IL-6について
作用:B細胞の分化、Th17細胞の分化、急性期マクロファージから分泌され急性期蛋白の産生(肝臓)
中枢神経での作用 “Interleukin 6: at the interface of human health and disease” Front. Immunol. 14:1255533. doi: 10.3389/fimmu.2023.1255533より
インターロイキン-6(IL-6)は中枢神経系(CNS)において、神経の健康維持から病態の進行まで、環境に応じて多面的な役割を果たしています。IL-6と中枢神経の関係は、主に以下の4つの側面に分けられます。
1. 中枢神経におけるIL-6の産生源と受容体
- IL-6は、大脳皮質、脳幹、小脳、脊髄などの領域で生成され、脳の血管内皮細胞からも分泌されます。
- 正常な状態ではアストロサイトやミクログリアから低レベルで持続的に発現しており、損傷が起きると神経細胞からも分泌されます。また、感染や損傷時に分泌される炎症性サイトカイン(IL-1βなど)がアストロサイトや神経細胞を刺激し、IL-6の産生を誘導します。
- アストロサイト、神経細胞、ミクログリアのいずれもIL-6受容体(IL-6R)を発現しています。さらに、CNS組織にはシグナル伝達を媒介するgp130が広く発現しているため、IL-6の下流シグナルが広範に作用します。
2. 正常時の働き(神経保護と機能調節)
- 神経栄養因子としての働き: 中脳のドーパミン作動性ニューロンや、前脳基底部および中隔のコリン作動性ニューロンの生存を助ける神経栄養因子として機能します。
- 神経再生と発生の促進: 損傷後の神経発生や神経再生を助ける働きがあり、末梢感覚神経においてはSTAT3のリン酸化を引き起こすことで、神経成長因子の神経再生促進作用をサポートします。
- 神経興奮性の調節: 電位依存性チャネルや受容体介在性チャネルの制御を助け、神経細胞の興奮性に直接的な影響を与えます。
3. 血液脳関門(BBB)への影響
- 過剰なIL-6は血液脳関門の完全性を低下させ、BBBの透過性(漏れやすさ)を亢進させる働きがあります。
- 微小血管で作られたIL-6がBBBの機能障害に寄与しており、この透過性の亢進によって、本来は脳内に入れない末梢血の免疫細胞(リンパ球、マクロファージ、好中球など)が中枢神経内に侵入しやすくなります。逆にIL-6のシグナルを阻害すると、このBBBの破綻やT細胞の脊髄への浸潤を防ぐことができます。
4. 病態における役割(神経炎症と疾患の悪化)
- 認知機能への影響: IL-6の過剰な分泌は病的であり、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、統合失調症、うつ病、外傷性脳損傷などで髄液中のIL-6上昇が確認されています。血清中のIL-6高値も、健常者における認知機能の低下や、脳血管疾患患者における認知症と関連しています。
- 自己免疫疾患と脱髄: 局所の炎症に反応してアストロサイトやミクログリアがIL-6を分泌し、それが下流の脱髄を促進して、オリゴデンドロサイトや軸索の損傷(NMOSDなどで見られる状態)を引き起こします。自己免疫性脳炎やMOGADなどの患者の髄液中でもIL-6が上昇します。
- てんかん・発作への関与: 通常、脳内のIL-6濃度は低いですが、発作の後には増加します。特に、新規発症難治性てんかん重積状態(NORSE)やその亜型であるFIRESの患者では、髄液や血清中のIL-6やその他の炎症性サイトカインが有意に上昇しており、この上昇は退院後などの予後の悪さに関連しています。側頭葉てんかん患者でも健康な人と比較してIL-6濃度が高いことが示されています。
総じて、IL-6は平常時には神経の保護や機能調節に不可欠な存在ですが、慢性的に過剰産生されると血液脳関門を破壊し、自己免疫疾患や難治性てんかん、認知機能低下などの重篤な神経病態を推し進める中心的な役割を担っています
IL-6R:2種類(膜型と可溶型)ある
| シグナル | 受容体 | 対象細胞 | 役割 |
|---|---|---|---|
| classic | mIL-6R(膜型) | 限定的 免疫系+肝臓 | 生理的・抗炎症的側面 |
| trans | sIL-6R(可溶型) | ほぼ全身 | 炎症・病的反応 |
神経細胞に関して:アストロサイト、ミクログリアにはmIL-6R発現あり
→どちらかというとsIL-6Rの方が重要な役割を担う
IL-6R阻害薬 トシリズマブ
トシリズマブ(商品名:アクテムラ®)
製剤:静注80mg/4mL, 200mg/10mL, 400mg/20mL、皮下注162mg
投与方法:1時間以上かけて点滴静注
投与量:8mg/kg/回
半減期:約8-14日(静注の場合、用量・濃度依存性)
投与間隔:2 or 4週間が多い(一部疾患は1週間まで短縮可能)
副作用:感染、稀に消化管穿孔の報告あり
*事前に結核特異性IFNγの測定必要
*肝臓で産生するCRP、Fibnogenなどは低下する点に注意
保険適応疾患
| 疾患カテゴリ | 疾患名 | 投与方法 | 用量 | 投与間隔 |
|---|---|---|---|---|
| 関節・自己炎症 | 関節リウマチ(RA) | IV点滴 | 8 mg/kg | 4週ごと |
| 関節・自己炎症 | 多関節型若年性特発性関節炎(pJIA) | IV点滴 | 8 mg/kg | 4週ごと |
| 関節・自己炎症 | 全身型若年性特発性関節炎(sJIA) | IV点滴 | 8 mg/kg | 2週ごと(※1週まで短縮可) |
