失神の原因として最も多いのがVasovagal syncope(VVS)ですが,安易に過剰診断している例と逆に不必要な検査に走る例(特にてんかん疑いとして紹介されることがとても多い)が多い印象があります。つまりVVSらしさというところの検証が甘いまま安易に診断するか,除外診断に走ることが多い印象です。VVSについて私も充分語り切れないため改めていろいろ調べました。特に病態に関してはまだ解明されていないところが多いです。
病態
病態は解明されていないですが、2つの包括的な論文を紹介します。
“The pathophysiology of the vasovagal response” Heart Rhythm2018;15:921–929
第1相:早期安定化
直立姿勢への移行は、重力により約500~1000 mLの中心血容量(CBV)が横隔膜下の血管に急速かつ大量に移動する(静脈血の貯留)ことを誘発します。
• 血行動態の維持: CBVが低下すると、心拍数(HR)の増加がSVの低下を補いきれず、COが10%~20%減少します。
• 代償メカニズム: 平均動脈圧(MAP)は、内臓および骨格筋の細動脈におけるバロレフッレクスを介した血管収縮による急速な全身血管抵抗(SVR)の増加によって維持されます。
• 内臓血管の役割: 内臓血管収縮はSVRを増加させるだけでなく、下流の容量性細静脈の充満を制限し、受動的な静脈反動により心臓への血液還流を増やす上で最も重要なメカニズムと考えられています。
第2相:循環不安定性(早期前失神)
安定化の後、傾斜試験陽性の成人患者は第2相に入ります。
• 特徴: 収縮期血圧(SBP)の低下(約20 mm Hg)、COの低下、および血圧変動性の増加によって特徴づけられます。
• SVR: SVRは、内臓および骨格筋細動脈の持続的なバロレフッレクスを介した血管収縮により、漸進的に増加したまま維持されます。
• 血圧変動: 血圧変動の増加は、マイヤー波(Mayer waves、約0.1 Hzの周期的な変動)として現れ、これはCBV低下に応じたバロレフッレクス調節性の血管収縮活動(MSNAバースト)の増加を反映しています。
第3相:終末期低血圧(後期前失神)と失神
この相は、失神前の最終的な30~60秒間でSBPが約50 mm Hg急速に低下することによって特徴づけられます。
• 症状と発生: MAP、血圧変動性、HRが低下します。温感や吐き気(自律神経活性化の症状)および集中力や視力の喪失(脳灌流低下の症状)がこれに一致して起こります。心臓レベルでの絶対SBPが60 mm Hgを下回ると失神が発生します。
• 主要な低血圧メカニズム: すべての患者において、終末期低血圧のメカニズムは、SVRの低下を伴うか否かにかかわらず、COの低下です。
• 成人患者の場合: COの低下が主要な低血圧メカニズムです。COはベースラインから35%~48%減少し、SVRは常にベースラインレベル(112%~144%)を上回ったまま維持されます。この事実は、血管拡張が優位なメカニズムであるとした古典的な見解が成人においては過大評価されていたことを裏付けています。
• 若年患者の場合: 若年者やティーンエイジャーでは、COの低下は成人よりも少ない(ベースラインから13%~30%)ですが、SVRは比較的低く、血管拡張または血管収縮トーンの喪失がより一般的です。進行性の低血圧は、血管拡張またはCOの低下によって引き起こされる可能性があります。
• 神経内分泌の役割: 第3相ではアドレナリン(エピネフリン)レベルがベースラインの最大10倍に急増します。この急増は若年患者でより顕著であり、この年齢層で血管拡張反応がより一般的である理由を説明する可能性があります。
第4相:回復
患者を水平位に素早く戻す(チルトダウン)と、MAPが急速に上昇し、症状が改善します。
• 回復メカニズム: 回復のメカニズムは主に心臓性です。体位を水平に戻すと、横隔膜下の容量性血管から中心胸部静脈および右心臓への血液が急速に輸血されます。静脈還流の増加は、フランク・スターリング機構(Frank-Starling mechanism)に基づき、前負荷、SV、COを急速に回復させます。
• 遷延性低血圧: 一部の患者は「遷延性失神後低血圧」(PPFH)を経験し、蒼白、不快感、徐脈(HR <60 beats/min)、および低血圧(SBP <80 mm Hg)が最長5分以上続くことがあります。PPFHの原因は、血管拡張によるものではなく、心臓の収縮力の低下(過度の迷走神経活動と心臓への交感神経流出の減少に起因)によるSVとCOの回復遅延であることが示されています。

年齢による違いの強調 個人間の変動の最も重要な要因は年齢です。
• 若年者/ティーンエイジャー: 第1相と第2相で、著しい起立性頻脈と、SVRの増加の減弱が見られます。第2相では、COは低下しますが、一部の若年患者ではSVRが低下するパターン(VVS-YSVR)や、COが増加する内臓シャントを伴うパターンなど、多様な血行動態プロファイルが存在します。
• 成人: 第2相ではCOの低下がほぼすべての患者で見られ、SVRの単独の喪失は若年患者でのみ発生します。成人では、COの低下が主要な低血圧メカニズムであり、SVRはベースラインレベルを上回って維持されます。
“Vasovagal Syncope New Physiologic Insights” Cardiol Clin 2013;31:75–87.
