私にとって2025年は医師になってから最も臨床力の成長曲線の鈍化を痛感した1年でした。
日々真面目に臨床に取り組んでいるつもりではありますが、臨床の視座が固定化し、独りよがりのパターン化した診療になってしまい、いくら論文を読んで勉強していても診療が停滞してしまいました。外来でもしばしば「これ以上自分の力ではわからない」という例が多く、力不足を痛感しました。また実際に誤診例もありました。irAEによるミオパチーと当初判断したがフォローで運動ニューロン疾患と診断を変更した症例、機能性神経障害かと思ったが大学病院へ紹介して結合組織病疑いとなった症例など。
またこれはどうしようもないところではありますが、診療している疾患層の幅が固定化し狭まっていることも私の弱点です。私が勤務している病院は血液内科がなく悪性疾患も全体的に少ないため、血液内科関連や腫瘍関連の合併症(特に傍腫瘍性神経症候群、irAE)をほとんど診療しません。このためこうした領域の複雑で難しい症例は経験が減っています。神経学会関東地方会に参加すると大学病院などからこうした症例が多く提示されており(正直全くしらない病態もよく目にする)、自分の知識経験不足を痛感します。
自分が成長していないことに自分自身で気づくことがこれほどまでに悲しいことだとは思いませんでした。臨床医をしていると最初の数年は日々新しいことに出会いどんどん知識を吸収して成長していくことを実感できると思いますが、どうしてもどこかでも成長曲線の鈍化にさしかかると思います。私にとっては今年が特にその閉塞感に苛まれた1年でした。
時間の使い方もなかなかうまくいきませんでした。Neurologist常勤医1人のため、常に各領域(免疫、血管障害、認知症、頭痛など)の最新エビデンスを自ら把握する必要がありますが、情けない話ですが情報のキャッチアップが追い付きませんでした。ただそうしたNeurology領域の最新情報は自分が知らないと病院内では誰も知らないので、そのプレッシャーを感じながら勉強していました。常に背後から誰かに追われているような感覚で、勉強していない時間を罪に感じるような心理状態になることが多かったです。
じゃあどうすればよいのか?と問われるといまだに活路を見いだせていません。評価基準を他者においている限り物事は解決しないので、今一度「自分が何をしたいのか?できるのか?」という価値観を問い直す必要があると感じています。
その意味では若手の先生方を指導してその成長を感じることができることは非常に嬉しいことでした。2025年から総合内科専攻医の先生が神経内科単科ローテートをできるようにし、3人の先生がローテートしてくれましたがどの先生も非常に成長してくれました。病歴聴取と基本的な神経所見に関しては非専門医としてはトップレベルと思い、誇らしいです。
テニスのコーチやプロ野球の監督などは現役時代プレイヤーとしてそこまで活躍していなかったけれど指導者として花開くケースがしばしばあります。ただ医師は常に現役なので、そのパターンはありません。むしろ自分自身が常に成長している姿を若い人に見せることが最も教育上有益なのではないかと思います。この意味では教育と自分自身の臨床力は不可分であり、臨床力がないことの言い訳としての教育にならないようにしないといけません。
忙しいからといって手を抜いたり、やめたりするわけにはいかない。もし忙しいからというだけで走るのをやめたら、間違いなく一生走れなくなってしまう。走り続けるための理由はほんの少ししかないけれど、走るのをやめるための理由なら大型トラックいっぱいぶんはあるからだ。僕らにできるのは、その「ほんの少しの理由」をひとつひとつ大事に磨き続けることだけだ。暇をみつけては、せっせとくまなく磨き続けること。
昨日の自分をわずかでも乗り越えていくこと、それがなにより重要なのだ。長距離において勝つべき相手がいるとすればそれは過去の自分自身なのだから。
「走ることについて語るときに僕の語ること」著:村上春樹 より
私はしばしば論理的とはなんだろう?と考えます。自分なりに今年感じたのは「論理的とは、自分にとって都合よく解釈する弱さではなく、あるべき道を外さずに足を前に進める力である」ということです。この力を今一度磨きたいというのが2026年の抱負です。
私が勤務する東京ベイで病棟管理をしてくださる総合内科の先生方、救急対応をしてくださる救急科の先生方、重症患者を診てくださる集中治療科の先生方、また血管障害を中心に日々快く助けてくださる脳外科の先生方、看護師さん、リハビリスタッフ、事務の方々などには感謝しかありません。大変ありがとうございました。
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写真はダミアン・ハースト「桜」