| 関節・自己炎症 | 成人発症スチル病(AOSD) | IV点滴 | 8 mg/kg | 2週ごと(※1週まで短縮可) |
| リンパ増殖 | キャッスルマン病 | IV点滴 | 8 mg/kg | 2週ごと(※短縮可) |
| 急性炎症 | サイトカイン放出症候群(CRS) | IV点滴 | ≥30kg:8 mg/kg<30kg:12 mg/kg | 必要時(反復可) |
| 感染症関連 | COVID-19肺炎(酸素投与必要) | IV点滴 | 8 mg/kg | 原則1回(8時間以上で追加可) |
Seizureとサイトカインの関係について
“Cytokines and epilepsy” Seizure 2011;20:249-256. 動物実験モデルでのreview Notebool LMを使用したまとめ
1. インターロイキン-1β (IL-1β)
- 発作による発現増加: 正常な脳内ではほとんど検出されませんが、発作後には皮質や海馬などでIL-1βとそのmRNAが急速に増加します。
- 主に発作を誘発する作用 (Proconvulsive effect): 多くの動物実験で、IL-1βは発作を悪化・延長させることが示されています。IL-1βは、GABA(A)受容体の直接的な抑制、NMDA受容体の機能亢進、K+流出の抑制などを通じて、神経の興奮性を高めると考えられています。
- 抗痙攣作用の可能性: 一方で、低濃度のIL-1βは細胞内Ca2+の濃度上昇を制限し、GABA作動性伝達を増強することで、発作を抑える働きを持つことも報告されています。
- ヒトにおける知見: 血中や髄液中のIL-1βレベルは発作後も大きな変化が見られないことが多いですが、てんかん患者から外科的に切除された脳組織(海馬硬化を伴う側頭葉てんかんなど)では、神経細胞やグリア細胞におけるIL-1βおよびその受容体の高い発現が確認されています。
2. インターロイキン-6 (IL-6)
- 発作による発現と多機能性: IL-6も発作後に海馬などで急速にmRNAが誘導されます。IL-6は中枢神経系の正常な発達に必要な因子ですが、脳内で高濃度になると神経毒性および発作誘発性の因子として働きます。
- 相反する動物実験の結果: 発達段階のラットでは発作を抑制する結果がある一方で、成体ラットでは発作を悪化させる結果が報告されています。また、アストロサイトでIL-6を過剰発現させたマウスでは、GABA介在性抑制の低下により発作感受性が高まることが示されています。
- ヒトにおける知見: ヒトでは、全身性強直間代発作や熱性けいれんの後に、血漿および髄液中のIL-6レベルが有意に上昇することが確認されています。ただし、この血中のIL-6上昇は脳内合成だけでなく、発作に伴う交感神経系の活性化による末梢血単核球からの放出である可能性も指摘されています。
3. 腫瘍壊死因子アルファ (TNFα)
- 受容体と濃度に依存した二面性: TNFαもてんかんにおいて二面的な役割(発作誘発と抗痙攣)を果たします。この違いは、活性化される受容体(p55とp75)に依存しています。p75受容体を介する経路は抗痙攣作用に関連し、p55受容体を介する経路は発作誘発や神経毒性に関与していることが示唆されています。
- 低濃度のTNFαは主にp55受容体を活性化して発作を誘発し、高濃度のTNFαはp75受容体を介して抗痙攣作用を果たすと考えられています。なお、ヒトにおけるTNFαの明確な血中・髄液中濃度の変化は確認されていません。
4. その他のサイトカイン
- IL-2: 動物実験で発作の発生を促進することが示されています。
- IL-10: 広範な抗炎症作用を持ち、低酸素や高体温によって誘発される発作に対する保護的(抗痙攣)な効果を持つことが複数の研究で示唆されています。
- FGF-2: 発作による神経可塑性に関与し、発作感受性を高めるという報告と、発作を減少させるという相反する報告が存在します。
5. 血液脳関門 (BBB) への影響 サイトカインがてんかんに影響を与える経路の一つとして、血液脳関門(BBB)の透過性の変化が挙げられます。発作そのものがBBBの機能を一時的に変化させるのに加え、IL-1、IL-6、TNFαなどのサイトカインもBBBの破綻を引き起こします。このBBBの透過性の一時的な亢進は、全身の免疫系とてんかん原性領域(脳)とを結びつけ、発作を促進する可能性があります。
結論 サイトカインネットワークとてんかんの関係は非常に複雑であり、各サイトカインは濃度や利用可能な受容体に応じて、発作を誘発する役割と抑制する役割の両方を果たすという**二面性(dichotomous roles)**を持っています。今後は、内因性のサイトカイン放出がてんかんの進行にどの程度関与しているのか、また免疫調節治療がてんかんを予防できるのかについて、ヒトを対象としたさらなる研究が求められています。さらに、末梢の免疫状態と脳を結ぶシグナル伝達において、迷走神経が重要な役割を果たしている可能性も今後の研究課題として挙げられています。
“Interleukin-6, Produced by Resident Cells of the Central Nervous System and Infiltrating Cells, Contributes to the Development of Seizures following Viral Infection” Journal of Virology 2011; 85(14), 6913-22.
