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血漿交換療法と合併症

血漿交換(血液浄化療法)総論に関してはこちらをご参照ください。

血流感染症 blood stream infection

“Bloodstream infections among patients receiving therapeutic plasma exchanges in the intensive care unit: a 10 year multicentric study” Fodil et al. Annals of Intensive Care (2024) 14:117

・目的:ICUでTPEに伴うBSI(blood stream infection)のリスクを検討 多施設共同後ろ向き観察研究
・患者:ICU滞在中に少なくとも1回のTPEを受けた387人(このテーマに関して過去最大の研究)
・患者背景:中央値は49歳であり、TPEの最も頻繁な適応症は血栓性微小血管症(47%)、中枢神経系の炎症性疾患(11%)、過粘稠度症候群(11%)、ANCA関連血管炎(8.5%)、その他免疫抑制薬の併用
・BSI:8%がICU滞在中にBSIを発症・発症中央値7日後(TPE開始から)
→BSIの内訳:CRBSI 35%, その他65%(肺炎などによる) *カテーテル挿入部位による感染率の違いはなし
 ・CRBSIに関して:TPE開始から発症までの期間は中央値9日(他の感染原因は中央値5日)、起炎菌 MSSA 36%(他の感染に比して有意に高い結果), GNR 46%, MRSAと真菌は検出なし、菌血症持続期間2日間
 ・CRBSI以外に関して:原因不明7, TPE用以外の血管内device感染5, 呼吸器感染1など
・リスク因子:糖尿病OR 3.32, TPEの総実施回数 OR1.14
*ステロイドや免疫抑制薬の使用は有意な関連なし
・予後への影響
人工呼吸器の必要性:45% vs 18%
腎代替療法の必要性:42% vs 20%
昇圧剤の必要性:32% vs 12%
ICU死亡率:19% vs 5%

・その他の特徴:発熱に関して ステロイドなどの免疫抑制剤を使用していると発熱反応が弱まる可能性がありますが、BSIを発症した患者の84%は感染当日に発熱(38℃以上)を呈していた

表1:対象患者の入院時の特徴および転帰

項目BSI非発症患者 (n = 356)BSI発症患者 (n = 31)P値
患者背景 (Demographics)
年齢(歳)、中央値 [IQR]49 [34–63]48 [34–61]0.975
男性、n (%)146 (41%)7 (33%)0.054
併存疾患・状態 (Comorbidities)、n (%)
BMI (Body mass index)、中央値 [IQR] ※125 [22–28]26.5 [22.6–32.7]0.049
糖尿病 (Diabetes mellitus)34 (10%)7 (23%)0.034
悪性血液疾患 (Malignant hemopathy)56 (16%)4 (13%)0.801
ステロイド使用 (Steroids)302 (86%)26 (84%)0.797
その他の免疫抑制薬使用 (Other Immunosuppressive drugs)103 (29%)18 (58%)0.002
TPEの適応疾患 (TPE indication)、n (%)0.081
血栓性微小血管症 (Thrombotic microangiopathy)172 (48%)14 (45%)
ANCA関連血管炎 (ANCA associated vasculitis)33 (9%)1 (3%)
中枢神経系炎症性疾患 (CNS inflammatory disease)40 (11%)2 (6%)
過粘稠度症候群 (Hyperviscosity)39 (11%)1 (3%)
その他 (Other)72 (20%)13 (42%)
入院時の重症度・治療 (Severity upon admission)
SAPS II スコア、中央値 [IQR]25 [13–39]30 [17–45]0.114
TPEの総実施回数、中央値 [IQR]5 [2–7]7 [5–14]< 0.001

出血合併症

単純血漿交換をAlb置換で連日やることで出血合併症は増えるのか?

“Multiple consecutive daily therapeutic plasma exchange using exclusively albumin replacement fluid in low bleeding risk patients is associated with only rare and mild bleeds” Transfusion. 2026;1–7.

