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脳死判定と注意点

  • 2026年9月4日
  • 2026年9月4日
  • 神経

これまでの歴史的な経緯

1968年8月:和田心臓移植事件

色々な議論があるが、この間に日本では脳死、移植に関する議論は下火になりこの間に海外では臓器移植の技術が大きく進歩した

1985年:竹内基準(脳死判定基準) *全脳死を作用
1:深昏睡、2:瞳孔散大固定、3:自発呼吸の消失(無呼吸テスト)、4:脳幹反射の消失、5:平坦脳波

1997年:「臓器移植法」成立 *法的脳死判定は竹内基準に準拠することに
1:諸外国と比べて最も厳しい基準(脳波検査も必須)
2:意思表示カードなどによる本人の事前意思が必須とされた
3:臓器移植を前提とする時のみ、脳死をもって人の死と定義
*臓器移植を前提としない場合はたとえ脳死判定でも従来通り心臓死をもって死と定義する
*つまり2通りの死の定義がある

1998年:日本で初めての脳死判定

問題点1:意思表示カード所持者はきわめて少ない
問題点2:15歳以下の小児は本人の意思表明が有効ではないため、臓器提供者になりえない
→小児の臓器移植が不可能であり海外渡航による移植にたよる状況が続いた

2008年:イスタンブール宣言
ポイント:自国外での臓器移植自粛が求められた

2009年:改訂臓器移植法案
1:生前の本人の意思が明確でない場合は、家族の承諾により臓器提供ができるとされた
→臓器提供件数が増加(小児をドナーとする道も開かれた)
2:「脳死は人の死」であるという考えは概ね社会的に受容されていることが明記された
3:あくまでもこれは臓器移植においての話であり、それ以外の状況では脳死判定による死亡宣言はあり得ない

脳死判定

前提条件

1:器質的脳障害により深昏睡および無呼吸をきたしている症例
2:原疾患が確実に診断されている症例
3:現在行い得るすべての適切な治療をもってしても回復の可能性がまったくないと判断される症例

除外条件

1:脳死と類似した状態になりうる症例(急性薬物中毒、代謝・内分泌疾患など)
2:知的障碍者などのぞうき
3:被虐待児、または虐待が疑われる18歳未満の児童
4:年齢不応の血圧(収縮期血圧)
5:低体温(深部温度 直腸温、食道温 32度未満)
6:生後12週未満

必須項目

1:深昏睡
2:瞳孔散大・固定:両側4mm以上
3:脳幹反射消失の確認:7項目全ての反射が消失
4:平坦脳波の確認 *法的脳死判定にあたっては、脳波検査に併せて聴性脳幹反応(ABR)を行うことが望ましい
5:自発呼吸消失の確認(無呼吸テスト)
判定間隔:第1回脳死判定が終了した時点から6歳以上では6時間以上、6歳未満では24時間以上を経過した時点で第2回目の脳死判定を開始する
法的脳死の判定:脳死判定は2名以上の判定医で実施し、少なくとも1人は第1回目、第2回目の判定を継続して行う。第1回目脳死判定ならびに第2回目の脳死判定ですべての項目が満たされた場合、法的脳死と判定する。死亡時刻は第2回目の判定終了時とする。

脳死判定下での自発運動・反射運動

Saposnik G, Basile VS, Young GB. Movements in brain death: a systematic review. Can J Neurol Sci. 2009 Mar;36(2):154-60. doi: 10.1017/s031716710000651x. PMID: 19378707.

1. 本システムレビューの概要

  • 目的: 脳死宣告の過程やその後に見られる自発運動・反射運動の性質、頻度、臨床的意義、および病態生理学的メカニズムを系統的に明らかにすること。
  • 方法: 1960年1月から2007年12月までの間に発表された論文をMedlineで検索(キーワード「brain death」「cerebral death」「movements」「spinal reflexes」)。 unresponsiveness(無反応)、脳幹反射消失、無呼吸、または補助検査による脳血流消失が明確に記録されている「脳死患者」の運動事例を分析対象としました。
  • 結果: 131件の論文が同定され、そのうち4件がコホート研究(エビデンスレベルB)、残りは症例報告やケースシリーズ(エビデンスレベルC)でした(ランダム化比較試験はなし)。

2. 歴史的背景と「脳死」概念の変遷

  • 断頭遺体の運動に関する歴史: 古くから、脳(頭部)が体から切り離された後も体が動き続ける現象は人々の関心を集めていました。
    • 1637年、ルネ・デカルトは著書『方法序説』において、斬首された動物の頭部や身体が動き続けることに言及しています。
    • 15世紀のルネサンス画(ベアト・アンジェリコ作『聖コスマスと聖ダミアンの斬首』など)には、斬首直後でも姿勢トヌスを保ち、直立している死体が描かれています。
    • 1795年のフランス革命期、ギロチンでの処刑者を調査した医師レニャール(Regnard)やロワイ(Loye)らは、第4頸椎で切断され脳が完全に失われた遺体において、心臓が1時間以上拍動し続け、顎の収縮や瞬きが認められたと報告しています。
  • 脳死判定基準の変遷:
    • 1968年のハーバード基準(Ad Hoc 委員会)では、脳死の要件として、あらゆる自発・反射運動(脊髄反射を含む)が**「完全に消失」**していることを求めていました。
    • しかしその後の科学的進歩により、1981年のカナダのガイドラインを皮切りに、米国、英国、カナダなどの公式な判定基準において、**「脊髄反射(脳死関連反射)の存在は脳死判定を否定しない」**とされるようになりました。
    • 法的に脳死を「個人の死」とみなす地域では、生存を意味する「患者(Patient)」ではなく、「心臓が拍動している死体(Heart-Beating Cadaver: HBC)」という用語が適切であると著者らは指摘しています。また、用語の混乱を防ぐために、刺激によって誘発される運動を「脳死関連反射(BD-associated reflexes)」、自発的な運動を**「脳死関連自動運動(BD-associated automatisms)」**と呼ぶ記述的な命名法が支持されています。

3. 4つの主要コホート研究(50例以上)の比較

50例以上のHBCを評価した4つの主要コホート研究(合計356例)を分析した結果、全体の 43.3%(154例) に何らかの自発・反射運動(SRMs)が観察されました。

  1. Ivan (1973年) [52例中39例 (75%) にSRMsを確認]
    • 判定基準: 30分間の平坦脳波、呼吸停止、脳幹反射消失。
    • 特徴: 足底屈曲反応(60%)、深部腱反射(35%)、足底逃避反射(35%)、腹壁反射(40%)などの単純な脊髄反射を主に報告しました。頸部前屈(首を曲げる)による腕の屈曲(25%)、股関節屈曲(45%)、腹部反射(75%)も報告されましたが、複雑な運動は含まれていませんでした。
  2. Jorgensen (1973年) [63例中50例 (79%) にSRMsを確認]
    • 判定基準: 脳機能停止、平坦脳波(30分)、脳神経反射消失(自発呼吸および自動的な血圧維持能なし)、20分以上の間隔を置いた2回連続の脳血管造影で脳血流が完全に途絶。
    • 特徴: 下肢の三重屈曲反応(50例)、上肢腱反射(31例)、下肢腱反射(24例)を観察。皮膚刺激によって腕と前腕が伸展・回内する**「上肢の伸展・回内反射(extension-pronation arm reflex)」を報告し、脳死後も脊髄反射が回復・存続する様子から「脊髄人(Spinal man)」**という言葉を提唱しました。
  3. Döşemeci (2004年) [134例中18例 (13.4%) にSRMsを確認]
    • 判定基準: AAN基準(臨床判定および無呼吸テスト)。
    • 特徴: 指やつま先のピクつき(Finger and toe jerks:最多)のほか、無呼吸テスト中や頸部前屈などの際にラザロ徴候が2例で複数回観察されました。
  4. Saposnik (2005年) [107例中47例 (43.9%) にSRMsを確認]
    • 判定基準: AAN基準。年齢、性別、脳死原因による運動の有無に有意差はありませんでした。
    • 特徴: 最多の運動は**足趾の波状屈曲(undulating toe flexion)と下肢の三重屈曲反応(triple flexion response)**でした。原疾患別では、脳出血(51%)で運動が多く見られ、酸素欠乏性・低酸素性脳症(11%)では少ない傾向がありました。26%の症例で2種類以上の運動が同時に確認されました。

