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髄液細胞数正常の細菌性髄膜炎

過去に同じテーマの記事がありましたが,情報をまとめこちらを新しいVersionとさせていただきます。

重要文献 “Bacterial meningitis presenting with a normal cerebrospinal fluid leukocyte count” J Infect 2020;84;615-620.

・2006年から2020年にかけてオランダで特定された(オランダにおける前向き全国コホート研究 MeninGene study)、市中発症細菌性髄膜炎の成人患者(16歳以上)が対象 2357例(このテーマに関する最も大規模な研究である)
・正常細胞数の定義:5/mm³以下
・全体の約2%で髄液細胞数正常(計39例)
・患者背景:免疫不全 49% vs 30%*, 活動性腫瘍 21% vs 5%*
・臨床的特徴:古典的3徴(発熱,意識障害,項部硬直) 18% vs 39%
・髄液:蛋白上昇 68%, グラム染色陽性 71%
・起炎菌:肺炎球菌 67%, 髄膜炎菌 13%
・3つのグループ①重症肺炎球菌性髄膜炎 51%(グラム染色陽性 95%, 項部硬直 82%, 意識障害 79%)、②敗血症が主症状 21%,③その他 28%(いろいろ)
・予後:GCS<5 59% vs 38%*, 死亡率 31% vs 16%*
上記”*”は細胞増多群と比較して有意差がある項目である

・まとめ:市中発症細菌性髄膜炎の約2%は髄液細胞数正常(≦5/μL)であるが,蛋白上昇や髄液グラム染色が診断上重要な要素となる

特性正常CSF白血球数群 (N=39)高値CSF白血球数群 (N=2303)P値
人口統計学的特性
年齢 (中央値, 歳)68 (57–76)61 (48–70)0.01
女性の割合23/39 (59%)1145/2318 (49%)0.26
免疫不全状態の有無19/39 (49%)690/2303 (30%)0.02
 活動性のがん8/39 (21%)115/2299 (5%)0.001
感染源および前治療
髄膜外感染巣の有無16/37 (43%)1012/2292 (44%)>0.99
 肺炎13/34 (38%)208/2220 (9%)<0.001
 中耳炎または副鼻腔炎7/37 (19%)806/2225 (36%)0.04
抗生物質前治療の有無4/38 (11%)224/2245 (10%)0.79
入院時の症状
頭痛23/31 (74%)1594/1980 (81%)0.36
項部硬直20/33 (61%)1548/2117 (73%)0.12
発熱(≥38.0∘C)22/37 (59%)1641/2242 (73%)0.09
古典的な三徴候 (発熱、項部硬直、意識変容)6/34 (18%)846/2160 (39%)0.01
収縮期血圧 (中央値, mmHg)104 (90–116)128 (113–145)0.001
拡張期血圧 (中央値, mmHg)70 (64–84)80 (70–90)0.02
血液検査結果
CRP (中央値, mg/L)252 (140–350)180 (80–299)0.009
血中白血球数 (中央値, x109/L)12.3 (5.4–17.3)16.4 (11.9–22.2)<0.001
血小板数 (中央値, x109/L)176 (103–221)198 (147–255)0.04
髄液(CSF)化学検査結果
CSF:血液グルコース比 (中央値)0.06 (0.01–0.56)0.06 (0.01–0.28)0.02
CSFタンパク質 (中央値, g/L)2.10 (0.45–3.50)3.89 (2.27–6.10)<0.001
微生物学的検査
グラム染色陽性25/35 (71%)1525/1856 (82%)0.04
血液培養陽性28/34 (82%)1523/1998 (76%)0.54
臨床経過
肺炎の発症12/36 (33%)331/2161 (15%)0.008
呼吸不全18/38 (47%)538/2224 (24%)0.002
人工呼吸器管理19/38 (50%)689/2218 (31%)0.02
転帰(GOSスコア)
死亡 (GOS 1)12/39 (31%)372/2303 (16%)0.03
軽度または障害なし (GOS 5)16/39 (41%)1433/2303 (62%)0.01

これまでの文献

髄液細胞正常の細菌性髄膜炎 Ann Emerg Med. 2021;77:11-18.

