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好酸球増加 eosinophilia

  • 2020年5月17日
  • 2020年5月17日
  • 血液

1:病態

好酸球は大きく分けて骨髄、血液、組織の3つの場所に存在します。骨髄には1週間程度、血液には数時間(24時間以内)、そして組織中には1~2か月と基本は組織に長く存在します。組織中の好酸球数は血液中の数百倍程度とされており、血液中の好酸球は全体のごく一部を反映しているに過ぎないことに注意です。このことは臨床的に血中の好酸球数で臓器障害を必ずしも予想出来ないことと関係しているかもしれません。

以下アレルギー由来の好酸球上昇をシェーマでまとめました。まずアレルギーの原因がマクロファージなどに取り込まれてTh(ヘルパーT細胞)に抗原提示されます。好酸球に関与するのはヘルパーT細胞のうちTh2で、これはIL4, IL5, IL13というサイトカインを放出します。

IL4はB細胞の細胞表面上の抗体をIgEにクラススイッチし、このIgEは肥満細胞の細胞膜上に集まり、IgEが抗原と結合すると肥満細胞内のヒスタミンという顆粒を放出することでアレルギー反応を引き起こします。これが抗原に対するIgEをもともと持っていると起こるのがⅠ型アレルギーです。具体的にはアナフィラキシー、蕁麻疹、血管浮腫、アレルギー性鼻炎、喘息という病気が挙げられます。

Th2細胞から放出されるIL5は骨髄から血液へ、また血液から組織への好酸球の移動を促します。こうすることで、組織中に好酸球数を増やすことが出来ます。アレルギーが機序で好酸球が増加する場合はこのような経路をたどります。つまりI型アレルギーと途中までは共通の病態ですが、好酸球が組織に動員されるまでには骨髄から血液、血液から組織へと動員するのに時間が非常にかかるという点に違いがあります。

好酸球は細胞内に組織障害性をもった顆粒を蓄えており(MBP, neurotoxin, peroxidaseなど)、これを放出することで組織に障害を与えます。好酸球は組織中に長くいるため、この障害は持続します。

好酸球増多は好酸球の割合(%)ではなく、末梢血での好酸球絶対数で判断します。好酸球絶対数>500/μL好酸球増多症(Eosinophilia)と表現します。一般的に好酸球増多で考慮するべき点は
1:二次性の原因はあるか?
2:臓器障害はあるか?
の2点です。以下で解説していきます。

2:原因

1次性

骨髄増殖性疾患:AEL, CEL, CML, SM(systemic mastocytosis)など

2次性

アレルギー:喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、血管浮腫、薬剤性
感染寄生虫、真菌(ABPA or Coccidioidomycosis)、ウイルス(HTLV-1, HIV)
悪性腫瘍:リンパ腫、腺癌
自己免疫EGPA、Sarcoidosis,炎症性腸疾患、SLE、強皮症
その他副腎不全、コレステロール塞栓症

特発性:特発性HES

大きく上記に分類されます。全世界的には寄生虫が最も原因として多いとされますが、先進国での原因として最も多いのはアレルギーです。以下に好酸球増多症で考慮するべき特徴に関してまとめます。

■好酸球数で原因の鑑別は出来ない

一般的に好酸球数だけで鑑別を絞ることは出来ないとされています。以下はあくまで参考としての話です。

喘息やアトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患が好酸球増多の場合一般に好酸球絶対数<1500/μLのことが多いとされます。喘息で好酸球数が1500/μLを超える場合はEGPA、ABPAなどを考慮するべきともされます。これは好酸球数が1500/μLを超えている場合、安易にその原因をもともとの喘息などのアレルギー疾患にしてはいけないとも言い換えられるかもしれません。

好酸球数が異常に高い場合(>20,000/μL)は骨髄増殖性疾患をまず考えます。

■好酸球はストレス下でほぼ”0″になる

細菌感染症急性期などのストレス下では通常好酸球数は下がりほぼ”0″になります。これは副腎から内因性のステロイドが放出されるからです。逆にこのようなストレス下にあるにもかかわらず好酸球数が保たれている場合は、副腎不全の合併はないか?と疑うヒントになります。

■臓器障害

好酸球は先に述べたように組織で毒性をもった顆粒を放出することで組織障害性を持ちます。これは全身あらゆる臓器で起こりますが、特に頻度が多いのは皮膚・肺・消化管・神経・心臓です。好酸球数で臓器障害の程度は予想することが出来ない点も重要です。

■薬剤と好酸球増多の臨床症状の関係

3:検査

血液検査
血算・血液像:他の血球に問題はないか?芽球の出現はないか?確認
IgE:上記のTh2活性化の機序かどうか? 他の免疫グロブリンも一緒に提出
ANCA:EGPA鑑別
ビタミンB12:骨髄増殖性の疾患で上昇する場合あり
心筋逸脱酵素:心筋障害はないかどうか(臓器障害評価のため)
寄生虫検査:虫卵・血清Strongyloides IgG抗体(虫卵検査は感度が低いことが指摘されています)
尿検査:尿沈渣, 蛋白電気泳動
心電図検査:心筋障害はないか
呼吸機能検査:喘息ないか
画像検査:肺野HRCT 肺障害はないかどうか?

骨髄検査:必要時・骨髄増殖性疾患を疑う場合

皮膚生検:EGPAを疑う場合はどこか生検できる部位がないか

■注意点
・好酸球はステロイドですぐに消えてしまうため、治療介入前にきちんと検査、検体採取をすることが必要

・Strongyloides感染症はステロイド投与により増悪する場合があるため、必ず考慮する(up to dateでは疑わしい症例は検査が陰性であっても全例抗寄生虫薬イベルメクチンにて治療するとあり)。

今回治療内容の細かいところに関しては割愛させていただきます。

以上好酸球数増多に関してまとめました。入院中の患者で好酸球数が増多してきたことがある経験はみなさんあると思います。もちろんアレルギーが一番多いのですが、好酸球の病態をふまえて1:二次性の原因は?、2:臓器障害はないか?という視点からアプローチすることが重要です。

参考文献
・J Allergy Clin Immunol 2010;126:39:好酸球増多へのapproachをまとめたreview
・Up to date 2020/5/13閲覧