4. 脳死下で報告されている主な運動(Phenomenology)

文献レビューによって裏付けられた、具体的な運動パターンは以下の通りです。

  • ラザロ徴候 (Lazarus’ sign): 1982年にMandelらが初報告。受動的な頸部前屈、無呼吸テスト、人工呼吸器からの離脱などにより誘発されます。両腕が肘で屈曲して持ち上がり、胸や顔の前で手が交差するか合わさる(お祈りの姿勢)、肩の内転、前腕の回内、指のジストニア様の肢位を数秒間とった後、ゆっくり元の位置(下腹部など)へ戻る一連の非常に複雑な運動です。
  • 足趾の波状屈曲 (Undulating toe flexion sign): 足の指が波打つようにゆっくりと連続的に屈曲・伸展する運動。自発的に現れるほか、足底への触覚・痛み刺激で誘発され、脳死診断後12時間以内に出現しやすい特徴があります。
  • 三重屈曲反射 (Triple flexion reflex): 下肢への触覚や痛み刺激によって、股関節、膝関節、足首(足関節)が同時に連動して屈曲する脊髄レベルの逃避反射です。
  • 呼吸様運動 (Respiratory-like movements): 呼吸器離脱(無呼吸テストなど)の数分後〜35分後に見られる、肺の十分な一回換気量を伴わない低頻度(毎分6回未満)の肩の挙上・内転、背中の反り返り、ゆっくりとした咳のような運動です。剖検にて重度の脳幹・脊髄虚血や小脳ヘルニアが確認された症例でも報告されています。
  • 顔面マイオキミア (Facial myokymia): Saposnikらが脳幹出血による脳死患者で確認した、左頬の筋肉がピクピクと波打つように断続的に収縮する現象(脳波は平坦)。表情筋の脱神経(denervation)によるものと推測されています。
  • 内臓-体性反射 (Viscero-somatic reflex): 臓器摘出(腎臓の切除)の際、腹壁(壁側腹膜)を切開した瞬間に腹部の筋肉が収縮する反射(Conciらの研究では60%で確認され、血圧や心拍数の急変動を伴った)。

5. 提案されている病態生理学的メカニズム

これらの運動の起源は、脳ではなく**「脊髄(Spinal cord)」**であることが証明されています。

  1. 下降性抑制の遮断(脱抑制): 通常、大脳や脳幹から伸びる下降路(皮質脊髄路、赤核脊髄路、前庭脊髄路、網様体脊髄路など)が、脊髄の運動ニューロンに抑制(グリシン作動性伝達など)をかけています。脳死によりこの抑制が完全に途絶するため、脊髄レベルの回路が異常に興奮し(脱抑制)、複雑なパターン運動として発現します。
  2. セントラル・パタージェネレーター(Central generators)の解放: 動物実験(脳を取り除いた犬や猫が、刺激やLevodopa投与によって歩行運動を示すGraham Brownの「ハーフセンター仮説」など)から、脊髄内には歩行や交互屈曲などの運動パターンを自動制御する回路(セントラルジェネレーター)が存在することが分かっています。上位脳からの支配を失うことで、この系統発生学的に「古い原始的な運動パターン」が解放されると考えられています。
  3. 低酸素および機械的刺激: ラザロ徴候などの運動は、無呼吸テストや血行動態悪化(低血圧)に伴う**「頸髄の虚血・低酸素状態」が直接ニューロンを刺激すること、あるいは首の前屈(頸部前屈)による脊髄神経根への機械的な伸張(伸展)**がトリガーとなって誘発されると推測されています。
  4. 電気生理学的な証明: ラザロ徴候などの運動が起きている最中に体性感覚誘発電位(SSEP)を測定すると、頭皮(大脳皮質)での反応は完全に消失しているにもかかわらず、脊髄後角(N13成分など)の電位は保存されていることが確認されており、脊髄起源であることの決定的な裏付けとなっています。

6. 臨床現場における実際の影響と課題(実務的意義)

  • 誤解と診断の遅延: 医療スタッフや家族の知識不足から、身体の動きを「脳が生きており、意識があるのではないか」と誤解し、脳死判定の保留や臓器移植プロセスの著しい遅延につながることがあります。1989年の調査では、臓器調達に関わる医療職でも正しく脳死を理解していたのは35%にすぎませんでした。
  • 補助検査の推奨: 運動が脊髄由来なのか脳由来(除脳硬直など)なのか臨床的な識別が困難な場合は、脳波(EEG)、体性感覚誘発電位(SSEP)、経頭蓋ドップラー(TCD)、脳血管造影、脳シンチグラフィなどの確認検査(補助検査)を実施して、脳血流や脳幹機能が完全に消失していることを客観的に裏付けることが推奨されます。
  • 丁寧なコミュニケーションの重要性: 医師や医療従事者は、**「脳死状態の4割から5割でこのような脊髄反射や自動運動が見られること」**を深く理解し、あらかじめご家族に対して、これが「脳の活動や意識を示すものではなく、残された脊髄による自然な電気信号(反射)であること」を丁寧に説明し、過度な不安や誤解を和らげる配慮が必要です。

“Spontaneous and reflex movements in brain death” NEUROLOGY 2000;54:221–223

前向き検討 38例の脳死判定患者
39%(15/38)に自発運動または反射運動を認めた
すべての運動は脳死判定後の最初の24時間以内に観察され、72時間を超えて持続することはなし

  1. 指のピクつき(Finger jerks:ミオクローヌス様): 6例(最も高頻度)
  2. 足趾の波状屈曲(Undulating toe flexion sign): 3例
  3. トリプル・フレクション反射(Triple flexion reflex): 2例
  4. 片側性顔面マイオキミア(Facial myokymia): 1例
  5. ラザロ徴候(Lazarus sign:腕を屈曲し交差させるなど): 1例
  6. 上肢の回内・伸展反射(Pronation–extension reflex): 1例
  7. 足底屈曲反応(Plantar flexor response): 1例
  • 誘発因(トリガー)と環境:
    • 「指のピクつき」と「顔面マイオキミア」は自発的(Spontaneous)に現れましたが、それ以外の多くの運動は触覚刺激によって誘発
    • これらの運動は無呼吸テストの前後双方で観察され、血圧(正常血圧または低血圧)に関わらず生じました。
    • 運動が観察されたすべての症例において、脳波上での放電(てんかん波など)は認められませんでした。
  • 脊髄起源の運動: これらの運動のほとんどは、脳死判定を覆すものではない脊髄反射と考えられます。
  • 「顔面マイオキミア」に関する注意: 本研究で1例認められた顔面マイオキミアのような顔面運動については、脳幹の活動(機能残存)を示唆している可能性が排除できないため、脳死判定においては慎重な解釈が必要であると指摘されています。必要に応じて、脳血流検査や電気生理学的検査などの補助検査の活用が推奨されます。

“Reflex and Spontaneous Movements in Adult Patients during the Process of Determining Brain Death in Korea” J Korean Med Sci. 2020 Mar 23;35(11):e71

