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ペニシリン系抗菌薬

1:分類

ペニシリン系抗菌薬は抗菌薬のなかでも使用頻度も多く、抗菌薬の基本です。初期研修ではまずペニシリン系とセフェム系をきちんと使えるようになることが目標だと思います(その他のテトラサイクリンやマクロライド、キノロンを使用する以前に)。

細胞壁合成阻害(PBP:penicillin binding proteinという細胞壁を作る酵素に結合することで細胞壁合成を阻害する)、殺菌性、時間依存性の抗菌薬で基本腎代謝の薬剤です。以下にその一覧をまとめました。私はこの一覧を印刷していつも持ち歩いていますので、もし皆さまも良ければ使っていただけますと幸いです。

2:各論

2.1:ベンジルペニシリン PCG

最も狭域な抗菌薬で、感受性がある場合は効果が大きいです。投与回数が多いことから敬遠されほとんどペニシリンGを使用しない施設もあるかもしれませんが、グラム染色で肺炎球菌性肺炎と診断して、最初からペニシリンGで治療を開始して良くなる経過を経験を通じてこの抗菌薬の良さを理解することが重要と思います。以下は私が以前経験した肺炎球菌性肺炎の患者さん83歳女性の喀痰グラム染色ですが、ペニシリンGで最初から治療を開始し、その3時間後には菌体はほぼ認めなくなっております。

抗菌薬の「スペクトラム」と「殺菌作用の強さ」を混同してしまう誤解がたびたびありますが、ペニシリンGは「スペクトラム」は狭いですが、「殺菌作用の強さ」は大きいので「弱い」抗菌薬ではありませんので注意しましょう。

投与量は腎機能問題なければ 200-400万単位 q4hr が標準投与量です。

使用するべき状況としては、
Streoptococcusは基本的に全て(第一選択)
・GNC特に髄膜炎菌(第一選択)
スピロヘータ:梅毒(第一選択)
が挙げられます。

副作用としては、静脈炎(1日6回と投与回数も多いため、連鎖球菌での骨髄炎患者の場合など長期投与が必要な場合はPICCカテーテル挿入を検討します。)が有名で、毎日静脈刺入部に発赤がないかどうか確認しましょう。

対応する経口薬は日本にないため、経口薬を使用する場合は後で述べるアモキシシリンで代用する場合が多いです。

2.2:アンピシリン Ampicillin ABPC

ペニシリンGは腸内細菌科は自然耐性をとられているため、用できませんが、アミノ基をつけて腸内細菌科のカバーを拡大した特徴があります。

投与量は腎機能問題なければ 通常 2g q6hr髄膜炎では 2g q4hrが標準投与量です(1Vあたり1g)。

使用するべき状況としては
E.coli, H.influenzaeの感受性良好のもの(これらの菌にとって最も狭域な抗菌薬です。腸内細菌科でもKlebsiellaは自然耐性のため使用できません)。
腸球菌:Enterococcus faecalis(第一選択) *Enterococcus faeciumは耐性
Listeria感染症(第一選択・細菌性髄膜炎でListeria coverの際に重要)
が挙げられます。

2.2:アモキシシリン Amoxicillin AMPC

アンピシリンの経口薬versionとして使用します(商品名:サワシリン®)。bioavailabilityは80%程度と優れており、経口抗菌薬の中で最もよく処方する薬剤かもしれません。

使用するべき状況としては
溶連菌(GAS)咽頭炎 AMPC 250mg 6錠分3 10日間
副鼻腔炎、中耳炎
・肺炎球菌性肺炎の軽症(本来肺炎は入院での抗菌薬点滴治療ですが)
・膀胱炎(尿グラム染色でGNR middleが見える場合考慮してもよい)AMPC 250mg 6T3x 5日間
などが挙げられます。

