薬剤選択

・どの薬剤がより優れているというデータはない。
・実臨床ではレベチラセタムまたはホスフェニトインを使用する。フェノバルビタールを使用することは管理人はない。
・レベチラセタムは重積量(3000mg)を投与することが重要(なんとなく1000mg投与とかにしない)。循環動態に影響を与えず、薬剤相互作用もないため投与しやすい。
・ホスフェニトインは血圧低下や房室ブロックになることが高齢者ではよくあるので、モニタリング新調に行う必要がある。また薬剤相互作用が多い点にも注意が必要。
・ラコサミドは今後てんかん重積における推奨度が上がる可能性がある。
| 項目 | レベチラセタム | ホスフェニトイン |
|---|---|---|
| 投与量 | 3000mg | Loading 22.5mg/kg |
| 副作用 | なし *長期は精神副作用 | 徐脈・血圧低下 |
| 相互作用 | なし | 多数あり |
| 注意点 | 中途半端な 投与量にしない | 高齢者では要注意 循環をモニターしながら投与 背景疾患や薬剤をよく確認 |
臨床試験
RCT
ESETT trial“Randomized Trial of Three Anticonvulsant Medications for Status Epilepticus” N Engl J Med 2019;381:2103-13.
・目的とデザイン:てんかん重積での2nd line therapyのレベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸(日本にはバルプロ酸静注薬はない)の治療成功における優越性 superiority または劣等性 inferiorityを検討するランダム化臨床試験
⇒中間解析の結果、試験を最大数まで継続したとしても、いずれかの薬剤が他よりも優れている、あるいは劣っていると特定できる確率は1%未満であると判断され早期終了
・ベンゾジアゼピン抵抗性の基準
①前提条件ベンゾジアゼピン累積投与量 ジアゼパム10mg, ロラゼパム4mg, ミダゾラム10mg
②最後のベンゾジアゼピン投与から5分以上経過しても、けいれんが持続または再発している
・薬剤投与量(下表)
・プロトコルからの逸脱 27%:内訳①事前に投与されたベンゾジアゼピンの量が不十分だったケース(26名、②投与のタイミングが早すぎた、あるいは遅すぎたケース(50名)
| 薬剤名 | 体重あたりの投与量 | 最大投与量 |
|---|---|---|
| レベチラセタム | 60 mg/kg | 4,500 mg |
| ホスフェニトイン | 20 mgPE/kg | 1,500 mgPE |
| バルプロ酸 | 40 mg/kg | 3,000 mg |
・主要評価項目:60分以内の発作消失かつ意識状態の改善
⇒失敗基準①臨床的にけいれんなどが消失していない、または②意識状態が改善していない(刺激に対する合目的な半報、指示理解、発語のいずれも認めない)
⇒これらの評価に脳波検査は含まれておらず医師による臨床観察で判断
・結論:3つの薬剤における有意差はなし
| 評価項目 | レベチラセタム | ホスフェニトイン | バルプロ酸 |
|---|---|---|---|
| 主要評価項目の達成率 (60分以内の発作消失と意識改善) | 47%(68/145人) | 45%(53/118人) | 46%(56/121人) |
| 最も効果的である事後確率 | 0.41 | 0.24 | 0.35 |
| 安全性:生命を脅かす低血圧 | 0.7% (1人) | 3.2% (4人) | 1.6% (2人) |
| 安全性:気管挿管 (60分以内) | 20.0% (30人) | 26.4% (33人) | 16.8% (21人) |
| 安全性:死亡 | 4.7% (7人) | 2.4% (3人) | 1.6% (2人) |
| 発作消失までの時間 (中央値) | 10.5分 | 11.7分 | 7.0分 |
| 急性発作再発 (60分〜12時間) | 10.7% | 11.2% | 11.2% |
| ICU(集中治療室)入院率 | 60.0% | 59.3% | 58.7% |
患者背景 384例
・平均32-33歳(1-94歳) 年齢内訳 -18歳 39%, 18-65歳 48%, 65歳- 13%
・てんかん既往 68%
・最終診断:てんかん重積状態 86%, PNES 10%
・発作持続時間:約60分
limitation
1. 診断と評価に関する限界
• 心因性発作の混入: 登録された患者の10%が心因性非てんかん性発作(PNES)
• 脳波(EEG)による確認の欠如: 主要評価項目である発作消失の判定は、脳波ではなく**臨床的な観察(視覚的な判断)**に基づいて行われた。
• 意識障害の原因特定が困難: 臨床的なけいれんは止まったものの、60分時点で意識が改善しなかった患者が52名(治療全体の25%)いました。脳波がないためNCSEかどうか薬剤過鎮静か区別困難
2. 薬剤の投与量と盲検化に関する限界
• 用量設定: 薬剤の用量は公表されている知見に基づいて設定されたが、異なる用量であれば異なる有効性や安全性が示された可能性がある。
• ホスフェニトインの用量不足の可能性: ホスフェニトインは注入速度に制限があるため、最大用量が1500mgPEに抑えられました。これにより、体重75kg以上の患者にとっては投与量が不十分であった可能性。
• 盲検化の解除: 継続する発作に対して次の薬剤を選択する必要がある場合など、一部の症例で盲検化を解除(アンブライディング)する必要がありました。
3. データ収集とプロトコル遵守に関する限界
• 副作用データの不足: 登録から24時間以降の軽微な副作用(発疹や一過性の肝酵素上昇など)についてはデータが収集されていないため、遅発性の有害事象を見逃している可能性があります。
• プロトコルからの逸脱: 救急現場での緊急実施であったため、事前のベンゾジアゼピン投与量やタイミングが基準に合致しないなどの適格性の逸脱が比較的高い割合(27%)で発生しました。ただし、これを除外した解析でも主要解析と同様の結果が得られています。
コホート研究
“Comparison of lacosamide, levetiracetam, and valproate as second-line therapy in adult status epilepticus: Analysis of a large cohort” Epilepsia. 2025;66:e73–e77.
