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代謝性アルカローシス metabolic alkalosis

  • 2020年1月25日
  • 2020年5月3日
  • 神経

0:生理

代謝性アルカローシスの主病態はHCO3-を腎臓から排泄する機序が障害されていることです(正常ではHCO3-が過剰になっても腎臓から排泄することで恒常性を維持することが出来る)。このため、HCO3-が腎臓で生理的にどのように再吸収、排泄されるかを理解することが重要です(下図のまとめから解説します)。

1:HCO3-の再吸収

HCO3-は基本的に集合管まででほぼ全て再吸収されます(近位尿細管:80%, ヘンレのループ上行脚:15%, 集合管:5%)。しかし、血漿HCO3-濃度が26mEq/Lを超えると再吸収量上限を超えるため、それ以上の分は尿中に排泄されます(下図参照)。代謝性アルカローシスで血漿HCO3-濃度が上昇してもこのように尿中排泄を増加させることで通常は正常域に保たれますが、有効循環血症量が減少するとHCO3-再吸収上限が増加するため、代謝性アルカローシスが維持されます。

2:HCO3-の尿中分泌

またHCO3-は集合管β間在細胞のPendrinという輸送体により、尿細管に排泄されます(唯一の排泄機序で、尿中Cl-と血中HCO3-を交換することで排泄します)。このPendrinは尿中Cl濃度が低下すると抑制され(HCO3-尿中排泄低下)、尿中Cl濃度が上昇すると亢進します(HCO3-尿中排泄上昇)。このためCl濃度が低下している場合(具体的には有効循環血症量が減少している場合)、HCO3-の尿細管分泌が低下して代謝性アルカローシスが維持されます。

3:H+の尿中分泌

H+の尿細管への分泌機序は主に集合管のα間在細胞が担っており、これは主にアルドステロン活性に依存します。アルドステロン活性が上昇している場合はH+の尿細管への分泌が亢進するため、代謝性アルカローシスが維持されます。

まとめると、

1:HCO3-再吸収:尿細管で全て再吸収するが、HCO3->26mEq/L以上では再吸収しきれない分を排泄する(有効循環血症量減少で再吸収が亢進する)
2:HCO3-尿中分泌:尿Cl濃度に依存(Cl不足でHCO3-分泌低下)
3:H+尿中分泌:アルドステロン活性に依存(高アルドステロン血症でH+分泌促進)

上記が代謝性アルカローシスに関与するメカニズムになります。

HCO3-の再吸収・分泌においては(上記1、2)、Cl不足(+有効循環血症量減少)が腎臓からのHCO3-分泌低下やHCO3-再吸収亢進に関係しているため、代謝性アルカローシスで重要な役割を果たしています(“Patients with metabolic alkalosis are almost always hypochloremic” 参照:Clinical physiology of acid-base and electrolyte disorders fifth edition; Rose and Post よりそのまま抜粋)。
またアルドステロン活性が亢進している病態(上記3)でも代謝性アルカローシスが維持されます。

これらの病態に異常があると代謝性アルカローシスが維持されます。

1:原因・検査

1:嘔吐、2:利尿薬が2大原因です。これは病歴(or処方歴)から明らかな場合がほとんどです。代謝性アルカローシスの患者さんで嘔吐、利尿薬がある場合はまずこれが原因としてよいです(日常臨床でも頻回に遭遇すると思います)。以下に詳細な鑑別を代謝性アルカローシス発生機序から分類して載せます。

病歴で判然としない場合、代謝性アルカローシスの鑑別をする上で検査は尿Clが重要です。代謝性アルカローシスでは普段あまり日の目をあびないCl(クロール)が大活躍します(ついついClがんばれーって応援したくなりますよね)。尿Naと同様に尿Clは体液量の評価に使用することができます(尿Naは代謝性アルカローシスでは体液量評価に不正確なため使用しない)。下図の様に分類することができます。

2:症状

代謝性アルカローシス単独がvital signに異常をきたしたり、症状を起こすことはまれで基本的には無症候性です。同じアルカローシスでも呼吸性アルカローシスは中枢神経症状を起こすことが多いですが、これはHCO3-は極性があるためCO2と比較してBBB(脳血液関門)を通過しにくいため、CSF(脳脊髄液)のpHに影響を与えにくいことが関与していると考えられています。

3:治療

基本的に原因となる病態の治療をします。生理学のところで説明した通り基本的には腎臓でHCO3-排泄を障害する病態があるので、その原因病態を解除すれば腎臓から適切にHCO3-が排泄されるためです。以下の点は介入することが出来る点として挙げられます。

・有効循環血症量減少の場合(Cl欠乏の場合)

生理のところで述べましたがCl不足の状態では集合管β間在細胞のpendrinが抑制され、HCO3-がほとんど分泌されません。このためCl不足がある病態ではCl補充が重要で、生理食塩水(Cl=154mEq/L)でClの補充を行います。これによって、
1:有効循環血症量を保ち近位尿細管からのHCO3-再吸収亢進状態を抑制
2:集合管β間在細胞pendrinを活性化し、HCO3-排泄を促進
することによって代謝性アルカローシスを改善します(下図のオレンジ色部分を参照)。


重症の場合はCl不足分を計算し(下の式)、生理食塩水を補充をしていきます。

Cl不足量(mEq)=0.2 x BW(kg) x (100-血症Cl濃度(mEq/L))

必要生理食塩水量(L) = Cl不足量(mEq)/154

・低K血症を合併している場合

低K血症の章で解説しましたが、代謝物にCl ionが含まれているKCl(塩化カリウム)が補正に最も効果的です(グルコン酸Kやアスパラギン酸Kではなく)。

以上代謝性アルカローシスに関して解説しました。本来腎臓はHCO3-が過剰な場合にそれを排泄することで恒常性を保っていますが、排泄する機序が障害されると代謝性アルカローシスが維持されてしまうという生理学的な背景をいかにきちんと理解できるかどうかが代謝性アルカローシス理解の鍵になります。

そして、代謝性アルカローシスではCl(クロール)が重要になります。Naが電解質での王様”king”とするとClは女王”queen”かもしれません(European Journal of internal medicine 2012;23:203)。