髄液検査の各項目に関しては記事があるのですが、それらをまとめました。各項目により詳しい記事のリンクをつけているので、参考になりました幸いです。
実施の手順
こちらのまとめを参照ください
禁忌事項
①頭蓋内圧亢進を示唆する所見
②穿刺部位の感染(硬膜外膿瘍,皮膚の感染)
③血液凝固障害(血小板数 < 5万/μL, PT-INR > 1.5)
④抗凝固薬内服
採取後
・内筒を戻してから内筒と外筒を一緒に抜去する(穿刺後頭痛減る)J Neurol. 1998;245:589-592.
・穿刺後の安静による頭痛予防効果はない CMAJ . 2001 Nov 13;165(10):1311-6.
・すぐに検体は提出する(放置すると値が乱れる)
検査項目
細胞数
・基準値:0-5/μL *細胞=白血球
*単核球≒リンパ球,多形核球≒好中球
・増加の原因:中枢神経の炎症(最も重要) or 髄膜に接した病変(硬膜外膿瘍など)
①単核球増多:自己免疫性,ウイルス性,結核性,リステリア etc
②多形核球:細菌性,Behcet病(初期・時間が経過するとリンパ球が増加する),薬剤性,ウイルス性の初期 etc
・細胞数増加は確実に病的(後述の蛋白と異なり)
・脳炎では初回正常の場合もある(こちら)
蛋白
・基準値:<45 mg/dL *蛋白=免疫グロブリン+アルブミン
・上昇の原因:免疫グロブリンの産生,Blood-CSF barrier破綻による血液中の蛋白流入,血液混入,髄液turn overの障害
・髄液蛋白は非特異的であり,必ずしも炎症を示唆するわけではない
・患者背景により上昇する(年齢,糖尿病,脊柱管狭窄症など)
・蛋白細胞解離という言葉に臨床的な意味はない(高齢者はほとんどが蛋白細胞解離である)
・よくいわれているのは100mg/dLを超えるのはさすがに生理的範囲を超えるので病的と判断
糖
・基準値:血糖比 0.4~0.6 *文献により異なる
・かならず血糖値と比較する必要があるので血糖測定を同時に行う
・血糖値の変動から2-4時間で平衡状態になるため,糖尿病患者では測定タイミングに注意(インスリン投与直後などでは解釈に悩む場合がある)
・低下の原因:細菌性,真菌性,結核性髄膜炎,がん性髄膜炎,くも膜下出血,下垂体卒中など
IgG index, OCB
・IgG index基準値:<0.7
・血液と比較するため同時に血液検査の提出が必要
・炎症性の病態を疑う場合は全例提出するべき,疾患特異的ではないが病態推察が可能
・末梢血で抗体が産生されて中枢神経へ移行する病態(AQP4, MOGなど)は上昇しない点に注意(つまり自己免疫機序であればなんでもかんでも上昇するわけではない)
培養・グラム染色
・嫌気性培養は脳膿瘍を疑う場合に提出
・真菌培養は3-5mL以上が望ましい
・髄液クリプトコッカス抗原は感度,特異度ともに優れている
Multiplex PCR
・炎症性の病態を疑う場合は必ず提出
・感度 90%, 特異度 97% Clin Microbiol Infect 2020;26:281
・結核,HIV, Klebsiellaなど含まれない
・感受性はわからないので培養はいずれにせよ必要
| 細菌 | 真菌 | ウイルス |
| Escherichia coli K1 | Cryptococcus neoformans/gattii | HSV-1,2 *ウイルス量が>103を検出するため,real-time PCRより感度低い点に注意 |
| Haemophilus influenzae | Enterovirus | |
| Listeria monocytogenes | VZV | |
| Neisseria meningitidis | HHV-6 | |
| Streptococcus agalactiae | HPeV | |
| Streptococcus pneumoniae | CMV |
・ADAはT細胞活性化を反映するため非特異的(特にGFAP astrocytopathyは上昇しやすい)
・結核PCRは感度が低いため疑う場合は繰り返し提出する
・どうしても除外したい場合はnested PCRを検討する
細胞診
・がん性髄膜炎を疑う場合,髄液細胞診は感度が低いため検体量を多く(できれば10mL)・繰り返し提出する
保存検体
・基本全例提出(何本提出するかは症例ごとに異なる)
・あとからの自己抗体など提出のため「冷凍」保存が原則
提出する際の注意点
・原則”1本目”は一般(細胞数)・生化学を提出する,その他は順不同
理由:蛋白は時間が経過すると値が低下する(脳室内の蛋白濃度が腰椎部よりも低い,turn overに由来) J Neurochem. 1989 ;52(2):632-5.
・検体採取後は「すぐに」提出する
理由:細胞数などは時間が経過すると低下していきてしまうため J Clin Microbiol.1986;23:965-966.
・“Trauma tap”の場合
①髄液が透明になったものを”一般・生化学”に提出
②血液混入検体を”培養”に提出
・通常は1つのスピッツに1~2mL
→細胞診,真菌培養,結核検査では多めに提出する
・髄液糖, IgG index, OCB評価は同時採血が必要
・保存検体は「冷凍」が基本
シチュエーション別の提出項目例
前提条件として臨床的に何をどう疑うか?によって提出する項目は大きくことなる点に注意
無菌性髄膜炎または脳炎疑い
”必ず”提出する項目
・一般生化学(細胞数・糖・蛋白)*血糖値測定必要
・髄液Multiplex PCR
・髄液培養(一般細菌)
・IgG index, OCB *同時採血必要
・保存検体2本(冷凍)
状況に応じて提出検討
・結核性髄膜炎を検討する場合:髄液ADA・結核PCR/培養検査
・真菌性髄膜炎を検討する場合:真菌培養・髄液クリプトコッカス抗原
・悪性リンパ腫や担癌患者でがん性髄膜炎も検討必要な場合:細胞診
参考文献
・JAMA. 2006;296:2012-2022
・European Journal of Neurology 2006, 13: 913–922
・”Adam and Victor’s Principles of Neurology” 10th edition