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遷延性意識障害

  • 2025年8月27日
  • 2025年11月21日
  • 神経

Practice guideline update recommendations summary: Disorders of consciousness Neurology® 2018;91:450-460.

発症から28日以上経過した意識障害に関して(以下に管理人が重要と思う項目を抜粋します、それ以外は「よく説明する」などいわゆる当たり前なことも多いので)

・標準化された評価指標を用いる:Coma Recovery Scale–Revised [CRS-R]こちら参照)など
・「永続的植物状態(permanent VS)」という用語は廃止し、「慢性植物状態(chronic VS/UWS)」に置き換え、期間を明記するべきである(ここは下記にRCPの記載とは異なるところ)
・発症28日以内に家族などに絶対的予後不良と説明するべきではない(LevelA)
外傷性DoC患者では12ヶ月後、非外傷性DoC患者では3ヶ月後固定化することが多いが、それ以降も一部の患者が意識を回復する可能性がある
MCSと診断された患者(特に外傷性脳損傷によるもの)は、VS/UWSと診断された患者(特に非外傷性のもの)と比較して、より良好な機能回復の長期予後が関連している
アマンタジン外傷性VS/UWSまたはMCSの成人患者(受傷後4~16週間, 16~65歳)には、アマンタジン(100~200 mg 1日2回)を処方して、機能的回復を早め、早期回復時の障害を軽減すべき(LevelB)

Prolonged disorders of consciousness following sudden onset brain injury National clinical guidelines 英国王立内科医協会(RCP)ガイドライン

*膨大な量(全200ページ)と極めて複雑な内容であるため一部のみを記載している

遷延性意識障害(Prolonged Disorders of Consciousness: PDOC)
・定義:少なくとも4週間持続
・植物状態(Vegetative State: VS)最小意識状態(Minimally Conscious State: MCS)を含む

永続的VS/MCS:6か月,CRS-Rにより測定で変化がない場合

項目Vegetative State: VSMinimally Conscious State: MCS
意識の状態覚醒はあるが意識がない状態(Wakefulness with absent awareness)。覚醒があり、最小限の意識がある状態(Wakefulness with minimal awareness)。
定義自発的または刺激誘発性の覚醒能力は保たれているが、自己または環境の意識を示す行動的証拠は完全に欠如している意識が最小限に、しかし明確に識別できる行動的証拠が、一貫性はないものの再現性をもって示される、重度に意識が変容した状態。
基本的な機能覚醒・睡眠サイクル、自律神経機能(呼吸、循環、体温調節など)は維持されている。自発呼吸と循環が保たれており、開眼している。覚醒・睡眠サイクルは維持されている。
行動的特徴自己または環境の意識を示す行動が完全にない反射的な行動や自発的な動きのみを示す。自発的または反射的な行動のレベルを超えた、周囲との何らかの相互作用を示す、一貫性はないが再現性のある応答がある。
典型的な行動(VSに適合)咀嚼、歯ぎしり、眼球運動(さまようような動き)、四肢や体幹の目的のない動き、笑顔やしかめ面、うめき声などが自発的に起こることがある。痛みや騒音により、呼吸の速まり、しかめ面、四肢の非局所的な動きなどが起こる可能性がある。一時的に動く物体を追視したり、標的に固視したりすることはあるが、通常は1〜2秒以上続かないBox 1.2に記載された行動のうち、一つ以上を不一致ながら再現性をもって示すこと。例えば、簡単な命令に従う、ジェスチャーまたは口頭での「はい/いいえ」の応答、意図的な発声、特定の環境刺激に応じた目的のある行動(到達、保持、追視など)。
VSと非適合な特徴識別的な知覚の証拠、再現性のある局所的な応答を含む目的のある行動、予測的な行動、コミュニケーション行為。例えば、友人や親戚の到着に特化した笑顔はVSとは非適合。
サブ分類MCS-minus(より低いレベル):非反射性の定位運動や追跡運動のみを示す患者。<br>MCS-plus(より高いレベル):言語処理/コミュニケーション、または解釈的な非言語機能、推論、問題解決などのより複雑な行動を示す患者。
MCSからの脱出機能的で相互作用のあるコミュニケーションまたは機能的な物品使用を、信頼性をもって一貫して示すことによって特徴づけられる。
慢性期(Chronic)の定義非外傷性脳損傷後3か月超、外傷性脳損傷後1年超続いた場合、「慢性的VS/MCS-minus」と分類される。非外傷性脳損傷後9か月超、外傷性脳損傷後18か月超続いた場合、「慢性的MCS-plus」と分類される。
永続的(Permanent)の定義慢性的VS/MCSが6か月間、CRS-Rによる測定でそれ以上の変化の軌跡がない場合に、「永続的VS/MCS」と診断される(専門医による診断が必要)。永続的VSと同様。
予後意識回復の見込みは時間とともに減少する。非外傷性損傷患者は、外傷性損傷患者よりも回復の窓が短く、長期的な障害の重症度が高い。VS/MCS-minusはVSにより近いとされ、予後が悪い。VSよりも回復の予後が不均一。早期にMCS-plusに進行した患者は、意識を回復する可能性が高い。
評価ツール診断は訓練された専門家による臨床評価と行動観察に基づく。**JFK Coma Recovery Scale – Revised (CRS-R)**が国際的な標準測定ツールとして推奨される(必須)。VSと同様。

