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セフェム系抗菌薬

1:分類

ペニシリン系と並んで抗菌薬の基本となります。細胞壁合成阻害、殺菌性、時間依存性といった特徴はペニシリン系と同様です。

セフェム系抗菌薬の特徴として重要なことは、
髄液移行性第1-2世代はないですが、第3世代からはあります
嫌気性菌カバーセフメタゾール以外基本的になし or 弱い
・セフェム系全般においてListeria腸球菌のカバーがない(Listeriaは特に細菌性髄膜炎の患者でカバーする必要があるかどうかで重要です)。
世代が上がるごとにGNRのカバーが強くなる
といった点が挙げられます。具体的な薬剤を分類すると下図になります。

2:各論

2.1:第1世代セフェム系 セファゾリン CEZ

特徴としてはペニシリン系ではカバーできないGNR(K.pneumoniaeなど)をカバーしている点が挙げられる点とMSSAへの効果が高い点(第1選択)があげられます。特に後者の点は重要で「抗黄色ブドウ球菌セファロスポリン」の位置づけになっているため重要な抗菌薬です。

投与量は腎機能問題なければ 2g q8hr が標準投与量です。

使用するべき状況は、
・MSSA感染症
・蜂窩織炎の初期治療
・Klebsiella感染症(感受性ある場合第1選択)
・周術期予防抗菌薬投与
が挙げられます。

問題点は髄液移行性がない点にあります。MSSAが起炎菌の感染性心内膜炎で脳に微小出血や梗塞がある場合、MSSAが起炎菌の脳膿瘍などをどのように治療するかが問題です(海外にはMSSA用のnafcilllin, oxacillinという抗菌薬がありこのような問題はないのですが・・・・)。

2.1:第1世代セフェム系 セファレキシン CEX

セファゾリンの経口薬version(商品名:ケフレックス®、センセファリン®)です。bioavailavilityは約90%と優れています。

使用するべき状況は、
・外来で治療可能な皮膚軟部組織感染症
が挙げられます。

2.2: 第2世代セフェム系 セフォチアム CTM

特別「この菌にすごく有用です!」という特徴には乏しい抗菌薬です(商品名:パンスポリン®)。

投与量は腎機能問題なければ 2g q8hr が標準投与量です。

第2世代セフェムは使用するべき臨床状況がないという意見もありますが、積極的に第2世代セフェムを使うべき適応があるというよりも、「第1世代セフェムを温存するために第2世代セフェムを使う」という選択肢があると思います。私は初期研修先の病院ではセファゾリン温存のためにE.coli感染症に第2世代セフェムを使用していました。これは施設ごとの判断になるかと思います。

対応する経口抗菌薬が存在します(商品名:パンスポリン®)。

2.2: 第2世代セフェム系(正確にはセファマイシン系) セフメタゾール CMZ

特徴は第2世代セフェム系に加えて嫌気性菌カバーが加わって点があります。日本独自の抗菌薬のためサンフォードといった海外の抗菌薬ガイドには記載がありません。

投与量は腎機能問題なければ 2g q8hr が標準投与量です。(腎機能での投与量調節はサンフォードには記載ないですが、セファゾリンと同様で問題ないです)

使用するべき状況は、

・腹腔内感染症、胆道感染症
・PID
・下部消化管術前投与
・ESBL産生菌による尿路感染症(菌血症に至っていない場合)

などが挙げられます。

上記に挙げたように、ESBL産生菌にも効果があることが知られています。菌血症ではない、ESBL産生菌の尿路感染症では日常臨床でも使用する場合が多いです。大規模臨床試験がある訳ではないので、現状はESBL産生菌による菌血症の場合はカルバペネム系抗菌薬を使用した方が安全と思います。

2.3:第3世代セフェム系 セフトリアキソン CTRX

基本的に全ての腸内細菌科に効果があり、GNR coverに非常に強い抗菌薬です(院内感染症の「SPACE」のうち、S: Serratia, A: Acinetobacter, C: Citrobacter, E: Enterobacterをカバーする)(商品名:ロセフィン®)。またGPCに関しても、PRSP(penicillin resistant Streptococcus pneumoniae:ペニシリン耐性肺炎球菌)の第1選択です。

何より第3世代からの特徴として髄液移行性を獲得している点が挙げられます。細菌性髄膜炎において初期投与のkey drugです。

投与量は腎機能によらず 1-2g q24hrが標準投与量で、細菌性髄膜炎の場合は2g q12hrです。(セフェム系で唯一の肝代謝の薬剤です)

使用するべき状況は、
・細菌性髄膜炎の初期治療
・H.influenzaeの初期治療(BLNARのカバーも含めた)
・PRSPカバーを外せない重症肺炎球菌性肺炎
・GNRによる重症市中肺炎
・淋菌感染症
(ペニシリン耐性が多いため)
などが挙げられます。

経口薬は存在しますが、bioavailabilityが低く第3世代セフェム系抗菌薬の経口薬は基本的に使用しません。日本ではよく処方されてしまっている抗菌薬の代表例ですが、基本的に外来で処方する場面はないと思っていただいてよいと思います。

2.3:第3世代セフェム系 セフォタキシム CTX

カバーする菌や移行性は基本的に上記のセフトリアキソンと同様です(商品名:セフォタックス®)。施設ごとにどちらを使用するかは差があります。セフトリアキソンが肝代謝であるのに対して、セフォタキシムは腎代謝です。

投与量は腎機能問題なければ 2g q8hr が標準投与量です。

使用するべき状況も基本的にセフトリアキソンと同様です。セフトリアキソンよりもCDIの発症リスクが低い可能性があり、こちらを好んで使用する先生もいらっしゃいます。

2.3:第3世代セフェム系 セフタジジム CAZ

緑膿菌カバーを加えた特徴があります(商品名:モダシン®)。この抗菌薬の弱点はGPCに対して弱いという点があります。ただGNRは緑膿菌を含めて広くカバーすることから、GNR全般に非常に強い抗菌薬といえます。

投与量は腎機能問題なければ 1-2g q8hr が標準投与量です。対応する経口抗菌薬はありません。

2.4:第4世代セフェム系 セフェピム CFPM

セフタジジムの弱点であったGPC(MSSA)に対しての効果が強化されている広域抗菌薬です(商品名:マキシピーム®)。

投与量は腎機能問題なければ 1-2g q8hr が標準投与量です。

使用するべき状況は、
・FN
・脳外科術後髄膜炎

が挙げられます。

以上セフェム系抗菌薬をまとめました。ペニシリン系とセフェム系抗菌薬をきちんと正しく使えて初めてその他の抗菌薬(テトラサイクリンなど)を使えるようになります。覚えることが多いですが、基本として身に付けましょう。