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抗凝固薬 まとめ

0:凝固カスケードと作用機序

凝固カスケードと抗凝固薬との対応関係をまとめると上図の様になります。以下でそれぞれの薬に関してまとめます。

1:ヘパリン類

作用機序と分類

ヘパリン類はそれ単独では抗凝固作用を示さず、AT(antithrombin:アンチトロンビン)依存性に抗凝固作用を発揮します。このため、背景にAT欠損や活性低下があると十分な薨御作用を発揮できません。未分画ヘパリン(UFH: unfractionated heparin)、低分子ヘパリン(LMWH: low molecular weighted heparin)、フォンダパリヌクス(fondaparinus)が代表的な薬剤で以下にまとめます。

ATはその名の通りⅡa(トロンビン)をもちろん阻害しますが、それだけではなく凝固因子のⅩa、Ⅸaも阻害します。低分子ヘパリン、フォンダパリヌクスはこのⅩa阻害作用の選択性が高くなっている特徴があります。下記に簡単にそれぞれの薬剤の特徴をまとめます。

■ヘパリンの拮抗

一般的にヘパリンの拮抗はプロタミンで行います。低分子ヘパリンは拮抗の程度が弱く、フォンダパリヌクスは全く拮抗できない点に注意が必要です。プロタミンも副作用が多い薬剤なので心臓血管外科領域では頻回に使用されていると思いますが、日常臨床では必要になるケースはそこまで多くないと思います。適応に慎重になりたい薬剤です。

プロタミン
製剤:100mg/10mL
投与量
ヘパリン100単位に対してプロタミン1mg(直前投与2~3時間のヘパリン投与総量で換算する)
・1回の投与量が50mgを超えない
(処方例)必要プロタミン量(<50mg)+生理食塩水 or 5%ブドウ糖液: 100~200mL 10分以上かけて点滴投与
副作用:アレルギー反応が多いため注意(元々魚から抽出してり魚アレルギーの人に多いかも)

2:ワーファリン Warfarin

■作用機序

凝固因子ⅦはビタミンK依存性であり、このビタミンKによる代謝を阻害することで抗凝固作用を発揮します。ビタミンKの代謝経路でγカルボキシラーゼにより、凝固因子Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ(2 9 7 10:肉納豆で覚えましたね)を活性化させ凝固活性を持たせます。ワーファリンはビタミンK代謝に関与するVKOR(ビタミンKエポキシド還元酵素)を阻害することで抗凝固作用を持ちます(下図)。

このようにワーファリンは内因系、外因系どちらの凝固因子も阻害するのになぜPTが単独で延長するのでしょうか?これは外因系のⅦ因子の半減期が4~6時間と極めて短いからです。このためワーファリンを使用するとまず半減期の短いⅦ因子が阻害され、PTが延長します。しかしより高容量になると内因系の凝固因子も阻害されるためAPTTも延長します。

ワーファリンは光学異性体のR体・S体が合わさったもので、S体の方がR体に比べて阻害効果が高く(約5倍)、S体はCYP2C9で代謝されます。この遺伝子多型がワーファリン作用の個人差に関係しています。

■効果発現期間

またワーファリンはビタミンK依存性のプロテインC, Sも阻害しており(正確な図は下を参照)、これらは半減期が短い特徴があります。このためワーファリン開始直後は、抗凝固作用を持つプロテインC,Sが先に阻害されるため一過的な過凝固(paradoxical hypercoagulability)になることが知られております。抗凝固作用を持つのはワーファリン開始3~4日程度かかります。このため最初の期間はヘパリンを併用する方法があります。

■ワーファリン内服時の出血への対応

ワーファリン内服中の出血患者において治療は「重大な出血の有無」「INR値(出血ない場合)」に基づいて、1:ワーファリンを中止するか?、2:ビタミンK製剤を投与するか?(静注、内服)、3:凝固因子の補充を行うか?の3点を決めます。

以下に使う製剤の解説をします。

PCC(prothrombin concentrate complex):静注用人プロトロンビン複合体

商品名:ケイセントラ®(2017年日本で認可) 製剤:500IU or 1000IU(溶解液とセットになっている)

機序:ワーファリンが阻害する凝固因子(Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,ⅩとプロテインC,S)が含まれているため、ワーファリン作用に拮抗する(適応はワーファリン内服中の重大出血合併症に対して)。
効果発現:10分程度(FFPよりも非常に速い)
効果持続時間:6~8時間(短いため必ずビタミンK製剤を併用する

投与量:INR値と体重に応じて決定
INR: 2~4→25 IU/kg
INR:4~6→35 IU/kg
INR:6~→50 IU/kg
投与速度:3IU/kg/min以下、210IU/minを超えない(実際には添付文書が付いているためそれに従いながら投与すると安全)

ビタミンK製剤

静注:メナテトレノン(ケイツーN®)10mg/2ml 1A
内服:メナテトレン(ケイツー®)5mg/1Cp、2mg/mL(シロップ) フィトナジオン(カチーフN®、ケーワン®) 5mg/1T

作用発現:6~24時間程度

静注の場合:ケイツー®10mg + 生理食塩水50ml 30~60分かけて点滴投与
急速投与はアナフィラキシーのリスクがあるためなるべく緩徐に投与(緊急時以外は基本的に内服を優先する)
*遮光のためアンプルは袋の中に入っています下図(投与中も遮光する)

3:Ⅹa直接阻害剤

凝固因子のⅩaを直接阻害する作用を持つ薬剤です(AT非依存性)。DOACのリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンが該当します。DOACに関しては別に詳しくまとめていますので、こちらをご参照ください。ダビガトランは後述のⅡa阻害薬ですが、以下にまとめます。Ⅹa阻害薬の拮抗薬は現在日本ではありません。

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4:Ⅱa直接阻害剤

凝固因子のⅡaを直接阻害する作用を持つ薬剤で(AT非依存性)、内服薬ではダビガトラン(上図参照)、静注薬ではアルガトロバン(商品名:スロンノン®、ノバスタン®)が挙げられます。

アルガトロバン
半減期:40分 代謝:肝臓CYP3A4 拮抗:不可能
製剤:10mg/2ml 1A
*以下は脳梗塞で使用する場合の処方例
最初2日間:60mg/日 静注持続投与
(処方例)アルガトロバン6A(=60mg) + 生理食塩水: 38ml 2ml/hr
次の5日間:10mg 1日2回投与
(処方例)アルガトロバン1A + 生理食塩水: 200ml 3時間かけて投与 1日2回

5:抗凝固薬の切り替え

こちらに詳しくまとめてりますのでご参照ください。

以上抗凝固薬のそれぞれの作用点とおおまかな特徴に関してまとめました。