1. 研究の背景と目的

アルブミンのみを補充液として使用するTPEは、凝固因子(特にフィブリノゲン)を枯渇させます。そのため、TPEを複数日連続で行うと医原性の出血リスクが大幅に高まるのではないかという経験的な懸念が存在し、多くの施設ではルーチンでフィブリノゲン値を測定し、血漿等を用いた補充を行っています。 しかし、この慣行はエビデンスに基づくものではありません。本研究の目的は、事前のスクリーニングで**「出血リスクが低い」と判断された患者に対し、最大5日間の連続TPEをアルブミン単独で(事前の凝固能検査やフィブリノゲン補充を一切行わずに)実施する**という新しい治療方針の安全性を評価することです。

2. 研究デザインと対象

この研究は、5年間(2020年〜2024年)にわたり前向きにモニタリングされた単一施設での調査です。

  • 対象患者: アルブミンのみを補充液として3〜5日間連続でTPEを受けた患者(治療中の凝固能検査やフィブリノゲン製剤・血漿の予防的補充は完全撤廃)。
  • 事前のスクリーニング(除外基準): 治療開始前に厳密な出血リスクの評価が行われました。活動性の出血、出血の家族歴、治療量の抗凝固薬や抗血小板薬の使用、血小板減少(10万/μL未満)、TPE後24時間以内の大きな手術・処置予定がある患者は「高リスク」としてこのプロトコルから除外されました。

3. 主な結果

  • 実施状況: 全体で228人の患者が264回の治療シリーズを受け、合計1351回のTPEが実施されました。内訳は、3日連続が68人、4日連続が101人、5日連続が59人です。
  • 出血の発生率と重症度:
    • 1351回のTPEの後、24時間以内に生じた出血イベントは**わずか14件(TPE1回あたり1.4%、患者あたり6.1%)**でした。
    • 発生した出血はすべてグレード1または2の「極めて軽度」なもの(手による圧迫止血で対応可能)であり、輸血や介入を要するような重大な出血、全身性・非典型的な出血は1件もありませんでした。
    • 14件中13件(93%)は、中心静脈カテーテル(CVC)挿入部に関連する出血(にじみ等)でした。
  • 血栓予防薬との関連: 入院患者のほとんど(91.9%)が予防的な低分子量ヘパリンや低用量アスピリンなどの血栓予防薬を投与されていましたが、これらの使用と出血イベントとの間に統計的な有意な関連は認められませんでした。
  • カテーテル抜去のタイミングの影響: グレード2(20分以上の圧迫止血を要した)のやや強めの出血を経験した5人の患者は全員、最後のTPE終了から「1時間以内」にCVCを抜去されたケースでした。

4. 結論と臨床的意義

本研究の結果は、事前のスクリーニングで出血リスクが低いと評価された患者であれば、最大5日間連続でアルブミン単独のTPEを実施しても、出血イベントは稀であり極めて軽度であることを示しています。

このアプローチを採用することで、患者に対する不必要な凝固能検査(フィブリノゲン測定など)や、感染・アレルギー等のリスクを伴う血漿・クリオプレシピテートの輸血を安全に回避できます。 ただし、唯一の懸念としてカテーテル関連の軽度な出血が見られたことから、TPE終了直後のカテーテル抜去には注意を払うべきであり(本施設ではTPE終了後2時間以上経過してから抜去するように方針を変更したとのことです)、抜去時のモニタリングと止血対応に留意することが推奨されています。

患者の基本情報

  • 年齢: 平均 49.7歳(標準偏差 19.1、範囲 5〜82歳)。
    • ※18歳未満の小児患者も11名含まれていました。
  • 性別: 女性が半数以上を占めています(123名/228名、53.9%)。

TPEの適応疾患(全264シリーズ中)

  • 神経系疾患: 54.5%(144シリーズ)
  • 移植腎の抗体関連拒絶反応: 40.2%(106シリーズ)
  • その他の免疫疾患(腎臓、肺、結合組織、筋肉などに影響を及ぼす疾患): 5.3%(14シリーズ)

治療環境(入院・外来)と血栓予防

  • 治療環境: 大半が入院患者として実施されました(84.1%、222シリーズ)。外来で実施されたのは15.9%(42シリーズ)であり、これらはすべて移植腎の抗体関連拒絶反応の患者(37名)でした。
  • 血栓予防薬の使用: 入院患者の大部分(91.9%、171/186名)は、予防的な低分子量ヘパリン、未分画ヘパリン、または低用量アスピリンを投与されていました。

出血リスクの評価

  • HEMSTOPスコア(出血リスクを評価するグローバルなスクリーニングツール): 平均 0.25(標準偏差 0.47、範囲 0〜2)と、全体的に低リスクであることが確認されています。

治療シリーズごとのTPE連続日数

実施された264の治療シリーズ(合計1351回のTPE)における連続日数の内訳は以下の通りです。

  • 3日連続: 68名(84シリーズ)
  • 4日連続: 101名(116シリーズ)
  • 5日連続: 59名(64シリーズ)

※なお、事前に活動性の出血や治療量の抗凝固薬使用など「出血リスクが高い」と判断された患者は、このプロトコル(事前の凝固能検査や補充なしでアルブミン単独の連続TPEを行うこと)から除外されています。

フィブリノーゲン目標値設定の変更

“A lower fibrinogen threshold does not lead to increased bleeding risk in patients receiving therapeutic plasma exchange: A prospective single-center analysis” Transfusion. 2024;64:1076–1082.

