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ブログ 質問回答 パート3

今回も質問を頂いたので私なりに答えていきたいと思います。今回は都内市中病院勤務の初期研修医1年目の先生から3つ質問を頂いたのでこれに関して答えていきます。

質問 1つ目は「ガイドラインの読み方」についてです。私は研修医になるまでガイドラインを読んだことがありませんでした。そして働きだしてから、莫大な量の記載の中からどこを読めば良いのか全く分からず困惑しています。例えば脳外科ローテートで脳梗塞の人のファーストタッチを経験→入院→「よし、脳梗塞の人の初期治療を調べよう」と思い勇んでガイドラインを開くものの、どこのページに飛べばいいのか分からず、また上級医の方が推奨グレードCの治療を行なったりしていて困惑してしまいます。ガイドラインというのは自分の専門領域のものは頭からお尻まで読むものなのでしょうか。また自分の専門外の疾患出会ったとき、どのようにガイドラインの中から必要な情報を得れば良いのでしょうか。

以下小生の回答

いきなり本質的な質問をありがとうございます。まず私の結論から申し上げますと初期研修医の先生がガイドラインを全て読む必要はないと思います。ガイドラインは最新の臨床試験の治験をまとめた上でGRADEに準じて治療の推奨度を画一的にエビデンスレベルに基づいて設定したもので、もちろん正しい治療を行う上では重要なのですが初期研修の時に学ぶべき内容とは隔たりがあると思います。

例えば例で挙げていただいた「脳梗塞」に関してですが、初期研修で学ぶべきは「推奨グレードC」の治療を行うべきか否か?ではなく、「突然発症の病歴をきちんと聞き出して血管障害を疑うこと」、「病歴と神経所見から対応する神経解剖がどこになるのか?を考えながら診療すること」です。自分がER当直などで同様の患者さんをファーストタッチしたときに適切な診断に導くことが出来るか?がまずは重要です。もちろん治療は極めて重要なのですが、治療の内容・選択肢は日進月歩で目まぐるしく変化していきます。これをすべて追いかけることは初期研修の学習としては効率的ではないと思います。ガイドラインはその性質上どうしても「治療」に重きを置いていますので初期研修での学習にはそぐわない点も多いかと思います。

質問 2つ目は「医学論文を英語で読むトレーニング」についてです。学生時代一切医学英語に触れず(かなり後悔しています)、練習しなければと思い、先生の医学論文の記事を見てNJEMの疾患まとめでトレーニングを積もうと思っているのですが、かなり途方もない作業で正直心が折れかけています笑 どのくらいトレーニングを積めば読むスピードが上がる実感が得られるでしょうか(もちろん人によるかと思いますが)

以下小生の回答

こちらは英語に関してのご質問ですね、ありがとうございます。私がさらさらとブログに英語のことを書いているとあたかも簡単に習得できるようなイメージを与えてしまっていたら本当に申し訳ないです・・・。私自身も医学英語の習得には非常に苦心しました。具体的なトレーニング期間に関してはなかなか難しいですが最低でも半年~1年はかかるとおもっていただいた方が良いかもしれません。私の持論としては臨床医としてこの点は避けて通ることは出来ないのでいかに早い段階で諦めて論文を読むかが重要と思います(笑)。話は少し逸れますが、私は医者になって最初のころ救急救命科で朝が早くて毎日眠そうにしていたら「先生医者になったんだから朝早いの当たり前だから、早く諦めて!」と強めの口調で先輩から笑顔で言われたことを思い出しました・・・。

これは医学論文の記事にも書いていることの繰り返しですが「英語力がないことは言い訳にならない」という点を改めて強調させていただきます。医学論文を読むにあたり、使われている単語は限られており英語力はほとんど関係ありません。また私も普段読まない皮膚科系の論文などは全く読むことができません(知らない用語だらけ・・・)。きっと今しんどい時期と思いますがちょっとずつ読むスピードが上がっていくと思います!その時を信じて頑張ってください!根性論でごめんなさい・・・。