A. ベースラインと初期の体位性調節(Early Tilt)
ほとんどの患者は安静時に正常な交感神経血行動態指標を持っています。頭部挙上(head-up tilt)の初期数分間、血圧は通常、圧受容器反射を介した血管収縮(HR、総末梢抵抗、筋交感神経活動[MSNA]の増加)によって維持されます。
B. 漸進的早期低血圧(Progressive Early Hypotension)
これは比較的無症状で徐々に始まる段階です。
• 特徴: 可変的な期間の後、血圧(BP)が徐々に低下します(平均BPが最大5分間で約20 mmHg低下)。
• メカニズム: 心臓出力(CO)の漸進的な減少、または心臓出力の減少と血管拡張の同時発生によって駆動されます。
• MSNAとの関係: MSNAと心拍数(HR)は維持または増加しているにもかかわらず、血管拡張が起こることがあり、この段階ではMSNAと総末梢抵抗(TPR)の通常の相関関係が崩れる例が示されています。
• 静脈貯留の関与: 静脈還流の減少による一回拍出量(SV)の減少が考えられます。特に内臓血管床の静脈容量血管(venous capacitance vessels)が重要です。失神患者では内臓の血液貯留が増加する傾向があり、筋肉の緊張や足を組むなどの静脈還流を増やす行動によって失神を延期できるという事実が、この段階での静脈貯留の重要性を示唆しています。
C. 末期血管拡張(Terminal Vasodilatation)
失神前の最後の約2分間に発生する段階です。
• 特徴: BPがさらに急速に低下し(平均BPがさらに40 mmHg低下)、MSNAの抑制(withdrawal)とHRの徐脈化(slowing)が伴います。
• 交感神経抑制: ほとんどの患者で少なくとも部分的なMSNAの抑制が発生し、末期的な血管拡張に至ります。徐脈は通常、BPの急激な低下と交感神経の抑制の後に起こります。
• 結果: 脳灌流の減少により失神が発生します。平均BPが心臓レベルで60 mmHg未満になるか、心臓が7秒以上停止すると、意識喪失の閾値に達します。
下図:”Practical Instructions for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope” European Heart Journal 2018; 39, e43–e80. より

臨床像
誘因
①体位性 postural:立位または座位(最も一般的)
*起立性低血圧は通常立位直後に失神するので立位後どのくらい時間が経過してから失神するか?は両者の鑑別上重要な情報である
②中枢性 central:感情刺激(血液を見る,疼痛など)
③状況性 situational:排尿など特定の刺激
*脱水,アルコール摂取,血管拡張薬や利尿薬があるとより生じやすくなる
前駆症状
・嘔気,冷や汗,顔面蒼白の3つが何よりも重要⇒これはその他の自律神経障害による失神では認めないため病歴での鑑別点としてとても重要
・立位または座位をとってから最低2-3分経過してから前駆症状が出現する1) *起立性低血圧(特にinitial OH)では立位直後に生じることが鑑別点になる
・30秒以上持続する
・progressive presyncope, diaphoresis, a sense of warmth, flushing, nausea, abdominal discomfort, visual blurring, and vision loss 1)
・~1/3特に高齢者では前駆症状をほとんどまたは全く認めないことがある N Engl J Med 2005;352:1004-10. “up to a third of patients (usually older adults) will have little or no prodrome”
CQ:前駆症状(冷や汗,顔面蒼白,嘔気など)はどの病態を反映しているのか?