1. 研究の背景と目的

治療的血漿交換療法(PLEX)では、補充液として主に5%アルブミンが使用されますが、1回の血漿量交換によって患者の凝固因子は約65%(60〜70%)枯渇します。ほとんどの凝固因子は24〜48時間以内に止血可能なレベルまで回復しますが、止血に不可欠なタンパク質であるフィブリノゲンは回復までに48〜72時間を要します。 これまで多くの施設では、PLEX中または中心静脈カテーテル(CVC)抜去前にフィブリノゲン値が100 mg/dL未満に低下した場合、出血予防のために血漿が補充されてきました。しかし、この「100 mg/dL」という閾値を裏付けるデータは乏しく、多くの患者が不必要な輸血(血漿製剤への曝露)を受けていました。 本研究は、血漿補充を行うフィブリノゲンの閾値を「80 mg/dL未満」に引き下げた場合、出血リスクが増加するかどうかを前向きに評価することを目的としました。

2. 研究デザインと対象

米国テキサス州のUT Southwestern Medical Centerで実施された前向き単一施設観察研究です。

  • 対象(研究グループ):フィブリノゲン値が80〜100 mg/dLに低下したが、血漿補充を行わずにPLEXを受けた成人患者62人(計323回のPLEXを実施)。
  • 比較グループ:フィブリノゲン値が常に100 mg/dLを超えて維持されていた患者143人(計751回のPLEXを実施)。 ※両グループとも肝機能および腎機能は正常であり、出血性疾患の既往がある患者や、治療上血漿補充が必須となる疾患(血栓性微小血管症、多臓器不全など)の患者は除外されています。

3. 主な結果

① 出血の発生率と重症度

  • 研究グループ(80〜100 mg/dL、補充なし):62人中、**軽度の出血が発生したのはわずか2人(3%)**でした。
  • 比較グループ(>100 mg/dL):143人中、軽度の出血が発生したのは2人(1%)でした。
  • 出血リスクにおいて、閾値を下げたことによるグループ間の有意な差は認められませんでした。

② 出血症例の詳細と抗凝固薬との関連 出血の発生には、フィブリノゲン値そのものよりも抗凝固薬の併用が強く関連していました。

  • 研究グループで出血した2人は、いずれも経口抗凝固薬を服用していました。
    • 事例1(アピキサバン服用):最後のPLEXから24時間後、理学療法のセッション後に大腿静脈カテーテル挿入部から出血(当時のフィブリノゲン値は97 mg/dL)。圧迫およびクリオプレシピテート1単位の投与で止血されました。
    • 事例2(ワーファリン服用):末梢静脈カテーテル(PIV)挿入部から出血(当時のフィブリノゲン値は82 mg/dL)。約10分間の直接圧迫で止血されました。
  • 一方、比較グループでの出血2件(血尿、CVC部からの出血)は、いずれも低分子量ヘパリン(LMWH)を投与されている患者で発生しました。
  • 研究グループの37%、比較グループの34%がLMWHを使用していましたが、ヘパリン投与による出血リスクの増大は顕著ではなく、主な出血リスク因子は「経口抗凝固薬」の併用であると推測されています。

③ フィブリノゲンの動態と血漿補充の実際

  • 5%アルブミンを用いたPLEXにより、フィブリノゲンは1回あたり平均して54%以上(最大80%)低下しました。
  • 低下したフィブリノゲン値は、PLEX終了から72時間後にはベースラインの最大66%まで自然回復しました。
  • 研究グループ62人のうち、17人(27%)は治療の過程で最終的にフィブリノゲン値が80 mg/dL未満まで低下したため、その後のセッションで血漿補充を受けました。つまり、7割以上の患者は、最後まで一切の血漿補充なしに安全に治療を完遂できました。

4. 結論

本研究により、PLEX時のフィブリノゲン値が80〜100 mg/dLの重度低フィブリノゲン血症であっても、血漿補充を行わないことが出血リスクの増加にはつながらないことが実証されました。 出血に関連する主な危険因子は併用される経口抗凝固療法であり、フィブリノゲン補充の基準値を「80 mg/dL未満」に引き下げることで、出血の危険を高めることなく、患者を不必要な血漿やクリオプレシピテートへの曝露(輸血に伴う副作用リスク)から回避させることができると結論付けられています。