韓国の多施設共同大規模データで17%(74/436)に自発運動または反射運動を認めた
*大韓医学会のガイドラインに沿って脳死と診断された、臓器提供が完了した成人患者436名(平均年齢48.8歳、男性71.3%)
内訳:反射運動のみ 60.8%, 自発運動のみ 24.3%, 両者 14.9%
出現部位:60.8%は体の一部に限局した運動 下肢が最多
影響を与える臨床因子
1:原死因による違い(多変量解析): 脳死に至った原因の中で、低酸素脳症(Hypoxic brain injury)は、局所的な脳病変と比較して、有意に高い(オッズ比:2.928、95%信頼区間:1.560–5.496、P = 0.001)
※過去のSaposnikらの研究(2005年)では局所病変で運動が多いとされていましたが、その研究は低酸素性の症例が9例と極めて少なかったのに対し、本研究では110例の豊富な低酸素症例からこの高い関連性を明らかにしました
。なお、これが低酸素後の筋陣攣(ミオクローヌス)によるものかを調べたところ、低酸素症患者30名のうちミオクローヌスが認められたのは3名のみであり、最も多かったのは足底反射や三重屈曲反射でした。
2:血圧の影響(多変量解析): 収縮期血圧(SBP)が高い患者ほど、運動が生じやすいことが明らかになりました(オッズ比:1.050、95%信頼区間:1.028–1.072、P = 0.000)
。運動あり群の平均収縮期血圧は135.1 ± 19.3 mmHgで、運動なし群の114.2 ± 17.7 mmHgと比較して有意に高い数値でした。
3:有意差がなかった項目: 年齢、性別、身長、心拍数、体温、血液pH、動脈血酸素分圧(PaO2)、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)などは、運動の有無に影響を与えませんでした

運動の種類特徴全体に占める割合
足底反射(Flexor/extensor plantar response)足底への触覚または痛み刺激による足指の屈曲・伸展(反射運動)30個(28.3%)※最多
単発の手指ピクつき(Isolated finger jerk)手指や親指の短いピクつき(反射または自発運動)11個(10.4%)
上肢の回内・伸展反射(Pronation extension arm reflex)手への痛み刺激または自発的に生じる、腕の回内と伸展運動10個(9.4%)
足趾の波状屈曲(Undulating toe flexion)足底への刺激または自発的に生じる、足指のゆっくりとした反復運動9個(8.5%)
三重屈曲反射(Triple flexion reflex)足への刺激による、股関節・膝・足首の連動した屈曲(反射運動)8個(7.5%)
頭部回旋(Head turning)刺激または自発的に生じる、頭部が数秒間特定の方向を向く動き8個(7.5%)
脊髄ミオクローヌス(Spinal myoclonus)主に下肢や腹壁に見られる筋肉の不随意収縮(自発運動)7個(6.6%)
非対称性後弓反張(Asymmetric opisthotonic posture)刺激または自発的に生じる、背中の反り返りやねじれ6個(5.7%)
緊張性頸反射(Tonic neck reflex)頭部を強制回旋した側の腕(ときに脚)が伸展し、対側が屈曲(反射運動)5個(4.7%)
大腿四頭筋収縮(Quadriceps contraction)下肢への刺激または自発的に生じる、太ももの筋肉の収縮4個(3.8%)
呼吸様運動(Respiratory-like movement)刺激または自発的に生じる、肩の内転やゆっくりとした咳のような動き2個(1.9%)
ラザロ徴候(Lazarus’ sign)刺激または自発的な、両腕の屈曲、肩の内転、胸/首への挙上運動2個(1.9%)
深部腱反射(Deep tendon reflex)腱を叩いた際の急速な筋肉の収縮(反射運動)2個(1.9%)

各国のガイドライン

“Determination of Brain Death/Death by Neurologic Criteria The World Brain Death Project” JAMA. 2020;324(11):1078-1097.

1. 脳死(BD/DNC)の基本概念と定義

  • 定義: 脳死(神経学的基準による死亡:BD/DNC)は、**「大脳、脳幹、小脳を含む脳全体の機能が、完全かつ恒久的に喪失した状態」**と定義されます。これは、意識の容量の喪失(不可逆的昏睡)、すべての脳幹反射の消失、および自発呼吸能力の恒久的消失を指します。
  • 「恒久的(Permanent)」の定義: 脳機能の喪失が、**「自然に再開することはなく、いかなる治療介入によっても回復しない状態」**であることを意味します。
  • 細胞レベルの活動: 神経細胞や神経内分泌(ホルモン調整機能など)レベルの微視的な活動が一部で持続していたとしても、脳死の診断は否定されません。
  • 用語の統一: 「全脳死」や「脳幹死」という従来の個別的な表現を廃止し、より正確な**「BD/DNC(Brain Death/Death by Neurologic Criteria:脳死/神経学的基準による死亡)」**に統一することが提案されています。

2. 判定開始前の「前提条件」と「交絡因子の除外」

診察を開始する前に、脳死を模倣するすべての可逆的な要因を徹底的に排除しなければなりません。

① 前提条件(Prerequisites)

  • 不可逆的な脳損傷の診断: 臨床歴、原因、および神経画像(CTやMRIなど)によって、完全かつ恒久的な脳機能喪失をもたらす器質的な重篤脳損傷が確定していることが必要です。
  • 適切な観察期間: 判定前に十分な観察期間を置く必要があり、特に心停止蘇生後の酸素欠乏性(低酸素性)脳損傷では、最低24時間以上の観察期間が必須とされています。
  • 生理学的指標の維持:
    • 深部体温: 36.0℃以上を維持していること(食道、膀胱、直腸、または中心静脈等で測定)。
    • 血圧: 成人では収縮期血圧(SBP)が100 mmHg以上、または平均動脈圧(MAP)が60 mmHg以上であること(小児は年齢に応じた目標値)。

② 交絡因子(Confounders)の排除

  • 筋弛緩薬(薬物性麻痺)の排除: 四連刺激(train-of-four)や深部腱反射を用いて、薬物による麻痺効果が完全に切れていることを確認します。
  • 中枢神経抑制薬(鎮静薬・麻酔薬など)の影響排除:
    1. 薬剤の消失半減期の5倍以上の時間が経過している(臓器障害や低体温による遅延も考慮)。
    2. または、血中濃度が治療域を下回っていること。
    3. これらが不確実な場合は、臨床評価に加えて補助検査(脳血流検査など)を追加します。
  • アルコール: アルコール中毒が疑われる場合、血中アルコール濃度が80 mg/dL以下である必要があります。
  • 代謝・酸塩基・内分泌異常: 脳幹機能を低下させる可能性のある重篤な異常(重度の低ナトリウム血症、高度の代謝性昏睡など)は、判定前に補正する必要があります。補正が困難な場合は、脳血流検査などの補助検査が必須となります。

3. 臨床的神経学的診察(最小基準)