⇒冷や汗,顔面蒼白はいずれも一般的に交感神経過剰により生じる症状であるが,前駆期に交感神経過剰になることを証明した文献がほぼなく文献により記載が全く異なるため詳細は分からなかった
“Did This Patient Have Cardiac Syncope? The Rational Clinical Examination Systematic Review” JAMA. 2019;321(24):2448-2457. “The efferent vagal component of the reflex leads to autonomic symptoms, such as headache, sweating, a sense of cold or warmth, nausea, vomiting, abdominal discomfort, or urge to defecate” ここでは副交感神経という記載があるが引用文献なし。
“Baroreflex dysfunction” N Engl J Med 2020;382:163-78.では”In the prodromal phase, which usually lasts for 30 seconds or longer, sympathetic efferent activation and epinephrine release cause skin vasoconstriction, with facial pallor, diaphoresis, and piloerection, and nausea and gastric discomfort are common.”と交感神経過剰になるという記載がありますが、引用文献はなし。
前駆症状の病態を検討した文献 ”Haemodynamic changes early in prodromal symptoms of vasovagal syncope” Europace (2002) 4, 333–338
63人のVVS患者がチルトテスト(60°の体位を45分間保持するウェストミンスター・プロトコル)を受けました。そのうち27人の患者(43%)が失神を発症し、全患者が前駆症状を経験しました。
1. 血圧(BP)の低下 前駆症状の開始時において、収縮期BPと拡張期BPは全患者で一貫して著しく低下しました。
• 収縮期BP: 前駆症状直前の測定値から前駆症状の開始時までに、105±16 mmHgから74±20 mmHgに低下しました(P<0⋅001)。
• 拡張期BP: 68±13 mmHgから51±12 mmHgに低下しました(P<0⋅001)。
意識消失の開始時においては、BPとHRはさらに有意な低下を示しました(P<0⋅001)。
2. 心拍数(HR)の変化
HRは前駆症状の開始時に有意に減少しましたが(89±22から80±25 beats/minへ、P<0⋅02)、BPと異なり変化は一貫していませんでした。
• HRの挙動: 27人の患者のうち、HRは18人(67%)で減少し、8人で増加し、1人で変化しませんでした。
3. 交感神経活動とカテコールアミンの変化
カテコールアミン(アドレナリンとノルアドレナリン)の測定は10人の失神を発症した患者で行われました。
• ノルアドレナリン(Noradrenaline): ノルアドレナリンは、前駆症状直前の測定から前駆症状の開始時、および意識消失時を通して増加しませんでした。これは、交感神経ニューロンの流出が抑制されていることの表れと解釈されます。
• アドレナリン(Adrenaline): アドレナリンは、前駆症状の開始時に有意に増加し(P<0⋅01またはP<0⋅001)、意識消失時にもさらに増加しました(P<0⋅05)。
結論と機序
本研究の結果は、VVSが突然発症する現象ではないことを示しています。前駆症状の開始時にはすでに血行動態の変化が起こっています。前駆症状の開始から意識消失までの間隔は、患者によって異なりますが(10〜125秒)、平均48±36秒でした
失神 1)
・10%程度にミオクローヌスを認めることがある⇒てんかん発作と間違われる場合がある
・意識消失の持続時間は1-2分未満 *高齢者ではより長くなることがある
・意識消失後(数分から数時間)は強い倦怠感を訴えることが多い
疫学 1)
• 累積発生率: 60歳までに、女性の42%、男性の32%が少なくとも1回のVVSを経験します。
• 初発年齢: 最初の失神の年齢の中央値は約14歳で、11歳頃から発生率が著しく増加し始めます。
• 予後: 一般的に良性であり、死亡率の増加は知られていません。
• 再発率: 再発率は高く、多くの報告で全体の1年再発率は**約25%〜35%**です。頻繁に再発する患者は、生活の質の著しい低下をきたすことがあります。
診断=臨床診断
定義 1)
①発作状況:30秒以上の起立姿勢の保持、または情動ストレス・疼痛・医療行為(採血・注射など)への曝露により誘発される。
②前駆症状(前兆):発汗(diaphoresis)、熱感、悪心、蒼白(pallor)などの自律神経症状を伴う。
③循環動態変化:低血圧(hypotension)および相対的徐脈(relative bradycardia)を伴うことが知られている。
④回復期症状:発作後に**倦怠感(fatigue)**を呈する。

Calgary Syncope Symptom Score (Calgary Score)について
“Diagnostic criteria for vasovagal syncope based on a quantitative history” European Heart Journal 2006;27:344–350.
