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NORSE:new-onset of refractory status epilepticus

「これまでてんかんの既往がない患者が、発熱を契機に薬剤抵抗性の難治性てんかん重積をきたす症候群」が指摘されるようになり、近年ではこれをまとめて“NORSE(new-onset of refractory status epilepticus)”と総称しています(元々発症年齢により名称が違っていました)。Ann acad med singapore 2005;34:417で初めてこのNORSEという概念が定義されました。

最新では2018年にEpilepsia 2018;59:739で定義が提唱されており、そこには”NORSE is a clinical presentation, not a specific diagnosis, in a patient without active epilepsy or other preexisting relevant neurological disorder, with new onset of refractory status epilepticus without a clear acute or active structural, toxic or metabolic cause.”と記載があり、あくまで特定の疾患名ではなく、臨床的な状態を表現している言葉という点に注意が必要です。

このうち原因が特定できるものが半数程度あり、その多くが傍腫瘍症候群か自己免疫性脳炎によるものです(下図に原因のまとめを掲載します)。自己免疫性脳炎に関してはこちらをご参照ください。原因が特定できない特発性のものが残りの半数程度あり、これをCryptogenic-NORSE(C-NORSE)と表現します。以下ではこのC-NORSEに関してまとめていきます。

C-NORSE

先ほど申し上げたようにNORSEのうちで原因が特定できないものがC-NORSEに該当します。以下の8項目がC-NORSEの特徴として挙げられます。最初の6項目のうち5つ以上を満たす場合をC-NORSEと判断する方法が提唱されています(これをC-NORSE scoreと表現します)。これら5つ以上を満たす場合は抗NMDA受容体抗体などの自己抗体を検出できる可能性は低く、通常の抗てんかん薬に治療抵抗性であることが示唆されます。通常自己抗体の結果が出るまでには時間がかかるため、臨床の最初の現場ではこれらの指標を参考に対応するのが良いと思います。

C-NORSE11例と抗NMDA受容体関連脳炎32例を比較して論文(Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2017;4:e396;doi: 10.1212 飯塚先生からのご報告)では、C-NORSEでは抗NMDA受容体関連脳炎と比較して発熱の先行(91%)、人工呼吸管理(100%)、頭部MRIでの左右対称の信号変化(73%)、髄液蛋白上昇53mg/dL、予後不良(mRS 3-6 73%)、C-NORSE score 6点(抗NMDA受容体関連脳炎は中央値0点)といった項目が有意に多く、逆に当初の精神記憶障害、不随意運動、髄液OCB陽性、腫瘍合併などは抗NMDA受容体関連脳炎で有意に多い結果でした(下にまとめます)。この結果から分かるようにC-NORSEと抗NMDA受容体関連脳炎は臨床的に区別するべき病態であることが分かります。

画像検査

70%程度に異常所見を認め、てんかん発症時には明らかな異常所見を認めないが、フォローすると左右対称性のDWI/T2/FLAIR高信号領域を認めたと報告されています。また普段注目しない解剖構造ですが、前障(claustrum)に信号変化を認めることが特徴的とされています。

以下に時系列での頭部MRIの経過を1例掲載します。以下ではてんかん重積発症時には所見がはっきりしませんが、フォローアップで左右対称の信号変化が明瞭になってきています。

まずは治療可能な原因を特定することが重要なのです。以下のアルゴリズムでアプローチすることが提唱されています。

治療

まず原因が特定出来る場合はその治療をします。C-NORSEでは抗てんかん薬単独ではほとんど効果がなく、75%程度の患者で麻酔薬持続静注が必要となります(1/3の症例では複数の麻酔薬がてんかん発作をコントロールするために必要となります)。

C-NORSEの治療で前向き研究はなく、いずれもExpert opinionです。現状は最初の時点では自己抗体が関与している病態かどうか分からないこともあり、免疫治療を行います。先ほどのC-NORSE11例の報告では1st line immunotherapy(具体的にはステロイドパルス療法・免疫グロブリン療法・血漿交換療法)に反応したのは2/10例のみでしたが、2nd lin immunotherapyのシクロフォスファミド投与では4/5例で反応があったとされ早期からの免疫抑制治療が重要であることが示唆されます。C-NORSE scoreが5点以上の場合は、抗神経抗体が検出される可能性が低く早期から2nd line immunotherapyへ移行することも今後検討されるかもしれません。

以上NORSEに関してまとめました。3次救急病院に勤めていると年に1例は全く原因が分からないけどてんかん重積が初発で止まらない患者さんに出会います。NORSEは比較的新しい概念ですので、今後もup dateしていければと考えております。

参考文献

・Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2017;4:e396;doi: 10.1212 C-NORSE scoreの提唱をした論文でC-NORSEの臨床像を理解するための示唆に富んだ素晴らしい内容です。

・Sculier, C., Seizure: European Journal of Epilepsy, https://doi.org/10.1016/j.seizure.2018.09.018 NORSEの包括的なreviewです。