以下のすべての項目を評価し、反応が一切ないことを確認します。

  1. 昏睡 (Coma) の確認: 最大限の外部刺激(有害な視覚、聴覚、および強度の痛み刺激)に対しても、覚醒や認識の兆候(運動や顔のしかめなど)が全く見られないこと。
  2. 対光反射の消失: 両側の瞳孔が中等度〜散大(約4〜6mm)で固定し、光に対して直接・間接ともに全く縮瞳しないこと。2mm未満の縮瞳がある場合は薬物中毒などを考慮します。
  3. 角膜反射の消失: 綿棒で角膜外縁を軽く刺激しても、まばたきや周囲の筋肉の収縮が起こらないこと。
  4. 眼球頭反射(OCR)の消失: 頸椎に損傷がないことを確認した上で頭部を左右に素早く回転させても、眼球が完全に固定されたままであること。
  5. 前庭反射(OVR:カロリックテスト)の消失: 外耳道が開通し鼓膜が破れていないことを確認後、頭部を30度挙上し、50〜60mLの氷水を少なくとも60秒間注入しても眼球運動が誘発されないこと(対側を行う場合は5分間空ける)。
  6. 顔面の運動反応の消失: 三叉神経支配領域(眼窩上、下顎、鼻へのむずがゆさ刺激など)への有害刺激に対して、顔面の筋肉( grimacing:顔をしかめる動作など)が全く動かないこと。
  7. 咽頭反射の消失: 吸引カテーテルなどで両側の咽頭後壁を刺激しても、えずき(嘔吐反射)が生じないこと。
  8. 咳反射の消失: 挿管チューブから吸引カテーテルを気管分岐部まで挿入して刺激しても、咳が生じないこと。
  9. 脳由来の運動反応の消失: 四肢への痛み刺激に対して、脳を介した運動反応が一切ないこと。
    • ※重要:四肢の有害刺激に対して発生する「脊髄運動(三重屈曲反射、ラザロ徴候、足底屈曲反射など)」は、脊髄由来の反射であるため、脳死の診断を否定しません。

4. 自発呼吸消失の確認(無呼吸テスト)

血液中の二酸化炭素(CO2)分圧を上昇させ、延髄の呼吸中枢を最大限に刺激しても、自発呼吸運動が生じないことを確認する最終テストです。

  • 実施順序: 呼吸器離脱中の循環動態悪化によるリスクを考慮し、他のすべての臨床的神経診察を終えてから最後に実施します。
  • 準備手順:
    1. 事前に人工呼吸器の設定を調整し、動脈血ガスで**正常なCO2分圧(PaCO2 35〜45 mmHg)**を確認します。
    2. 100%酸素を10分以上投与(プレオキシゲネーション)し、体内を酸素化します。
    3. 血圧、体温が適正(SBP≧100 mmHg / MAP≧60 mmHg、Temp≧36.0℃)であることを再確認します。
  • テスト手順:
    • 呼吸器から離脱させ、CPAP、PEEPバルブ付き蘇生バッグ、または気管内カテーテルを用いて100%酸素(4〜6 L/minなど)を肺に供給しつつ、胸部・腹部の呼吸様運動を厳密に観察します。
    • 約10分後に血液ガスを測定し、**「pH < 7.30」かつ「PaCO2 ≧ 60 mmHg(慢性CO2貯留のある患者では、ベースラインから20 mmHg以上の上昇)」**に達しても自発呼吸運動がない場合に陽性(自発呼吸消失の証明)と判定します。
  • 中止(中断)基準: 自発呼吸の発現、持続的な低酸素血症(SpO2 < 85%)、重篤な低血圧(SBP < 100 mmHg / MAP < 60 mmHg)、または不安定な心室性不整脈が発生した場合は即座にテストを中止し、呼吸器に戻します。

5. 判定回数と小児における基準

  • 成人(18歳以上):
    • 前提条件(不可逆性の証明と十分な観察時間)が完全に満たされている場合、無呼吸テストを含む1回の完全な診察で判定することが最小基準です。
    • もし臨床施設や地域(州)の規程等で2回の診察を行う場合、2回目のテスト時に重ねて無呼吸テストを行うのは「1回のみ」でよいとされています。
  • 小児(18歳未満):
    • 小児では、大人に比べて脳の可塑性や不確実性が高いため、「2回の独立した完全な診察(無呼吸テストを含む)」を行うことが必須の最小基準です。
    • 新生児の判定対象は、修正妊娠週数36週以降の患者に限定されます(36週未満は、評価のための科学的証拠が不十分)。
    • 新生児や6ヶ月未満の乳児では、大人と同等の脳幹反射に加えて、「吸啜反射(sucking)」および「捕捉反射(rooting)」の消失も評価項目に含まれます。また、新生児・乳児においては、無呼吸テスト時の気管内酸素送気法(酸素気流の直接注入)は肺損傷リスクがあるため推奨されません。

6. 補助検査(Ancillary Testing)の推奨と選択

脳死は本質的に臨床的な診断であるため、すべての前提条件が満たされ、無呼吸テストを完遂できた場合は、原則として補助検査を行う必要はありません。

① 補助検査を実施すべき状況

  1. 重度顔面損傷や眼球損傷などがあり、臨床的神経診察(脳幹反射など)が物理的に一部完遂できない場合。
  2. 血行動態や肺機能が極めて不安定で、無呼吸テストが安全に実施できない場合。
  3. 交絡因子(薬物の影響、是正困難な代謝異常など)が完全に除外できない場合。
  4. 観察された運動が「脊髄反射」なのか「脳由来の運動」なのか判断がつかない場合。

② 推奨される補助検査(脳血流に基づく検査)

  • 4血管脳血管造影(デジタル減算血管造影:DSA): 最も確立された**ゴールドスタンダード(参照基準)**です。動脈血流が頭蓋骨の基部(内頸動脈や椎骨動脈が入る位置)で完全に途絶していることを証明します。
  • 脳血流シンチグラフィ(核医学検査): 脳関門を通過する親油性物質を用いた検査で、**SPECT(単一光子放射断層撮影)**が平面像(planar)より優先されます。頭蓋内に同位体(アイソトープ)の取り込みが全くないことを示します。
  • 経頭蓋ドップラー超音波(TCD): ※成人でのみ使用可能。30分以上の間隔を空けて両側から計2回行い、収縮期スパイク波または拡張期の逆流を伴う揺動流を証明します。

③ 推奨されない、または発展途上の検査

  • 脳波(EEG): 成人の脳死判定におけるルーチン(日常的)な使用はもはや推奨されません。脳幹の機能を直接評価できないことや、薬物・代謝の影響を極めて受けやすいためです(ただし、地域の法律で定められている場合等を除く)。
  • CTアンギオグラフィ(CTA)およびMRアンギオグラフィ(MRA): 脳死判定用ツールとしての診断精度(感度・特異度)に関するエビデンスがまだ不足しているため、現時点では脳死の最終証明(脳循環停止の診断)として単独での使用は認められていません(今後の検証に向けて優先して研究すべき技術とされています)。

7. 特殊な臨床状況における判定方法

① ECMO(体外式膜型人工肺)装着患者

  • MAPの維持: VA-ECMO(静脈-動脈)使用時は、循環動態を維持して脳死判定基準を満たすMAP(成人では≧60 mmHg)を保つため、ECMOの流量(サポート)を維持・調整します。
  • プレオキシゲネーション: 人工呼吸器とECMOの両方の設定で100%酸素を投与します。
  • ECMO使用時の無呼吸テストの手順(CO2上昇):
    • ECMOはCO2の除去能力が極めて高いため、単に人工呼吸器を外すだけではPaCO2が上昇しません。そのため、ECMOのスイープガス(ガス流量)を「0.5〜1.0 L/min」に絞ることで、徐々に体内にCO2を蓄積させます。
    • 二重サンプリング(VA-ECMO): 自己心拍が維持されているVA-ECMOでは、足側と頭側の血流混合が異なる可能性があるため、「患者の動脈ライン(末梢)」と「ECMO回路内のポストオキシゲネーター」の双方から同時に採血を行い、双方が「pH < 7.30 かつ PaCO2 ≧ 60 mmHg」を満たす必要があります。