・構造的な心疾患がない患者418人(3次医療機関)に対して質問事項とTilt試験でVVSと診断した群,VVS以外の失神(AVB、SVTなど),原因不明の失神(Tilt試験陰性)に分けて検討。ここでのVVSの診断基準はTilt試験陽性を含む(ただTilt試験のプロトコルは統一されていない)。
・以下の項目で点数≧-2点の場合はVVSの診断に関して,感度 89%, 特異度 90%と報告(各項目で”+”はVVSを示唆し,”-“はVVSの可能性を下げる)
“Diagnosing vasovagal syncope based on quantitative history-taking: validation of the Calgary Syncope Symptom Score” European Heart Journal (2009) 30, 2888–2896
・しかし、その後別のコホート検討で感度87%, 特異度32%と特異度が低すぎることが問題となっている
・特に特異度が低かったのは、心因性偽失神の患者(特異度21%)と、心原性失神の患者(特異度32%)
・Calgary Scoreが一般の病院環境に来院したT-LOC患者の診断の唯一の手段として使用することは推奨できないと結論
| 質問項目 | 該当する場合の点数 |
|---|---|
| 房室ブロック(二枝ブロック)、心停止、上室性頻拍症、糖尿病のいずれかの既往がありますか? | −5 |
| 失神時に目撃者から「顔が青ざめていた(チアノーゼ)」と言われたことがありますか? | −4 |
| 失神が35歳以降に初めて出現しましたか? | −3 |
| 意識消失中のことを何か覚えていますか? | −2 |
| 長時間の座位または立位で、ふらつきや失神発作を起こすことがありますか? | +1 |
| 失神前に発汗や熱感を自覚しますか? | +2 |
| 疼痛刺激や医療処置(採血・注射など)の場面で、ふらつきや失神を起こしますか? | +3 |
治療
“2015 Heart Rhythm Society Expert Consensus Statement on the Diagnosis and Treatment of Postural Tachycardia Syndrome, Inappropriate Sinus Tachycardia, and Vasovagal Syncope” HeartRhythm. 2015 June ; 12(6): e41–e63.
非薬物療法
| 治療法 | 推奨レベル | 詳細 |
| 教育、安心の提供、水分・塩分摂取の促進 | Class I, Level E | 禁忌がない限り、患者への教育と、塩分および水分摂取の促進が指示される。 |
| 身体対抗操作(Physical Counterpressure Maneuvers) | Class IIa, Level B-R | 前駆症状の期間が十分に長い患者に有用。これは、大きな筋肉の等尺性運動によって血圧を上昇させ、失神を回避または遅延させる方法であり、リスクがなく、核となる管理戦略を構成すべきである。 |
| 降圧作用のある薬剤の中止または減量 | Class IIa, Level E | 低血圧を引き起こす可能性のある薬物の中止または減量が有益な場合がある。 |
| チルト・トレーニング | 非推奨 | モニタリング下での反復的なティルトテストは有益な可能性があるが、自宅で静かに長時間立つ練習は有益ではない。長期的なコンプライアンスの低さから、執筆グループは一般的な推奨を控えました。 |
薬物療法(ClassⅡb)
| 薬剤 | 推奨レベル | 詳細 |
| ベータ遮断薬 (Beta-blockers) | Class IIb, Level B-R | ランダム化比較試験では若年者に対する有効性は示されていないが、40歳以上の頻繁なVVS患者に対して検討される場合がある。 |
| フルドロコルチゾン (Fludrocortisone) | Class IIb, Level E | 頻繁なVVSがあり、禁忌がない患者に対して使用を試みることは合理的と考えられる。 |
| ミドドリン (Midodrine) | Class IIb, Level B-R | 頻繁なVVSがあり、高血圧や尿閉がない患者に対して使用を試みることは合理的と考えられる。頻繁な投与が必要で、仰臥位高血圧のリスクがある。 |
| セロトニントランスポーター阻害薬 | 推奨についての言及なし | VVSの予防における有効性には、依然として大きな不確実性が残っている |
参考文献
- “2015 Heart Rhythm Society Expert Consensus Statement on the Diagnosis and Treatment of Postural Tachycardia Syndrome, Inappropriate Sinus Tachycardia, and Vasovagal Syncope” HeartRhythm. 2015 June ; 12(6): e41–e63. まず読むべき
- “Baroreflex Dysfunction” N Engl J Med 2020;382:163-78. 全体的に詳しい
- “Neurocardiogenic Syncope” N Engl J Med 2005;352:1004-10. 情報量少なめであまり有用ではない