1. 研究の背景と目的
ウイルス性脳炎に罹患すると、急性発作やその後のてんかん発症のリスクが高まることが知られています。本研究では、タイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)を感染させて発作を誘発するマウスモデルを使用しました。過去の研究で、このウイルス感染に伴う自然免疫応答(特にTNF-αやIL-6の産生)が発作の発生に重要であることが分かっていました。 そこで本研究では、中枢神経系(CNS)に元々存在する**「常在細胞(ミクログリアやアストロサイトなど)」と、血流からCNSへ侵入してくる「浸潤細胞(多形核白血球[PMN]、マクロファージ、ナチュラルキラー[NK]細胞など)」**のどちらが、発作を引き起こすIL-6の主要な供給源となっているのかを解明することを目的としました。
2. 各種免疫細胞の発作への寄与の検証
特定の免疫細胞の役割を調べるため、抗体や薬剤を用いて特定の細胞を枯渇させたり機能を阻害したりする実験が行われました。
- PMN(好中球など)およびNK細胞の関与は低い: 抗体(抗Gr-1抗体や抗CXCR2抗体)を用いてPMNを枯渇させたりCNSへの侵入をブロックしたり、抗NK1.1抗体を用いてNK細胞を枯渇させたりしました。しかし、ウイルスの感染によって発作を起こすマウスの割合(発生率)には有意な変化は見られませんでした。このことから、PMNやNK細胞は発作の発生に大きく寄与していないことが示されました。
- 単球/マクロファージとミクログリアの重要性(ミノサイクリンの効果): 単球/マクロファージやミクログリアの活性化を抑え、PMNの動員をブロックする作用を持つ「ミノサイクリン」という薬剤を投与しました。その結果、未治療群での発作発生率が60.7%であったのに対し、ミノサイクリン投与群では30%へと有意に減少しました。この結果から、浸潤してくる単球/マクロファージと、常在するミクログリアの活性化が発作の発生に重要な役割を果たしていることが示唆されました。
3. キメラマウスを用いたIL-6供給源の特定
次に、脳内の常在細胞と外部からの浸潤細胞のどちらがIL-6を産生しているかを特定するため、放射線照射と骨髄移植を行い、どちらか一方の系統のみが「IL-6を欠損している」キメラマウスを作成して実験を行いました。
- 末梢(浸潤細胞)のみがIL-6を欠損している場合: 常在細胞(CNS)は正常にIL-6を作れるが、末梢の浸潤細胞はIL-6を作れないマウス(IL-6-/- to WT)では、発作の発生率が対照群(51.4%〜65%)と比較して16.7%へと有意に減少しました。
- 脳内(常在細胞)のみがIL-6を欠損している場合: 末梢の浸潤細胞は正常だが、CNSの常在細胞がIL-6を作れないマウス(WT to IL-6-/-)においても、発作の発生率が25%へと有意に減少しました。
- 両方がIL-6を欠損している場合: 元からIL-6を完全に欠損しているマウスでは、発作の発生率はわずか12.2%でした。
結論
キメラマウスの実験結果から、正常な常在細胞(CNS内)だけが存在していても、あるいは正常な浸潤細胞(末梢から)だけが存在していても、発作を引き起こすには十分な量のIL-6が確保されないことがわかりました。 すなわち、ウイルス感染後に急性発作が発症するためには、中枢神経系の「常在細胞(ミクログリアなど)」と、外部から侵入する「浸潤細胞(マクロファージなど)」の《両方》がIL-6を産生することが必要不可欠であると結論づけられています。
| 処理群(投与した抗体・薬剤) | 標的とした主な免疫細胞とその作用 | 発作発生率 | 対照群との比較(統計的有意差) | 結論 |
|---|---|---|---|---|
| 対照群(未治療) | – | 60.7% | – | – |
| 抗Gr-1抗体 | 多形核白血球(PMN/好中球など)を枯渇させる | 50.0% | 有意差なし | PMNは発作発生に大きく寄与していない |
| 抗CXCR2抗体 | PMNの中枢神経系への浸潤をブロックする | 57.9% | 有意差なし | PMNの浸潤は発作発生に大きく寄与していない |
| 抗NK1.1抗体 | ナチュラルキラー(NK)細胞を枯渇させる | 40.0% | 有意差なし | NK細胞は発作発生に大きく寄与していない |
| ミノサイクリン | 単球/マクロファージ、ミクログリアの活性化を抑制し、PMNの動員を防ぐ | 30.0% | 有意に減少 (P < 0.05) | 単球/マクロファージと常在ミクログリアが発作発生に重要な役割を果たす, |
| マウスの条件(ドナー骨髄 → レシピエント) | 脳内の常在細胞(ミクログリア等)のIL-6産生能力 | 末梢からの浸潤細胞(マクロファージ等)のIL-6産生能力 | 発作発生率 | 結論 |
|---|---|---|---|---|
| 野生型コントロール(3ヶ月齢) | 正常 | 正常 | 65.0% | -, |
| WT to WT<br>(正常な骨髄 → 正常なマウス) | 正常 | 正常 | 50.0% | -, |
| WT to IL-6-/-<br>(正常な骨髄 → IL-6欠損マウス) | 欠損 | 正常 | 25.0% | 有意に減少。正常な末梢細胞があっても、脳内の常在細胞からのIL-6がないと発作は起きにくい, |
| IL-6-/- to WT<br>(IL-6欠損骨髄 → 正常なマウス) | 正常 | 欠損 | 16.7% | 有意に減少。正常な脳内細胞があっても、末梢からの浸潤細胞からのIL-6がないと発作は起きにくい, |
| IL-6-/-<br>(全身IL-6完全欠損マウス) | 欠損 | 欠損 | 12.2% | 両方の細胞がIL-6を作れないと発作はほとんど起きない |
まとめ: これらの結果から、ウイルス感染後に急性発作が引き起こされるためには、中枢神経系の「常在細胞」と、血流からやってくる「浸潤細胞」の《両方》がIL-6を産生することが必要不可欠であることが示されています
トシリズマブとSeizureコントロールについて
“IL-6 Receptor Blockade by Tocilizumab Has Anti-absence and Anti-epileptogenic Effects in the WAG/Rij Rat Model of Absence Epilepsy” Neurotherapeutics 2020; 17:2004–2014.