② 低体温管理療法(TTM)実施後

  • 低体温は脳幹反射を一時的に鈍らせ、さらに鎮静薬の代謝を著しく遅らせる大きな交絡因子となります。
  • 判定手順:
    1. 少なくとも36℃以上に復温してから24時間経過後、脳の非可逆的な破壊(重度脳浮腫や脳ヘルニア)を証明する脳画像検査を取得します。
    2. 画像上で重篤な頭蓋内圧亢進の裏付けがあり、鎮静薬の影響がない場合、復温24時間後から脳死判定を開始できます。
    3. 鎮静薬が残存している可能性がある場合、半減期の5倍以上の待機時間を置くか、血中濃度を測定するか、あるいは脳血流を評価する補助検査を追加することで判定を行います。

8. 倫理的・社会的・法律的配慮

  • 事前同意の不要性: 各国の特別な法律などで規定がない限り、脳死判定の臨床試験や無呼吸テストを実施するにあたって、家族の「同意」を得る義務はありません。脳死判定は「医療行為(治療)」ではなく「死の宣告(事実の確認)」であるためです。ただし、判定を開始する前にご家族へあらかじめ連絡を試みる努力は必要です。
  • 死亡時刻の決定:
    • 補助検査を使用しない場合:無呼吸テストにおいて、目標となる動脈血ガスの目標値(PaCO2≧60mmHg)を満たした血液サンプルが検査室から報告・確定された時刻。
    • 補助検査を使用した場合:担当医師がその検査結果をカルテに正式に記載(解釈・文書化)した時刻。
  • 死亡宣告後の身体サポート(Somatic Support): 脳死(DNC)と宣告された患者の身体サポートは原則として直ちに中止されますが、以下の例外的な状況では、全身(他臓器)の機能を維持するための徹底的なICU管理(不整脈、低血圧、尿崩症、体温などの生理学的コントロール)が施されます。
    1. 臓器提供が予定されている場合。
    2. 脳死患者が妊婦であり、胎児の成長と出産(通常26〜33週での帝王切開を目指す)のために管理が必要な場合。
    3. 家族から宗教的または道徳的理由によるサポート継続の猶予(アコモデーション)要請があり、病院がこれを受け入れる場合(ただし、通常この猶予期間は最大48時間以内の明確な期限を設けるべきとされています)。

The 2023 American Academy of Neurology, American Academy of Pediatrics, Child Neurology Society, and Society of Critical Care Medicine Pediatric and Adult Brain Death/ Death by Neurologic Criteria Determination Consensus Guidelines: What the Critical Care Team Needs to Know*

1. ガイドライン統合の背景と脳死(BD/DNC)の新たな定義

  • 統合の目的: 2010年のAAN成人ガイドラインと2011年の小児ガイドラインを統合し、あらゆる年齢層において一貫した、緻密で極めて信頼性の高い脳死判定プロセスを提供すること、そして不必要な判定のばらつきを無くして社会的信頼を維持することを目的に策定されました。
  • 脳死(BD/DNC)の基本定義: 「十分な刺激がある環境において、脳幹を含む脳全体の機能が『恒久的(permanent)』に喪失したことによって生じる昏睡、脳幹反射の消失、および無呼吸状態」と定義されます。
  • 「不可逆的(irreversible)」から「恒久的(permanent)」への変更: 従来の「不可逆的(回復不能)」という言葉に代わり、「恒久的」という語が採用されました。これは、**「脳の機能が自然に回復することはなく、医療チームが機能回復のための介入(蘇生や血流再開の試みなど)を行うこともない」**という現実的かつ法的な終局性を明確に表現したものです。

2. 判定前の「前提条件(Prerequisites)」と観察期間

判定を開始する前に、脳損傷の原因が特定されており、回復の可能性がない「永久的なもの」であることを証明する必要があります。

① 年齢および状況別の「観察期間(待機時間)」の厳格化

  • 37週未満の新生児: 本ガイドラインの対象外(修正妊娠週数37週以上のすべての患者に適用)。
  • 24ヶ月(2歳)未満の乳幼児: 脳損傷の原因に関わらず、判定(診察)を開始するまでに最低 48時間以上 の臨床観察期間を置く必要があります。
  • 24ヶ月以上の患者(心停止などの低酸素性脳損傷): グローバルな脳虚血(全脳虚血)が生じた後は、回復の可能性を見極めるため、最低 24時間以上 観察してから判定を開始します。
  • 脳圧・脳保護治療の介入後: 低体温療法(TTM)や、高浸透圧薬の投与、脳室ドレナージ(EVD)設置、開頭減圧術などの介入を行った場合は、脳機能が回復するかどうかを十分に見極める時間を取ります。原則として、治療介入の終了、血圧・体温の正常化、代謝因子や薬物のクリアランスが完了してから最低24時間以上観察し、個別的に判断します。

② 生理学的指標の是正基準(交絡因子の徹底排除)

脳幹反射を抑制しうる交絡因子(擬似脳死状態)を排除するため、以下の数値基準を満たしている必要があります。

  • コア(深部)体温: 36℃以上。もし35.5℃以下の低体温にさらされた経歴がある場合は、36℃以上に加温(復温)が完了してから24時間以上待機しなければなりません。
  • 目標血圧(低血圧の除外):
    • 成人: 収縮期血圧(SBP) 100 mmHg以上、かつ平均動脈圧(MAP) 75 mmHg以上。
    • 小児: SBPおよびMAPが「年齢別の5パーセンタイル値以上」。
    • ECMO装着患者: VV-ECMO(静脈-静脈)は非装着患者と同基準。VA-ECMO(静脈-動脈)の場合は成人はMAP 75 mmHg以上、小児は5パーセンタイル以上を維持。
  • 薬物・毒物のクリアランス: 薬物の代謝半減期の 5倍以上の時間(5 half-lives) が経過している、あるいは血中濃度が治療域以下・検出限界以下であることを確認します。特にペントバルビタールは血中濃度が 5 µg/mL 未満 であることが必須です。また、肥満、肝・腎不全、低体温などの要因による排泄遅延がある場合は、さらに待機時間を延長します。
  • 代謝・酸塩基・内分泌バランスの許容限界値: 以下の重篤な異常がある場合は是正が必要です。
    • ナトリウム:130 〜 160 mmol/L
    • 血糖:70 〜 300 mg/dL
    • 尿素窒素(BUN):75 mg/dL 以下
    • イオン化カルシウム(iCa):7 〜 11 mg/dL(1.0 〜 1.3 mmol/L)
    • マグネシウム:1.5 〜 4.0 mg/dL
    • 血液pH:7.3 〜 7.5

3. 標準化された「臨床的神経学的診察」の手順

診察は、脳幹反射が完全に消失していること、中枢性の運動反応がないことを確認します。

  • 昏睡の確認: 痛み、視覚、聴覚刺激に対して完全に無反応であること。
  • 瞳孔光反射(対光反射): 両側の瞳孔が中等度〜散大した状態で固定(光に対して全く反応しない)。2mm未満の極端な小瞳孔は薬物中毒を示唆します。瞳孔計(pupilometer)や拡大鏡を用いた厳密な確認が推奨されます。
  • 角膜反射: 綿棒などで角膜の外縁(虹彩との境界)を刺激しても、瞬目(まばたき)や目周囲の筋収縮が全く生じないこと。
  • 眼球頭反射(人形の目現象): 首の回旋に対して眼球が頭の動きに完全に追従し、固定したままであること(頸椎の安定が確認されている場合のみ実施)。
  • 前庭反射(カロリックテスト): 外耳道へ50〜60mLの氷水を少なくとも60秒間注入しても眼球運動が生じないこと(反対側の耳をテストする際は、温度平衡のため5分以上の間隔を空ける)。
  • 咽頭反射&咳反射: 吸引カテーテルなどによる咽頭後壁や気管分岐部(竜骨)への物理刺激に対し、えずきや咳、胸郭運動が生じないこと。
  • 小児(6ヶ月未満)固有の確認事項: 原始反射である**「吸啜反射(sucking reflex)」および「捕捉反射(rooting reflex)」**の消失も評価項目に含まれます。

