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時間がない中でいかに論文を読むか?

臨床医はとにかく時間がありません。私(管理人)もタイムマネジメントが下手で、常に何かに追われながらひーひー過ごしています。そんな忙しい日々の中で「どうやって論文を読むか?」というテーマを検討します。私が実践している方法は「隙間時間をフル活用する」です。別に特段目新しい内容ではないと思うのですが、ポイントはスマートさではなく「泥臭さ」です。

隙間時間を軽視しない

私は病院内でのエレベーターの待ち時間、電車の中、通勤での信号待ちの時間、キッチンカーの料理ができるのを待っている時間、コンビニでレジを並んでいる時間、電子レンジでお米を温めている時間、歯磨き中、友人とご飯を食べており相手がトイレに行っている時間など10秒単位でも時間があれば「強引に」論文をちらっと読む(ほぼ眺める)ようにしています。短いと本当に5秒や10秒です。もちろんこんなに短い時間では論文は1-2行くらいしか読めません。しかし、私は経験上それで充分良いと思います。

私たちは論文を読むとなると「かまえて」しまい、「まとまった時間がないと読めない」と捉えて億劫になりがちです。つまり論文を読むためにはしっかり時間をとって一対一で正面から挑まなくてはと重くとらえがちです。しかし、それだと精神的に重荷になるしプレッシャーに負けてそもそも論文を読み始めることができません。たとえわずかであったとしても「0と1の差」はものすごく大きいです。何事も物事に取り組むプレッシャーとハードルを下げて、例え適当であったとしても小さく小さく始めることが重要です。

論文のAbstractに記載されているConclusionだけであれば2-3行くらいなので、30秒くらいで読めます。とりあえずそこを読んで全体への興味を持ち、まずAbstractの全体、次に本文中のResultの図表やDiscussionなどへと少しずつ読み進めます。本当に細切れなので、その都度内容を忘れますが繰り返し読んでいると全体像がつかめていきます。

こうした手法だと論文の規模や難しさにも相当よるのですが、隙間時間のみで1日で1本論文がぎりぎり読めます。もちろん細かいところまで完璧には無理なのですが、要旨を大まかにつかむことは可能です。隙間時間を軽視せず、塵も積もれば山となる過程を実感することで次へつながります。泥臭さしかないですが、私はこうやって論文を強引に読んでいます(コーヒー片手に優雅に読んでいる訳ではありません)。

そして、どうしても理解に難渋するところをピックアップして後でまとまった時間で読んだり、余裕があればブログに書き足したりとしています。

何を使って論文を読むか?

このように隙間時間に論文を読むためには、常に論文を肌身離さず持ち運ぶ必要があります。これは紙媒体では厳しいので(前はポケットに論文を入れていたときもありますが事前に印刷しないといけないしなかなかめんどくさいです、、、)、私は自分のスマートフォンのアプリに論文を入れています。

私はZoteroという文献管理ソフト(MendeleyやEndnote的なもの)のアプリをiphoneに入れていてクラウドでリンクしているのでそれ経由で読んでいます。もちろんDropbox、Paperpileなどなんでもよいと思います。Zoteroは本来無料で使えるので有料で使うのは情弱と言われることを百も承知で、あえて色々めんどくさいので課金して有料版を使用しています(無料版はPDF情報も入れるとすぐに容量をオーバーする)。もちろんこの媒体自体はどれでもよく、人それぞれで好きなやり方で良いと思います。

今の時代に原著を読む必要があるのか?

私は考え方が古風なのかもしれないですが、「専門分野は原著論文を読むべき」と思っています。そうしないと学会の偉い人が言っていたことや二次資料の誰もがしっている知識、AIが作った最大公約数的なまとめをただそのままオウム返しするだけの臨床になってしまいます。非専門分野の知識はそれで充分すぎるくらいだとおもいますが、専門分野(私の場合はNeurology)はそれでは成立しません。浅すぎます。

例えば「非心原性脳梗塞の急性期はSAPTよりDAPTの方が良い」といった知識は正直内科医や救急医はほぼ誰でも知っています。こうした漠然とした知識では正直深みは全くないです。更に先の「では何をoutcomeとして有意差がでたのか?」、「その差はどの程度なのか?」といった具体的なところを知らないとコンサルタントとして耐えうる知の力を発揮できない訳です。よく私は後輩に「臨床試験を読むときは有意差があったか?なかったか?ではなく、Outcomeが何でその結果や差は何%であったのか数字を覚えるようにした方が良い」と指導しています。そのためには元情報にある程度精通する必要があり、やはり一度原著を読むべきと思います。

またそもそも偉い人が言っていることや教科書ですら間違っていることがしばしばあります。例えば”roving eye movement”は代謝性脳症で生じるという記載が結構有名な教科書などでも書かれていますが、roving eye movementの元論文はそもそも両側大脳半球の脳梗塞での報告であり、器質的原因でも生じます。こうした誤解も結局は元文献などをきちんと読まずに伝聞伝承の知識に頼り過ぎた結果生じる問題です。

そのためにはやはり原著を読むという行為は短期的には非効率かもしれないですが、長期的には足場が固まり専門科として信頼を得るための正攻法だと思います。もちろん時間がかかるので少ししか読めないですが、隙間時間でこうした核となる知識を蓄えることは医学知識に深みをもたらすと思います。

最後に

ビジネスマンが電車の中で新聞を読んでいるのであれば、医師も電車の中で論文を読むべきなのではないかとも思います。まず最初のステップとして「いかに論文を身近に感じるか?」という手がかりとして隙間時間で眺めることは良いことではないかなと思います。

全然スマートではなくただあがいているだけではありますが、私の経験談が参考になりましたら幸いです。