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意識障害へのアプローチ:改訂版

意識障害へのアプローチ

・ここでは持続性の覚醒障害(一般的に「意識障害」と呼ばれることが多い)へのアプローチをまとめました。前に書かせていただいた「意識障害へのアプローチ」という旧記事の改訂版です。こちらの方が実臨床に即した内容と思いますのでもしよければご参照ください。

以下のフローチャートに沿って対応していきます。

・意識障害の鑑別は”AIUEOTIPS”が有名である。これは鑑別疾患を網羅するためには素晴らしい覚え方であるが、現場での鑑別の流れは反映していない弱点がある。私は現場での実際の動き方・検査の流れとそこで分かる意識障害の鑑別を対応させたフローチャートをそのまま覚えた方が実臨床に即していると考えている。

Step 1:ABCの確認・血液ガス(+血糖値)・診察

“Vital is always vital.”という言葉の通り、バイタルサインの確認・安定化なくして意識障害の診療を前へすすめることは出来ない。意識障害の患者を目の前にすると、どうしてもつい「頭」のことばっかりを考えてしまい、呼吸や循環といったバイタルサインをおろそかにしてしまう場合があるが、ABCを常に優先する姿勢を忘れないようにしたい。一般的にショックの患者は意識障害になるが、頭蓋内病変での意識障害患者がショックになることはない。

・またvital signの中でも血圧は意識障害の原因推定に役立つ。来院時の収縮期血圧が高値であると頭蓋内疾患(例えば脳出血や脳梗塞)の可能性が上がり、低値であると頭蓋外疾患(例えば低血糖や敗血症)の可能性が上がる。

・vital signの確認とほぼ同時並行ですすめることとして、血液ガス検査血糖値の確認が挙げられる。いつ血液ガスをとるべきか?に対して筆者は「vital signに異常があるとき」と教えている。つまり血液ガスをとるのは呼吸が悪いときだけではなく、意識障害では全例必ず血液ガスをすぐに取る必要がある。血液ガス検査の情報だけで例えばCO2ナルコーシス、低Na血症、高Na血症、高Ca血症など意識障害の原因の推定も可能である(特にCO2ナルコーシスは血液ガス検査をしなければその後のいくら採血検査や画像検査を加えても決してわからない)。SpO2だけみて安心していると実はCO2ナルコーシスで意識障害になっている場合によく遭遇するためCO2ナルコーシスには特に注意が必要だ。

・また、通常血液ガスで血糖値は確認でき、D(dextrose:ブドウ糖のこと)はABCの後に必ず忘れないようにしたい(筆者はこれをABCDと呼んでいる)。低血糖はありとあらゆる神経学的症候を呈しうるため注意する。

・またこれらと同時に身体所見、神経診察を行う。意識障害の患者に神経所見をとるというと、本人の協力が得られないから取れないとあきらめてしまうかもしれないが、「意識障害の患者こそ神経所見を必死に取りに行く」姿勢が重要である。意識障害では原理的に取れる所見と取れない所見があるため、自分のなかで「意識障害患者では何を診察するか?」を予め決めておき体系的にアプローチする

・この中で特に共同偏視・瞳孔不同四肢の動きの左右差といった左右の非対称性は頭蓋内疾患を強く示唆する

1:脳神経:眼位(眼が正中位にあるか、それとも共同偏視があるか?)、瞳孔左右差、対光反射、脳幹反射(前庭動眼反射)。
2:四肢:四肢の動きに左右差がないか(例え指示が入らなくてもarm drop, 膝立で下がり方に左右差がないかどうかを確認する)、姿勢や筋緊張(右上下肢をつっぱっている)、不随意運動(くちをもぐもぐとうごかす、屈曲と伸展を繰り返す)
3:髄膜刺激徴候:項部硬直

Step 2,3:検査 細菌性髄膜炎・脳血管障害・その他

・Step1までで、vital sign, 血液ガス(+血糖値)、身体所見の情報が揃っており、CO2ナルコーシスや低血糖といった意識障害の原因は既に除外されている。ここまでの情報から「意識障害の原因として何が疑わしいか?」を見積もり、次の検査プランを決めるというステップにすすむ。