脊髄運動(Spinal Reflexes)の認識

ガイドラインでは、三重屈曲反射、足趾の波状屈曲、ラザロ徴候、バビンスキー反射、腹壁反射、腱反射などの脊髄反射は、脳死下でも発生する「脳を介さない運動」であると公式に定義されており、これらがみられても**脳死の診断を妨げない(否定しない)**ことが明確に記されています。もし動きが脊髄由来か大脳・脳幹由来か区別がつかない場合は、一度判定を一時停止し、時間を置いてパターンを観察するか、あるいは補助検査を実施します。

診察を行う医師の要件と「判定回数」の年齢差

  • 成人(18歳以上): 最低1回の完全な臨床診察が必須です。ただし、診断ミスを防ぐ観点から、2人目の医師が独立して2回目の検査を別途行うことが強く推奨されています(必須ではありませんが、臨床の確実性を重んじるアプローチが推奨されています)。2回実施する場合の間隔規定はありません。
  • 小児(18歳未満): 歴史的背景と小児脳の可塑性を考慮し、2名の医師がそれぞれ完全に独立して診察を計2回行うことが必須です。また、1回目と2回目の間隔は最低 12時間以上 空けなければなりません。

4. 無呼吸テスト(Apnea Testing)の詳細プロトコル

延髄の呼吸中枢が機能停止していることを安全に確認するためのテストです。

① 通常(従来の人工呼吸器装着)のプロトコル

  1. 検査前: 動脈ラインを確保し、昇圧薬等で血圧をターゲットより10〜20%高めに維持。人工呼吸器を調整して、動脈血ガスを正常値(PaCO2 35〜45 mmHg、pH 7.35〜7.45)に整えます。
  2. プレオキシゲネーション: 100%酸素を10分以上投与し、PaO2を 200 mmHg 以上に引き上げます。
  3. 離脱と酸素投与: 人工呼吸器を外し、カテーテル等を用いて100%気管内酸素投与(4〜6 L/min)を行いながら、胸部・腹部に自発呼吸(呼吸運動)が現れるかを観察します。
  4. 血液ガスサンプリング: 二酸化炭素分圧は1分間におよそ2〜3 mmHgずつ上昇するため、8〜10分経過後に採血を行い、その後は2分ごとに必要に応じて測定します。
  5. 脳死と一致する基準: 自発呼吸運動が一切認められず、ガス分析で**「pH < 7.30」かつ「PaCO2 ≧ 60 mmHg(かつ事前ベースラインより20 mmHg以上の上昇)」**を満たした場合に無呼吸テスト陽性(無呼吸の証明)となります。
  6. 中止基準: 収縮期血圧100 mmHg未満(またはMAP 75 mmHg未満 / 小児は5パーセンタイル未満)、持続的な重度低酸素(SpO2 < 85%)、または血行動態に影響する心室性不整脈が発生した場合は即座にテストを中止し、呼吸器に戻します。

② ECMO(体外式膜型人工肺)装着患者への新基準

本ガイドラインでは、ECMO管理下の患者における無呼吸テスト手順が体系化されました。

  • プレオキシゲネーション: 人工呼吸器とECMOの双方から100%酸素を投与します。
  • CO2の蓄積( sweep gas 調整): ECMOは二酸化炭素の除去能力が極めて高いため、通常の離脱だけではPaCO2が上昇しません。そのため、ECMOのスイープガス(ガス流量)を 0.2 〜 1.0 L/min にまで絞るか、または回路内に外因性の二酸化炭素(CO2)を直接添加してPaCO2を上昇させます。
  • VA-ECMOにおけるダブルサンプリング: VA-ECMO装着下では、カニューレの位置や自己心拍の有無により、脳への血流(上半身)と足側の血流でガスの組成が異なる「至適混合の不一致」が生じる危険があります。 そのため、「患者の動脈ライン(末梢)」と「ECMO回路のポストオキシゲネーター(人工肺通過後)」の『両方』から血液を採取し、双方ともに pH < 7.30 かつ PaCO2 ≧ 60 mmHg を満たすことが義務付けられました。

5. 補助検査(Ancillary Testing)の役割と推奨基準

脳死は本来「臨床的な診断」であるため、すべての前提条件が満たされ、完全な診察と無呼吸テストが完遂できる場合は、補助検査を行う必要はありません。

① 補助検査を「実施しなければならない」適応条件

  1. 顔面の重度外傷や脳神経損傷、神経筋疾患、高位脊髄損傷などがあり、臨床的神経診察の一部が評価不可能な場合(※頸椎損傷による眼球頭反射のみができない場合は、前庭反射が評価できれば補助検査は不要)。
  2. 血行動態や呼吸器の状態が極めて不安定で、無呼吸テストを安全に行うことが困難・不可能な場合。
  3. 慢性のCO2貯留(重症COPDなど)があり、ベースラインのPaCO2値が不明で無呼吸の評価が困難な場合。
  4. 観察された全身運動が、脊髄反射か脳機能(大脳や脳幹)由来のものなのか、臨床的な識別が困難な場合。
  5. 代謝異常がどうしても補正・是正できない場合。
  6. ※「低温状態」や「鎮静薬・麻酔薬が高濃度に残存している状態」で判定を急ぐための近道(時間短縮)として補助検査を利用してはならない、と強く警告されています。

② ガイドラインが推奨・不推奨とする検査の種類

  • 推奨(許可される検査):
    • 4血管脳血管造影(Conventional catheter angiography): ゴールドスタンダード。脳への動脈血流が完全に途絶していることを示します。
    • 脳血流シンチグラフィ(Radionuclide perfusion scintigraphy:SPECTなど): 脳関門を通過する親油性物質を用い、脳実質や脳幹に血流(灌流)が全くないことを示します。
    • 経頭蓋ドップラー(TCD): ※成人でのみ使用可能。尖鋭な収縮期スパイク波、または振幅のゼロ(あるいは逆流)を伴うオシレーティングフロー(揺動流)を示し、頭蓋内圧が平均血圧を上回って灌流が停止している状態を証明します。
  • 非推奨・不許可の検査:
    • 脳波(EEG): 推奨されません。脳幹の機能を評価できず、また重篤な代謝性脳症(可逆的)でも一時的に平坦脳波(電気的無活動)を示すことがあるため、全脳の永久的な死を裏付けるには不十分とされています。
    • CTアンギオグラフィ(CTA)&MRアンギオグラフィ(MRA): 脳死判定ツールとしての臨床的な検証データがまだ不足しているため、現時点のこのガイドラインでは使用が認められていません。 (※日本の法的脳死判定ガイドライン等とは異なり、アメリカの基準では脳波やCTAの位置づけが低く、カテーテル造影やシンチグラフィが優先されます。)

