先日head dropが先行してクリーゼとなり初診断に至った全身型重症筋無力症(抗AChR抗体陽性)の症例がありました。head drop(首下がり)についてはこちらにまとめがありますが、ここでは重症筋無力症との関係についてまとめます。頸部屈筋と呼吸機能の相関関係やクリーゼリスクに関しては記載が文献上もありますが、頸部”伸筋”と呼吸機能に関しては確立していなさそうです。
- 1 “HEAD-DROP: A FREQUENT FEATURE OF LATE-ONSET MYASTHENIA GRAVIS” Muscle Nerve 2017; 56: 441–444.
- 2 症例報告
- 2.1 “Dropped head as an unusual presenting sign of myasthenia gravis” Neurol Sci 2007;28:104–106.
- 2.2 “Dropped Head Sign as the Only Symptom of Myasthenia Gravis” Intern Med 2007;46:743–745.
- 2.3 “Treatment of myasthenia gravis with dropped head: A report of 2 cases and review of the literature” Neuromuscular Disorders 2015;25:429–431.
“HEAD-DROP: A FREQUENT FEATURE OF LATE-ONSET MYASTHENIA GRAVIS” Muscle Nerve 2017; 56: 441–444.
重症筋無力症178名(ここでのlate-onset MGの定義は60歳以降発症)
・head dropの定義:少なくとも1回の診察時に、顎が胸につく姿勢(chin-on-chest position)がある、または頭を支えるのが困難であるという訴え、および頸部伸筋の筋力低下が徒手筋力テストで認められたこと
・全身型MG全体(146)の経過中head drop 約10%(15/146)
・head drop患者:発症年齢が有意に高齢(平均発症年齢:59.1歳 vs 42.3歳)
・MG発症年齢:≧60歳 23%、<60歳未満 約6%(P=0.004)
*単一のMuSK抗体陽性患者(発症年齢18歳)を除き、52歳以上の患者でのみ観察された
・AChR抗体陽性がほとんどすべて(14/15) *1例のみ抗MuSK抗体陽性
・全例MGFA classⅢ以上
・FVC%(平均)65.0% vs 81.3%、P=0.053
・高齢者では加齢性変化やパーキンソン病の症状と誤認されて過小診断される可能性がある
・head-dropはその他の体軸筋筋力低下を随伴し,呼吸筋障害を呈しやすいかもしれない


症例報告
“Dropped head as an unusual presenting sign of myasthenia gravis” Neurol Sci 2007;28:104–106.
61歳女性、1か月持続するdropped head, 進行し休息でも改善せず日常生活に支障あり受診
その他の筋力どこにも易疲労性は指摘できず単独障害
RNST waning僧帽筋に指摘あり テンシロンテスト陽性 抗AChR抗体陰性 胸腺腫あり
治療ピリドスチグミンで改善あり、胸腺腫的手術
*過去に報告されたdropped head syndromeを呈した他のMG症例は、眼瞼下垂、複視、四肢の筋力低下など、典型的なMGの症状も伴っていた
⇒本症例の特異性は、頸部伸筋の孤立した筋力低下が疾患発症以来、観察期間全体を通してMGの唯一の臨床的特徴であり続けた点であり鑑別にいれるべきである
“Dropped Head Sign as the Only Symptom of Myasthenia Gravis” Intern Med 2007;46:743–745.
55歳男性2か月経過のdropped head sign 初発症状かつ臨床経過を通じて唯一の症状
RNS陰性,テンシロンテスト陽性、抗AChR抗体陽性(1.9nmol/L)、胸腺腫なし
ピリドスチグミン効果あり(免疫治療はなし)
“Treatment of myasthenia gravis with dropped head: A report of 2 cases and review of the literature” Neuromuscular Disorders 2015;25:429–431.
| 特徴 | 症例1(62歳 女性) | 症例2(54歳 男性) |
| 初期症状 | 左眼瞼下垂と頸部の倦怠感。2週間後にドロップド・ヘッドを発症。 | 8か月前から頭を直立させることが困難。 |
| 胸腺腫 | あり(B1型胸腺腫、微細な被膜浸潤あり)。 | なし。 |
| AChR抗体価 | 発症時12 nmol/l → ドロップド・ヘッド発症時45 nmol/l → クリーゼ時94 nmol/l。 | 16 nmol/l。 |
| 治療経過 | 胸腺摘出術前にIAPP(免疫吸着血漿交換療法)を2回実施したが、術後2週間で重症筋無力症クリーゼ(延髄麻痺、呼吸不全)を発症。クリーゼに対し、IAPP 5回とステロイド(プレドニゾロン50 mg/日)、タクロリムス(3 mg/日)の併用療法を行い、4か月後に症状が回復した。 | 早期積極的治療戦略に基づき、入院後すぐにステロイドパルス療法とIAPP(2週間で5回)を開始。その後、経口ステロイド(10 mg/日)とタクロリムス(3 mg/日)を継続投与。治療開始1か月後にドロップド・ヘッドを含む症状が完全に寛解した。 |
| 示唆される教訓 | MGの重症度はドロップド・ヘッドを含め、抗AChR抗体価のレベルと並行して変化することが示唆された。 | IAPP中に劇的な改善を示した。 |
literature review:本例2例を含むdropped headを初期症状(初発または初期の全身症状)として呈した患者計11例の検討
・全ての報告例が46歳以上の晩期発症であり、平均年齢は62.9歳。女性優位(女性:男性=7:4)
・抗体:AChR抗体+9例、MuSK抗体+ 2例
・テンシロンテスト9/10例陽性
・クリーゼは1例のみ(本例)