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NSAIDsによる無菌性髄膜炎

教科書で無菌性髄膜炎と調べると必ず、薬剤性:NSAIDsと記載があります。認知はされているけれど、「NSAIDs髄膜炎の特徴は何か?」と質問されると答えに窮するため調べた内容をまとめます。

以下の内容はイブプロフェンによる無菌性髄膜炎36人の71エピソードをまとめたもので、Medicine 2006;85:214より参照しました。NSAIDs髄膜炎の報告はそのほとんどが、イブプロフェンによるものです。その他のNSAIDsによるもの(ジクロフェナク、スリンダク、ナプロキセン、ケトプロフェン、トルメチン、ピロキシカム、ロフェコキシブ、セレコキシブ)も報告があります。1978年に26歳女性SLE患者さんがイブプロフェンによる無菌性髄膜炎をきたした報告に端を発します。

疫学・背景

年齢:41歳中央値(21-74歳)
性別:女性64%
再発性:61% 再発回数:2-4回
背景疾患:61%自己免疫疾患39%SLE、関節リウマチ2.8%、シェーグレン症候群2.8%)

このように自己免疫性疾患を背景に持つことが多いため、イブプロフェンによる無菌性髄膜炎をきたした患者さんでは背景に自己免疫性疾患がないかどうか?調べるべきとされています(重要!)。もちろんこのような自己免疫性疾患が背景にない健康な患者でも起こります。なぜ自己免疫性疾患が背景にあると起こりやすいか?は不明です。イブプロフェンの髄液中濃度が高い訳ではなく、イブプロフェンの投与量と関係なく、また再度暴露されるとすぐに反応が起こること(数時間のこともある)から抗体が関与していることが示唆されます。

症状

症状は頻度が多い順に発熱69%、意識変容58%、頭痛52%、項部硬直46%、嘔気嘔吐42%、関節痛筋肉痛17%、皮疹14%、低血圧13%、結膜炎11%、光線過敏11%、神経学的巣症状8%、腹痛7%、視野がぼやける7%となっています。

薬剤暴露から症状発症までは24時間以内のことが最も多いです。しかしそれよりも長い場合もあります。

細菌性髄膜炎と一見見分けがつかないような急性経過を呈することもあるため注意が必要です。しかし、薬剤投与を中止すると通常すぐに症状は改善し、神経学的予後が悪くなる報告はありません。

髄液所見

細胞数:中央値280個/μL(9-5,000)、 多核球優位 72.2% リンパ球優位 20.4% 単核球 3.7% 好酸球有意 1.8%
蛋白:132 mg/dL (32-857)
糖:62 mg/dL (27-109)

細胞数上昇は通常好中球優位なので細菌性髄膜炎と間違える場合もあります(単核球優位かと思うかもしれないですが、意外と多核球優位が多いので注意です)。糖は通常正常であり鑑別点として重要です。

治療

原因薬剤の中止(つまりイブプロフェンの中止)しかありません。ステロイドの使用を検討する報告もありますが、症例数が少ないためもちろん前向きの研究はありません。イブプロフェンが原因の場合も、その他のNSAIDsも使用を避ける必要があります。

以下にここで紹介された症例をまとめます。

自己免疫性疾患が背景にある場合の無菌性髄膜炎、再発性髄膜炎では必ず鑑別に入れるべき病態です。また逆にNSAIDsによる無菌性髄膜炎を疑う場合は、必ず背景に自己免疫疾患がないかどうか?を探索するべきです。基本は除外診断ですが、知らないと診断できないので積極的に疑う姿勢が求められます。個人的にはこの論文を読んでだいぶ臨床像のイメージがつきました。