6. その他の倫理的・論争的課題への臨床指針

  • 判定への同意: 施設規定や現地の特別な州法などで義務付けられていない限り、脳死判定を執り行うにあたって家族や代理人の「事前同意」を得る必要はありません。これは、脳死による死亡宣告が「治療行為」ではなく「死亡の確認(医学的・法的事実の認定)」であるためです。
  • 死亡時刻の定義: 通常は、最終の無呼吸テストにおいて「脳死を満たす動脈血ガス結果(ABG)」が検査室から報告・確定された時刻となります。補助検査を用いた場合は、担当医がその検査結果をカルテ(医療記録)に記録・文書化した時刻が正式な死亡時刻となります。
  • 内分泌・視床下部機能の温存: 尿崩症(DI)が生じておらず、抗利尿ホルモン(ADH)などの分泌機能が保たれている(=視床下部や下垂体後葉の機能が一部温存されている)状態であっても、脳全体の機能が失われていれば脳死と判定することができます。
  • 妊婦の脳死判定: 妊婦の脳死判定も実施可能です。判定後は、倫理委員会や周産期・新生児チームと協力し、胎児の生存・成長のために母親の身体への循環維持(臓器サポート)を継続する利点とリスクをご家族と話し合います。
  • 後頭蓋窩(小脳や脳幹)の原発疾患: 小脳出血や脳幹梗塞など、テント下に原発病変がある場合、大脳皮質などのテント上の機能がまだ生き残っているリスクがあります。そのため、これらの疾患が原因である場合は、テント上の大脳皮質にも二次的な「破滅的損傷(全脳虚血など)」が生じていることを脳画像等で確実に確認してから、判定を開始することが義務付けられています。

脳死/神経学的基準による死亡判定における神経学的診察の構成要素

検査項目検査手技の実施手順脳死判定に合致する反応
昏睡 (Coma)【視覚】威嚇瞬目(視覚的な脅迫に対するまばたき)を確認する。
【聴覚】手を叩き、大声で患者の名前を呼ぶ。
【触覚】両側の顎関節レベルの下顎顆、眼窩上切痕への深部圧迫、鼻のむずがゆさ刺激、胸骨、および四肢すべての近位・遠位への深部圧迫を行う。
視覚、聴覚、および有害な触覚刺激に対して全く反応(運動や顔をしかめるなど)がないこと。
顔面および四肢の運動反応 (Motor responses of face and limbs)上記と同様の有害な触覚刺激を与える。有害刺激によって、顔をしかめる、顔面筋が動く、あるいは脊髄媒介反射以外の四肢の運動反応が生じないこと。
対光反射 (Pupillary light reflex)各眼に強い光を当てて瞳孔収縮の有無を確認し、瞳孔径を測定する。拡大鏡や定量的瞳孔計の使用を考慮する。両側の瞳孔が中等度散大または散大しており、光に対する反応がない。なお、2mm未満の縮瞳がある場合は、薬物中毒の可能性を疑うべきである。
角膜反射 (Corneal reflex)綿棒をスティックに付け、各眼の角膜の虹彩外縁(角膜輪部)に触れ、軽い圧力を加える。刺激によって直接引き起こされる物理的な動き(機械的な押し込み)以外に、まぶたの動きがないこと。
眼球頭反射 (Oculocephalic reflex)頸椎および頭蓋底の完全性(損傷がないこと)を確認する。気管挿管チューブをしっかりと固定する。頭部を左右に素早く水平に回転させる。頭部の動きに対する眼球運動の消失。すなわち、眼球が頭部の動きに完全に追従し、常に中央位置にとどまる(人形の目現象の消失)。
前庭反射 (Oculovestibular reflex)外耳道が開通しており、鼓膜が破損していないことを確認する。水平半規管を最適な方向に向けるため、頭部を30度挙上する。カテーテルを取り付けたシリンジを一方の外耳道内に挿入し、50〜60mLの氷水を少なくとも60秒間注入して、眼球運動の有無を観察する。内リンパの温度が平衡に達するよう、反対側をテストする前に5分以上の間隔を空ける。眼球運動(外眼筋の動き)が完全に消失していること。
咽頭反射 (Gag reflex)舌圧子(舌ベラ)や硬質吸引器具を用いて、両側の咽頭後壁を刺激する。えずき反応(咽頭反射)の消失。
咳反射 (Cough reflex)気管挿管チューブから吸引カテーテルを挿入し、気管分岐部(竜骨)のレベルで気管気管支壁を刺激する。咳反応の消失。

日本 法的脳死判定マニュアル 2024 日集中医誌 2025;32:S1

1. 2024年改訂の最重要ポイント(2大改正)

  • 脳幹反射等の消失代替としての「脳血流の消失確認」: 眼球損傷、内耳損傷を伴う鼓膜損傷、または高位脊髄損傷などにより、瞳孔散大固定や脳幹反射の一部が物理的に評価できない場合、確認可能な項目を評価した上で、脳血流検査を行い、脳血流が消失していることを確認することで判定不能項目を補い、法的脳死判定を行うことが可能となりました。
  • ECMO(体外式膜型人工肺)装着下での無呼吸テスト確立: これまで技術的に困難であったECMO装着患者についても、人工肺のスイープガス流量調整や、VA-ECMOにおける複数箇所での同時採血などを含む、安全で厳格な無呼吸テスト手順が定義され、法的判定が可能となりました。

2. 脳死とされうる状態の判断と前提条件

脳死とされうる状態とは、「自発呼吸が消失し、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至った状態」です。判定を開始する前に、以下の前提条件を必ず確認します。

① 必須の前提条件

  • 器質的脳障害の原疾患が、病歴、経過、および**CTやMRI等の画像診断(必須)**などから確実に診断されていること。
  • 現在行いうるすべての適切な治療を行っても、回復の可能性がまったくないと判断されること。

② 判定から除外される症例(医学的除外・交絡因子の排除)

以下のいずれかに該当する場合は、可逆的な機能抑制の可能性があるため、是正されるまで判定を行うことはできません。

  • 年齢: 生後12週未満(在胎週数40週未満の場合は、出産予定日から起算して12週未満)。
  • 年齢不相応の低血圧(収縮期血圧):
    • 1歳未満:65 mmHg未満
    • 1歳以上13歳未満:(年齢×2)+65 mmHg未満
    • 13歳以上:90 mmHg未満
  • 低体温(深部体温。腋窩温は不可): 6歳未満で35℃未満、6歳以上で32℃未満。
  • 薬物の影響: 急性薬物中毒や、脳死判定に影響を及ぼす薬剤(麻酔薬、鎮静薬、鎮痛薬、筋弛緩薬など)が体内に残存している疑いがある場合。
    • ※血中濃度測定が困難な場合、通常の投与量であれば24時間以上経過していれば影響を除外できます。筋弛緩薬は、神経刺激装置(TOFなど)で筋収縮が得られれば影響なしと除外できます。
  • 代謝性障害・内分泌障害による深昏睡: 肝性昏睡、糖尿病性昏睡、尿毒症性脳症など。

3. 法的脳死判定の準備と判定医の資格

  • 施設条件: 大学附属病院、救命救急センター、集中治療専門医研修施設など、高度な医療体制が確保されており、あらかじめ施設内倫理委員会等で脳死下臓器提供の承認が得られていること。
  • 判定医の資格: 日本脳神経外科学会、日本神経学会、日本救急医学会、日本麻酔科学会、日本集中治療医学会、または日本小児科学会の専門医または認定医であり、かつ臓器移植(摘出や移植術)に関わらない医師が2名以上で行う(1名は遠隔判定も可能)。
  • 判定回数と間隔:
    • 6歳以上: 第1回目の判定終了時点から、6時間以上経過した後に第2回目の判定を開始する。
    • 6歳未満: 小児の可塑性を考慮し、第1回目終了から24時間以上経過した後に第2回目を開始する。
    • 死亡時刻: **「第2回目の判定が終了した時刻」**とする。