副鼻腔炎、中耳炎は原因としてS.pneumoniae, H.influenzaeが多く、S.pneumoniaeは基本penicillin感受性であり、H.influenzaeもBLNARなどはありますがABPC感受性のものもあるためAMPCで治療する場合があります。ただ多くはウイルス性のため抗菌薬の適応は考えなければいけません。

膀胱炎は尿グラム染色でGNR middleが見える場合起炎菌その多くはE.coliであり、E.coliは地域にもよりますが半数以上はABPC-Sのものです。ABPC-Rのものもありますが、実際に私はAMPCで治療しfailureしたことはありません。このことは尿中抗菌薬濃度が腎排泄のため上昇していることが関係しているのかもしれません。膀胱炎ST合剤を使用する方法もありますが、尿グラム染色でGNR middleが見える場合は考慮してもよいと思います。

2.3:ピペラシリン Piperacillin PIPC

今までのカバーに加えて緑膿菌のカバーを追加したペニシリン系抗菌薬です。
*ピペラシリンが効果ない緑膿菌はピペラシリン・タゾバクタムは効果ない(タゾバクタムを追加することで効果がある訳ではない)。

2.4:アンピシリン・スルバクタム ABPC/SBT

βラクタマーゼ阻害薬配合によってスペクトラムがより拡大し、特に嫌気性菌のカバーも追加されています(商品名:スルバシリン®)。

βラクタマーゼは、ペニシリンが細菌細胞壁のペニシリン結合蛋白(PBP)に結合する前に先に結合してしまうdecoy(おとり)の役割を担う。βラクタマーゼ阻害薬を配合することで、腹腔内嫌気性菌(bacteroides)GNRのカバーが有効になる。

投与量は腎機能問題なければ 1.5-3g q6hr が標準投与量です。

使用するべき状況は、
誤嚥性肺炎、膿胸
腹腔内感染症
動物咬傷
といった嫌気性菌の関与がある感染症が挙げられます。この抗菌薬もかなり広域のため適応はきちんと考えて使用したいところです。誤嚥性肺炎で最も使用されることが多いかもしれません(本当に嫌気性菌が病態に関与しているかどうかは難しいですが)。

2.4:アモキシシリン・クラブランサン AMPC/CVA

アンピシリン・スルバクタムの経口versionです(商品名:オーグメンチン®)。海外と比較して日本ではアモキシシリンの配合比率が低いため(日本は125mg/125mg)アモキシシリンと併用して使用することが多いです(オーグメンチン®とサワシリン®で通称オグサワ)。これは県によっては保険で切られてしまう場合もあるようですので、事前に確認しておいた方がよいかもしれません。
(処方例)AMPC 250mg 3錠分3 + AMPC/CVA 250mg 3錠分3

使用するべき状況としては、
動物咬傷
H.influenzae感染症でペニシリナーゼ産生菌カバーを必要とする場合

などが挙げられます。

2.5:ピペラシリン・タゾバクタム PIPC/TAZ

頻回に処方されている抗菌薬ですが、本来のこの抗菌薬の特性を考えると意外と使用するべき状況は少ないと思います(商品名:ゾシン®、タゾピペ®)。つまり、緑膿菌カバーと嫌気性菌カバーがどちらも必要な状況がこの抗菌薬が最も威力を発揮する場面です。

通常の緑膿菌カバーだけであればピペラシリン、セフタジジムやアズトレオナムでも良いですし、嫌気性菌カバーだけであれば先のアンピシリン・スルバクタムでも良いはずです。ついつい頻回に処方されがちな広域抗菌薬となってしまっているため注意したいです。

投与量は腎機能問題なければ 4.5g q6hr が標準投与量です。

以上ペニシリン系抗菌薬の分類とそれぞれの各論の話をさせていただきました。繰り返しになりますが、ペニシリン系抗菌薬は全ての抗菌薬のなかでも基本になるので是非各薬剤をどのような状況で使用するべきか習熟したいです。

参照:武蔵野赤十字病院感染症科レクチャー