“Safety and efficacy of adjunct dexamethasone in adults with herpes simplex virus encephalitis in the UK (DexEnceph): a multicentre, observer-blind, randomised, phase 3, controlled trial” Lancet Neurol 2026; 25: 136–46.
・本試験は単純ヘルペス脳炎にステロイド併用の有用性を検討した世界で初めての”完了した”RCTである
・GACHE試験(German trial of Aciclovir and Corticosteroids in Herpes-simplex-virus-Encephalitis)は過去に実施されていたが患者の登録が難航したため(入院から登録までわずか5日間しか許容されず、巣症状のある患者に限定)試験は早期中止された経緯がある。
Design:multicentre, randomised, observer-blind trial
| PICO | 内容 |
|---|---|
| P: Population | 単純ヘルペス脳炎(HSV脳炎)の16歳以上患者(計94名、英国の53病院) ・発熱、発作、神経巣症状、意識・認知・行動の変化などを伴う「脳炎疑い」があり、髄液PCR検査でHSV-1またはHSV-2が陽性となった患者 *PCRの方法(real time, multiplex)については言及なし ・除外基準:過去30日以内のステロイド使用(局所・吸入除く)、免疫抑制状態など |
| I: Intervention | デキサメタゾン追加療法(アシクロビルに併用) 10 mg/kg 1日4回、4日間投与 開始時期は最初の腰椎穿刺から7日以内に無作為化し、無作為化から24時間以内に投与(実際の中央値は入院7日目、全範囲1~21日、四分位範囲 4~8日)。 |
| C: Comparison | 標準治療単独 アシクロビル(10 mg/kg、1日3回)を少なくとも14日間静脈内投与 プラセボは使用しない(評価者盲検)。 |
| O: Outcome | 主要評価項目:26週時点の言語性記憶スコア ウェクスラー記憶検査(WMS-IV)の聴覚性記憶指標で評価 **副次評価項目:**安全性(有害事象、2週時点での髄液中HSV検出)、その他の認知機能、機能的転帰(mRS等)、画像所見 |
結果:全ての項目において有意差なし
臨床意義
・ステロイドの有用性は示せず
・ただ裏返すとデキサメタゾンがHSV脳炎に対して無害であり、ウイルスの増殖を悪化させなかった点は重要
⇒つまり脳炎疑いの患者において自己免疫性かどうかわかる前の段階から早期にステロイドを投与しても安全である可能性がある(現状はHSVの結果が出るまではステロイド投与を控えることが多い)
Limitation
・ステロイド投与が遅い:中央値7日、最大21日 このため炎症のピークを過ぎている可能性
・プロトコル逸脱:ステロイド投与をコントロール群で受けた患者がいる(無作為化前に細菌性髄膜炎疑いでステロイド投与 17%, 無作為化後に医師判断でステロイド投与 9%) など
管理人の見解
・本文中のLimitationでも指摘されているが、ステロイド投与のタイミングは遅い印象がある。遅すぎると炎症のピークを越えており効果が得られない可能性があるため、早期投与の場合効果があるかどうか?
・「脳炎」の初期アプローチとしてステロイドを躊躇なく使用する根拠になりうるが、一般的に脳炎で使用するmPSL pulse療法 1g/日でどうであるか?はわからない。ただ管理人は元々脳炎を疑う例ではHSVの結果がわからずとも臨床像から蓋然性が低い場合はかなり積極的に超早期からのステロイドパルス療法をしていた(血漿交換療法も)。
患者背景
| 項目 | デキサメタゾン群 n=47 | コントロール群 n=47 |
|---|---|---|
| 平均年齢, 歳 (SD) | 64 (13) | 67 (15) |
| 性別 | ||
| 女性 | 20 (43%) | 24 (51%) |
| 男性 | 27 (57%) | 23 (49%) |
| 層別化因子 | ||
| 年齢カテゴリー (65歳以上) | 25 (53%) | 28 (60%) |
| GCSスコア 8以下 | 8 (17%) | 9 (19%) |
| 入院以降のステロイド使用あり | 7 (15%) | 8 (17%) |
| アシクロビル投与の遅れ (3日以上) | 8 (17%) | 7 (15%) |
| 臨床的因子 | ||
| 入院から無作為化までの日数, 中央値 (IQR) | 7 (5–10) | 8 (6–11) |
| 無作為化日にITUまたはHDUに入室中 | 11 (23%) | 12 (26%) |
| 無作為化日に人工呼吸器管理中 | 7 (15%) | 9 (19%) |
| 髄液(CSF) PCR結果 | ||
| HSV-1 陽性 | 41 (87%) | 47 (100%) |
| HSV-1 陰性 | 6 (13%) | 0 |
| HSV-2 陽性 † | 6 (13%) | 0 |
| HSV-2 陰性 | 41 (87%) | 47 (100%) |
| 症状 | ||
| 発熱 (>37.5°C) | 38 (81%) | 43 (91%) |
| 頭痛 ‡ | 26 (68%) | 28 (67%) |
| 発作 (Seizures) § | 20 (47%) | 23 (51%) |
| 羞明 (光をまぶしがる) | 8 (31%) | 8 (32%) |
| 項部硬直または髄膜刺激徴候 | 8 (25%) | 3 (14%) |
| 失語症 (Dysphasia) | 17 (55%) | 21 (62%) |