1:低酸素血症の病態・原因
呼吸生理の記事で勉強した呼吸生理の全体像を踏まえて、どこが障害されると低酸素血症になるか?を解説していきます。
まず酸素化に関係する要素をみていきます。上図で”PaO2″へ向かう矢印(青色で表現:酸素化と関係している項目)をまとめると、
1:平均気道内圧
2:PAO2
3:AaDO2
この3要素で”PaO2″が規定されることが分かります。これは肺胞内の酸素のつぶつぶを血液側へ圧をかけて押し込む様子をイメージすると理解がしやすくなると思います(下図)。
このイメージを4段階で解説します。
1:PAO2は肺胞内の酸素分圧で、「酸素のつぶつぶが肺胞内にどのくらいあるか?」を表しています。
2:さらに「酸素のつぶつぶを血液側へ押し込む力」が必要で、これが「平均気道内圧」に該当します(二酸化炭素と違い、圧がかからないと酸素は肺胞内にいるだけで、自然と血液中には拡散しないため圧力が必要)。
3:肺胞から血液に到達するためには、途中で肺胞上皮、間質、血管内皮細胞という障害物を乗り越えないといけません(「拡散障害」と対応)。
4:やっとの思いで酸素が血液中に押し込まれも、血液量とのバランスが悪いと酸素化を効率よく行えません(「V/Qミスマッチ」と対応)。
ここまでで肺胞内の酸素がどのように血液中に届けられるかが分かったと思います。「低酸素血症」はこの経路のどこかに障害があることを表しています。これをまとめると下図の通りになります(酸素濃度が低下する場合は病気では起こらず環境の問題なので、ここでは省略します)。
換気の障害、V/Qミスマッチ、拡散障害に関しては呼吸生理で解説させていただいたので、こちらをご参照ください。
上図からわかる通り、低酸素血症の原因は大きく「駆動系の問題」と「肺胞の問題」の2つに分けて考えることが出来ます。ではどうすれば駆動系、肺胞どちらの問題か鑑別出来るでしょうか?
■血液ガス
検査でこれらを区別する方法として有用なのは「血液ガス検査」です。具体的には“AaDO2”と“PaCO2”に着目します。低酸素血症の時に血液ガス検査を行う理由はこの2つを知りたいからです。もちろん正確なPaO2, SaO2が知りたいという理由もありますが、それより圧倒的に重要なのは”AaDO2″が開大していないか?”PaCO2″が上昇していないか?を調べることで低酸素血症の原因が駆動系の問題なのか?肺胞の問題なのか?を知ることが出来るからです。
また「軽度のSpO2低下だから血液ガスを取りませんでした」(普段SpO2が96%の患者さんがSpO2=92%に低下など)という現場にときどき遭遇しますが、これも筋違いです。知りたいのは正確なPaO2, SaO2値ではなく、「そのSpO2低下の原因は何か?」です。そのためにはAaDO2, PaCO2の値が必要なので血液ガスを撮ります。SpO2の低下が軽度であるかどうか?はここでは何も関係ありません。
■AaDO2
AaDO2は駆動系の問題では正常ですが、肺胞の問題では開大します。
ただ、ここで注意が必要なのは「多くの場合、低酸素血症の原因は1つだけではなく複数である」という点です。駆動系の問題で低換気になったとしても、それに伴い無気肺が生じるとV/QミスマッチからAaDO2が開大する場合があります。このため、AaDO2が開大していても、駆動系に問題がある場合があるため注意が必要です。このようにAaDO2で全てがバッサリと鑑別できるわけではなく、その検査特性を分かった上で活用することが重要です。
■PaCO2
上記の通りAaDO2だけでは駆動系の問題か肺胞の問題かを区別するのに十分とはいいがたいです。そこで必ずPaCO2を確認します。駆動系の問題ではPaCO2は必ず上昇します。肺胞の問題でも死腔換気が増加する場合はPaCO2が増加するため、PaCO2の上昇 = 駆動系の問題と完全に一対一対応の関係にある訳ではありますが、駆動系の問題か肺胞の問題か区別する上で非常に重要です。
2:酸素化
次に低酸素血症で「酸素化を改善するにはどうすればよいか?」を考えます。いままで低酸素血症が起こる病態・原因に関して解説してきたので、それぞれに対してアプローチすれば大丈夫です。まとめると以下の通りになります。
酸素化改善には図の通り「酸素療法」、「人工呼吸管理」、「原因疾患の治療」の3つの方法が挙げられます。それぞれの治療が酸素化のどの要素へアプローチしているのかを把握して治療法を選択します。
■酸素療法
酸素療法は酸素濃度を上昇させることで酸素化を改善させます。しかし換気には一切関与せず、また肺の状態を酸素投与で改善できるわけではありません。酸酸素療法に関しては別項にまとめたので、こちらをご参照ください。全体像からみると人工呼吸管理は下図赤かっこ部分に介入することが出来ます。
■人工呼吸管理
酸素療法は酸素濃度にしか関与できませんでしたが、人工呼吸管理ではPEEPを上げることで「平均気道内圧」、またFIO2から酸素濃度に関与することが出来ます。酸素化を改善したい場合は主にこの2つの項目を調整します。全体像からみると人工呼吸管理は下図赤かっこ部分に介入することが出来ます。
注意が必要な点は酸素療法と人工呼吸管理はいずれも肺の状態を良くする訳ではないということです(V/Q<1の場合に陽圧換気がatelectraumaを防ぐ効果はありますが・・・)。これらの酸素療法や人工呼吸管理はあくまで肺の状態が改善するまでの間の一時しのぎに過ぎません。必ず原疾患が肺炎なら肺炎の治療(抗菌薬)、心不全なら心不全の治療(利尿薬など)と原疾患の治療をすることが、肺の状態を改善するためには必要です。
呼吸生理の背景を踏まえて低酸素血症の病態・酸素化を改善するためのアプローチに関して解説させていただきました。