原理
・前庭動眼反射(Vestibulo-ocular reflex: VOR)を調べている。
・求心路=前庭神経Ⅷ,脳幹反射中枢=橋(前庭神経核),遠心路=動眼神経Ⅲ,外転神経Ⅵ
・頭部回旋方向の前庭神経が刺激され,眼を対側に向ける遠心性の作用
・異常:上記反射経路に異常がある場合
⇒脳幹内の前庭神経核(または前庭神経の脳幹内走行部位)を含む病変の場合も異常になる点に注意(”末梢性”という言葉ではこの脳幹内を意識できていない場合があるため)
“head impulse test”の診察方法
・評価方法:被検者に1点(検者の鼻など)を注視してもらい,頭部回旋の角度は10-20°程度に、素早く(100-300°/sec)、受動的に頭部を水平方向へ回旋させる
・回旋した位置から正面に戻す方法でも良い(こちらの方が筋緊張が抜けやすいことと、まわす角度が最初から決まっているので振りやすい利点あり)
・注意点:大きく振りすぎると視線が外れてしまうので評価できない、回旋速度が遅すぎると反射が十分誘発されない(この間違いが最も多い)
⇒ポイントは”コンパクトに素早く!”
・異常所見:目線が頭部回旋方向に外れて、その後視線が遅れて元の位置に戻る(”corrective saccade”を認める)
*参考:頭部回旋時に肉眼診察では評価困難な“covert saccade”を生じ,頭位変換後に評価可能な“overt saccade”を生じる(通常のHITでは後者を評価している)
どうすればHITを習得・教育できるのか?
“Quantifying a Learning Curve for Video Head Impulse Test: Pitfalls and Pearls” Korda A, Sauter TC, Caversaccio MD, Mantokoudis G. Quantifying a Learning Curve for Video Head Impulse Test: Pitfalls and Pearls. Front Neurol. 2021 Jan 22;11:615651.
・初学者(ここでは医学生を対象)がHITを習得するには約160-180回の試行が必要(ここではvideo HIT) 下グラフは横軸が試行回数、縦軸が習得率
・ビデオ学習のみでは不十分であり、指導医によるフィードバックが必要(フィードバックがあれば短時間で習得可能)
・間違いの内訳:加速度不足 23%(最多・適切な反射を誘発するためには急激な加速が必要)、頭部の動きが大きすぎる 12%、ゴーグルに触れる 9%, オーバーシュート(きちんと頭部をピタっと止める) 8%
⇒ここでは初学者は速く動かそうとするために頭部を大きく動かしすぎることが指摘されている
・加速度について考察部分での記載:加速度(2,000 deg/s²以上)が必要
⇒理由①内リンパ液の慣性を打ち破る必要がある(ゆっくりした動きでは液体が動かない)、②ゆっくりだと視覚補正が入る(滑動性眼球運動)ことで正常にみえてしまう(これらが反応できないほどの速さが必要)、③低加速度だと反対側の耳からの対称性の刺激が生じることがある(純粋に患側を調べられていない可能性がある)、④corrective saccadeが大きくなる

実際のところどのくらいわかるのか?
“How Good Are We in Evaluating a Bedside Head Impulse Test?” Ear & Hearing 2020;41;1747–1751.
・最初に目視のHITを実施し、後述のvideo HITで確認する方法により目視のHITの検査特性を調べた研究(評価者は神経耳科医1人である点に注意)
・感度21%, 特異度100%
・検出に最も影響を与える要因:corrective saccadeの振幅(1°振幅が大きくなると,検出できる確率は約2倍になる) *VORの潜時の影響は軽微である
⇒より”大きく”かつ”素早く”頭部回旋をすることを推奨している(より大きなcorrective saccadeを検出するために)
⇒具体的な方法として「正面から横」ではなく「横から正面」に頭部を回旋させる方法(前述)を推奨している
video HITについて
“The video head impulse test Diagnostic accuracy in peripheral vestibulopathy” Neurology 2009;73:1134 –1141.
・通常のHITの問題点 1:客観的な測定ができない、2:検者のやり方(速度など)が異なる、3:”covert saccade”が評価できない(”overt saccade”のみでは見逃す可能性がある)
・これまでゴールドスタンダートで”scleral search coil法”という手法であるがこれは急性期に現実的ではないため、”video HIT”がどうか?を検証した文献
・結論:video HITはsearch coil法と同等の効果を有する
“head impulse test”に関する文献
最初の報告
Halmagyi GM, Curthoys IS. A clinical sign of canal paresis. Arch Neurol 1988;45:737–739.
head impuse testで中枢性 vs 末梢性を区別できるか?の検討
“Normal head impulse test differentiates acute cerebellar strokes from vestibular neuritis” Neurology® 2008;70:2378–2385
AVS43人の内訳:末梢性8人、脳幹または小脳脳卒中35人
HIT陽性(異常):末梢性100%, 中枢性9%
⇒中枢性でHIT陽性の症例は小脳下部,橋小脳,迷路領域の梗塞
まとめ
1:HITが陽性(異常)により末梢性と断定することはできない(神経解剖からは当たり前の結論ではある)
2:HITが陰性(正常)は中枢性病変を強く示唆する
ERで非専門医が行うHITの検査特性はどうなのか?
