人工呼吸器は理解に時間がかかる分野です。いたずらにモードを覚え始めるよりも、自分で人工呼吸器を一から作ってみる視点で勉強すると分かりやすくなると思います。人工呼吸器の原理を理解せずして、モードの理解や人工呼吸器の管理は出来るように決してならないのでここでは原理を中心に解説します。
1:どのように空気を肺へ送るか?
ここでのテーマは「どのようにして空気の流れを生み出すためか?」という点です。空気は圧力が高いところから低いところへ流れるので、「大気の圧>肺内の圧」となれば、空気は圧較差に従って 肺に流れていきます。ではどのように大気と肺内の圧較差を生み出すのでしょうか?単純に考えると
1:肺内圧を下げる(陰圧換気)
2:大気の圧を上げる(陽圧換気)
という2つの方法があります。以下でそれぞれを解説します。
■陰圧換気
これは普段私たちが行っている呼吸です。まず横隔膜などの呼吸筋が働くことで、胸郭を広げます。胸腔内圧は生理的に陰圧なので、肺も胸郭と一緒に広がることで、肺の中も陰圧になり、大気と間に圧較差が生じ空気が肺へ流入します。これを「陰圧換気」と表現します。1950年代までは”iron lung”といい、患者さんの首から下を鉄のタンクに入れて陰圧を強制的にかけることで換気を行う人工呼吸器がありました(現在は使用されていませんが)。
■陽圧換気
現在の人工呼吸器はこれとは異なり、機械から直接肺に空気を送り込みます。これを「陽圧換気」と表現します。このように生理的な呼吸機序と異なる呼吸様式なので、陽圧換気に伴う肺障害、循環への影響などを考慮する必要があります。
2:吸気をどのように設定するか?
胸腔ドレーンのチャプターでも話ましたが、自分が人工呼吸器を一から作るつもりで考えると分かりやすくなると思います。先にモードを詰め込むと順番が逆というかモードに合わせて理解しようとするため、どうしても原理の理解が遠ざかります。
今までのところで、人工呼吸器は「陽圧換気」つまり直接肺へ圧をかけることで換気を行うことが分かりました。この陽圧がかかるタイミングが吸気に該当します。逆に人工呼吸器で呼気をサポートするメカニズムはありません。つまり人工呼吸では陽圧のかかる吸気しかサポートせず、呼気は患者さんの肺の状態によって決まるということです。
つまり人工呼吸器を作るにあたって「吸気」の設定だけをすれば良いことになります。では自分で人工呼吸器を作る場面を想定していただいて、吸気をどのように設定するでしょうか?
1:いつ空気を送るか? (Timing)
2:どのくらいの勢いで空気を送り続けるか? (Target)
3:いつ空気を送るのをやめるか? (Termination)
上記3点を決めれば吸気の設定を必要十分することが出来ます。以下でそれぞれを解説します。
2.1:いつ空気を送るか? (Timing)
何を契機(trigger)に空気を送るか?とも言い換えることができ、トリガー(trigger)とも表現されます。大きく分けると
■時間:時間がきたら空気を送る方法(time trigger) *強制換気とも表現
■吸気努力:患者さんの吸気努力を感知して空気を送る(flow trigger or pressure trigger) *補助呼吸とも表現
の2つに分類されます。
これと実際の人工呼吸器のモードを対応させると、下記の通りになります。
■時間:Control mode
■吸気努力:Assist mode, PSV(pressure support ventilation)
2.2:どのくらいの勢いで空気を送り続けるか? (Target)
空気を送り始めたはいいけど時間あたりどのくらいの勢いで送ろう?ということを決めなければいけません。空気の勢いを決める方法は
■圧
■流量
の2つが挙げられます。
これと実際の人工呼吸器のモードを対応させると、下記の通りになります。
■圧:PCV (pressure control ventilation)、PSV (pressure support ventilation)
■流量:VCV (volume control ventilation)
2.3:いつ空気を送るのをやめるのか? (Termination)
永遠に空気を送り続ける訳にはいかないので、どこかで空気を送ることをやめなければいけません。何を契機(何を感知して)に送気を止めるか?を考えると、
■時間 (time cycle):決めた時間になったら止める
■量 (volume cycle):ある一定量(1回換気量)を入れきったところで止める
■流量 (flow cycle):空気の流れがある一定の速度以下になったら止める
の3つのパターンがあります。
これと実際の人工呼吸器のモードを対応させると、下記の通りになります。
■時間 (time cycle): PCV (pressure control ventilation)
■量 (volume cycle):VCV (volume control ventilation)
■流量 (flow cycle):PSV (pressure support ventilation)
これまでのことをまとめます。まず吸気の設定項目に関してですが、以下の通りになります。
これを人工呼吸器のモード設定と対応させると以下の通りになります。
ここまでのところで、とりあえず空気をタイミングに応じて送り、空気を送り続け、きちんとしたタイミングで空気を送るのを止めることが出来る機械を作ることが出来ました。正直これでほとんど人工呼吸器は完成しています。あとはこの設定を微調整するだけです。
人工呼吸器を自分で作ってみる視点にたつと、「いつ空気を送り始めよう・・?」、「いつ空気送るの止めよう・・?」といった素朴な疑問が出てきます。その疑問から考えると人工呼吸器の理解がすすむと思います。。