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尿電解質

尿電解質を理解せずして「電解質異常」と「酸塩基平衡」を語ることは出来ません。ここではそれぞれ尿電解質(特にNa, K ,Cl)の役割を簡単にまとめます。

まずはじめに「尿電解質に固定された正常値というものはない」という点を強調させて下さい。血液中の電解質は例えば血漿Na濃度=135~145mEq/Lと非常に狭い範囲でコントロールされています。人体にかかるNa負荷は日々異なりますが、腎臓が供給量に合わせてうまく排泄量を調節することで人体の恒常性が保たれています。このため、腎臓での排泄量は固定された値ではなく、幅をもった値になります。尿中Na排泄の正常値を設定することは出来ず、教科書によって上限値や基準値が異なるのはこのことが原因です。

そのため値にとらわれ過ぎず背景の病態を理解することが重要です。例えば患者さんの尿Na=22mEq/Lで、「教科書には尿Na<20mEq/Lのcut offで有効循環血症量減少と書いてあるから、有効循環血症量は正常かな?」という単純な解釈は危険だということです。

基準値から派生してもう一つ申し上げたいことは「数値へのイメージ」です。僕たちは例えば貧血に関してはHb=7g/dLという数字に対してのイメージ(「結構貧血だな・・・・」)、Hb=14g/dLという数字に対してのイメージ(「普通かな・・・」)があります。これは日々Hb値と患者さんの状態を照らし合わせている臨床経験からくるものだと思います。皆さま尿電解質の値にこれらのイメージをもっていますでしょうか?尿中電解質もHbと同じで、日々尿電解質と患者さんの状態を照らし合わせる日々繰り返していることでイメージが磨かれていきます。

熱くなってしまいましたが、尿電解質へのイメージを持つことが出来るようになるための病態生理をわかりやすく解説できればと思います。下図にまとめを載せました。各項目に関して解説していきます。

0:尿Cre

尿電解質を提出する際は必ず尿Creを提出します。実臨床では蓄尿を頻回にすることは難しく、尿電解質の測定のほとんどが部分尿(スポット尿)によるものです。

・クレアチニンの産生量=排泄量
・クレアチニンの産生量=約20mg/kg/日(体重50kgの場合:約1000mg/日)

という原則から、尿Cr排泄量は尿Naや尿Kといった電解質と違い一定しています(摂取量により変化するということがなく常に一定)。このため、尿Creに対して尿Naの値がどうか?という具合に「尿電解質の基準」として利用することが出来ます。FENaの測定などでも使用するため、尿電解質を測定する場合は必ず尿Creを測定するようにしましょう。

1:尿Na

尿Naは尿電解質の中で最も重要で、「有効循環血症量(effective circulation volume)の評価」に利用します。(有効循環血症量≠体液量で、組織へ酸素供給を行う血液量のことを意味します。)

有効循環血症量(effective circulation volume)が減少すると、人体は交感神経、レニンアンジオテンシンアルドステロンシステム(RAAS)などを利用して、Naを腎臓集合管で再吸収することで(尿中Na排泄を少なくすることで)Naを保持しようと働きます(容量調節はNaが、浸透圧調節はH2Oが担っています 下図参照)。

容量調節の指標として尿中Na排泄量(mEq)をみることで、有効循環血症量が減少しているのか?通常なのか?を知ることができます。

尿中Na排泄量(mEq)=尿量(L) x 尿Na(mEq/L)

この式からわかる様に実は尿Na(mEq/L)単独では尿中Na排泄量の評価には不十分です。必ず「尿量」と合わせて考える必要があります。

例えば、同じ尿Na=10mEq/Lであったとしても
・尿量10Lの場合→尿中Na排泄量=100mEq
・尿量0.5Lの場合→尿中Na排泄量=5mEq
と尿量により尿中Na排泄量は全く異なります。

一般的には尿Na<20mEq/Lで有効循環血症量減少を示唆するとされます(これもくどいですがこのcut off値にとらわれないことが重要です)が、尿量と合わせて尿Na排泄量を考えることが重要です。

この煩雑な点(尿量と合わせて考えるという点)を解消するために生まれた概念がFENa(Fractional Excretion of Sodium) です。具体的な計算式は下図をご参照ください。

注意が必要な点はFENaの計算式の分母は「糸球体濾過量」がある点で、尿Na排泄量が同じで血漿Na値が同じ場合はGFRによりFENaが変化します。例えば、尿Na排泄が100mEq、血中Na濃度が140mEq/Lの場合を考えます。
1:GFR=100(ml/min)の場合(腎機能正常の場合)

2:GFR=10(ml/min)の場合

上図のように腎機能によりFENaは大きく変化をうけます。このため、
急性腎障害の場合:1%未満
腎機能正常の場合:0.1%未満
で有効循環血症量減少を示唆します。

尿Na濃度もFENaも解釈に・注意が必要な状況は以下の2つが代表的です。
利尿薬:尿細管でのNa再吸収を抑制することで、尿中Naが高い値になってしまう。
代謝性アルカローシス:代謝性アルカローシスの場合尿中HCO3-が多く、電気的中性を保つためにNa再吸収が抑制されNa利尿を引き起こし、尿中Na高値となること多く指標として不適切。尿中Clは陰イオンなので、尿中HCO3-の影響を受けない 。
以下に尿Na評価をまとめます。

