1:分類
グリコペプチド系抗菌薬で細胞壁合成阻害の機序で作用します。耐性菌を含めたGPCを幅広くカバーする抗菌薬として重要な位置を占めています。
バンコマイシンがtargetとする菌は3つあり
1:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌), CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)
・GPC cluster菌血症の初期治療
・S.aureus菌血症の感受性同定前 (MSSA or MRSAかわからない初期)
・人工異物感染の初期治療(カテーテル関連血流感染症を含む)
2:腸球菌:Enterococcus faecium
3:髄膜炎でのPRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)
細菌性髄膜炎の初期治療はCTRX + VCM ±ABPC
*細菌性髄膜炎ではMRSAカバー目的にVCMを使用している訳ではない点に注意(ここはよく勘違いされています)
上記3つが挙げられます。ついつい「なんとなく重症感染症だから・・」という理由で処方されているのを見かけますが、具体的に「何菌によるどこの臓器の感染症」なのかを想定しないといけません。かならず抗菌薬選択の際には「どこの感染臓器?」に対する、「どんな菌?」の感染症かを考えるようにしましょう。
2:TDM(therapeutic drug monitoring) 薬物血中濃度モニタリング
薬物血中濃度を測定する場合にはtrough(トラフ)値とpeak(ピーク)値の二つの概念があります。
trough値は薬剤投与直前の血中薬物濃度で、体内で最も薬剤量が少ない状態の値です(通常抗菌薬投与直前に採血します)。
peak値は臨床効果が最大となる時の血中薬物濃度です(通常抗菌薬投与終了後2時間後に採血します)。
VCMはtrough値を測定して、薬剤投与量の調節を行います。最初にバンコマイシンの注射をオーダーする時点でtrough値を測定する日時の計画を立てる必要があります。。
目標trough値:10-20μg/mL
*重症感染症の場合:15-20μg/mL(菌血症、感染性心内膜炎、骨髄炎、髄膜炎、肺炎、重症皮膚軟部組織感染症)
*20μg/mL以上の場合は腎機能障害が起こりやすく推奨されない
測定する時期:3日間投与後(4日目)、VCM投与直前が一般的です
3:投与量
投与量は腎機能問題なければ 15-20mg/kg q12hr (1g q12hr) が標準投与量です。救急外来でとりあえず緊急で使用しないといけない場合は1gを点滴投与として問題ないと思います(腎機能で調節するのは投与間隔なので)。
腎機能に合わせた初期投与量は
・ CCr>60ml/hr →15-20mg/kg q12hr
・CCr=40-60ml/hr →15-20mg/kg q24hr
・CCr=20-40ml/hr →15-20mg/kg q48hr
・CCr<20ml/hr →15-20mg/kg 1回→その後は血中濃度により投与間隔調節
バンコマイシンを溶解する際に1gであれば100mlで溶解可能ですが、それ以上の容量を投与する場合はより多くの溶解液必要です。また、投与時間も1.5~2hrと通常の1hrよりも長くします。3号液は200mlの点滴バッグがあるので使いやすいため私はよくそれで解いています。
(処方例) VCM 1.0g + ブドウ糖液:100ml 1時間かけて投与
(処方例) VCM 1.5g + ソルデム3A: 200ml 1.5~2hrかけて投与
4:副作用
・Red man/person syndrome
投与速度が速いとバンコマイシンが直接肥満細胞を刺激することで(IgEを介した機序ではない)、ヒスタミンが遊離され、顔面や体幹部に発赤をきたす副作用です。アレルギー反応ではなく、red man/person syndromeが起こってもそのままバンコマイシンは継続して使用することが出来ますが、起こさないように1gであれば1時間以上かけて(それよりも多い投与量の場合は1.5-2時間以上かけて)投与することが重要です。これも救急外来でたまに間違って早めに投与されてしまっているケースを目撃します。
・腎機能障害
先ほども指摘しましたが、trough値が高くなりすぎると起こりやすいため注意が必要です。
・血小板減少
薬剤性血小板減少の原因としてあまり認知度は高くないですが重要です。重症感染症に対してVCMは使用するケースが多いので、DICなのか、敗血症によるものの可能性もあるため判断が難しいですが注意が必要です。薬剤性血小板減少はこちらにまとめてありますのでご参照ください。
参照:武蔵野赤十字病院感染症科レクチャー