI高信号が低信号(腫瘍により置換)
・障害された神経の異常造影効果

リンパ腫

・眼窩(B細胞、MALT type多い)
・T1WI:iso-hypo, T2WI:iso-hypo、拡散制限あり、びまん性造影効果(治療後は壊死部分あり)

髄膜腫

・頭蓋底から侵入>原発性視神経鞘腫
・CT:75%:高吸収、25%:一部石灰化、T1WI:iso-hypo, T2WI:iso-hypo、均一な増強効果

Schwannoma(三叉神経由来が多い)

・頭蓋底骨びらん、神経孔拡大
・T1WI:iso-hypo1, T2WI:hyper
・嚢胞形成が多い(眼窩先端部ではコーン型、上眼窩裂部ではダンベル型)

参考文献
・Eye and Brain 2019:11 63 – 72 orbital apex syndromeのreviewで素晴らしいです。
・Neuroradiol J.2018 Apr; 31(2): 104–125 orbital apex syndromeの画像に関してのまとめ