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アウトプット Output

今回の記事は医学の具体的な内容ではなくここでは「学ぶ」こと、特に「アウトプット」に関して普段私が感じていることをまとめさせていただきます。気楽に読んでいただけますと幸いです。

医者は学んだ内容をEvernoteなどのノートにまとめている方が多いと思います。私も卒後5年目くらいまでそのように学んだ内容をひたすらまとめていたのですが、ある段階でこのインプット中心学習スタイルの限界を感じました。その限界とは、まとめるまでは良いのですがあまり勉強した内容が自分の血肉になっおらずさらさらと流れてしまっている様に感じ始めた事です。なんとなくずっともやもやとした違和感を持っていましたがなかなかその言葉を言語化できないでいました。もちろん一度まとめているのですぐに参照して記憶を呼び起こすことは出来るのですが、知識を柔軟に運用するステージに上げられていないことに対して漠然と違和感を感じていました。

私の場合はそこでたまたまアウトプットに関する本を読み、自分でも何かやってみようかなと思いこのホームぺージを始めました。アウトプットの利点に関してはおそらく既に様々なビジネス書などで語りつくされており、私が敢えて話すべき内容はそんなにないのかもしれませんが、自分なりにアウトプットの過程を経験した感じたことを書いてみたいと思います。

1:アウトプットのメリット

■アウトプットするとインプットの質が上がる

「アウトプットをした方がインプットの質が上がる」ことは、私の経験上は紛れの無い事実と思います。「インプット→アウトプット」という流れの方がイメージしやすいかもしれませんが、インプットとアウトプットの両者は片道切符ではなく、双方向の関係にあります。

アウトプットのために自然と責任ある知識の取り入れ方を身につけていくためインプットの質が向上していくのだと思います。つまり、自分だけが納得すればよいのではなく人にこの内容を伝えるためにはしっかり理解しないといけないという態度でインプットすることが結果インプットの質を高めているのだと思います。

■理解できているか?の指標になる

いくつか記事を作っている中で気が付いたことのうちの1つは「自分が詳しくないテーマは記事にしたくない」という心理が無意識に働いていることです。あるテーマに関して自分が理解できているかの指標は、その内容を人に説明する/教えることが出来るか?という点に集約されると思います。アウトプットを続けているとこの説明できるか?できないか?という境界線が色々な物事で明確な線引きされていき、自分の苦手分野があぶりだされていきます。自分の理解度の甘さを他人から指摘される前に自分で認識するために有用だと思います。

■時間が有効に使えるようになる(気がする)

ホームページを始めるまでは、電車や行列の待ち時間、すきま時間は基本的にインプットの時間にあてていました。しかし、スマートフォンでのインプットはなかなかその他の誘惑が多く無駄な時間を過ごしてしまうことも多く、またインプットの目的があいまいだと集中力を維持してインプットの時間に充てることが難しかったです。この隙間時間をホームページの記事の作成に充てると、すきま時間も集中して過ごすことが出来ている感覚があります。

■精神衛生上良い

これも当初から期待していた訳ではなくホームぺージを初めてからわかったことですが、記事を書いていると心がやや落ち着きなんとなくほっとして毎日眠れるようになりました(それまでも連日ぐーぐー眠っていたのですが・・・)。アウトプットはインプットよりも自己治癒的な側面があるのかもしれません。作家の村上春樹さんはあちこちのエッセイで「物語を書くことは自己治癒的な側面がある」という内容のことを書かれており、私は物語を書いている訳ではないのですが、頭の中の内容を整理して書き出す、吐き出すという一連の作業が精神を安定させる作用をもつことは実感しています。

また1つ記事を作成すると着実に一つ知識が積み上げられた時間があるので、確実に一歩前に進んでいるという安心感が得られているのかもしれません。医学は扱う内容が膨大なので、しばしばあまりの知識量の多さに圧倒されてしまいやる気がそがれてしまうことがよくあります(私だけではないですよね・・・?)。そのような膨大な知識を前にしても、一応ちょっとずつ前に進んでいる実感を得られることは医学という生涯学習においては地味ですが重要なことではないかと思います。

