注目キーワード

長胸神経麻痺 翼状肩甲

  • 2025年9月4日
  • 2025年9月5日
  • 神経

長胸神経(long thoracic nerve)の支配筋は前鋸筋(serratus anterior)のみ

前鋸筋(serratus anterior)の解剖

・髄節:C5-7 末梢神経:長胸神経


・長胸神経の走行
 ①C5, C6からの枝が中斜角筋の下で合流し、長胸神経の「上部」を形成
*C5, C6は中斜角筋と後斜角筋の間を走行(47.6%), 中斜角筋を貫通して走行(33.3%),中斜角筋の表層を走行する(19%)のパターンがある Clinical Anatomy 2009; 22:476–480.
 ②C7からの枝(長胸神経の「下部」)は、腋窩領域で上部と合流

神経根からの分岐のパターン下図:Clinical Anatomy 2009; 22:476–480.

・起始:肩甲骨(内側縁)
・停止:肋骨
・機能:前鋸筋の上部は肩の前方突出を担い、下部は肩甲骨の安定化に最も重要な役割を果たしている

*余談:長胸神経の豊富な分岐は、顔面神経麻痺の治療などにおける神経移植術に使われる可能性もある

MMT評価

被検者:肘を屈曲して前へ突き出してもらう *肘を伸展した状態で評価すると、上腕三頭筋の筋力が保たれることが前提となってしまう(2関節をまたぐことになる)
検者:右手で被検者の肘を後方へ押し込み、左手で被検者の背中を支える(肩甲骨ではないところ)

図:斜め後ろから

図:横から

長胸神経麻痺

臨床像

・肩甲骨不安定性に由来する肩挙上困難と可動域制限
(前鋸筋麻痺により肩甲骨が固定できず外側へ回旋してしまうため90度以上の挙上(外転・屈曲)ができなくなる*つまり肩関節を効果的に外転・屈曲するためには肩甲骨の胸郭への固定が重要である)
翼状肩甲 winged scapula(scapular winging):肩甲骨の内側縁が背側へ突出する現象(前鋸筋が肩甲骨と体幹を引き寄せることができないため)

肩が上がらないの鑑別(私案)
僧帽筋の筋力低下あり:髄節性(C5:頸椎症性筋萎縮症) or 末梢神経単位の障害(単神経=腋窩神経,多発短神経障害=神経痛性筋萎縮症)
僧帽筋の筋力低下なし:疼痛あり→impingement障害、疼痛なし→前鋸筋障害の可能性

原因

・後天性:神経痛性筋萎縮症が最多(こちら)、外傷性、過度な運動、腫瘍による圧迫
*頸椎症性神経根症では(つまり単一髄節障害では)まず障害されないとされている

文献:翼状肩甲128例の検討 Muscle Nerve 57: 913–920, 2018

*ポイント:神経痛性筋萎縮症による長胸神経麻痺が最も原因として多い
・原因:長胸神経麻痺 55%、副神経麻痺 30%、その他
・長胸神経麻痺の原因:神経痛性筋萎縮症 87%(最多)、その他胸郭出口症候群手術、放射線治療、胸部手術、激しい運動
・副神経麻痺の原因:神経痛性筋萎縮症、外科的な原因
・その他の原因:顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、整形外科原因、意図的な翼状肩甲
若年者では顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、意図的な翼状肩甲を考慮するべき

臨床的特徴長胸神経(LTN)麻痺 (前鋸筋麻痺)副神経(SAN)麻痺 (僧帽筋麻痺)
翼状肩甲骨の位置内側性:肩甲骨の内側縁が胸郭から離れ、脊椎に近づく外側性:肩甲骨が胸郭からわずかに離れ、外側に滑る
翼状が悪化する動作前方挙上、壁押し、腕立て伏せ側方挙上、抵抗下での肩の外旋
好発側右側に多い (88%)左右差はなし
追加の身体所見① ロープ状の下部僧帽筋: 腕を前方挙上した際に、代償的に働く下部僧帽筋がロープのように浮き出る(77%の症例で見られる)。② 肩甲骨の急激な滑り: 腕を110度以上側方挙上した際に、肩甲骨が急に外側・下方に滑る。
③ ロープ状の菱形筋: 安静時に、萎縮した僧帽筋の下にある菱形筋が浮き出て見えることがある。
見られない所見「肩甲骨の急激な滑り」は見られない。「ロープ状の下部僧帽筋」は見られない(下部僧帽筋自体が萎縮しているため)。