・特に分単位での素早い介入が求められる疾患が「細菌性髄膜炎」「急性期脳梗塞」であるため、まずこの両者らしいかどうか?を検討する。「その他」いずれにも該当しない場合は比較的時間のゆとりをもって追加検査を検討することが可能である。以下ではそれぞれの鑑別ごとのアプローチをまとめる。

脳血管障害が疑われる場合

共同偏視、瞳孔不同、片側麻痺などの左右非対称性や失語などの神経学的巣を認める場合は、頭蓋内疾患の可能性が高くなるため、急いで頭部CT検査に進む。特に突然~急性発症の場合は脳血管障害の可能性が高く、まず頭部CT検査で脳出血かどうかを判断する。脳出血が否定された場合、急性期脳梗塞の場合は血管内治療、また血栓溶解療法の適応となりうる。これは何科がイニシアチブを取るか?そもそも血栓回収療法が実施可能な施設か?など施設ごとに対応が大きく異なるため、予め施設ごとのプロトコルを決めておき、それに則って対応するべきである。

細菌性髄膜炎が疑われる場合

・発熱があり、急性の経過、髄膜刺激徴候を認める場合などは細菌性髄膜炎の可能性を考慮する。詳しいアプローチは細菌性髄膜炎の記事を参照するが、細菌性髄膜炎を疑う場合はまず頭部CT検査ではなく、血液培養検査→抗菌薬投与を1分でも早く行うことができるか?が予後改善のために重要である。このような内科緊急疾患であるため、必ず意識障害患者を診る際に鑑別に細菌性髄膜炎を入れておき、特に発熱患者では注意が必要である。

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その他

・細菌性髄膜炎、脳血管障害いずれも積極的に疑われない場合は緊急での介入が必要な病態は少ない。初回の意識障害では基本的に全例頭部CT検査が必要となるり、異常所見がなければ詳細な検査を行う必要がある。以下の検査を実施する場合は具体的に何を疑うか?を明確にして検査を行うべきである。

採血検査甲状腺機能、ビタミンB1、アンモニアを提出する。特にビタミンB1は結果が出るまでに時間がかかるため、疑いがあれば採血提出後に補充を検討する。

頭部MRI検査:MRIで有意な所見があれば診断には寄与するが、所見がなくても除外することは出来ない疾患が大半を占めている。例えば、脳炎の診断にMRI検査で異常所見があれば診断に寄与するが、MRI検査で異常所見がない場合も脳炎を除外することは出来ない。

髄液検査:細菌性髄膜炎以外の髄膜炎(特にウイルス・真菌・結核・癌性)や脳炎などの診断に寄与するため原因がわからない意識障害では積極的に行うべきである。

脳波検査:特に原因ははっきりしない意識障害の患者において積極的に行いたい検査である。NCSE (nonconvulsive status epilepticus: 非痙攣性てんかん重責)は、四肢に痙攣を伴わずに意識障害のみを呈する場合があり、これは治療可能な病態であり、脳波検査をしないことには決して分からないため積極的に検討したい(NCSEに関してはこちらを参照)。頭部MRI検査と比べて脳波検査はおそらくその解釈の難しさもあって敬遠されがちな検査であるが、遷延する意識障害では積極的に行いたい。

薬物検査・血漿浸透圧:原因が特定できない場合と疑わしい病歴がある場合は積極的に行いう。注意点としては、トライエージは「検査できる薬剤、できない薬剤がある」、「偽陽性、偽陰性がある」、「通常量の内服と中毒量の内服は区別出来ない」ことの理解が重要。中毒に関してはこちらを参照。

・注意点として「トライエージが陰性だから中毒ではない」訳ではない。例えばジフェンヒドラミン中毒はトライエージでは捉えきれない。このように検査できる項目は限られている点にまず注意が必要だ。また市販感冒薬を内服してる患者はメタンフェタミンが陽性で表示されてしまう偽陽性の問題にも注意が必要だ。またよく勘違いされている点として挙げられるのは、ベンゾジアゼピンを通常量内服していてもベンゾジアゼピンは陽性となり、通常量の内服なのか、過量内服なのかの区別は出来ない。こういった注意事項を把握しよう。