1. 研究の背景と目的
IL-6は、けいれんを伴うてんかんや、うつ病の症状の重症度と密接に関連していることが知られています。しかし、小児期などにみられる非けいれん性の「欠神てんかん」におけるIL-6の役割については、これまでほとんど解明されていませんでした。本研究では、欠神てんかんとうつ病様行動の合併モデルであるWAG/Rijラットを用いて、IL-6受容体に対するヒト化モノクローナル抗体である**トシリズマブ(TCZ)**の急性投与および慢性(早期長期)投与の効果を調査しました。
2. トシリズマブ(TCZ)の投与効果
本研究では、TCZの投与方法によって異なる効果が確認されています。
- 急性投与による抗発作効果(発作の抑制): すでに欠神発作を発症している成体ラット(生後6ヶ月)に対してTCZを単回投与(30 mg/kg)したところ、発作(棘徐波複合:SWD)の回数と持続時間が最大で約50%有意に減少しました。この効果は投与後60分から現れ、約25時間持続しました。
- 早期長期投与による抗てんかん原性効果(発作の進行抑制): 発作が発症する前の生後30日から17週間にわたってTCZ(10または30 mg/kg)を週1回投与し、治療終了から1ヶ月後(生後6ヶ月)に評価しました。その結果、未治療のラットと比較して**発作の発生が約30〜48%有意に減少し、疾患修飾効果(てんかんの進行を抑える効果)**が示されました。 ただし、治療終了から5ヶ月後(生後10ヶ月)に再評価したところ、発作は未治療の対照群と同レベルまで戻っていたため、この効果は永続的なものではなく、発作の完全な発症を一時的に遅らせる(遅延させる)効果であることが示唆されています。
3. 精神的合併症(うつ病様行動)に対する効果
てんかん患者においてはうつ病の合併がよく見られますが、IL-6はこのうつ病の病態発生においても特別な役割を果たすと考えられています。
- うつ病様行動の改善: 早期長期投与を受けたラットを生後6ヶ月の時点で強制水泳試験(FST)で評価したところ、無動時間(うつ病様行動の指標)が有意に減少し、抗うつ薬のような効果を示しました。
- 不安行動への影響: 一方で、高架式十字迷路テスト(EPM)で評価された不安様行動に対する効果は見られませんでした。なお、発作抑制効果と同様に、この抗うつ効果も生後10ヶ月の時点では消失していました。
4. 炎症誘発物質(LPS・IL-6)に対する保護作用
脳内の神経炎症が実際に欠神発作を悪化させるか、そしてTCZがそれを防げるかを確認するための検証も行われました。
- 炎症を引き起こすリポ多糖(LPS)、またはIL-6を直接ラットの脳内に投与すると、欠神発作の回数と持続時間が有意に増加(悪化)しました。
- しかし、事前にTCZを投与しておくと、LPSやIL-6によって引き起こされる発作の悪化(増加)がほぼ完全に抑制されました。この結果は、脳内におけるIL-6を介した炎症反応が、欠神発作の発生に極めて重要な役割を果たしていることを強く裏付けています。
結論
この研究により、炎症性サイトカインであるIL-6が欠神てんかんの発作の発症や進行、およびそれに伴ううつ病様行動に深く関与していることが明らかになりました。IL-6のシグナル伝達をTCZによって阻害することは、発作そのものを抑えるだけでなく、てんかんの進行を遅らせ、合併するうつ症状も緩和する可能性を示しています。したがって、IL-6を標的とした抗炎症アプローチは、欠神てんかんおよび関連する精神神経系の合併症に対する有望な薬物療法のターゲットとなる可能性があります。
小児中枢神経炎症性疾患11例でのトシリズマブ使用の後ろ向き検討 “Role of Tocilizumab in Severe CNS Inflammatory Presentations in Children” Neurology® 2026;106:e214926. doi:10.1212/WNL.0000000000214926
1. 研究の背景と目的
トシリズマブ(TCZ)は、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)などの再発予防に有効であることが知られています。近年では、致死的なミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患(MOGAD)や急性壊死性脳症(ANEC)などの急性発作時における治療選択肢としても報告が増えています。本研究は、フィラデルフィア小児病院において、急性かつ重篤なCNS炎症を発症した小児(18歳未満)に対する静脈内TCZ投与の有効性を、投与後72時間以内の早期反応を中心に評価しました。
2. 対象患者と全体の結果
- 対象となったのは、ステロイドパルス療法(IVMP)や免疫グロブリン静注療法(IVIG)、血漿交換(PLEX)などの標準治療に抵抗性を示した重篤なCNS炎症の小児患者11名です。
- 全体の結果として、11名中8名がTCZ投与後72時間以内に臨床的な改善を示しました。
3. 症状・疾患別の詳細な治療効果
患者の症状や疾患に応じて、以下のような劇的な効果が確認されました。
- 生命を脅かす脳浮腫を伴う脳症(5名): 頭蓋内圧(ICP)が上昇し、昏睡状態や集中治療室(ICU)での管理を要する極めて重篤な患者群です。標準治療で効果が見られませんでしたが、5名中4名で**TCZ投与後数時間以内に頭蓋内圧の低下(改善)**が認められました。このうち数名はMOGADと診断されています。
- 再発性の重度視神経炎(1名・MOGAD関連): ステロイドやIVIGの効果がなく、視力が著しく低下(20/200)していた患者に対しTCZを投与したところ、72時間以内に視力が劇的に改善(20/50)しました。その後、TCZの継続投与により2年間再発していません。
- 急性壊死性脳症(ANEC)(1名): インフルエンザA感染後に発症したRANBP2遺伝子変異関連のANEC患者において、TCZを含む治療を行った結果、48時間以内に脳症が改善しました。
