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Version 頭部回旋と共同偏視

発作での頭部回旋+共同偏視は元々”adversive”と表現されていました。この言葉には「逆側の方向」という意味を含んでおり、発作焦点の大脳半球と「対側」に頭部回旋と共同偏視を生じることを意味していました。しかし、発作焦点と同側に頭部回旋と共同偏視が生じることを”ipsilateral adversion”と表現すると言葉の意味がぶつかって矛盾しているし、”contralateral adversion”は同じ意味が重複してしまう問題点がありました。

そこでより中立的な表現として”versive / version”という表現が導入されました。 “Gastaut H. The epilepsies: electroclinical correlations.” Charles C. Thomas, 1954:21-2,53-5,96-101

ここでこの言葉の定義が重要で、“clonic or tonic head and eye deviations, unquestionably forced and involuntary, resulting in sustained unnatural positioning of the head and eyes”というWyllieらの定義が基本的に用いられます(Neurology 1986;36:606-611.)。ここではversionを比較的厳しめに定義しています。この基準を十分満たさないものを含めると、かなり雑多な神経症候も含んでしまい、文献解釈上も注意が必要です。

共同偏視(共同偏倚)の一般原則

前頭眼野(FEF: frontal eye field)は眼を対側に動かそうとする
・左右の前頭眼野からそれぞれ刺激が入っていることで眼位は正中位にある(動的平衡状態)
・脳血管障害などで前頭眼野が障害されると、障害側と「同側」に眼球が偏移する
・一方でてんかん発作などの刺激性の病態では、障害側と「対側」の眼球が偏移する

解剖経路は下図を参照

SeizureとVersion/Versive seizure

“The lateralizing significance of versive head and eye movements during epileptic seizures” Neurology 1986;36:606-611.

私が重要と思う古典的文献です。74の発作イベントを脳波とビデオから解析した報告で、この文献の特徴は”version”を誰が見ても確実なものだけに限定しており、少しでもあやしいものは”nonversion”として棄却している点です。versiveは61/74回,nonversiveは13/74回で認めました。

version:焦点と対側(全例)

versionは頭部,眼いずれに生じたか?
・頭部+眼 65% (40/61)
・頭部のみ 22% (14/61)
・眼のみ 13%(7/51)

発作の最初の症候(onset)がversionか?
・version 57%(前頭葉が焦点)
・1点凝視や自動症→version 43%(側頭葉が焦点)

随伴症状は?
・上肢の間代(フェンシング肢位) 52%
・顔面の間代 47%
*いずれもversionの5秒以内に生じる

2次性全般化で30%はversionが持続
・持続平均時間:平均24秒(6-53秒)
・44%は全般発作終了後にipsiversionになる

nonversion(13回):同側7回、対側6回

既報ではversionは必ずしもcontralateralではなく、ipsilateralも多いとされていましたが、今回はversionを厳しく判定することで、全例contralateralであると示した点が本文献の特徴です。この文献でのversionの定義がその後の研究において一般的定義として用いられていることが多いので重要です。

“A descriptive study of eye and head movements in versive seizures” Seizure: European Journal of Epilepsy 2022;98:44–50.

・超重要文献です。versionの定義は上文献の定義に則っており、発作とversionの臨床像を最も詳細に分析した文献です。28例、43の発作臨床像を詳細に分析しています。

ictal stateの評価
・versionは発作焦点の「対側」が100%
・共同偏視と頭部回旋はともに全例で認める(同じ方向が97.6% 42/32例)
・共同偏視の特徴:saccadic(カクカクと動きsmoothではない)89.3%、方向は斜め上方向 86.8%(縦方向の動きは認めなかった)
・頭部回旋の特徴:横向きだけではなく上向きの動き(顎が上がる動き) 93%(横のみは7%*下方向の動きは認めなかった)、動きはsaccadic 44.2%
*共同偏視と頭部回旋のどちらが先か?:ビデオ解析とEEG解析で少し結果が異なる→まだ結論づけられない
顔面の不随意運動:93%に認める、方向はversionと同側が100%、動きは強直性の収縮に間代性の動きが重畳したもの

postictal stateの評価
・眼球運動の特徴:正中 36%, 発作時頭部回旋と「対側」方向へ偏移 60%、「同側」のままが4%
(→管理人は個人的にかなり重要なデータと思う)
・頭部回旋の特徴:発作時と同じ方向のまま 100%

病態の検討
・versive seizureのsymptomatogenic zoneはFEF(frontal eye field)である。
・頸部回旋と注視はFEFと上丘の共通経路を介する
・顔面を担う中心前回の解剖学的にすぐ前方にFEF(frontal eye field)が位置するので、顔面へ症状が波及しやすいことが推察される

“Gaze Palsy as a Manifestation of Todd’s Phenomenon: Case Report and Review of the Literature” Brain Sci. 2020, 10, 298; doi:10.3390/brainsci10050298

・発作後は同側へ共同偏視を認める場合があることをTodd麻痺と表現した文献
・右が焦点で発作時は「左」共同偏視→postictalに「右」共同偏視になった症例報告
*本症例は共同偏視単独でその他四肢の運動障害などを随伴しない
・Todd麻痺の臨床像は片麻痺、失語、共同偏視などさまざま。Todd麻痺の病態はエネルギー枯渇、抑制、血流低下など様々な機序が推定されている。

Seizureと眼振 “epileptic nystagmus”

“Epileptic gaze deviation and nystagmus” Neurology 1985;35:1518-1521.

