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反復神経刺激試験 RNST: repetitive nerve stimulation test

RNST: repetitive nerve stimulation test(別名:Harvey-Musland test)に関して解説します。重症筋無力症を疑った場合に検査をすることが多いですが、「RNST陽性≠重症筋無力症」という点に注意が必要です(あくまで神経筋接合部の異常を検出するための検査です)。ここでは2,3Hzで行う低頻度反復刺激に関して解説します。

1:方法

刺激強度:最大上刺激(supramaximum)で刺激
*刺激強度が強いと疼痛で力が入ってしまう。刺激頻度は変えられないため、神経の真上に出来るだけ当てるように努力が必要。
*神経ごとに最大上刺激の強さは異なります。

刺激頻度:3Hz・10発 2セット行う
*まず1Hzで実施して問題ないことを確認してから、3Hzで本番
*セットごとにhabituationを防ぐため30秒程度時間を開ける必要がある

■記録電極:Belly-tendon法に準じて、赤と黒の基準電極を使用
*筋肉の長さが変わらないようにする

■実施部位
1:鼻翼筋(nasalis) 顔面神経 
顔面神経が茎乳突孔から出た部位で刺激。最大上刺激を得られる刺激強度は30mAを超えることが多い。

2:眼輪筋(oculi) 顔面神経
刺激部位は鼻翼筋と同様。

3:小指外転筋 ADM 尺骨神経
第2-5指をバンドで固定して動かないように(筋の長さが刺激毎に変わらないように)する。刺激部位は尺骨神経の神経伝導速度検査と同様。

4:僧帽筋 Trapezius  副神経
刺激部位は胸鎖乳突筋の後方(10mA程度で最大上刺激を得られることが多い)。特に筋の固定が難しいため注意が必要。座位で手を尻の下にしいてもらい、かつ他人が肩を手で押さえる必要がある(臥位で行う方法、座位で行う方法どちらもある)。pseudofascilitationを避けることが出来る。

■アース:シール型を頬に貼る

その他注意点
温度に注意(低温ではdecrementが起こりにくい:重症筋無力症で”ice pack test”があることからわかるように)一般的には33度以上で一定の状態にあることが望ましい。
抗コリンエステラーゼ阻害剤の内服があるか事前に確認しておく

2:波形

・正常では変化ないが、典型的な減衰現象(waning, decrement)では下図のような“J-shape”を呈することが多い(重症筋無力症の場合)。
・1発目と5発目を比較し、5発目の減衰率>10%を減衰減少(waning, decrement)陽性とする(再現性が高い場合は5%でも陽性とすることもある)。
・amplitude:“baseline to peak”で測定する。

3:解釈

「RNST陽性=重症筋無力症」では無いという点に注意が必要です。RNSTはあくまでも神経筋接合部の異常を検出する検査であり、Lambert Eaton筋無力症候群や運動ニューロン疾患などでもdecrementを認めるため注意が必要で以下に解説します。一般的に筋疾患(ミオパチー)でabnormal decrementを認めることはないため、筋疾患との鑑別の入り口でも重要な検査です。
*RNSTでdecrementを認める疾患:重症筋無力症、Lambert Eaton筋無力症候群、ボツリヌス、有機リン中毒、ALS、頚椎症性神経根症、SBMAなど(筋疾患では認めない)

■重症筋無力症

・感度:全身型70%(眼筋型:40%)、特異度:低い(抗ACh受容体抗体型>抗MuSK抗体型)
・全身型での検出部位:僧帽筋>顔面筋>手(ADM)  *近位筋で異常所見を検出しやすい
・眼筋型は感度が低い(20-30%)→理由としては上眼瞼挙筋を直接調べられている訳ではないため、眼輪筋で代用しても意味がないことが多い。重症筋無力症では障害されている筋と近接している筋が同様に障害されているわけではない(異なっている)ことが特徴である。

■Lambert Eaton筋無力症候群

decrementを認めるが、重症筋無力症のJ-shapeとは異なり1発目から10発目まで徐々に振幅が下がる現象を認める(下図自験例)。ついつい波形の推移だけに目が奪われがちであるが、「RNSTの一発目のCMAP ampが小さい」ことがLEMSでは特徴的な所見であり、RNSTでは毎回1発目のCMAP ampをきちんと確認する習慣をつけるようにする。臨床像がLEMSとMGは似る場合が多く、RNSTの結果で典型的なMGではないと違和感を持つことでLEMSの診断につながる場合もあるためRNSTの解釈が極めて重要です。Lambert Eaton筋無力症候群に関してはこちらもご参照ください。

以下にLEMSとMGでのRNSTを比較して掲載します(図はNeuromuscular Disorders 16 (2006) 454–458より引用)。MG(下段)ではJ-shapeを呈するのに対して、LEMS(上段)では段階的にCMAP ampが低下していくことがわかります。

ここでLEMSとMGの電気生理所見の違いを簡単にまとめます。

■運動ニューロン疾患

運動ニューロン疾患でもRNSTでdecrementを認めることは知られており、重要です。頚椎症性筋萎縮症とALSの鑑別で僧帽筋のRNSTが有用であったという報告もあります。

*運動ニューロン疾患と重症筋無力症でのRNS検討 Clin neurophysiol 2011;122:2530

・>5%のdecrementを最低1箇所の筋肉でMND患者83%、全身型MG74%、眼筋型MG47%に認めた。
・特にMNDではdeltoid, trapeziusなどの近位筋で高頻度にdecremetを認めた(MND: deltoid 76%, trapezius 71%)。一方で鼻翼筋ではdecrementは8%と認める頻度はまれであった(全身型MGでは54%)。以下がその具体的な筋ごとのdecrement頻度。

「RNST陽性=MG」というイメージを持たれてしまいがちですが、実際にはさまざまな疾患で異常所見がでることが指摘されており、またMGでの感度も100%ではありません。このため波形の丁寧な解釈と検査の感度、特異度を理解した解釈が重要です。

*参考:先天性筋無力症候群 CMS: congenital myasthenic syndromes

病態:神経筋接合部に発現する遺伝子の先天的な変異により神経筋接合部障害をきたす
臨床像
・多くは2歳以下に発症するが、成人発症例もあるため注意が必要
・日内変動や易疲労性がはっきりせず(重症筋無力症と異なり)「日差変動」が目立つ例がある
・骨格筋の低形成を認める場合がある
診断
・反復神経刺激試験:waningを認める・こちらを参照 *強収縮後のCMAPも必ず確認する
*もちろん自己免疫疾患ではないため重症筋無力症での抗AChR抗体などの自己抗体は陰性である
*診断基準は存在しない
・対症療法としてピリドスチグミン効果あり

参考文献
・脊椎脊髄 32(5): 541-546, 2019 「反復神経刺激検査」特にALSと頚椎症の鑑別のために 著:畑中裕己先生