- 脊髄炎・その他の脱髄疾患(4名): 広範な脊髄炎(LETM)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の患者では結果が分かれました。投与後24時間以内に上肢の筋力が改善した患者が1名いた一方で、急性期には顕著な改善が見られず、血漿交換(PLEX)を必要とした患者もいました。
4. サイトカインプロファイル(IL-6)に関する重要な発見
髄液(CSF)と血清の両方でサイトカインを測定できた5名の患者において、非常に重要な知見が得られています。
- 5名全員において、髄液中のIL-6レベルは著しく上昇していましたが、血清中のIL-6レベルは正常でした。
- このことは、重篤なCNS炎症において、IL-6が全身ではなく中枢神経系(脳・脊髄)の内部で局所的に産生されていることを示唆しています。また、この髄液中IL-6が高値だった5名のうち3名がTCZに良好な反応を示しました。
5. 安全性
- 投与された急性期において、TCZに直接起因すると考えられる副作用(有害事象)は観察されませんでした。
- ※1名の患者が多臓器不全と高カリウム血症による心停止で死亡しましたが、原因は不明確でありTCZの直接的な影響とはされていません。
結論
この研究は、標準的な免疫療法(ステロイドや血漿交換など)では効果が得られない重篤で生命を脅かす急性の中枢神経系炎症性疾患(特に脳浮腫を伴うものなど)に対して、IL-6受容体をブロックする「トシリズマブ(TCZ)」が早期の救済治療として極めて有効である可能性を示しています。髄液のIL-6検査がすぐにできない状況下であっても、難治性の急性CNS炎症における治療選択肢としてTCZを検討する価値があると結論づけられています。
超重症の小児MOGAD2例に対するトシリズマブの有用性 “Dramatic Response to Anti-IL-6 Receptor Therapy in Children With Life-Threatening Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein-Associated Disease” Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2023;10:e200150. doi:10.1212/NXI.0000000000200150
1. 研究の背景と目的
MOGADは中枢神経系の脱髄を引き起こす免疫介在性の神経炎症性疾患です。再発を防ぐための予防策としてIL-6受容体阻害は研究されていますが、急性期(発作が起きている最中)における役割については、これまでほとんど知られていませんでした。本報告では、悪性の脳浮腫を伴う極めて重篤な急性MOGADを発症した2名の小児患者の経過が示されています。
2. 対象症例と標準治療の限界
対象となったのは、明確なMOG-IgG陽性を示し、重度の急性中枢神経脱髄と早期脳ヘルニアを伴う悪性脳浮腫を発症した7歳と15歳の男児です。両名とも、ステロイド大量療法、免疫グロブリン静注療法(IVIG)、血漿交換(PLEX)といった標準的な急性期治療を施したにもかかわらず症状が改善せず、極めて危険な頭蓋内圧(ICP)の亢進が続いていました。
3. トシリズマブ(TCZ)による劇的な治療効果
- 症例1(7歳男児): 頭痛、嘔吐、意識障害、全身けいれんで発症し、脳ヘルニアの危機に瀕していました。ステロイド(4日間)と血漿交換(3回)を実施しても頭蓋内圧の上昇が続いたため、発症13日目にTCZ(8mg/kg)を投与しました。すると、投与からわずか12時間以内に意識レベル(GCS)が改善し、頭蓋内圧の亢進が消失しました。その後72時間で完全に覚醒し、9ヶ月後には神経学的所見が正常化するという目覚ましい回復を遂げました。
- 症例2(15歳男児): 頭痛と傾眠で発症し、その後けいれんと重度の脳浮腫により昏睡状態となりました。ステロイドやIVIG、強力な頭蓋内圧降下治療を行っても頭蓋内圧の危機的上昇が続いたため、TCZを投与しました。その結果、初回投与から24時間以内に頭蓋内圧が正常化し、48時間後には覚醒して家族を認識できるようになりました。5ヶ月後には神経学的所見も正常化しました(※ただしこの患者は7ヶ月後に再発し、IVIG治療を受けています)。
4. なぜTCZが劇的に効いたのか(機序に関する考察)
著者らは、この劇的な効果の背景に以下のメカニズムがあると考えています。
- IL-6の役割: MOGAD患者の髄液中ではIL-6濃度が上昇していることが分かっています。IL-6は炎症を引き起こすT細胞(Th17)への分化を促進し、B細胞などを活性化させるだけでなく、血液脳関門(BBB)の透過性を高め、脳内への抗体(MOG-IgG)や炎症細胞の侵入を助長します。
- BBBの破綻がもたらす逆説的な治療効果: 通常、TCZなどの大きな抗体薬は血液脳関門(BBB)を通過しにくいため、中枢神経系内部の炎症には効果を発揮しにくいと考えられています。しかし、MOGAD(や類似疾患のNMOSD)においては、病態そのもの(自己抗体による内皮細胞の結合タンパク質の減少など)によってBBBが破綻し、透過性が亢進しています。このBBBの破綻によって、本来なら脳に入らないはずのTCZ(治療用抗体)が中枢神経系に到達できるようになり、結果として局所のIL-6をブロックして劇的な効果と安全性を発揮したと考察されています。
5. 結論
標準的な治療に速やかに反応しない、重篤で生命を脅かす悪性脳浮腫を伴うMOGADの急性発作に対しては、早期からのIL-6受容体阻害療法(トシリズマブなど)の投与を治療の選択肢として考慮すべきであると結論づけられています。
以下詳細な症例の経過
症例1:7歳男児