・本文中の基礎知識の記載:”eye movements during seizures typically consist of tonic conjugate deviations, often with nystagmus.” Walsh and Hoytg refer to “the spastic, often clonic, deviation of the eyes away from the side of a discharging epileptic focus.”
・右側頭後頭部が焦点、左への共同偏視・頭部回旋に左方向への眼振を伴った症例の報告
・症状:眼瞼が2-3秒かけて開き、眼球が左へ4-7秒かけて偏移し、眼球が動き始めた後に頭部が左へ回旋、眼が完全に共同偏視したところで左向き眼振が出現。眼振は3-5Hzで60-90秒持続し、後半は眼振に瞬目を随伴することが多い。その後眼球と頭位は正中位に戻る。
・脳波:前頭葉への波及はなく側頭後頭葉のβ波


・眼振の機序として前頭眼野だけではなく、後頭葉から上丘を経過してサッケード運動を関与する経路があるためそこが関与していることが推察されている

“Neurophysiologic and clinical correlations of epileptic nystagmus” NEUROLOGY 1993;43:2508-251

・”epiletic nystagmus”に関する個人的に最も重要と思う文献
・epileptic nystagmusがSeizureの唯一または主体の臨床像となることは稀
・8例とliterature reviewによるepileptic nystagmusの臨床像と脳波所見の検討
眼振の急速相は発作焦点の「対側」、また眼振に眼球偏移を伴う
*意識障害を伴う例(全例共同偏視を伴う),伴わない例(ほぼ全例共同偏視を伴う)
・なぜepileptic nystagmusは多くないのか?→生じる条件が厳しいため
Temporal-Parietal-Occipitalhigh-frequency(>10/sec)のてんかん性放電を生じる必要があり、この厳しい条件を満たすことが稀である
*同部位(T-P-O)にてんかん性放電を生じる病態(眼振を随伴しない)は多数あるが、いずれも周波数が低い(1-4/sec)
眼振を伴わない共同偏視の方が多く、これは共同偏視の生じる条件が眼振と異なり厳しくないため

“Epileptic nystagmus: A case report and systematic review” Epilepsy & Behavior Case Reports 2 (2014) 156–160

眼振の方向(急速相の方向)は焦点と対側(全例)
共同偏視が眼振に先行する 63% (21/33例)
・焦点:後頭葉(n=16)>頭頂葉(n=9)>側頭後頭葉(n=6)>前頭葉(n=4)
*前頭葉由来は少ない(上丘のサッケード運動を抑制するからかもしれないと推察されている)
*眼振を発作として呈する例の頻度
・全体の0.5%(9/1838)ほとんど小児例 Kellinghaus C, Skidmore C, Loddenkemper T. Lateralizing value of epileptic nystagmus. Epilepsy Behav 2008;13:700–2. 
・後頭葉てんかんでは10%に認める Salanova V, Andermann F, Olivier A, Rasmussen T, Quesney LF. Occipital lobe epilepsy: electroclinical manifestations, electrocorticography, cortical stimulation and outcome in 42 patients treated between 1930 and 1991. Surgery of occipital lobe epilepsy. Brain 1992;115(Pt 6):1655–80.

管理人のまとめ

・厳密な臨床定義(上述)に則るとVersionは発作焦点と全例対側である ここの定義があいまいだと議論が成立しない
・そして共同偏視と頭部回旋は必ず同側であり、高率に同側に顔面の不随意運動を伴う
・versionでの共同偏視はsaccadicな動きで斜め上向きが多く、頭部回旋も顎が上がるような少し上向きの回旋が多い(純粋な横向きではなく)
・postictalは共同偏視の向きは逆になることが多い(つまりictalに右向きであればpostictalは左向き)
・一方で頭部回旋はpostictalでも向きが変化しない
・これらはFEFを焦点として生じる

眼振には基本全例で共同偏視を伴う(共同偏視の方が条件が緩いため)
・眼振のみ(共同偏視を伴わない)を呈することは稀、この理由は眼振を呈する条件が厳しいから
・眼振を呈する焦点は急速相と対側であり、側頭葉~頭頂葉~後頭葉が多い