・方法:2013年1月から2022年12月までの10年間に、スイスの大学病院(CHUV)のレジストリに登録された成人SE症例961エピソードを分析
・比較対象:レベチラセタム(413件)、バルプロ酸(110件)、**ラコサミド(75件)の3剤
・評価項目:発作の終息率、人工呼吸器管理の必要性、退院時の臨床転帰(元の状態への回復、新たな障害、死亡)
⇒多変量解析の結果いずれも統計的に有意差は認めない結果
| 評価項目 | ラコサミド control | レベチラセタム OR(95%CI) | バルプロ酸 (95% CI) | モデル適合度 (p値) |
|---|---|---|---|---|
| 1st line, 2nd line therapyに抵抗性のSE | 1 | 1.22 (0.67–1.87) | 1.15 (0.63–2.08) | 0.294 |
| 人工呼吸器管理の必要性 | 1 | 0.85 (0.45–1.58) | 0.67 (0.31–1.41) | 0.208 |
| 機能状態のベースライン復帰 | 1 | 1.21 (0.71–2.10) | 1.07 (0.57–2.01) | 0.276 |
患者背景の比較
| 項目 | ラコサミド (n=75) | レベチラセタム (n=413) | バルプロ酸 (n=110) | p値 |
|---|---|---|---|---|
| 女性 (%) | 33 (44.0%) | 191 (46.2%) | 41 (37.2%) | .243 |
| 平均体重 (kg) | 73.3 | 70.9 | 70.4 | .088 |
| STESSスコア (中央値) | 2 | 3 | 2 | <.001 |
| 平均年齢 (歳) | 66.1 | 65.3 | 60.7 | .011 |
| 急性症候性発作 | 53.3% | 52.1% | 49.1% | |
| 初めてのてんかん発作 (%) | 42 (38.2%) | 169 (40.9%) | 67 (60.1%) | <.001 |
| 発作型:全般性強直間代発作 (GTC) (%) | 19 (25.3%) | 196 (47.5%) | 38 (34.5%) | <.001 |
| 治療前の昏迷・昏睡 (%) | 42 (56.0%) | 169 (40.9%) | 67 (60.9%) | <.001 |
| 致死的原因の可能性 (%) | 40 (53.3%) | 215 (52.1%) | 54 (49.1%) | .859 |
| 初期・第二選択治療の適切さ | 20 (26.7%) | 188 (45.5%) | 47 (42.7%) | .010 |
| 1時間以上の治療遅延 | 64 (85.3%) | 254 (61.5%) | 75 (68.1%) | <.001 |
| 平均負荷投与量 (mg) | 473 | 2186 | 1769 | – |
| 体重あたり平均投与量 (mg/kg) | 6.5 | 30.8 | 25.1 | – |
• 重症度の違い: てんかん重積状態の重症度スコアであるSTESSは、レベチラセタム群で有意に高く、より重症な症例に使用される傾向がありました。
• 治療の質とタイミング: ラコサミド群では、他の薬剤と比較して治療の遅れ(1時間以上)が多く(85.3%)、また初期治療および第二選択治療が「不適切」と判断される割合が高い(適切さが26.7%のみ)という特徴がありました。
• 発作の性質: バルプロ酸群では、今回が初めてのてんかん発作である割合が高く(60.1%)、一方でラコサミド群は治療前に昏迷や昏睡状態にある割合が高い(56.0%)傾向にありました。
• 投与設計: ラコサミドの平均投与量は6.5 mg/kgであり、治療の適切性の基準として設定された5 mg/kgを上回っていました。
⇒本研究ではラコサミドが2nd line therapyとして同等である可能性について提言