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Vestibulo-ocular reflex VOR 前庭動眼反射

  • 2026年1月20日
  • 2026年1月21日
  • 神経

脳幹反射

項目求心路脳幹遠心路
対光反射中脳(Edinger-Westphal核)Ⅲ(副交感神経)
角膜反射
前庭動眼反射(VOR)Ⅷ(前庭神経)橋~内側縦束~中脳・PPRFⅢ,Ⅵ
咳嗽反射Ⅸ, Ⅹ延髄孤束核~咳嗽中枢Ⅸ, Ⅹ, 呼吸筋

評価方法

方法1:眼球頭反射 Oculocephalic reflex/OCR

・前提条件:意識障害患者(覚醒状態では注視により抑制されるため評価困難)
・意義:高周波数
⇒刺激自体はカロリックテストと比べて弱いので、反射が誘発されなかった場合に即脳幹障害とは限らず、カロリックテストで確認する
・やり方:素早く水平方向(左右いずれか)に頭部を素早く回旋させ、数秒間保持し眼球の動きを観察する
・脳幹が正常の場合:頭位変換と対側に眼球が偏移してその後正中位に戻る(あたかも眼球が回転する頭部によって「置き去り」にされたかのような動き)
・脳幹器質的障害の場合:反射は誘発されず眼位は正中のまま
*完全な暗闇や睡眠中のように視標の固定が不可能な場合でも、急速な受動的頭部回転は同様の眼球反応を生じる

方法2:カロリックテスト

意義:眼球頭反射より刺激は強く非生理的(低周波数)⇒眼球頭反射で反射が誘発されなかったとしても、カロリックテストで誘発される場合がある
覚醒(脳幹障害なし):冷水刺激と”対側”へ眼振を認める(緩徐相は刺激側、急速相は刺激側と対側) 覚え方COWS”cold opposite, warm sam” *冷水により前庭機能障害を作成している
意識障害(脳幹障害なし):冷水刺激側へ偏移する(代償性の眼振は認めない)
⇒心因性では覚醒しているので眼振を認める点が鑑別点として有用

VORに影響を与える要素

1:覚醒(眼球頭反射の場合)大脳皮質から抑制をうけているため
2:鎮静系薬剤(ベンゾジアゼピン系など)
3:末梢前庭障害(メニエール病など)

まとめ

項目眼球頭反射 Oculocephalic reflexカロリックテスト Caloric test
評価する条件意識障害あり意識障害あり・なし
覚醒による抑制ありなし
刺激高周波数・弱い低周波数・強い
脳幹障害なし眼球は頭部変換と対側へ向いた後に正中位に戻る意識障害なし:冷水刺激と対側に眼振 意識障害あり:冷水刺激と同側へ眼球偏移
脳幹障害あり眼球正中位のまま ⇒刺激が弱いことにより偽陰性の可能性あり、カロリックテストを行う反応なし
抑制される原因鎮静系薬剤鎮静系薬剤

参考文献:Plum and Posner Stupor and Coma

文献

Significance of Oculocephalic and Caloric Responses in the Unconscious Patient Neurology 1957

“Absent vestibulo-ocular reflexes and acute supratentorial lesions” Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry, 1975, 38, 6-10

抗発作薬内服中に前庭動眼反射の消失を認めた2症例の報告:11歳男児AVM意識障害でフェノバルビタール、フェニトイン投与あり、22歳男性CVTで投与され前庭動眼反射消失 いずれも意識障害の症例で、どちらも対光反射などは保たれていた(眼球頭反射、カロリックテストいずれも消失)

従来:前庭動眼反射の消失は①脳幹の器質的障害または②重度代謝性脳症を示唆
⇒今回2症例では脳幹の器質的障害はなく、血中濃度も正常範囲内
機序の考察:急性脳病変による広範な機能不全が脳幹や中脳網様体に影響を与え、そこに治療域のASMが加わることで、前庭動眼反射の基盤となる脳幹機能が一時的に抑制された可能性

メッセージ:急性脳病変を持つ患者において前庭動眼反射が消失していても、それが直ちに不可逆的な脳幹損傷を呈しているとは限らない(今回は急性大脳病変+ASMによる影響)

“Selective Abolition of the Vestibular-Ocular Reflex by Sedative Drugs” Neurocrit. Care 2007;06:45–48.

・背景:昏睡障害のVOR消失の鑑別は①脳幹器質的障害、②Wernicke脳症(VORを選択的に消失させる代謝性・中毒性疾患として一般的に広く認知されている唯一の疾患とされていま)、③特定の薬物中毒
・3例のVOR(カロリックテスト、頭位眼反射いずれも両側性に障害)が選択的(その他の脳幹反射は全て性状)かつ薬剤終了後24時間で可逆的に障害された症例報告(それぞれミルタザピン+バクロフェン、フェンタニル、アナフラニール)

患者原因薬剤入院初期に投与されたその他薬剤VOR消失時に確認された脳幹反射VOR回復までの時間
症例1(45歳 男性)ミルタザピン 225 mg、バクロフェン 200 mgサクシニルコリン 140 mg、プロポフォール 100 mg(検査7.5時間前)、ベクロニウム 10 mg(検査6時間前)、ミダゾラム 5 mg 静注(検査2.5時間前)瞳孔(対光反射)、角膜反射、咽頭反射、咳反射入院から24時間未満
症例2(74歳 男性)フェンタニル 50 mg/時、ミダゾラム 2 mg(8時間前および7時間前)(記載なし:上記のミダゾラムが含まれる可能性あり)瞳孔(対光反射)、角膜反射、咽頭反射、咳反射薬剤中止後24時間
症例3(63歳 男性)アナフラニール(その他の維持薬:リチウム)プロポフォール 50 mg(5.25時間前)、ベクロニウム 6 mg(4.75時間前)、ミダゾラム 2.0 mg(4.7時間前)瞳孔(対光反射)、角膜反射、咳反射、咽頭反射24時間

・病態考察
・GABA受容体:前庭神経核を抑制 その他の脳幹反射を保ちながらVORを選択的に障害する可能性がある
・セロトニン、コリン、オピオイドも関与する
・メッセージ:鎮静系の薬剤はVORを選択的に障害しうるため、昏睡患者の神経学的評価上は留意すべきである

“RELIABILITY OF THE VESTIBULO-OCULAR REFLEX AS AN INDEX OF THE EFFECTS OF HYPNOTIC DRUGS ON THE CENTRAL NERVOUS SYSTEM” Br. J. Anaesth. (1984), 56, 325

・目的:VORの変化と麻酔深度(言語命令への反応消失、疼痛刺激への反応消失など)との間に相関関係があるかを観察し、VORが中枢神経系への薬物作用の信頼できる指標となるかを検証すること
・結果:麻酔薬(チオペンタール)を増量するとVORは抑制される相関関係があり、麻酔深度を評価する上での指標になりうるということを指摘している