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下痢 入院患者編

0:原因

入院中患者の下痢は救急外来での下痢診療と異なります。その理由は、入院72時間以内では通常市中感染による下痢症を考えないためです(このため入院72時間以降の下痢では便培養検査は通常不要で、”3-day rule”と表現します)。入院中の下痢を私は3つ(抗菌薬関連感染症・薬剤性・経管栄養)+α(特殊な場合で考慮)で覚えています。

1:抗菌薬関連感染症
2:薬剤性
3:経管栄養
+α(特殊な場合に考慮する原因)

・免疫抑制者は感染性(CMV・寄生虫)
・血管術後・カテコラミン使用中は虚血性

入院中患者の下痢というと、”Physicians frequently focus on Clostridium difficile infection (CDI) as the primary cause of diarrhea but most cases are due to medications, enteral feeding, and underlying illness”(CID 2012;55:982より引用)と記載されている通りついついCDIばかり考えてしまいがちですが実際には非感染性の原因(薬剤性・経管栄養)が原因として多いです。

以下に患者の状況による原因の対応関係を載せました。

1:抗菌薬関連感染症

Clostridium difficileは入院患者の下痢のうち10~20%程度を占めるとされています。入院中患者の下痢では、例え抗菌薬暴露がはっきりしない場合でもCDIの除外をするべきです。抗菌薬関連下痢症(AAD: antibiotics associated diarrhea)という広い概念の中に位置する疾患です。

Klebisiella oxytocaはCDIの次に入院中下痢をきたす感染症として有名です。実際には頻度はかなりまれで、血便をきたすことが特徴とされています(血便を伴わない下痢ではKlebsiella oxytocaは認めなかったという報告もある。逆にCDIやAADでは血便はまれとされています)。通常は抗菌薬中止だけで症状は改善するとされています。

2:薬剤性

以下に入院中下痢の原因薬剤として頻度の多いものをまとめました。もちろんこれら以外にも下痢を副作用としてきたす薬剤は700種類以上あるとされているため、注意が必要です(もちろん酸化マグネシウムなどの下剤やメトクロプラミドなどの腸管蠕動薬にも注意)。

SSRI, SNRI, TCAはSerotonin syndrome(セロトニン症候群)、コリンエステラーゼ阻害薬はコリン作動性中毒といった中毒の位置症状として出てくる場合もあるため注意です。また、通常他臓器の症状を伴いますが薬剤でのアナフィラキシーの消化器症状として下痢を呈する場合もあるため注意が必要です。

3:経管栄養

経管栄養投与患者のうち15~40%程度に下痢を認めます。機序は浸透圧性下痢によるものと考えられています。経管栄養で下痢を生じてしまった場合の対応としては、投与速度を遅くする(間欠投与の投与時間を長く、もしくは持続投与へ変更)、栄養剤の変更食物繊維の追加などを検討します。正直患者ごとに”trial and error”で試してみるしかないです。しかしこのような対応をとっても10~15%は下痢が持続してしまうとされています。

4:+α

■免疫抑制者:CMV・寄生虫(クリプトスポリジウム・ジアルジアなど)

CMV(サイトメガロウイルス)腸炎は疑わないと診断することは困難です。血中のCMV antigenemiaだけでは診断には感度、特異度いずれも不十分で、消化管内視鏡検査・生検が診断に重要です。

その他免疫抑制者ではGiardia, Cryptosporidium, Strongyloides, Campylobacterといった寄生虫・細菌の報告があります。通常の患者ではこれらをルーチンで考慮する必要はないですが。免疫抑制者では注意が必要です。入院72時間以内は通常便培養検査が不要と先ほど記載しましたが、免疫抑制患者の場合は便培養検査(虫卵検査も)を考慮します。

■血管術後・カテコラミン使用中:虚血性腸炎

入院中下痢での”must be ruled out”の疾患です。特に上腸間膜動脈閉塞症は腹痛、血便が有名ですが血便の前に下痢が先行する場合があります。全ての患者に疑うわけではなく、血管リスクが非常に高い高齢者・腹部大動脈術後患者などの血管術後患者、敗血症性ショックでカテコラミンを使用している状況といった腸管虚血をきたしやすい状況で考慮します。

参考文献
・CID 2012;55:982 入院中下痢のreviewとして最も優れている神reviewです。具体的な頻度や数字は全てこのreviewから引用いました。これを読めば入院中下痢マスターになれる気がしますので、是非読んでみてください。

・武蔵野赤十字病院感染症レクチャー