“Usability of the head impulse test in routine clinical practice in the emergency department to differentiate vestibular neuritis from stroke” Eur J Neurol. 2021;28:1737–1744.
・前庭神経炎の検出感度 88%, 特異度(脳梗塞除外) 64%
・脳梗塞の36%でHITにより末梢性パターンと認識されてしまっている(中枢性を除外できていない)
・またHITの結果が治療方針に反映されておらず、実際には前庭神経炎患者の58%が脳卒中ユニットに入院している(これはHITの結果とは関係なく恣意的)
・video HITの場合は感度67%, 特異度100%であるため、ERではvideo HITを推奨するという結論
HITのトレーニングによる感度特異度の差はあるか?
“Accuracy of the bedside head impulse test in detecting vestibular hypofunction” J Neurol Neurosurg Psychiatry 2007;78:1113–1118.
・bHITの検査特性を定量的(quantitative)HIT(qHIT)の結果と比較し,HITのトレーニングを積んだ医療者(6か月以上 n=12)と積んでいない医療者(n=45)などで比較検討
・結果:全体感度69.9%, 特異度 67.05%
・経験を積んだExpertの方が感度は低く、特異度が高い
| グループ | 感度 | 特異度 | 統計 |
|---|---|---|---|
| Expert | 63.3% | 77.8% | 感度はnon-Expertより有意に低い(p=0.044) |
| non-Expert | 71.7% | 64.2% | 特異度はExpertより有意に低い(p=0.011) |
考察での記載(本研究の趣旨とすこしずれるが重要である):カロリック検査とhead impulse testの違いについて
・周波数:HIT(高周波数)最大5Hz, カロリック検査(低周波数) 0.003Hz刺激 Halmagyi GM, Curthoys IS, Cremer PD, et al. The human horizontal vestibuloocular reflex in response to high-acceleration stimulation before and after unilateral vestibular neurectomy. Exp Brain Res 1990;81:479–90.
・中枢性代償:末梢前庭機能低下に対する中枢性代償機構は周波数依存的
⇒低周波数(カロリック検査)は高周波数(HIT)に対して不完全であることが多い
⇒前庭神経炎後の慢性期はカロリック検査は正常になるが、HITは機能低下が遷延する
・ここでの主張は、カロリック検査と比較するとbHITの感度は過小評価され、臨床的有用性が不当に低く評価されてしまう(過去の研究での問題点として指摘されている)
*bHITはカロリック検査と比較して感度34%, 特異度100%からカロリック検査に代わるものではないとする報告 Beynon GJ, Jani P, Baguley DM. A clinical evaluation of head impulse testing. Clin Otolaryngol 1998;23:117–22.
・カロリック検査とhead impulse testは相補的な役割であると主張(カロリック検査の意義が弱いという意味ではなく)
小脳梗塞側からの視点
“Cerebellar infarction presenting isolated vertigo Frequency and vascular topographical patterns” NEUROLOGY 2006;67:1178–1183
・小脳梗塞(病変は小脳に限定され、脳幹部などに病変がある症例は除外されている点に注意)連続240例の検討⇒pseudo vestibular neuritisは全体の10.4%(n=25)
・pseudo vestibular neuritisの定義:(1) 急性で持続性の自発性めまい(24時間以上)、眼振、および体幹失調を呈するが、他の神経学的症状がない。(2) 神経学的診察で追加の神経学的兆候が認められない。(3) 脳MRIで小脳に選択的に急性梗塞
・前庭神経炎に類似した小脳梗塞は96%(24/25)はmPICA領域(PICA領域の内側部)
・PICA領域梗塞(n=147)の16.3%(n=24)はその他の神経症候を伴わずめまいのみで受診⇒PICA内側領域は体幹部なので四肢の失調を伴いづらい
・臨床像:head impulse test全例正常、自発眼振 15/24例(水平性がほとんど+病変側に急速相)、注視誘発性眼振 13/24例
・まとめ
1:急性前庭症候群を呈する小脳梗塞はほぼ全てmPICA領域の梗塞
2:PICA領域の梗塞の16.3%はその他の神経症候を伴わずめまいのみで受診する
3:mPICA領域の梗塞と判断する上でhead impulse testは全例正常であり重要
