1:作用機序
NSAIDsはCOX(cycloxygenase:シクロオキシゲナーゼ)阻害しアラキドン酸カスケードを止める薬理作用を持ちます。ここでアラキドン酸カスケードとCOX、その代謝物の生理学についてまとめます。
アラキドン酸はCOX (cycloxygenase:シクロオキシゲナーゼ)によりプロスタグランジンに代謝されます。COXには2種類あり
・COX1:正常組織で恒常的に発現(“housekeeping” enzymeとも表現されます)し組織保護に作用する→胃粘膜保護・血管・血小板・腎臓など
・COX2:炎症部位で誘導される(*炎症と関係なく、脳・腎臓・骨・女性生殖器では恒常的に発現しています)
の2種類が挙げられます。
このCOXは臓器・組織によって例えば胃粘膜や血小板はCOX1のみ、腎臓はCOX1もCOX2もと発現するなど対応関係があります。
NSAIDsの目的は炎症によって誘導されるPGE2を阻害し発熱や疼痛を抑えることです。NSAIDsはCOX1・COX2のいずれも抑制することによって炎症を抑えます。しかし、お気づきの通りPGE2以外へ至るCOX経路も阻害してしまうため、様々な副作用を生じます。
2:副作用
生理学の点で述べたように、COXは様々な臓器に発現しているためNSAIDsでCOXを阻害すると様々な副作用が出現します。以下にそれらをまとめます。
■胃粘膜障害
胃粘膜はCOX1によるプロスタグランジンの粘膜保護作用がありますが、NSAIDsによりCOX1が阻害されることで胃粘膜障害が起こります。これは最も有名な副作用です。
■腎臓機能障害
腎臓では生理的にCOX1,COX2いずれも発現しており、プロスタグランジンが腎臓への血管拡張作用を持ちます。NSAIDs使用ではこの輸入細動脈の拡張作用が阻害されるため、血行力学的に腎機能障害をきたすとされています(下図参照)。
注意が必要なのが、ACE阻害薬・ARBを併用している場合です。通常レニン・アンジオテンシンアルドステロン系が亢進している状態は体液を貯留する方向へ働くため、輸出細動脈を収縮させて、糸球体濾過量を上昇させようとします。しかし、ACE阻害薬・ARBといったこれを阻害する薬剤を使用すると逆に輸出細動脈の抵抗が下がります(下図)。
NSAIDsとACE阻害薬・ARBを併用すると、輸入細動脈の血管抵抗は上昇し、輸出細動脈の血管抵抗は低下することで糸球体濾過量が著明に減少してしまい、尿慮低下、高K血症が起こりやすくなるため注意が必要です(下図)。
その他のNSAIDsによる腎機能障害をきたしやすいリスク因子は下記が知られています。
・高齢
・CKD CCr<60ml/hr
・volume delpetion(細胞外液量減少):脱水、利尿薬、嘔吐、下痢
・有効循環血症量減少:心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群
・drugs:ACE inihibitor/ARB
・高Ca血症
腎臓ではCOX2も発現しているため、基本的にはCOX2阻害薬でも腎機能障害を生じるリスクが同程度あると考えます。
■心血管合併症
血小板でのCOXを阻害することで、抗血栓作用を持つPGI2も阻害してしまうことが原因とされています。心不全の患者では心不全増悪や利尿薬抵抗性の原因となるため、出来るだけ避けます。心血管合併症のリスクは投与量、投与期間の影響を受けるため出来るだけ少量、短期間にできるようにすることが重要です。
血小板はCOX2を発現しているため、COX2阻害薬でも心血管合併症のリスクがあります。
■AERD(aspirin-exacerbated respiratory disease) (いわゆるアスピリン喘息)
アスピリン喘息と日本語では表現されますが、実際には「アレルギー反応」ではなく、COXが阻害されることでアラキドン酸カスケードがロイコトリエン系にかたむくことで、喘息が誘発される病態を表しています(下図参照)。
COX2阻害薬では、COX1経路でプロスタグランジンへ行く経路があるため、全てがロイコトリエン系に傾くわけではなく、リスクが下がります。
3:薬剤相互作用
代表的な相互作用の一覧を載せます。
・キノロン:痙攣(併用禁忌) 禁忌として有名ですが、処方されてしまっている場面にたびたび遭遇します(発熱に対して良く分からないけどキノロン、対症療法としてロキソニンという感じです・・・・)。注意したいです。
・Lithium:Lithium中毒
・MTX:MTX作用増強
・digoxin:中毒性
・SU薬:低血糖
・プロベネシド:NSAIDs作用増強
・ワーファリン:PT-INR延長(これも意外と多いので注意!)
4:NSAIDsをいつ使うのか?
NSAIDsは市販薬にも含有されているくらい広く使用されている薬剤ですが、上記の通り様々な副作用があり非常に危険な薬でもあります(広く使われているから安全な訳ではないですね)。
特に高齢者では腎機能障害、胃粘膜障害など起こりやすいことからやはり安易に処方することは避けるべきと思います。
個人的な使用する場面としては(特に救急・あくまで私案です・・・)
・尿管結石
・癌性疼痛
・痛風
・骨折
これらが積極的NSAIDsの適応で、それ以外の場面ではアセトアミノフェンを使用するべきではないかと思います。 もし使用するとしても出来るだけ低用量・短期間に抑えらえるようにしたいです。
以下に代表的なNSAIDs薬をまとめました(COX2阻害薬は除く)。
5:選択的COX2阻害薬
上記の副作用の点から炎症によって誘導されるCOX2だけを抑制すれば副作用を最小限に抑えられるのでは?という考えの元、選択的COX2阻害薬が市場にでてきました。
■COX2阻害は容量依存性
COX2阻害薬の注意点としてはCOX2阻害薬は用量が多くなると、COX1阻害作用も持つ点が挙げられます(下図参照)。ついつい完全にCOX2阻害だけなのではとイメージしてしまいがちですが、そうではなくあくまでCOX2選択性が高いということです。
■副作用:non-selevtive NSAIDsとの違い
副作用に関してまとめます。
・胃粘膜障害:non-selective NSAIDsより少ない(placeboよりは多い)
・腎機能障害:腎臓はCOX2を発現しているため、腎機能障害はnon-selective NSAIDsと同様に起こると考える(直接比較したstudyはなさそう)
・アスピリン喘息:non-selective NSAIDsと比較してリスクはかなり低い
・心血管合併症:NSAIDs全般でリスクになる COX2阻害薬で当初リスクがnon-selective NSAIDsで上昇するかもしれないという議論があったが、セレコキシブでは問題ないと思われます(添付文書には心血管リスク上昇の可能性が記載ありますが)。
■実際の処方
現時点でCOX2阻害薬として使用できるのは、セレコキシブ(商品名:セレコックス®)だけになります。以下に処方例を載せます。
(処方例)
開始:セレコックス® 100mg 2T2x朝・夕食後
最大投与量:セレコックス® 200mg 2T2x
以上NSAIDsに関してまとめました。NSAIDsは普段よく処方されている薬ですが、副作用のレパートリーが非常に多いことと、相互作用もあり決して安全な薬ではなく、きちんと適応を考えて安全に使用したい薬です。参考になりましたら幸いです。