2:アウトプットを躊躇する理由への解答

ここでは私がよくいただくアウトプットしない/躊躇する理由に対して、私なりの反論を書いていきたいと思います。私もアウトプットマスターではないので出来ていないことも沢山ありますが、自分への戒めも含めて書いていきます。

■インプットが不十分だからアウトプットできない訳ではない

これが恐らくアウトプットを躊躇する理由として最も多いものだと思います。自分はまだインプットが不十分だからアウトプットする段階に達しておらず出来ない(書けない)というものです。私も当初はこのように考えておりアウトプットを躊躇していました。しかしある種強引にアウトプットを繰り返していると自然とインプットの必要性が高まるためインプットの質が上がります(「必要は発明の母」のようなものでしょうか?)。ここは事前の綿密な準備よりもある種思い切りの良さが必要で、下手に準備しすぎようとすると完璧主義になって足が動かなくなってしまい前へ一歩も進めない場合があるため注意が必要と思います。

■文章が下手だからアウトプットしないは理由にならない

これを理由にアウトプットしないというのは漁場に行かずに釣りがうまくなる訳がないのと同じで、実際にアウトプットしてみないことには文章は上達のしようがないのかなと思います。私も文章が下手で(かつこのようなホームページで日本語表現に関するフィードバックはほとんどないので)全く自信がないのですが、良い文章をたくさん読んで書くしかきっと上達法はないだろうと思っています。一度「文章表現がうまくなる」的な本を読んでみたのですが、正直あまり参考にならず日々伝わる表現を模索するしかないのかなと思っています(もし良い本があればぜひ教えていただきたいです)。

■他人から批判的なコメントが来るのが怖い

これも私はホームページを始める前は相当気にしていました。これは正直に申し上げるとほんとどの場合が気にしすぎ/心配しすぎだと思います。変なコメントで荒れるのが嫌な場合はホームページであればコメント欄の編集が出来ますし(事前にコメントを公開するかどうか管理人が決めることができる)、私もときおり批判的なコメントをいただきますが、その多くが建設的なもので逆にありがたいなと感じるようになりました。これは後でも少し述べますが、医者学年が上がっていくと段々人から注意される/指導を受ける機会が減少していきます。このため「本当にこれであっている?」と逆に不安になっていくものです。少しでもフィードバックの場があることは非常に貴重なことです。

3:ではどのようにアウトプットするか?

では具体的にどのようにアウトプットするか?に関してですが、医学では論文を書く事と学会で発表することがおそらく最も質が高く学術的に意義のあるアウトプットになります。しかし、論文や学会での発表はその性質上常に新規性が求められます。もちろん新規性が何か?という視点で臨床を行うことは臨床能力の向上に非常に有用なのですが、初期研修や後期研修の段階でこのレベルを目指すのは現実的になかなか大変です。

日常臨床では新規性は無いけれど勉強になる症例、経験が沢山あります。上級医の先生からすると「こんなのよくあることだよ」と新規性がなくあまり興味を持たないような内容でも初学者からすると非常に勉強になることはよくあります。例えば右季肋部痛の患者の原因が肺塞栓症であった症例を経験したとします。肺塞栓症で右季肋部痛を呈することは既報がたくさんあり、それ自体に新規性は全くありません。しかし、普段どれだけ多くの医者が右季肋部痛で肺塞栓症を気にしているかというとそこまで考慮できていないのではないかと思います。こういった内容は新規性はないけれどメッセージ性があります(「右季肋部痛を呈する肺塞栓症があり注意するべき」)。

こういったメッセージ性のある内容を記録に残す、シェアする、そしてアウトプットする事は学習過程でとても有用です(特に初期研修や後期研修の段階で)。これらをアウトプットする方法の一つは院内での勉強会・レクチャー症例をシェアする検討会を同級生などと設けることです。これは院内で開催する分には情報の個人情報も保たれるため良い方法です。

また勉強した内容をアウトプットするにはホームページを立ち上げる、ブログを書く、SNSで発信するなども有用な方法です。私は卒後5年目までは唯一のアウトプット活動がレクチャーを開催する事で出来ていましたが、それ以外には特に出来ていませんでした。そこで自分なりに調べて、私はhtmlが書けないためhtmlが使用できなくてもホームページを開設できる”Wordpress”を利用してホームページ開設することにしました。

