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Hessチャート “Hess chart”

「Hess赤緑試験」とも表現する眼球運動を評価するための検査方法です。眼科で行う検査ですが、神経内科では眼球運動障害、複視を多く扱うためどのような検査なのか?またどのように結果を解釈するか?を知っておく必要があると思い勉強した内容をまとめます。

1:原理 右眼と左眼をそもそもどのようにして分離するか?

検査の原理がわからない場合はその検査を1から組み立てる気持ちになるとわかりやすくなることが多々あります(人工呼吸器や胸腔ドレーンと同様)。右眼と左眼の眼球運動の違いをどう評価するかに当たっての問題点は「右眼と左眼をどのように分離し評価するか?」です。Hessチャートでは「赤緑」と名前がついている通り、色を利用して右眼と左眼を分離するという作戦を用います。

下図の様に右眼に「緑」、左眼に「赤」の眼鏡を装着すると、赤眼鏡では赤色のみを、緑眼鏡では緑色のみを認識することが可能になります(この前提条件を利用します)。この状態(両眼視)で、赤い指標を見てもらうと、赤眼鏡を装着している眼がまず赤い指標をとらえます。更にこの状態で緑色のライトで見える部分を被験者に照らしてもらうことで右眼がどの位置を見ているかが分かります(緑色のライトは緑眼鏡の眼からしか見えないため)。こうすることで赤い指標と緑ランプで照らした部位の違いを記録することで左右の眼のずれがわかるということです。

2:記録用紙

これらを記録したものが以下の通りになります。実際に患者さんに照らしてもらった部位をそのままプロットするため、被検者から見た図になります(左が左眼、右が右眼)。1マスが5°に対応しており、通常15°偏位30°偏位の部位を一か所ずつ記録していきます。

やはり検査の実際を見てみないとなかなかイメージがつかみづらいかもしれません。こちらのYoutube動画が英語ですがわかりやすいかったのでもしよければご参照ください。

3:解釈

ここまで実際の検査のやり方を簡単に解説させていただきました。この結果をもとにどの部位が悪いのか?という解釈を行います。ここでは”Heringの法則”を利用します。

■Heringの法則:左右の眼には同じ指令が伝わる

例として左眼内転障害の場合を考えます。左眼を外転位から正中位に戻すためには左眼を内転させる必要があります。しかし、もともと左眼は内転障害があるためそう簡単に内転させることは出来ません。左眼を内転させるためには「おりゃ~~~!!」と強い指令が必要になります。そして、眼は共同運動をしているので、この強い指令は対側の眼にも伝わります(眼は右眼だけ力を入れて左眼だけ力を抜くというような器用なことはできません)。左右の眼には同じ指令が伝わるという点がポイントです。しかし右眼はまったく問題ない状態なので強い力の指令が入ると、対側の右眼は「ぎゅいん」と大きく外転します

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-37.png

これを眼位図に当てはめて感がると、患側の眼では眼位図が小さくなり(運動制限があるため)、健側の眼では眼位図が大きくなります(Heringの法則で強い指令が加わるため)。

■眼球運動と神経支配の対応関係まとめ(参考)

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-44.png

■実践1

このHessチャートはどのように解釈すればよいでしょうか?解説は下図です。まず右眼の眼位が”down out”になっており、眼位図が小さく動きに制限があることが分かります。そして左眼の眼位図は→マークが記載されており、これは範囲をはみ出してしまうような過大な動きを反映しており”heringの法則”からこちらがおそらく健側だろうと推察されます。右眼にとって内転、上転、下転で制限がありどう方向にheringの法則を認めている点から右動眼神経麻痺を疑うという流れです。

■実践2

こちらはいかがでしょうか?解説は下図です。左眼の眼位は内転位になっており、外転制限があります(眼位図も小さいです)。右眼が内転でovershootしており、こちらがheringの法則からおそらく健側だろうと推察します。まとめると左眼の外転障害があり、左眼外転神経麻痺を疑う所見です。

私も自分で普段検査を行っている訳ではないため(解釈しかしていません)、「ここ間違っているよ」という部分などありましたらご教授いただけますとありがたいです。