- 初期症状と悪化: 頭痛、嘔吐、意識混濁、および全身けいれんで発症しました。髄液検査では初圧の著しい上昇とリンパ球優位の細胞増多がみられ、MRIでは多発性の脳病変が確認されました。発症から48時間以内に意識レベルがグラスゴー・昏睡尺度(GCS)8まで低下し、CTで脳ヘルニア切迫を伴う広範な脳浮腫が認められたため、小児集中治療室(PICU)へ搬送されました。
- 標準治療への抵抗と頭蓋内圧(ICP)の危機: 血清MOG-IgG抗体が陽性(1:1000)と判明しました。頭蓋内圧(ICP)は10〜36 mmHgの間で推移し、浸透圧療法、鎮静、ペントバルビタール昏睡などの強力な支持療法を行ったにもかかわらず、危険な頭蓋内圧の急上昇が繰り返されました。4日間のステロイド大量静注(メチルプレドニゾロン)と3回の血漿交換(PLEX)を実施しても、頭蓋内圧の上昇は治まりませんでした。
- トシリズマブ(TCZ)投与による劇的な回復: 発症13日目にTCZ(8 mg/kg)を静脈内投与したところ、わずか12時間以内にGCSが12まで改善し、頭蓋内圧亢進のエピソードが完全に消失しました。続く72時間で完全に覚醒し、簡単な指示に従えるようになりました。
- その後: 19日目に2回目のTCZを投与され、22日目にPICUを退室、5週間の入院リハビリテーションを受けました。発症から9ヶ月後には神経学的所見は正常化しましたが、衝動性や軽度の行動上の問題が残存しています。現在まで再発はしていません。
症例2:15歳男児
- 初期症状と悪化: 頭痛、傾眠、嘔吐で発症しました。髄液検査では初圧が60 mmHgと著しく高く、細胞増多が確認されました。進行性の脳症を呈し、9日目には精神状態がさらに悪化してけいれんを起こしました。11日目には右側の瞳孔が散大して対光反射が弱まり、CTで小脳扁桃ヘルニア切迫を伴う広範な脳浮腫が確認され、GCS 8の状態でPICUへ搬送されました。
- 標準治療への抵抗と頭蓋内圧(ICP)の危機: 血清MOG-IgG抗体が陽性(1:1000)と判明しました。浸透圧療法などを実施したにもかかわらず、30〜40 mmHgという極めて高い頭蓋内圧のクリーゼ(危機的状態)が複数回発生しました。ステロイド大量静注(7日間)や免疫グロブリン静注療法(IVIG)が行われましたが、重度の脳浮腫は改善しませんでした。
- トシリズマブ(TCZ)投与による劇的な回復: 重篤な脳浮腫が継続したため、発症19日目と22日目にTCZ(8 mg/kg)が投与されました。初回投与から24時間以内に頭蓋内圧が正常化し、48時間後には完全に覚醒(GCS 14)して家族を認識できるようになりました。
- その後と再発: その後、血漿交換と追加のIVIGを受け、40日目にリハビリ病院へ転院しました。発症から5ヶ月後には神経学的所見が正常化し、血清MOG-IgG抗体も陰性となりましたが、軽度の記憶・認知機能障害が残りました。しかし、**発症から7ヶ月後にけいれんが再発し、血清MOG-IgGの再陽性化(1:40)と血清IL-6の上昇(246 pg/mL)**が確認されました。MOGADの再発と判断されて毎月のIVIG療法が開始され、その後は新たな再発やけいれんを起こすことなく学校に復帰しています。
Cryptogenic NORSE
まとめ
“Second-line immunotherapy in new onset refractory status epilepticus”Epilepsia. 2024;65:1203–1223.
この論文では、過去の11の症例報告およびケースシリーズから、合計20名(急性期)および1名(慢性期)のトシリズマブ使用例を分析しています。
1. 対象患者の基本情報
- 患者層: 急性期にトシリズマブの投与を受けた20名のうち、成人が14名、小児が6名(年齢の中央値22.5歳、範囲6〜61歳)でした。小児のFIRESに多く使われるアナキンラとは対照的に、成人への投与が多く報告されています。
- 原因疾患: 20名中**17名(85%)が潜因性(Cryptogenic NORSE)**であり、残り3名は自己免疫性脳炎(抗NMDAR脳炎が2例、抗GAD65脳炎が1例)でした。
2. 急性期における有効性(てんかん重積状態のコントロール)
全体として、急性期におけるトシリズマブの初回投与は、20名中14名(70%)において、部分的または完全な発作コントロールを速やかにもたらすことが示されました。 投与プロトコルと効果の内訳は以下の通りです。
- 「4 mg/kg」プロトコル:
- 最初の報告(7名の成人)では、週1回 4 mg/kgを2週間投与(必要に応じ1ヶ月後に8 mg/kgを追加)するプロトコルが用いられ、7名中6名で投与から2〜10日(中央値4日)でてんかん重積状態(SE)が終息しました。
- 同じプロトコルを用いた別の8名(小児4名含む)でも、6名(75%)が初回投与後に発作の頻度と強度の減少を示しました。
- 「8〜12 mg/kg」プロトコル:
- 残りの5名(小児2名含む)には、他疾患の基準に準じて8〜12 mg/kgが投与されましたが、発作コントロールが改善したのは2名(40%)にとどまり、3名では早期の発作再発が見られました。投与量と有効性の間に明確な関連性は見られませんでした。
3. 副作用と安全性
IL-6という免疫に重要なサイトカインを阻害するため、感染症リスクが高まることが確認されています。
- 安全性が評価された13名のうち、4名は副作用を経験しませんでしたが、9名(69%)で重篤な副作用が報告されました。
- 具体的には、好中球減少症、白血球減少症、肺炎、敗血症、多剤耐性菌感染などが挙げられています。
4. 長期的な予後への影響
急性期のSEを止める強力な効果がある一方で、長期的な機能予後を改善する明確な証拠は得られませんでした。
- 機能障害: 追跡調査が行われた患者の**63%が「中等度から重度の障害」**を抱えていました。
- てんかんの再発: 退院後の情報がある患者の86%(14名中12名)でてんかん発作が再発(慢性期の難治性てんかんへ移行)していました。