4. 法的脳死判定の5大項目と手順

法的脳死判定は、以下の順序に従って進めます。無呼吸テストは、脳波活動の消失までを完全に確認した後に、一番最後に行います。

Ⅰ. 深昏睡(JCS 300 / GCS 3)の確認

  • 確認法: 爪楊枝による痛み刺激、または眼窩上切痕部への指による強い圧迫刺激を顔面に加える。
  • 判定: まったく顔をしかめたり、体動が見られたりしない場合、深昏睡と判定する。
  • 脊髄反射(脳死下で見られる運動)の注意点: 四肢・体幹部への痛み刺激や、頸部前屈などの受動運動、あるいは無呼吸テスト等に伴い、脳死患者の40〜50%(あるいは13〜75%)に脊髄反射や脊髄自動運動(深部腱反射、三重屈曲反射、足趾の波状運動、ラザロ徴候など)が観察されますが、これらは脳死の診断を否定するものではありません。
    • ※ただし、自発運動(脊髄自動運動を除く)、刺激によって誘発される定型的な全身性の除脳・除皮質硬直、けいれん等が見られた場合は、脳幹以上の機能が維持されている可能性があるため脳死判定を行いません。

Ⅱ. 瞳孔散大固定と脳幹反射の消失確認

  • 瞳孔散大固定の確認: 通常の明るさの下で測定し、左右の瞳孔径が4mm以上であり、光刺激に対して縮瞳などの動きが全くない(固定している)こと。
  • 脳幹反射(7つの反射すべて)の消失確認:
    1. 対光反射(直接・間接): 両側の瞳孔に光を直接照射しても、また他側に照射しても(間接反射)、全く瞳孔に縮瞳などの動きがないこと。
    2. 角膜反射: 綿棒やこより状の綿球で角膜を刺激した際、両側とも瞬目(まばたき)や眼周囲の筋肉の収縮が認められないこと。
    3. 毛様脊髄反射: 顔面に強い痛み刺激を与えた際、両側とも瞳孔散大(または動き)が認められないこと。
    4. 眼球頭反射: 頭部を約30°挙上し、正中位から左右に急速に回転させた際、眼球が固定されたままで逆方向への偏位が一切認められないこと。
    5. 前庭反射(カロリックテスト): 頭部を約30°挙上し、外耳道内にカテーテルを挿入して**氷水で冷やした生理食塩水(6歳以上は50mLを20-30秒かけ、6歳未満は25mL)**を注入した際、眼球運動が認められないこと。対側の検査を行う場合は5分以上空ける。
    6. 咽頭反射: 吸引用カテーテルなどで両側の咽頭後壁を刺激しても、咽頭筋の収縮が認められないこと。
    7. 咳反射: 気管チューブを越えてカテーテルを気管支壁まで到達させて機械的刺激を与えても、咳や胸郭の動きが認められないこと。

Ⅲ. 平坦脳波(電気的脳無活動:ECI)の確認

  • 実施方法: デジタル脳波計での実施を推奨する。
  • 導出法: 推奨モンタージュに基づき、国際10-20法による電極配置(前頭極、中心、後頭、側頭中部)から、電極間距離7cm以上(小児は5cm以上)を確保した長距離双極導出4誘導以上を同時記録する。皿電極を推奨し、6歳以下での針電極は禁止。
  • 感度と記録時間: 高感度(2µV/mm)で15分間以上の判読(紙記録の場合は出力)を行う。
  • フィルター: ローカットフィルターは0.53 Hz以下(時定数0.3秒以上)、ハイカットフィルターは30 Hz以上。
  • 検査中の刺激: 検査中に拍手による聴覚刺激、および顔面への痛み刺激を行い、デジタル上や記録紙上に刺激部位がわかるように記録する。
  • ECIの判定: 適切な技術水準で測定された脳波において、脳波計の内部雑音(3µVp-p)を超える脳由来の電位が全くないことを確認する。

Ⅳ. 自発呼吸消失の確認(無呼吸テスト)

  • 開始条件:
    • 血圧:成人では収縮期血圧≧90 mmHg、または平均動脈圧≧60 mmHg。小児は年齢別基準を満たすこと。
    • 体温:PaCO2を速やかに上昇させるため、深部体温が35℃以上であることが望ましい。
    • ガス分析:テスト開始前はPaCO2が35〜45 mmHgになるよう呼吸器を調整し、FIO2 1.0で10分間前酸素化を行い、PaO2≧200 mmHgであることを望ましい条件とする。
  • 手順: 人工呼吸器を中止し、100%酸素をCPAPモード、PEEPバルブ付き流量膨張式バッグ(ジャクソンリース等)、または気管内吸引カテーテル留置(6 L/min)を用いて肺に供給しながら、胸部や腹部の自発呼吸運動を厳密に観察する。
  • 判定: 数分ごとに動脈血ガス分析を行い、PaCO2が60 mmHgを超えても自発呼吸が認められない場合に無呼吸テスト陽性(自発呼吸の消失)と判定する。

Ⅴ. ECMO装着患者における無呼吸テスト

  • 手順: 人工呼吸器による換気を中止するとともに、ECMOのsweep gas(ガス流量)を0.5〜1 L/min程度(小児では0.5 L/minより少なくてもよい)まで低下させ、人工肺での二酸化炭素除去効率を意図的に下げる。
  • VA-ECMOにおけるダブルサンプリング(重要): VA-ECMO装着患者では、送血部と自己心由来の血液で二酸化炭素分圧に乖離が生じる(至適混合の不一致)可能性がある。 そのため、「ECMO送血部から遠位の動脈(通常は右橈骨または右上腕動脈)」と「ECMO回路の人工肺後」の『2箇所』から同時に動脈血を採取し、双方ともPaCO2 ≧ 60 mmHgを満たしていることを確認しなければならない(※VV-ECMOは通常の手順1箇所で可能)。

5. 補助検査と位置づけ

「脳死とされうる状態」の判断に迷う場合(紛らわしい脊髄運動が見られる場合、平坦脳波の判断に迷う場合など)、確実性を向上させるために補助検査を行うことができます。

Ⅰ. 聴性脳幹反応(ABR)

加算回数2,000回以上、機器最大音圧での両耳刺激。全波消失、またはⅠ波を残してⅡ波以降(実質的にはⅢ波以降)の完全消失を確認します。

Ⅱ. 脳血流の消失確認(代替・補完検査としての3つのモダリティ)

瞳孔散大固定や脳幹反射が評価困難な場合の代替、または確実性向上のための補助検査として、以下のいずれかを実施します。1回目と2回目の判定で異なるモダリティを用いても差し支えありません。

  1. CTアンギオグラフィ(CTA): 脳幹から脳梁までを含む範囲で動脈相と遅延相の2相を撮影(dual-phase CTA)。遅延相においても、内頸動脈サイフォン部や椎骨動脈V4セグメントより近位に造影剤が留まり、ウイリス動脈輪以遠の動脈が描出されず、かつ内大脳静脈、ガレン大静脈、直静脈洞などの静脈還流がまったく見られない場合を「脳血流の消失」と判断します。
  2. SPECT: 123I-IMP、99mTc-HMPAO、または99mTc-ECDを右肘皮静脈等から投与し、頭蓋内に放射性物質の蓄積がないことを確認する。SPECT画像上で、頭蓋と副鼻腔にのみ血流が描出される特徴的な**「Empty skull sign(空っぽの頭蓋骨徴候)」**が脳死の所見となります。
  3. 脳血管造影(4V-DSA): 脳血流評価のゴールドスタンダードとされる。判定基準はCTAと同様で、遅延相でも造影剤が内頸動脈サイフォン部や椎骨動脈V4より近位に留まり、ウイリス動脈輪以遠が描出されず、静脈還流がまったくない場合を「脳血流の消失」と判断します。
  4. ※検査を複数回繰り返す場合の間隔規定:
    • CTA・4V-DSA:造影剤のクリアランスや24時間以内の安全性のエビデンスを考慮し、24時間以上の間隔をあける。
    • SPECT:トレーサーの半減期を考慮し、123I-IMPでは48時間以上、99mTc製剤では24時間以上の間隔をあける。