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てんかん重積 1st line therapy

まず「ABC」の確認をしてからの議論です。「ABC⇒Diazepam」で、いきなりDからスタートしてはいけません。VFでけいれんしている患者にジアゼパムを投与してはいけません。

薬剤の前に、、、てんかん重積管理で最も重要なことは何か?

てんかん重積の管理で最も重要なのは何でしょうか?

最も重要なのは「原疾患の治療」です。例えば脳炎に伴っててんかん重積を生じている場合は、脳炎の治療が最も重要です。脳炎が落ち着かない限りASM(anti-seizure medication)は焼け石に水であり、Seizureのコントロールはつきません。

てんかん重積は病名ではなく、病態です。ARDSには必ず原因があるように、てんかん重積にも原疾患があります(脳血管障害、外傷性脳損傷、脳炎、中毒など)。ここに介入しない限りいくらベンゾジアゼピンで鎮静をかけても根本的な解決に至りません。しばしば木を見て森を見ずの議論になりがちなのでここを強調します。

そのことを充分わかった上でのてんかん重積の薬物治療です。

1st line therapyで最も重要なことは何か?

さて、てんかん重積の薬物治療はある程度勉強すると 2nd line therapyをどうするか? 3rd line therapyをどの順番でするか?という議論になりがちですが、実臨床では「そもそも1st line therapyを充分に理解して、きちんと投与できているか?」が気になります。そんな古典的な議論もういいだろ・・・と思われるかもしれないですが、改めて考えます。

こちらでも記載しましたが、てんかん重積は持続するとGABA受容体のinternalizationによる発現低下や、NMDA, AMPA受容体など興奮系neuron transmitter受容体の発現亢進によりてんかん重積の自然頓挫機構が破綻し、持続しやすくなります(ここがtime point 1 = t1)。

つまり時間が過ぎるとGABA受容体は減少しベンゾジアゼピンは効きづらくなります(ベンゾジアゼピン抵抗性)。このようにベンゾジアゼピンは”therapeutic window”があり、早期に充分量投与することが必要です。

薬剤(ベンゾジアゼピン系薬剤)

作用点:GABA受容体⇒Cl-が細胞膜外・内の濃度勾配に従い細胞内に流入する⇒過分極状態になる

下図引用元:N Engl J Med 2017;376:1147-57.

項目ジアゼパムロラゼパムミダゾラム
商品名セルシン®ロラピタ®ドルミカム®
製剤10mg/2mL2mg/1mL
*冷所保存が必要
10mg/2mL
組成原液で使用
(生理食塩水、ぶどう糖液で 混濁するため希釈不可)
1mg/mLに希釈して使用ミダゾラム1A + 生理食塩水8ml →10mg/10mLとして使用
*筋注の場合は原液を使用
筋注×〇 10mg 筋注
(静脈路確保困難な場合)
静注
推奨投与量0.15~0.2mg/kg 静注
(最大投与量10mg/回)
必要に応じて1回繰り返し投与可能
4mg静注
(0.1mg/kg, 4mg最大)
必要に応じて1回繰り返し投与可能
0.2mg/kg静注
0.05-0.4mg/kg/hr 持続静注
具体的な 使用法5-10mg 静注(2分以上かけて投与)
無効の場合5-10分後に追加可能
4mg静注5-15mg 静注
2.5-20mg/hr 持続静注

投与原則:1回で最大投与量 single full dose をできるだけ早く行う
⇒ジアゼパムとロラゼパムは1回に限り繰り返し投与してもよい
・発作開始5分から開始し、20分までには効果判定を終えて止まらない場合は2nd line therapyへ移行する必要がある
参考:”Evidence-Based Guideline: Treatment of Convulsive Status Epilepticus in Children and Adults: Report of the Guideline Committee of the American Epilepsy Society” Epilepsy Curr. 2016 Jan-Feb;16(1):48-61. 

・ジアゼパム:抗てんかん発作作用持続時間 約20分(単回投与)⇒再発が多い 半減期は長いがジアゼパムは脂溶性が非常に高く、投与後すぐに脳から末梢の脂肪組織へ再分布してしまうため作用時間は短い

・ロラゼパム:抗てんかん発作作用持続時間 6時間以上

文献:Anticonvulsant therapy for status epilepticus. Br J Clin Pharmacol. 2007 Jun;63(6):640-7.

なぜ投与量を躊躇するのか?

呼吸抑制を懸念して不十分な投与量が多い Epilepsia. 2021; 62(3): 795–806.

•BZD非投与群(てんかん重積コントロール不良)の方がBZD投与群よりも呼吸不全が多い N Engl J Med 2001; 345:631-7.(後述の臨床試験)
薬剤自体の呼吸抑制効果よりも発作コントロール不全による呼吸不全の方が問題であることを示唆している

・病態生理のところで解説した通り、時間が経過するとGABA受容体は発現が低下するためベンゾジアゼピン系薬剤の効果が減弱する
早期に投与することの重要性

ベンゾジアゼピン抵抗性について

発作持続時間が長くなるほどベンゾジアゼピン抵抗性になる病態

①GABA-A受容体のシナプスでの発現低下(internalization, trafficking)
②KCC2チャネル発現低下

②に関して ”Excitatory GABAergic signalling is associated with benzodiazepine resistance in status epilepticus” BRAIN 2019: 142; 3482–3501
・KCC2(potassium-chloride cotransporter 2)は神経細胞の細胞膜に存在し、K+, Cl-を細胞外へ排出する機序を有する(結果、細胞内Cl-濃度を低く保つ)
・GABA受容体はATP依存性ではないCl-チャネルであり、細胞内・外の濃度勾配によって流入・排出が決まる
・てんかん重積状態でKCC2の発現が低下するとCl-濃度は細胞内<外なので、GABA受容体をCl-が収入して細胞内電位が低下し過分極になる
・一方でKCC2が正常に機能していないとCl-濃度が細胞内>外となり、GABA受容体を作動するとCl-が細胞外へ流出し逆説的に脱分極になる(in vitroの実験モデルでは発作後期にベンゾジアゼピンを投与するとむしろてんかん性放電を悪化させる結果もあり)
⇒ベンゾジアゼピン抵抗性の原因となりうる