- 投与タイミングと予後の関係: 最初の小規模な観察研究では、予後が良好だった患者はトシリズマブの投与開始が早かった(11日 vs 42日)と報告されましたが、本レビューで全ての文献のデータを合わせて統計解析した結果、早期の治療開始と良好な予後との間に有意な関連性は確認されませんでした(p=0.52)。
5. 慢性期てんかんへの使用
急性期を過ぎた後遺症としての「慢性期の難治性てんかん」に対する使用例として、1例が報告されています。
- アナキンラを6ヶ月間使用しても効果がなかった患者に対し、トシリズマブ(4週間ごとに8 mg/kg)に切り替えたところ、ベースラインと比較して発作頻度が30%減少したと報告されています。
結論と今後の課題
論文の考察では、トシリズマブはIL-6を阻害することで末梢および脳内の炎症を抑え、発作を減らすメカニズムが支持されています。しかし、「急性期の火消し」として約70%の患者に有効である一方で、不可逆的な脳損傷(後遺症)や慢性てんかんへの移行を直接的に防ぐ効果はまだ証明されていません。今後は、治療の最適なタイミングや予後への真の影響を評価するために、標準化された前向きな臨床試験が必要であると結論づけられています。
2nd line therapyの分類
| 項目 | アナキンラ (Anakinra) | トシリズマブ (Tocilizumab) | 髄腔内デキサメタゾン (IT-DEX) |
|---|---|---|---|
| 投与経路 | 皮下または静脈内 | 皮下または静脈内 | 髄腔内 |
| 半減期 | 4〜6時間 | 6〜18日 | 8時間 |
| 血液脳関門 (BBB) 通過性 | 良好 (Good) | 乏しい (Poor) | 記載なし |
| 主な適応疾患 | 関節リウマチ、全身型若年性特発性関節炎、マクロファージ活性化症候群、クリオピリン関連周期熱症候群、IL-1RA欠損症、COVID-19 | 関節リウマチ、若年性特発性関節炎、巨細胞性動脈炎、サイトカイン放出症候群、COVID-19 | 脊髄麻酔、化学療法 |
| FDA / コンセンサス推奨用量(例) | 関節リウマチ: 100 mg/日、マクロファージ活性化症候群: 40kg以下は 10 mg/kg/日 (最大200 mg/日)・40kg超は 5 mg/kg/日 (最大400 mg/日)、クリオピリン関連周期熱症候群: 1〜2 mg/kg/日、※活動性炎症を抑えるため最大8 mg/kg/日まで個別調整可能 | 関節リウマチ: 4 mg/kgを4週ごと・その後8 mg/kgを4週ごとに増量 (静注)、巨細胞性動脈炎: 162 mgを週1回 (皮下のみ)、若年性特発性関節炎 (JIA): 30kg未満は10〜12 mg/kg・30kg以上は8 mg/kg (静注)、サイトカイン放出症候群: 30kg未満は12 mg/kg・30kg以上は8 mg/kg | 記載なし |
| 患者数(今回のレビュー対象) | 46名 | 20名 | 8名 |
| NORSEに対する投与量 | 本レビューの報告: 2〜20 mg/kg/日 (ほとんどが最大400 mg/日以下) タスクフォース推奨: 10 mg/kg/日 (最大400 mg/日) | 本レビューの報告: 1回あたり 4〜12 mg/kg (1〜4週間ごと) タスクフォース推奨: 1回あたり 8〜12 mg/kg (2〜4週間ごと) | 本レビューの報告: 0.15〜0.25 mg/kg (1〜6日間隔で4〜8回投与) |
| 年齢層の特徴 | 小児が91% | 小児が30% | 小児が100% |
| FIRESの割合 | 98% | 75% | 100% |
| 急性期発作に対する有効性 | 最大73% | 最大70% | 最大50% |
| 副作用 | 患者の48% (感染症 35%、血球減少 10%、DRESS 10%) | 患者の69% (血球減少 38%、感染症 15%) | 報告なし |
| 長期的な予後(機能障害) | 62%が中等度〜重度障害 | 63%が中等度〜重度障害 | 報告なし |
| NORSE後の慢性てんかん | 88%の患者で発症 | 86%の患者で発症 | 71%の患者で発症 |
症例報告
C-NORSEに対するトシリズマブの有用性を示した端緒となる研究 ”Tocilizumab Treatment for New Onset Refractory Status Epilepticus” ANN NEUROL 2018;84:940–945
この研究は、従来の免疫療法が効かない難治性のNORSE(新規発症難治性てんかん重積状態)患者に対する、トシリズマブ(IL-6受容体阻害薬)の治療効果と安全性を評価したものです。
1. 研究の背景と着眼点
NORSEの多くは原因不明(潜因性)または自己免疫疾患が原因ですが、ステロイドや免疫グロブリン静注療法(IVIg)、リツキシマブといった従来の免疫療法を行っても、約60%の患者で予後不良となることが課題でした。 研究チームは、NORSE患者の脳脊髄液(CSF)を調べた結果、炎症性サイトカインである「IL-6」がコントロール群と比較して著しく上昇していること(平均 895.8 pg/ml 対 1.7 pg/ml)を発見しました。そこで、IL-6の働きをブロックするトシリズマブの投与が試みられました。
2. 対象患者の特徴
- 人数と原因: 7名の成人患者(男性3名、女性4名、年齢19〜61歳)。うち6名が潜因性(Cryptogenic NORSE)、1名が抗NMDAR脳炎でした。
- 事前の治療歴: 7名全員がすでにステロイドおよびIVIgによる治療を受けており、さらにうち5名はその後にリツキシマブも投与されていましたが、てんかん重積状態(SE)を抑え込めていませんでした。
3. トシリズマブの投与タイミングと方法
- 投与開始時期: 発症(SE発作の開始)からトシリズマブが投与されるまでの期間は、中央値で25日(最短6日〜最長73日)でした。