“Therapeutic interventions in patients with prolonged disorders of consciousness” Lancet Neurol 2019; 18: 600–14

・遷延性意識障害(発症から28日以上)に対する治療介入(薬物療法・非薬物療法)に関する最も代表的なreview article
アマンタジン経頭蓋直流刺激(tDCS)が唯一ClassⅡ
・ゾルピデム:逆説的に改善する可能性(前頭前野の活動が亢進する)
・その他:髄腔バクロフェンなど 症例報告あり 前向き研究なし
・tDCS:RCTで効果が確認されている、左DLPFC(背外側前頭前野)への刺激が効果的である、ただ実施中のみの短期的効果であり長期的効果は証明されていない
・まだまだ前向き研究が必要

“Placebo-Controlled Trial of Amantadine for Severe Traumatic Brain Injury” N Engl J Med 2012;366:819-26.

・頭部外傷での遷延性意識障害に対するアマンタジンのRCT
・遷延性意識障害患者に対する介入で唯一有意な治療効果を証明したRCTである

P (Population)外傷性脳損傷後の遷延性意識障害患者 (遷延性植物状態または最小意識状態)
・登録時において受傷後4~16週間経過
・通常入院リハビリテーションを受けている患者
・年齢: 16歳から65歳
・Disability Rating Scale (DRS) スコアが11より高い
・Coma Recovery Scale–Revised (CRS-R) で評価された、一貫した命令に従えず、機能的なコミュニケーションができない患者
合計184名
E (Exposure/Intervention)アマンタジン塩酸塩
4週間投与
・開始用量: 100mgを1日2回、14日間継続
・用量漸増: DRSスコアがベースラインから少なくとも2点改善しなかった場合、3週目に150mgを1日2回、4週目に200mgを1日2回に増量
・4週目の評価後、2~3日間かけて漸減
・治療期間中、他の精神作用薬の服用を最小限に抑えるよう推奨
C (Comparison)プラセボ
O (Outcome)主要評価項目
治療期間中 (4週間) の機能回復率 (DRSスコアの改善速度)
結果: 4週間の治療期間中、アマンタジン群はプラセボ群よりも有意に回復が速かった (傾きの差: 0.24点/週; P = 0.007)。これは、一貫した命令への応答、理解可能な発話、信頼できるイエス/ノーのコミュニケーション、機能的な物品使用といった機能的に意味のある行動に影響を与えた。
副次評価項目
・治療中止後の2週間のウォッシュアウト期間 (5週目と6週目) における回復率
結果: ウォッシュアウト期間中、アマンタジン群の改善速度は鈍化し、プラセボ群よりも有意に遅かった (傾きの差: 0.30点/週; P = 0.02)。
・ベースラインから6週目 (治療中止2週間後) までのDRSスコアの全体的な改善は両群で同程度だった。
Coma Recovery Scale–Revised (CRS-R) を用いた、臨床的に関連のある行動的ベンチマークの評価
結果: 4週目では、アマンタジン群の方が主要な行動的ベンチマーク (持続的注意、物体認識、機能的な物体使用、命令の一貫した追行、信頼できるイエス/ノーのコミュニケーション、理解可能な発話) の回復率が高かった。6週目のフォローアップ時点ではその差は縮小したが、アマンタジン群が5つの行動で依然より有利だった。
・有害事象の発生率
結果: 重篤な有害事象の発生率に有意差はなかった (P≥0.20)。最も懸念される発作を含む、有害な医学的、神経学的、または行動的な事象のリスクは増加しなかった。
・試験期間中にアマンタジン群の患者1名が心停止で死亡したが、これは有害事象の全体的な発生率の有意差には影響しなかった。

着目点と注意点(管理人から)
・上図の結果がかなり重要である(Placebo群も経過で改善している)
・アマンタジンは投与期間中(4週間)に改善している(終了後2週間のwashout periodに効果は消失している)
→つまり投与中のみ効果があるわけであって長期的な改善効果を示したわけではない(長期的な効果は不明であり追加の検証が必要)
・当たり前であるが、頭部外傷に限定した研究であるため、非頭部外傷患者については不明である

作用機序に関しての考察
・アマンタジン:NMDA受容体拮抗薬、間接的にドパミン作動薬としても作用する
・外傷性脳損傷後の回復急性期:ドパミンを含む複数の神経伝達物質が枯渇し、神経興奮性が低下する
→アマンタジンがドパミン依存性の黒質線条体、中脳辺縁系、前頭線条体回路における神経伝達の強化を反映している可能性