臨床データ

小児てんかん重積状態:発作持続時間が61分(約1時間)が閾値となりベンゾジアゼピン反応性が変化する
ベンゾジアゼピン反応性 発作開始1時間以内の治療開始 67%,1時間以降の治療 18% BRAIN 2019: 142; 3482–3501(KCC2と同じ文献)

“Early and established status epilepticus: The impact of timing of intervention, treatment escalation and dosing on outcome” Seizure: European Journal of Epilepsy 2023; 111: 98–102.

・ベンゾジアゼピンによるてんかん重積頓挫は71.6%, 投与までの時間は中央値14.5分
・発症からベンゾジアゼピン投与までの時間が短い:発作停止率、2nd/3rd line治療への移行リスク低下、呼吸合併症のリスク低下に相関関係あり
投与量不適切 37.1% 発作停止までの時間:投与量適切 18分、不適切 39分
・投与回数:2-3回投与 74.2% 多くが複数回の投与を受けていた結果である
・2nd line治療 全体の 28.4%(内訳 LEV 53.8%, fPHT 43.6%)によるてんかん重積頓挫は57.5%
・3rd lline治療 全体の12.1%,3rd line治療までの時間は60.6分
呼吸器合併症 6.75%:原因内訳てんかん重積持続 64.7%, アルコール過剰 23.5%, 薬剤中毒 11.8% *ベンゾジアゼピン薬剤による呼吸不全は報告なし

早期かつ適切な投与量のベンゾジアゼピンが発作停止のために必要不可欠である
②呼吸器合併症はベンゾジアゼピンの副作用ではなく、発作持続により生じる合併症である

“Patterns of Benzodiazepine Underdosing in the Established Status Epilepticus Treatment Trial” Epilepsia. 2021 March ; 62(3): 795–806.

・てんかん重積の2nd line治療を検討したESETT trial(こちら)での1st line therapyの検討
・ベンゾジアゼピン初回投与:ガイドライン推奨量よりも少ない ミダゾラム76%, ロラゼパム 81%
・薬剤別:ジアゼパムは85.9%が推奨量を満たしたが小児への直腸投与経路のパッケージが普及している影響
・年齢:特に成人は小児よりも過小投与が多い傾向

臨床試験

“A COMPARISON OF LORAZEPAM, DIAZEPAM, AND PLACEBO FOR THE TREATMENT OF OUT-OF-HOSPITAL STATUS EPILEPTICUS” N Engl J Med 2001; 345:631-7.

・病院外(救急搬送中)のてんかん重積状態に対して救急救命士によるベンゾジアゼピン系薬剤投与の有用性・副作用リスクの検討
・対象:痙攣性てんかん重積 5分以上持続または意識改善しない発作繰り返す
・ロラゼパム2mg vs ジアゼパム5mg vs placebo *必要あれば2回目投与
・評価項目:病院到着時までに発作が頓挫しているかどうか?
・結果

評価項目ロラゼパムジアゼパムプラセボ
対象患者数66名68名71名
発作の停止率 (病院到着時)59.1%42.6%21.1%
病院外での合併症率 (呼吸・循環器系)10.6%10.3%22.5%
呼吸器への介入 (バッグバルブマスク・挿管)7名6名11名
退院時の死亡率7.7% (5名)4.5% (3名)15.7% (11名)

Stage 1 plus

てんかん重積10分以上”Stage 1 plus”という概念 “Status epilepticus: Is there a Stage 1 plus?” Epilepsia. 2024;65:1560–1567.

・ベンゾジアゼピンでSEが頓挫するのは約2/3
・現行のStepwise approachではベンゾジアゼピンが効果ない場合にはじめて2nd line therapyをすることになっている
・SE持続時間が10分を超えた段階でベンゾジアゼピン抵抗性の観点から、ベンゾジアゼピンの失敗を待つのではなく、最初から相乗効果を狙った同時併用治療を導入すべきではないか?という提言
・Stage 1とStage 2の中間としての“Stage 1 plus”という概念を提案(ここではてんかん重積持続10分と定義している)


・同時併用療法の適応として検討される病態:①10分以上持続するてんかん重積、②NCSE(発見時にはすでに時間が経過していることが多いため診断が遅れて)、③急性症候性発作によるてんかん重積(急性脳損傷によるSEはベンゾジアゼピン反応性が悪いことが多いため)
・この文献でのレジメンの提案:①ベンゾジアゼピン+バルプロ酸、②ベンゾジアゼピン+NMDA受容体拮抗薬(またはAMPA受容体拮抗薬)
・ただ臨床試験でこれらの有用性が証明された訳ではないので今後の検討が必要

動物モデルでの検証 “Simultaneous triple therapy for the treatment of status epilepticus” Neurobiology of Disease 2017; 104.41–49.

・”ミダゾラム+ケタミン+バルプロ酸”の同時併用療法が有用であった
・最初から同時に併用するのではなく、順次追加(30分間隔)していく方法では効果が失われた点に着目⇒つまりsynergy effectの可能性