- 投与方法: 初回は「4 mg/kg」を1週間間隔で2回投与し、必要に応じて月1回(8 mg/kg)を追加するプロトコルが取られました。
4. 治療効果(急性期のてんかん重積状態の終息)
- 高い有効性と即効性: 7名中6名において、トシリズマブを1〜2回投与した後にSEが終息しました。
- 効果発現までの期間: 投与を開始してからSEが治まるまでの期間は中央値でわずか3日(2〜10日)と、非常に迅速に効果が現れました。また、この6名では同入院期間中にSEの再発は見られませんでした。
5. 副作用と安全性
IL-6は免疫システムで重要な役割を果たすため、これを阻害することで感染症のリスクが高まることが懸念されます。
- 本研究でも、2名が感染症に関連する重篤な副作用を経験しました(1名は肺炎、もう1名は元々あった敗血症が悪化し、SEが終息しないまま投与6日後に死亡しています)。
- その他の副作用として、白血球減少(3名)や下痢(1名)が報告されています。
6. 長期的な予後(退院後・追跡調査)
- 機能回復: 退院時および最終追跡時(中央値11ヶ月後)において、生存者6名中3名(50%)が「良好またはまずまず(mRSスコア3以下)」の機能回復を示しました。
- 早期投与の重要性: 予後が比較的良好だった患者群は、トシリズマブ投与までの期間が中央値11日と短かったのに対し、予後不良だった患者群は中央値42日と投与が遅れていました。このことから、早期のトシリズマブ投与が良好な機能回復に繋がる可能性が示唆されています。
- 慢性期てんかんへの移行: 命を取り留めSEが終息した患者であっても、1名を除いて全員が追跡調査時点で依然として発作を経験しており、抗てんかん薬(AED)の内服を継続していました。
まとめ
Junらの研究は、従来の免疫療法に反応しない非常に難治なNORSE患者に対して、トシリズマブが数日以内に発作を止める「強力な切り札」になり得ることを示しました。一方で、重篤な感染症のリスクには十分な注意が必要であること、そして後遺症を減らすためには発症からなるべく早い段階での投与が重要であることが強調されています。
トシリズマブが劇的に有効であった(その他の免疫治療は全く無効であった)症例報告 Resolution of cryptogenic new onset refractory status epilepticus with tocilizumab Epilepsy & Behavior Reports 15 (2021) 100431
この論文は、従来のあらゆる強力な治療に抵抗し、**9週間(約2ヶ月強)にわたって超難治性てんかん重積状態(SE)が続いた26歳女性の潜因性NORSE(C-NORSE)**に対して、トシリズマブが劇的な効果を示したケースを報告したものです。
1. 患者の基本情報と初期経過
- 患者: 26歳・女性。これまでてんかんや神経疾患の既往歴は一切なし。
- 発症: 反復する痙攣発作で発症し、すぐに抗てんかん薬や麻酔薬が効かない難治性てんかん重積状態(NORSE)へと移行。挿管され、麻酔薬による人工昏睡管理となった。
2. 行われた検査と「脳生検」による発見
- 初期検査: 初期の頭部MRIや、自己免疫疾患・感染症を調べる髄液検査はすべて「異常なし(陰性)」であった。全身CTで卵巣嚢腫が見つかり摘出されたが良性であった。
- 脳生検の実施: その後、発作の焦点と疑われた右前頭葉の脳組織を直接採取(生検)した結果、小血管の壁が厚くなる微小血管障害や、ミクログリアの活性化、血管周囲へのTリンパ球およびヘモジデリンの沈着が確認された。これは**血液脳関門(BBB)が破綻していること(脳内の炎症)**を示唆しており、NORSEにおける生前の脳組織の病理状態を捉えた非常に稀で重要な所見とされている。
3. 9週間に及ぶ無効だった治療の数々
患者は3つの病院を転院しながら、約9週間にわたり以下のあらゆる標準的・強力な治療を受けたが、発作を抑え込むことができなかった。
- 抗てんかん薬: ロラゼパム、レベチラセタム、フェニトイン、バルプロ酸、トピラマートなど12種類以上を使用。
- 麻酔薬(昏睡療法): プロポフォール、ミダゾラム、ケタミン、ペントバルビタールなど。
- 免疫療法など: ステロイドパルス、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、血漿交換(PLEX・計2サイクル)、リツキシマブ(計2回)。
- その他の特殊治療: 低体温療法、電気けいれん療法(ECT・3回実施するも心停止の合併症発生)、ケトン食、エピディオレックス(CBD)。
4. トシリズマブの投与と劇的な効果
- 初回投与: 発症から約9週間後、過去の文献(Junらの報告など)を参考に、トシリズマブ300mgを静脈内投与した。
- 効果: 投与からわずか48時間以内に脳波上の周期的なてんかん性放電が完全に消失した。麻酔薬を減量しても患者は覚醒し、対話ができるまでに劇的に改善した。
- 再発と再投与: 順調に回復していた3週間後、突然、精神運動機能の退行と脳波の悪化(発作の再発)が見られた。しかし、2回目のトシリズマブ(300mg)を投与したところ、再び48時間以内に発作が消失した。
5. 最終的な予後
- 長期の寝たきり状態による重度の筋力低下(クリティカルイルネス・ミオパチー)のため、リハビリテーション病院へ転院した。
- 退院から2ヶ月後の診察では、認知機能や運動機能の回復が見られたものの、軽度の認知機能障害(主に短期記憶の低下)、下肢の筋力低下、軽度の運動失調が後遺症として残った。
結論と論文の意義
この症例は、髄液検査やMRIで明確な炎症反応が見られないNORSE患者であっても、トシリズマブが極めて有効な治療選択肢になり得ることを強く示しています。また、長引くてんかん発作自体が炎症性サイトカイン(IL-6など)の上昇を引き起こし、血液脳関門を破壊してさらなる発作を持続させるという悪循環のメカニズムが存在することを、実際の脳生検のデータとともに裏付ける重要な報告となっています。