質問 3つ目はお悩み相談になってしまいますが、研修中の勉強方法についてです。私は学生時代、特に6年生の時、本当にバイトと部活、また遊んでばかりで(6年生の年明けまでバイトしていて国試もかなりギリギリで通った口です…)勤勉な学生とは言い難かったです。当時は「学生時代にしかできないことをやろう、勉強はどうせ研修医になってからめちゃくちゃやらなきゃいけないし」などと思っていたのですが、想像以上に研修医になってから苦労しています。毎日本当に分からないことだらけです。毎回当直に入るたび学ぶべきテーマが出てくるのですが、それが多すぎて、どれ毎回中途半端にしか調べられず、4月から当直のたびに何度も同じ課題を自分に課していて全く成長している気がしないです。例えば「今回は低Na補正の仕方が分からなかったな、あ、心電図も読めなかったな、それに吐気の鑑別もあげられなかったな、よし勉強しよう」となるのですが、心電図の本を開く→数ページ読むのに数時間かかる→他のことができない→また次の日に新たな課題が出てそっちに気を取られ他の疑問は未解決→また当直で同じことがわからない、といった具合です。正直自分の時間の使い方が下手すぎるのですが、プライベートも充実していてかつ勉強もしている同期を横目で見ると少し(というかかなり笑)自分に嫌気がさします。結局病態を理解しないとダメなことは分かるのですが、理解しても現場で活かせなかったり、また対応法は知ってても原理は知らず人に説明できなかったりで、どのようにすれば効率的に知識と対応力を身につけられるの悩んでいます。

以下小生の回答

まず実用面の回答を2点、最後に心持ちに関して1点を私なりに回答をさせていただきます。

実用面1:例えば挙げていただいた嘔気の鑑別を1回でマスターというのはなかなか難しく、同じ内容を何周も何周も繰り返しているうちに段々と見晴らしの良い高い丘を登っていたことに気が付くというプロセスなのではないかと思います(登っている途中は同じ場所をただぐるぐるしているだけに感じるかもしれませんが、着実に上がっています)。無理に1回で学習しきろうと気張る必要はないのではないかなと思います。また繰り返し学習する過程でレベルを上げていくにあたって次また一歩前に進めるためにはやはり自分なりに学んだ内容をまとめるという作業が重要かと思います。これは紙デバイスでもEvernoteなどのonlineデバイスでもどちらでも使いやすい方で問題ないと思います。

実用面2:更にご指摘の通り最初はあまりに勉強する内容が多すぎるので、全てを学びきるのは到底不可能に思えますし実際に不可能と思います。なので学ぶ内容に優先順位をつけるべきと個人的には思います。心電図、レントゲン、血液ガス、抗菌薬、輸液、電解質異常、症候学などは毎日遭遇する問題なのでこれらはやはり初期からエネルギーを重点的に割くべきと思います。例えば免疫グロブリンの投与方法は知らなくても良いし、肺癌の化学療法のレジメンも相対的に優先度は初期研修にとっては低いです。肺癌の化学療法のレジメンがばっちりいえるけれど病棟の患者さんの新規低酸素血症のアセスメントが出来ないというのはやはり知識がちぐはぐしている印象を受けます(足し算や掛け算が不十分にもかかわらず因数分解をマスターしようとしているイメージが分かりやすいでしょうか)。指導する側も本来はこの点を意識して指導しないといけないのですが、ここがなかなか難しいところですみません・・・。

心持ち:他人と比べてしまう気持ちもとても良くわかります・・・。特に最初のうちは「誰がCVを入れた、胸腔ドレーンを入れた」など結構気になるものですよね。ただ越えるべきは常に他人ではなく昨日までの自分です。少しでも前に進もうという志向性に見えない価値があります。

どうしても初期研修はなかなかつらいところがありますよね。私の言葉ではどうしても弱いので・・・・餞(はなむけ)に小説から言葉を引用させていただきます。

”「でも元気がないのね?」
「元気を出そうとはしているんだけれど」

「人生はビスケットの缶だと思えばいいのよ」
 僕は何度か頭を振ってから緑の顔を見た。「たぶん僕の頭がわるいせいだと思うけれど、ときどき君が何を言っているのかよく理解できないことがある」

「ビスケットの缶にいろんなビスケットがつまってて、好きなのとあまり好きじゃないのがあるでしょ? それで先に好きなのどんどん食べちゃうと、あとあまり好きじゃないのばっかり残るわよね。私、辛いことがあるといつもそう思うのよ。今これをやっとくとあとになって楽になるって。人生はビスケットの缶なんだって」
引用:「ノルウェイの森」講談社文庫 著:村上春樹