アウトプットする事で他の人と容易にシェアが出来ることと、同じような経験をした人とつながることで「やっぱりそうなんだ!!」とより確信に至ることができるメリットがあります。また自分が間違っている点を他の方からご指摘頂けたり、自分の知らない知識を読者の方が補完してくれたりと良い学びの循環が流れるようになります。

医者は学年が上がるにつれて単独で医療を行うようになる割合が増えるため(外来など)、必然的に他の医師から間違いを指摘される/注意される機会が減ります。怒られるストレスは減るかもしれませんが、その分我流の医療になりやすいため自分なりの学習スタイル/他者からのフィードバックを得られるシステムを構築する必要があります。積極的に論文化する、学会発表をするといった方法が学術的には最も有用で、その他に今の時代はソーシャルネットワークを利用した方法もあるため積極的に活用すべきと思います。特にまだ卒後間もなくなかなか発信する場が無い方にはソーシャルネットワークは有用な方法と思います。

発信するときに「そんなの当たり前だよ」という返答が返ってくる可能性に躊躇してしまうかもしれませんが、「きっと他の人も知らずに困っている内容かもしれない」という思いから積極的に発信してよいと思います。私の記事も専門家からすれば微妙に間違っていることや当たり前のことばかりかもしれませんが、少なくとも私は知らなかったのできっと誰かの役に立つかもしれないという思いで記事を書くようにしています。

4:アウトプットを始める方へ

私はホームページでアウトプットをしているので、ホームページを媒体としてアウトプットを始める方向けにどこまで参考になるか分からないですが、励ましと応援のメッセージを送りたいと思います。もちろんその他のSNS媒体の方にも一部参考になればと思います。

■最初はめちゃ時間がかかる

最初はまず自分の日本語能力の無さと整合性の確認などで記事1つ作るのにとんでもない時間がかかりました。これは当初結構大変ですが、慣れてくると記事を書くスピードも段々と速くなりました。書くスピードが上がっただけでなく、無理に完璧を求めずに60点くらいの記事で良いという気持ちでどんどん書くスタイルに変わったことも関係しているかもしれません。当初は接続詞1つですら気になりましたが、最近は良くも悪くもあまり気にせずどんどん書く様になったため一つの記事にかける時間は短くなりました。

■始めたころは誰も読まないのは当たり前、記事の数が50-100個くらになるとGoogleで表示されるようになる

当たり前ですがホームページを始めた当初は本当にほぼ誰も読んでくれません。記事はGoogle検索では全く表示されないし、SNSで通知した身内の方々がぽつぽつ少し読んでくれるくらいです。私はこのような環境が当初逆に気楽だったので、半分以上自分のために、忘備録的にコツコツ記事を書き続けていました。記事の数が50位になって初めて全く見ず知らずの方が記事にコメントを付けてくださるようになりました。ここから少しずつ交流が生まれる様になり、記事を更新していく作業が楽しくなっていきました。また100くらいになるとGoogle検索でいくつかの記事がキーワード検索で上位の方に表示されるようになり、Google検索から自分の記事を読んでくれる人が増えるようになりました。記事の数が30-40くらいでGoogle検索でかかるようになることはおそらくかなり難しいことで、私はSEO対策に詳しくないのですがSEO対策を頑張るよりも純粋にいい記事を書くことを心がけていきGoogle検索の順位はあまり気にしなくてよいのではないかと思います。

■やっぱりやりがいがあること!

全く見ず知らずの方から「わかりやすい記事をありがとうございました!」とコメントが付くとそれはとても嬉しいものです。また私は研修医の先生への教育で自分のホームページを利用しているので、救急外来で研修医の先生達が自分の書いた記事をスマートフォンで見ながら話し合っている光景を目にすると「ホームページを続けていて良かったな」と思います。

最初は少ししんどいかもしれませんが、軌道に乗ると結構楽しくなってきます。まだまだ弱小ホームページ(ブロガー???)ですが、私でよければ相談に乗ることもできますのでなんでも質問してください。

ちなみに私がアウトプットするきっかけになった本は以下の本です。