2:尿K

低K血症の章でも解説した通りで低K血症の鑑別に使用します。原因が尿中排泄によるものかどうかの判断に使用します。教科書、文献により基準値は異なりますが、おおむね20~30mEq/Lをcut offとしていることが多いようです。改めて低K血症の鑑別へのアプローチとKの生理を体裁します。

3:尿Cl

基本的には尿Naと同じく「有効循環血症量の評価」に用います(Naが陽イオン、Clが陰イオンとして電荷が等しくなるように一緒に動くため)。それならば尿Naの評価だけでもよさそうですが、「代謝性アルカローシス」の場合、尿中Naが電気的中性を保つために尿中HCO3-と一緒に動き、尿中Naが変化しますが、陰イオンの尿Clが代わりに循環血症量の評価の良い指標となります。Clは普段あまり日の目を浴びない電解質ですが、代謝性アルカローシスの評価では欠かすことができません。

4:尿Na + K

尿Na+Kは尿の張度(tonicity:水の移動に関係する浸透圧)を表現しています。これは尿のFree water(自由水)排泄の評価に使用します。

具体的には、血中張度と尿張度を比較することで、「血中張度(=血中Na濃度)を体(=腎臓)が上げようとしているのか?、下げようとしているのか?」が分かります。低Na血症においてNa低下が進行性かどうかの判断に有用です(低Na血症の解説はこちらをご参照ください)。

以下にその原理を解説します。尿を「血中張度と同じ尿」「free water(自由水:Na, Kを全く含まない)の尿」の2つから構成されていると考えると下図の様になります。

具体例で考えると(下図参照)例えば尿張度=140mOsm/kg、尿量=1000mlの尿を考えます。血中張度=280mOsm/kgだとすると、血中張度と同じ張度の尿(=280mOsm/kg)500mlと、free water(自由水:Na, Kを含まない)が500mlの尿が合わさったものと考えることが出来ます。こう考えると、尿はfree waterを500ml排泄しようとしており、血中張度を上げようと腎臓が働いていることが分かります。

5:尿AG (anion gap)

なんでこんなにややこしい概念があるのか?と学んだ当初は思いましたが、この概念が必要になる経緯(生理学的背景)を学ぶと親しみがわいてくると思います。

生理学の背景知識から解説します。人体にとって「酸」は害であり、1:緩衝作用、2:呼吸、3:腎という3つの機序により酸を排泄します。尿検査で腎臓がこの酸塩基調節をきちんと担うことが出来ているかを評価します。

腎臓での酸排泄の調整は以下の2つの機序で成立します。
1:HCO3-の尿細管での再吸収
2:H+の尿細管での排泄

前者のHCO3-は、尿中に排泄されたものがほぼ全て再吸収されます(近位尿細管80%>ヘンレのループ上行脚16%>集合管4%)。もうすべてのHCO3-が再吸収されてしまっていると、代謝性アシドーシスのときにさらにHCO3-を再吸収して酸塩基平衡を戻すことは出来ません。

そこで、後者のH+の排泄が重要になります。尿細管ではH+をそのままの形で扱うことは出来ません(細胞障害性が高いため)。そのため、代わりにアンモニウムイオン(NH4+)の形でH+を排泄します(尿細管でのNH4+の動態は下図を参照、Anaesth Intensive Care 2012;13:567)。

しかし、この尿中NH4+は通常検査で測定することが出来ません。そこで、尿中NH4+を間接的に測定するために、尿AG(アニオンギャップ)という概念を利用します。

尿中の陽イオンと陰イオンは下図のように表現されます。尿NH4+は陽イオンであり、通常は測定されません。そこで、尿Na+K-Clを計算することで、この値が”-”であればNH4+はきちんと分泌されており(左図)、この値が”+”であれば、排泄障害があると判断します(右図)。

この流れをもう一度まとめると、
1:腎臓はH+を尿細管に排泄することが出来ない(フリーのH+イオンは細胞障害性が高いため)
2:代わりにアンモニウムイオン(NH4+)として排泄する
3:NH4+は直接測定することが出来ない
4:尿AGでNH4+を間接的に測定する(尿pHは不正確)

このようになります。こうすると尿AGの必要性が分かりやすいと思います(ただの丸暗記にならないかも・・・?)。特にAG正常代謝性アシドーシスの鑑別において有用であり、結果の解釈は下記の通りです。

AG正常代謝性アシドーシスの鑑別(腎機能が正常な状況において)
・尿AG>0:尿の酸性化障害→尿細管性アシドーシス
・尿AG<0:尿の酸性化障害なし→下痢

以上尿電解質の使い方に関してまとめました。尿電解質は酸塩基平衡・電解質の理解で避けては通ることが出来ない重要なテーマです。実臨床で毎回解釈する訓練をするとだんだん慣れてきますので(また値へのイメージがついてくる)、積極的に利用するようにしたいです。