本日外来で医師人生で初めて舌咽神経痛の症例を経験しました。三叉神経痛は普段から診慣れているので、それの舌咽神経Versionと思うと診療しやすかったです。三叉神経痛と同じですが、①舌咽神経領域に沿った②発作的かつ持続時間が短い瞬間的な神経障害性疼痛③誘因が重要と思います。三叉神経痛との鑑別は①の場所と②誘因が少し異なる点に着目します。痛み方は三叉神経痛そっくりです。
病態・解剖
原因
・特発性
・2次性:舌咽神経への血管圧迫(特にPICA)による脱髄、異常な電気活動(ephaptic transmission)による症状、腫瘍(CPA腫瘍)による圧迫など
*多発性硬化症により三叉神経痛を生じることがあるが、舌咽神経痛は生じない
疫学
・極めてまれ(100万人あたり数人の有病率)、顔面疼痛疾患全体の0.2-1.3%と報告されている
・年齢は50歳以上に多い
舌咽神経の解剖
・体性感覚:舌後1/3、咽頭、中耳、外耳道
・自律神経:頸動脈小体
・味覚:舌後1/3
・副交感神経:耳下腺
・運動:茎突咽頭筋

舌咽神経のMRI正常画像(延髄レベル・CISS):Ⅸ, Ⅹ, Ⅺの複合が延髄から頸静脈孔へ走行する
Neurol Clin 2022; 40:591–607.

臨床像
・突然の発作的な持続時間の短い、電撃的・刺すような片側性の疼痛を生じる(発作以外の期間は寛解しており疼痛は全く認めない)
・部位:咽頭、舌根、扁桃窩、耳介、下顎角など
・誘因:嚥下、咀嚼、会話、咳嗽、あくびなど
・迷走神経が障害される(10%)場合:咳嗽や嗄声、副交感神経亢進を反映した徐脈や失神などを呈することがある
・左右は左:右=3:2と左がやや多い(三叉神経痛は5:3で右が多い)
・両側性は2%(三叉神経痛は4%)
診断基準(国際頭痛分類(ICHD-3))
A. 舌咽神経の支配領域に限局した反復性発作性の片側性疼痛発作があり、基準Bを満たす。
B. 疼痛は以下のすべての特徴を有する:
- 数秒から2分まで持続する
- 強い(激烈な)強度を有する
- 電撃様、放散性、刺すような、または鋭い性状を示す
- 嚥下、咳嗽、発声、欠伸などにより誘発される
C. 他のICHD-3診断によってより適切に説明されない
*ICHD-3こちら
*三叉神経痛に最も誤診されることが多い(疾患頻度も踏まえて)
治療
薬物治療カルバマゼピンが第1選択
効果乏しい場合は外科的手術(微小血管減圧術MVD)
参考文献
Neurol Clin 2024; 42: 585–598. 舌咽神経痛に関しては少しだけ解説で三叉神経痛の解説がメイン
Curr Pain Headache Rep 2013;17:343 最も優れたreview articleと思う