・ここでは髄液細胞数<10/μLを髄液細胞数正常範囲内と定義して(日本では<5/μLと定義することが多く違いに注意)、デンマークの市中発症細菌性髄膜炎のレジストリー(DASGIB database 2015-2018年の696例)の前向きコホート研究になります。この報告では全体の2%(12/696例)が髄液細胞数正常でした(内11例は髄液培養で、1例は髄液PCRで診断しています)。
・具体的な12例の内訳としては年齢中央値70歳(17-92歳)、8/12例男性、起炎菌は肺炎球菌10例、黄色ブドウ球菌1例、髄膜炎菌1例、菌血症は75%(9/12)、1例が敗血症性ショックでした。菌血症の患者のtrauma tapで血液が髄液に混入してしまったために髄液培養が偽陽性になった可能性に関しては髄液RBCが検出されたのは症例2,8,12(それぞれ16, 1, 299/μL)の3症例のみでした。
・過去の報告では免疫抑制者で髄液細胞数正常の報告が多かったですが、今回の12例はいずれも免疫抑制状態の症例は指摘できませんでした(好中球減少や白血球減少例も1例もありませんでした)。またうち3例は髄液細胞数が正常であったため市中発症細菌性髄膜炎のための治療を中断されたと報告されています。
・このように市中発症細菌性髄膜炎のうち2%が髄液細胞数が正常であり、必ずしも免疫抑制者に起こる訳ではないことが分かります。臨床的に細菌性髄膜炎を疑う場合は、髄液細胞数が正常でも治療を継続するべきといえるかもしれません(培養検査結果が出るまで)。またこの様な症例では24時間後にLPを繰り返し実施することで診断に有用かもしれません。

下図は髄液細胞数正常例12例と残りの681例の臨床上の違いをまとめた図になります。

細菌性髄膜炎で腰椎穿刺を繰り返す Clin Microbiol Infect 2016; 22: 428 – 433

・基本的に細菌性髄膜炎でLPを繰り返し実施する必要はありません(IDSAのガイドライン通り状態が改善しない場合は考慮、また細菌性ではないですがクリプトコッカス髄膜炎では圧を下げるために実施する)。
・オランダの市中発症細菌性髄膜炎のコホートを解析し、8%(124/1490例)で腰椎穿刺の再検がなされており、理由は臨床的悪化41例、頭蓋内圧上昇/水頭症19例、発熱持続もしくは再燃12例、臨床的改善を治療にもかかわず認めない7例、治療反応性のモニター7例、HSE疑い4例、初回の髄液検査結果が解離していたため5例、その他3例、不詳26例となっています。
・髄液細胞数<7/μLをここでは髄液細胞数正常と定義しており(先程の報告とは定義が違うため注意が必要です)、2%(30/1382例)で認めています。このうち8例(8/30例)が2回目のLPを実施しており、8例全例で細胞数上昇を認めています(中央値298/μL)。免疫抑制者は1例糖尿病患者、1例PMRに対してステロイド投与、1例化学療法による白血球減少がありました。。起炎菌は肺炎球菌4例、Streptococcus parasanguinis2例、インフルエンザ桿菌1例、Streptococcus agalactiae1例です。

髄液細胞数正常の細菌性髄膜炎に関するliterature review Can j Infect Dis Med Microbiol 2014;25(5):249-251.

・背景として小児や免疫抑制者、結核性髄膜炎などでは髄液細胞数正常の細菌性髄膜炎の報告がありますが、成人の細菌性髄膜炎での報告はまれとされています。
・以下が具体的なliterature review26例の中身であり、起炎菌は肺炎球菌11例、髄膜炎菌10例、大腸菌2例、Proteus mirabilis1例、リステリア1例、インフルエンザ桿菌1例となっています。この報告では5例で高齢、アルコール依存、脾臓摘出後などのリスクが指摘されていますが、その他は免疫抑制ではなかったとされています。

管理人のまとめ

・市中発症細菌性髄膜炎の約2%は髄液細胞数正常
・背景に免疫不全や腫瘍を有している例が多い
・髄液蛋白、グラム染色が重要
・臨床的に疑う場合はたとえ細胞数正常であったとしても速やかな抗菌薬投与を行う